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2011年6月

2011年6月30日 (木曜日)

最後の監査報告書~後発事象について東京電力でケーススタディー

昨日監査法人事務所に寄り、監査報告書に最後のサインをしてきた。予定通りであればこの監査報告書が本日発行される。そしてこの監査法人での僕の役割は終了する。「予定通り」とは、後発事象のことを指す。

後発事象とは、監査報告書対象年度の財政状態、経営成績には影響しないが、翌事業年度以降の財務諸表に重要な影響を与える、翌事業年度に発生した事象のことである。厳密には「開示後発事象」と呼ばれ、財務諸表の注記として開示される。例えば重要なM&Aが翌期に確定したり、実行されたりした場合が該当する。

このほかに「修正後発事象」というのもあって、これは発生したのは翌期になってからというのは開示後発事象と同じだが、その対象年度の財政状態、経営成績に反映させるべきものであるため、財務諸表の注記ではなく、その年度の会計処理に反映させる。例えば、重要な得意先の倒産が翌期になって発生した場合、期末日現在のその得意先の売上債権に追加の貸倒引当金を設定するのである。

僕が今回直面したのは前者の「開示後発事象」の方。6/30にあることが起こる予定なので、起こった場合の財務諸表の注記案を会社が用意しそれを監査した。そしてそれが起こる前提の監査報告書を用意している。したがって、今日それが予定通り起こったと僕のスタッフが確認し、かつ、それ以外に注記すべき重要な後発事象がなかったことも確認し僕に報告をするまでは、監査報告書は発行されない。

さて東京電力は、福島第一原子力発電所関連の損失の一部(原子力損害賠償紛争審査会が今後決定する指針に基づき算定される損害賠償額)を未確定として2011/3期決算に織り込まなかったが、その一部が確定したとして追加の損失額880億を注記で有価証券報告書に開示した。また併せて事故終息に向けたロードマップがその後の状況変化に応じて改定されたので、それに伴いコストが380億追加で発生することも注記で開示した。これらは性質としては「修正後発事象」であるが、「開示後発事象」として扱われた、というのは上記の説明からご理解いただけるだろうか。

実は、会社法の監査報告書(招集通知に添付されるもの)を発行した後に修正後発事象が起こっても、遡って会計処理を修正する必要はなく、有価証券報告書で注記として開示すればよいというルールがある。東京電力はそのルール通りの処理を行った。だから会計上、或いは開示上、東京電力の対応が適切であったと言えることになる。

しかし、である。投資家や株主はこの情報開示で満足したのかである。
ルールにはすべて目的があり、目的を達成するために設定されている。ルール通りにやったが目的が達成されなかったというのはルールの解釈・運用が間違っている、というのが僕の主張である。したがって、もしこの情報開示で投資家や株主が満足できなかった場合は、ルールの解釈・運用が間違えていたことになり、「適正ではない」と監査人が判断することもありえたと思っている。ちなみにIFRSにはこのような場合「IFRSから逸脱しなければならない」という規定がある。ただ、日本の会計基準には同様の規定はない。

さてそうすると、何が目的かが問題になる。その目的が満たされなかった、だからルールの運用が間違っていると主張するのだから。長くなるのでここでいったん終了する。ただ、僕の意図は東京電力やその監査人の対応を批判することにあるのではなく、ルールの解釈・運用についての問題提起や、IFRSについて説明することにあることを念のため記載する。

2011年6月28日 (火曜日)

ちょっとその前にジミー(金融庁)の言い分

(6/28記載)
アマゾンに発注しても本が来るまでに間がある。その間に自見金融担当大臣の談話という形で公表されたものを検討してみよう。これは金融庁のホームページに6/21付で掲示されている。

読んでみると、もともと2年前の6月の中間報告(我が国における国際会計基準の取り扱いについて(中間報告))で、内外情勢と諸課題への対応状況で強制適用時期を検討するとされていたので、全体としては今回の震災を機にそれをやったに過ぎず既定路線の範囲内と思えるが、一部に検討要素が新しく追加され既定路線を超えた部分があるようにも思える。これはジミーのスタンスの変化を表したものだろうか。

フレームとしては●で内外の状況の変化を8つ挙げ、IFRS導入を延期する理由ないし議論再開のきっかけとしている。さらに◯で6月下旬から開始する企業会計審議会での議論の方向性と、その議論を待たずに当局として結論したこと(導入延期)を記載している。

