東日本大震災の「復旧」と東北人(番外編)
最初にお断りをするが、今回はIFRSの話ではない。ブログをさぼった一週間は、仙台方面のある町の災害ボランティア活動をしていた。僕は主に津波被害にあった家の瓦礫を取り除いたり、被災者の引っ越しの手伝いなどをしたが、その町はまだましな地域ようだ。名取や石巻などその他の被災地の状況も被災者の生活も復旧には程遠い。しかし、僕が会った人たちはみな力強くも優しく生きていた。その報告をしたい。
東日本大震災の被害の総額についての報道をネットで拾ってみると次のようになる。(いずれも福島第一原発事故関連の損失を含まない。)
3/25 政府試算 16兆円~25兆円
6/24 内閣府推計 16.9兆円(直接被害のみ)
途方もない金額だ。しかしこれがすべてではない。内閣府の推計は主に社会インフラなどの固定資産の損害を対象にしており、被災者が収入を絶たれ、預金を取り崩して或いは負債を増やして生活をしている状況は考慮されていない。小学校が丸ごと流され、将来を担う人材を多数失った過疎の町はこれからどうなるであろうか。瓦礫が散乱している農地では農業ができない、それを取り除く重機も、それを操作できる人材も足りない、まだ動いていない信号が散見される街中ではまだ商業施設や飲食店が戻ってない、いや、もう戻らないかもしれない。
とりあえず、避難所、仮設住宅等々が整備され、生き残った人たちの生活は不自由なりに小康状態となったかもしれない。しかし、そこまでである。とても「復旧」などという言葉は当たらない。まだまだみんなで関心を持ち続けなければならない。
しかし、単に関心を持てばよいということでもない。実際に自分が被災しないとちゃんと理解することは難しいと思うが、被災者の感情とは繊細なもののようだ。誰も自分の弱った姿や自分の町の惨状など外部の人に見せたくない。例えば、ボランティア作業の現場を記念に写真に残しておこうとカメラや携帯を構えることはやってはいけないことの一つだ。被災者にとっては、自分の家の無残な姿を他人の写真に残される、自尊心を傷つけられることなのだから。そんな感情もあってか、他県からのボランティアを受け入れない地域もある。改めて、人の立場になって考えることの大切さを考えさせられる。
津波に流され、ほぼコンクリートの土台しか残っていないお宅の敷地にある瓦礫を数十人で肉体労働、力作業で取り除いていた時のことだ。炎天下だというのに、仮設住宅からだろうか、その家の奥さんが我々の作業をわざわざ見に来てくれた。そして少し訛りのある語り口でぼそっと言った。「昔の地図にはうちの名前がちゃんと載っていたのに、新しい地図にはもう載っていない。ここにはもう住むなってことかもしれない、住めないかもしれない」と。厳しい現実だ。
我々は、作業の最後にそのお宅の庭に小さな畑を作って向日葵の種を蒔くことになっている。阪神大震災の時のエピソードに由来する儀式だそうだ。種蒔きを終えた畑を見ながら、向日葵が咲いたらこの場所も綺麗に見えるし、生命の力強さを感じられる。そんな話をしているとその奥さんが言った。「もう一度この場所で生活してみようと思います。みなさんに勇気づけられた気がします」と。とんでもない、その言葉を聞いた我々が本当に感動した。いま蒔いたばかりの向日葵の種がもう大輪の花を咲かせたようなものだ。
今回は、まったくIFRSに関係のない話になってしまったが、もうひとつエピソードを。
ボランティアの中には、テントや自家用車に寝泊まりしている人も多い。しかし、軟弱な僕は隣町の塩釜市や多賀城市に宿をとった。その多賀城のホテルも被災していて1か月前に営業を再開したばかりだ。そしてそのあたりには、津波でおぼれて亡くなった方々がたくさん流れ着いていたらしい。斜向かいに、大工に頼んでも手が回らないからと、ご主人が自分で店を直して営業を再開した中華料理屋がある、広東麺がうまいと評判だと聞いて、夕食を食べに行った。もちろん僕はボランティアをしに来たなどというわけもないのだが、ご主人は服装や雰囲気で分かったらしい。食事が終わってレジで精算を済ませると、そのご主人は「冷えているから飲んでください」と言って、そっとリポビタンDを僕に差し出してきた。もう、この地の人々には感動させられっぱなしだった。
自分たちは被災していて親族や知人を失くし経済的にも大変で、しかも他県から来たボランティアには複雑な感情がある、しかし感謝の気持ちと思いやりを持って接してくれる。そんな素晴らしい人々がいま苦しんでいる。
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