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2011年8月 8日 (月曜日)

IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について(1.会計の目的 の5)

-投資銀行用の会計基準と製造業用の会計基準 の3-

 

会計は変わらなければいけない、というかIFRSはもう変わった。

 

過去の取引データを正確に記録し分類集計することは重要だし大変な業務である。しかし、それは今後の対応、即ち意思決定に生かされてこその重要性だ。取得原価主義ではそこが一歩足りない。将来のリスクを考慮して、このシナリオならこうなるとか、或いは経営者がこうなる可能性が高いと思っているシナリオならこうなるが、その場合にこういう前提条件がそろっていることが必要だとか、その前提条件で外部要因への依存が大きく達成が難しいのはこういう項目だとか、そういう情報が経営に必要で、公正価値会計は企業の企画・経理部門にそこまで守備範囲を広げることを求めている。

 

そのために企画・経理部門は両者間で、そしてもっと現場と密接な連携が必要になるし、外部環境の変化にも敏感にならなければいけない。それが外部公表するための見積もりの会計処理に根拠を与える。IFRSを導入するということはそういうことだと僕は思うが、経営者はそれを望まないだろうか。いや、公正価値会計がそういうこと、即ち、経営に必要な情報がずっと充実すると理解した経営者は、製造業であっても公正価値会計を望むのではないだろうか。

 

さて、会計基準の国際的調和(最近はそれをコンバージェンスと呼んでいる)を目指して導入された減損会計は、非常に評判の悪い会計基準だった。監査人としての経験の中で、その導入に最も苦労した会計基準をあげろと言われたら減損会計だ。減損会計を単に決算だけの作業として位置付けた会社にとっては今でも期末に突然巨額の損失が出てくるので頭痛の種だろう。しかし、予算管理と密接に関連付け、管理会計と一体で運用する会社にとっては、減損会計は悔しいけど有難い会計基準、いや、事業を深く掘り下げて管理している会社にとっては3年も猶予のある生ぬるい会計基準と思われているのかもしれない。

 

減損会計と公正価値会計は同じではないが、上述した将来リスクをキャッシュフローに見込む基本構造は共通だ。消極的に経理部門だけで減損会計基準を適用しているか、それとも積極的に事業としての性格を踏まえて様々なリスクの把握と評価を企画部門や現場各部門と連携して利用しているかで、会社の経営の質が大きく変わっている。後者はB/S面を含めた事業の棚卸を毎年やっていることになるから経営の目が行き届く。

 

なお、会計基準の規定と管理会計の計算手続が異なる場合、IFRSのフレームワーク(資産・負債の概念)とその会社の事業に照らして管理会計に軍配が上がるとすれば、その管理会計を尊重すべき、それが原則主義だと僕は思っている。事業リスクの実態把握と評価という経営プロセスに役立つ情報が外部公表数値の作成にも適切で役立つことがかなり多いと思う。逆にそのプロセスがない、或いは不完全な会社は、この機会に導入や改善を急ぐべきだ。一番の改善は、経理部や企画関係部署の意識改革をすることだ。それには経営者がこれらの部署に求めることである。そして投資家はそういう会社のリスク認識やその評価の仕組みを知りたがっていると思う。

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