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2011年8月14日 (日曜日)

IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について(2.アドプション の4)

=監査制度の統一、余談=

 

IFRSの開発や普及について、IFRS財団審議会は各国の規制当局や会計基準設定主体の協力を得たいと思っている。監査についても同様だ。世界中の上場企業の財務諸表をIASBがチェックするわけにはいかない。そこでIFRS財団審議会は、監査人がIFRSによる財務諸表を監査する際に、唯一の国際財務報告基準である「フルセット」のIFRSに適切に準拠しているか否かの意見を表明することを求めている。

 

これについてもいくつか課題が考えられる。

 国の制度の欠陥を個別の会社の監査意見として表明することを要求
規制当局および会計基準設定主体が「我が国の制度はフルセットのIFRSに完全に準拠している」と国際的に、或いはIASBに対して表明している場合でも、アドプションやコンバージェンスの方法によっては、個別企業の監査実施時にその国の制度の不備を発見することがあり得る。その監査人に対し、会社の財務諸表はIFRSに準拠していないと意見表明することを要求していることになる。

 各国の監査制度(監査意見の内容)の統一を要求
現在の監査制度は、各国の国内法が要求する監査意見を表明する仕組みになっている。ISAInternal Standard of Auditing:国際監査基準)も、監査意見の内容は国によって異なることが前提、或いは容認されている。しかし、IFRS財団審議会の要求は、フルセットのIFRSへの準拠という統一の監査意見を表明する監査制度を各国に要求している。

 各国の監査の質をそろえることを要求
監査人の質はもちろんのこと、監査環境(被監査会社との協力関係や被監査会社の事業内容、事業リスク)が相違するなかで、レベルをそろえることは実際には難しい問題だ。

 

最後にあげた監査の質の問題は国が異なるとなかなか難しいものがあるが、まずは監査人がプロフェッションとしての自覚を持って自ら解決すべきものと思う。実際には各国の職業会計士団体(日本ではJICPA)による自己規制や会員指導、監督官庁・監督機関(日本では金融庁や公認会計士・監査審査会など)によるモニタリングがあり、その結果日本でも廃業する監査法人は珍しくない。さらに監督官庁・機関が国際的な連携を強めている。またBig4など国際的に連携・展開している大規模監査法人は、国によるサービスの質の差異を最小にするためのマニュアルや研修、さらに業務審査を国際的に行っている。

 

一方、①および②に関しては制度的な工夫が必要だ。しかし、JICPAはアドプション、IFRSからの逸脱といった言葉の定義や翻訳から生じる誤解のリスクを指摘するに留まっている。おそらくその理由は、このような問題点はもう十分認識されていて、しかも、JICPAの課題というより制度設計をする金融庁、企業会計審議会等が考えるべき課題として関係者間で整理されているのであろう。例えばアドプションやコンバージェンスの方法次第で、これらの問題はクローズアップされてくる。ただ、僕自身は、そのような情報は不勉強にして知らないのでまったく確認はできていない。推測するだけだ。

 

まったく余談になるが、そういう問題意識の共有や情報開示は、どこで行われているのだろうか。そういう場があれば申し述べたいのは、高度な会計知識を持って、日本の法律制度や商習慣に熟知して、それを英語で表現できる人材をこのIFRS関連分野に手厚く投入することだ。6/30の企業会計審議会の資料やその他の論調を見ていて、会計基準は国家戦略に係る重要問題だとする意見をよく目にするようになった。それなら国や民間の資源(人材)をこの分野につぎ込み、IASBへの貢献を高めることだ。アメリカやアジアの動向を気にしながら日本の立場を強めようなどという話になっているが、余所をきょろきょろするぐらいでは存在感は高まらない。足元を見られるだけだ。

 

IASBHPに記載されたメンバーの略歴をざっと見ると、ボード・メンバー15名のうち、4~5名はアメリカ人だ。ボードのメンバーでなくてもよい、スタッフでもよい。そしてそのスタッフ達に、日本の実情調査など日本から全面的なバックアップをしてあげられたらと思う。IASBに日本人スタッフは何人ぐらいいるのだろうか。そうやってIASBと日本の関係当局、ASBJJICPA等との信頼強化を行っていけば、日本に導入するにあたってIFRSを正しく理解できることになり、翻訳による誤解を防止できると思う。

 

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