●はすべて公表時より逆風となっている状況を挙げているのであろう。中間報告では、内外情勢と諸課題対応への進展状況が、強制導入時期決定の大きな要素とされている。1つ目、2つ目、5つ目の米国のIFRSアドプションからの後退および米国FASBとIASBのコンバージェンス作業の遅れが特に重要だと思われる。中間報告では日本の財務報告が国際的に孤立し、日本企業や日本の株式市場の競争力が阻害されることを問題視している。ただ、国内要因について震災も含め4つ挙げている。残りひとつがアジア情勢の変化である。順番は発生順となっていて、重要度順ではなさそう。一応気になったのは国内要因の数の多さとアジア情勢が最後に追加されていること。でもそれほどジミーの路線変更には関係ない気がする。

◯は、2つ目で延期という結論を審議会に与えて議論に枠をはめてしまっているので、審議会の議論にはあまり注目は集まらないかもしれない。しかし、1つ目で「会計基準が単なる技術論だけでなく、国における歴史、経済文化、風土を踏まえた企業のあり方」を審議会の議論でしっかりやってほしいと記載されている点が新しいと思う。この着眼点はいったいどこから来たものか。なんらかの路線変更を示唆するものなのか?

「会計基準が単なる技術論だけでなく、国における歴史、経済文化、風土を踏まえた企業のあり方」とは、国としての個性を重視する考え方、「世界で唯一の高品質な会計基準」とは反対の考え方を取り入れたのだろうか。この点についての企業会計審議会の議論には注目が必要と思う。即ち、単に基準設定への日本の影響力を高めたいというIASBへの牽制の趣旨なのか、それを超えた意図があるのか・・・である。

(6/30追記)
残念ながら私の文章より6/21付のLivedoorの記事の方がずっと内容豊富で分かりやすいので、そちらをご紹介します。なお、この記事はCPA_Japanさんのつぶやきで知ることができました。CPA_Japanさんに合わせてお礼申し上げます。

2011年6月27日 (月曜日)

取っ掛かり

僕の勉強の仕方は昔から決まっている。
① 概要が理解できそうなコンパクトな本を数冊読む
② 原本(基準書や委員会報告)と向き合う

①は省略することが多く、実際には②のみのことが多い。同僚を見まわしてみると、例えば金融商品会計基準やキャッシュフロー計算書の基準など、大きなテーマの時は基準解説の本を買って持っている人をよく見かけたが、僕はその手の本を読まない。なぜかというと基準に書いてあることを繰り返してあるだけ、という印象があるからである。またこの手の本は、その基準の支配者やそれに近い人たちが執筆していることが多いが、僕は支配者に対して斜に構えてしまう習性がある。

ではどういうときに①を行うかというと、そのテーマについて自由な個人の意見を書いたものが出ているときに興味がわく。さて、IFRSについてはそういう本は出ているだろうか。大きなテーマだし、出ていればそこから始めてみたいと思う。
アマゾンで本を検索してみると次の2冊のタイトルが目を惹いた。

「国際会計基準はどこへいくのか」 田中弘著
「変わる会計、変わる日本経済」  石川純治著

前者はIFRSを批判的に扱った本であろうことは明らかである。サブタイトルに「足踏みする米国・不協和音の欧州・先走る日本」などと書いてある。後者は変化を扱っていることからIFRSを是としている気がする。両サイドの意見を読めるのは幸いである。著者はいずれも大学の先生だが、会計分野で学者の本を読むのは会計士試験の受験時代以来のことかもしれない。ちょっと反省しつつ、懐かしいものも感じて、この2冊を読んでみることにする。

監査法人を辞める

僕は公認会計士である。20年以上勤めた監査法人を今月末で退職する予定だが、特に何をやると決めていない。「いよいよ独立ですか」と聞かれるが、いわゆる税務業務やコンサルティングは考えていない。

監査法人で学んだことがある。それは世の中のルールには「支配者」がいるらしいということである。税務であれば国税局、コンサルティングではそのメソドロジー(方法論)を考えた人、或いはそのメソドロジーの権威と目されている人。せっかく監査法人をやめてフリーになったのだから、そういう支配者のいる世界には戻りたくない。

では、ルールがまったくないところで何かできるか。それはできない。会計士にとってルール、或いは理論でもよいが、それが専門性の重要な根源の一つなのである。

そうするとルールはあるが、その密度の薄いものはあるだろうか。ある。IFRS(国際財務報告基準)である。「原則主義」などといって、ルールが少ないことを売りにしている。しかし、IFRSといえば先日金融庁のトップである自見内閣府特命担当大臣が導入延期の考えを公表したばかりではないか。導入が大変だと。日本のために導入を決めたのではないのか。何が起こっているのだろうか。IFRSとその周囲についてちょっと勉強してみる気になった。暇はたくさんある。

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