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2011年7月 8日 (金曜日)

最後の送別会~継続企業の前提

今日(7/7)、僕の最後の送別会があった。例の「最後の監査報告書」のクライアントが開いてくれたものだ。みなさんには報告が遅れたが、「あること」は予定通り発生し、幸いに予定した監査報告書が僕の在職期限ぎりぎりに発行できた。クライアントの関係者にもお礼を申し上げたい。

ところで、このブログは実名でなく仮名で開設しているのだが、この送別会にiPadを持ち込んで、僕が話した近況からキーワードを見つけ、このブログを検索してしまった人がいる。例の最後の監査報告書で、僕の上にサインした人、即ち、元の上司だ。その人に「やっぱり長文だね」と言われてしまった。みなさんも僕の長文に辟易しているかもしれない。申し訳ない。

実はこの上司とは不思議な因縁があり、僕の在職時代の2大エピソードの両方にかかわっている。ひとつが、クライアントの営業の最高責任者の不正をあぶりだした時、もうひとつが東証から前例がないと言われながら継続企業の前提を理由とした意見不表明の監査報告書を書いた時だ。

さて、東京電力の2011/3期の監査報告書を意見不表明にすべきだったという意見が一部にあるようだ。意見不表明とする理由が、損害賠償引当金を見積もれなかったこと、即ち、あまりにも大きい未確定事項があってそれが財務諸表に重大な影響を与えていることを理由とするのであれば理論展開として理解できる。しかし、継続企業の前提が不確かであることを理由に意見不表明とするという話であれば、この制度を誤解している。

継続企業の前提に関連する制度は、2009年の監査基準の改定によって大きく変わった。当時意見不表明が多すぎるとの批判があったこと、および、国際的な実務と調和させることが改正の理由だ。改正前は、決算日後1年間企業が存続する可能性が高いと判断できるような経営計画を、経営者が監査人に提出できなければ、重要な監査手続が実施できなかったことに準じて意見不表明とする制度だった。改正後はそのような場合の多くは継続企業の前提の注記を会社が記載していれば、「適正意見+監査報告書に注意喚起の追記をする」という制度に変わったのである。今回の東京電力がこのパターンだ。

みなさんは、GMが破たんしたときのことを覚えているだろうか。ちょうどこの監査基準改定の直前のことだったが、GMの監査人は意見不表明とせず、「適正意見+注意喚起の追記」とした。当時GMは、政府の援助がない限り資金繰りが数か月で破たんすると公言していたので、僕は当然意見不表明になるだろうと思っていた。したがって違和感を覚えた。僕の英語力が乏しいのかとも思った。しかし、改定された監査基準を読んで国際的な実務とはそういうことだったのか、と納得した。

ここに現在の開示制度の本質がある。会社が倒産寸前であったとしても、そのリスクをちゃんと開示していれば、あとは投資家が判断するということだ。逆にいればリスクの開示はしっかりやらなければならない。例えば継続企業の前提の注記が必要なのに会社が行わなかった場合は、監査人は不適正意見か限定意見を表明する。注記を軽んじてはいけない。リスク情報を開示することで、リスクを投資家や株主に移転するのである。それに見合うだけの情報開示を東京電力は求められていたということだ。

なお、「目的に向かったか・・・」などの記事で、「準拠性の枠組み」「適正表示の枠組み」という言葉を使ったが、そもそも日本の制度はどちらの考え方なのか、という疑問を持たれた方がいると思う。詳細は別に記載したいと思うが、「以前から制度の建前は適正表示の枠組み、しかし実務が追い付いているだろうか」と僕は感じている。

また長くなってしまったが、前回約束したIFRS関連本の話の前に、「目的に向かったか・・・」で書き残したことを書かせてもらった。ちなみにIFRSの継続企業の前提の制度といまの日本の制度でなにか異なる点があるかというと、僕は特に感じていない。

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