IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について(2.アドプション の2)
=IFRS開発を取り巻く環境と原則主義の採用=
IFRS(国際財務報告基準)は、その前身IAS(国際会計基準)と呼ばれていた時代から、具体的にはIOSCO(証券監督者国際機構)が1987年6月にIAS(国際会計基準)に関心を持って以降、グローバルでの財務情報の比較可能性を高めることを至上命題としてきた。そう考えれば、基準を発行したのちに、各国でIFRSが適切に運用されていることを確かめようとするのは至極当然の話だ。このグローバルでの比較可能性の確保こそが、IFRSの存在意義だからだ。
一方で、この戦略には書いてないが、IASBがIFRSを原則主義としている理由の一つは、法体系、商習慣等々が異なる国々に同一のルールを適用するには細則主義は合わないからだ。
したがってIFRSは、一方では同じルールを世界で完全適用したい、もう一方ではそれぞれの国の事情にあった柔軟な適用をという二律背反する課題に直面している。しかもIFRS財団は民間組織で予算上の制約も厳しく、時には拠出金を減らすぞと脅されることもあるようだ。
さて、みなさんがIFRS財団、IASBの立場なら、この状況をどのように解決するだろうか。例えば、あなたが社内の管理会計の改善プロジェクトのリーダーに指名されたと想像してほしい。プロジェクト・メンバーは関連部署から集められるが、各部署はそれぞれ管理ポイントが異なっていてなかなか共通の仕組みにするのが難しい。そして、あなたのマンパワーは限られている。IASBもそんな立場だ。あなたは準備段階でおそらく以下のことを考えるのではないだろうか。
a. プロジェクト目的の明確化(プロジェクト・メンバーへの分かりやすい説明)
b. 工程表の概要イメージ(必要十分な議論の場の設定と最小公倍数的な成果物を得られるプロセス)
c. プロジェクト・メンバーとの連携、役割分担
d. プロジェクトの効果的なモニタリング方法
そしてキック・オフ・ミーティングに臨む・・・。
なんとなく想像していただけると思うが、IASBにしてみれば上記のaが会計の目的やIFRSの概念フレームワーク、bがデュー・プロセスといわれる会計基準等の発行までの手続や仕組み、cが各国の規制当局や会計基準設定主体との関係、dが各国監査制度や基準からの逸脱を国際的に発見・公表する仕組みである。そしてIASBのマンパワーや予算の制約を考えれば、自らは「一組の高品質な国際的会計基準の意義」を唱えて主導権を確保しつつも、細かいところは各国規制当局や会計基準設定主体の協力を引出し任せる。その結果、原則主義が採用されるということになっていると思う。なぜなら、あまり細かいところまでリーダーが決めることはリーダーの能力の限界を超えるし、みなさんのプロジェクトの各部門代表のメンバー、特に頼りにしたい能力が高いメンバーがやる気を失ってしまうからだ。
アドプション、コンバージェンス、コンドースメント。これらはこういうIASBと各国規制当局の綱引きの中で検討され、当面は各国固有の事情で様々なパターンが生まれると思うし、それを一様にするのは難しいのではないだろうか。それについては次回に記載してみたい。ついでに言えば原則主義についても同じことが言える。IASBとA国の会計基準設定主体、IASBとB国の会計基準設定主体との関係は、表面的には平等を装われるだろうが、IASBがその国の会計基準設定主体に寄せる信頼で実質は異なってくるはずだ。
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