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2011年8月 9日 (火曜日)

IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について(1.会計の目的 の6)

-投資銀行用の会計基準と製造業用の会計基準 の4-

 

すでに3回にわたって見てきたように、公正価値会計は経営者が会社の実態を理解し、意思決定に役立つ情報を提供できる仕組みとの関連性が一層高い。製造業からそれを奪う理由はない、というより製造業にも当然必要な仕組みと思う。その結果、投資家にも適切な情報提供ができる。

 

また、公正価値会計だと原価計算に支障が出るとの主張については、IFRSに誤解をしていないだろうか?と思っている。仮に支障があるとしても、原則主義による柔軟なIFRS適用で解決できないだろうか。実は僕はこの主張を理解している自信がない。なぜ支障が出る?という印象なのだ。もしかしたら、僕自身が勉強不足かもしれない。

 

今回はもうこのテーマで4回目、すでに十分長いので、重要論点だがのれんや試験研究費の会計基準については別の機会に譲りたいと思う。でもヒントは、IFRSは、会社の企業価値を計算しようとする会計が目指すべき方向へ真剣にトライしているということだ。この目的に照らしてIFRSはまだまだ発展途上だが、従来の会計基準に比べればずっと進歩している。もしみなさんに時間があれば、会社の価値を計算しようとしたら今の会計に何が不足しているかを「本気で」考えてみてほしい。安易に「保守主義」に逃げずに。そのときのれんや試験研究費をどのように扱うだろうか。IASBの基準開発は直球勝負だ。即ち目的に向かってシンプルだ(それゆえ実務での問題解決を求められる)。理解するには既成概念があるとむしろ邪魔になる。

 

もう一つ「経営の常識」が重要だ。これが見積もりの質に決定的に重要な影響を与える。特に試験研究費やのれんについては、IFRSの細則を一生懸命なぞるような導入はあまり意味がないと思う。そうすると恣意性が入るとか基準の適用にばらつきが出るなどと批判を受けそうだが、これらの項目について「客観性」を求めるのを「もともと限界がある」と一度、諦めてみてほしい。なぜなら、それが現実だからだ。でもそうしてみると本質的に大事なものが見えてくる。経営者やその組織の持っているスタンス、常識だ。実態を把握することにどれだけ真剣に取り組んでいるか、見たいもの、当たり障りのないものばかり見ている組織になっていないか。その企業の本質が問われるのだと思う。

 

以上の結果、のれんや試験研究費についてまじめに取り組んでみると、各企業の「大人の判断」、「経営の常識」に基づいた管理制度の向上を求められていることに気付くのではないだろうか。それは積極的に取り組むべき価値のある課題だと思う。メーカーだから不要というものではない。いやむしろ、メーカーならやらなければならない、のかも知れない。

なお、「IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について」シリーズの「1.会計の目的 の2」に、「会社法や税法など日本の制度に起因する問題の調整をIASBに求めるべきか」と疑問を提起したが、これは6/30の企業会計審議会の内容に関する報道を読んでいるときに心配になったので、何か触れようと思って記載したものだ。しかし、冷静に考えてみると、きっとそんなことはあり得ない話で、きっと企業会計審議会ではきちっと整理して議論が進められると思うので、記載を省略したい。ただ、今後の企業会計審議会の議論の進展によってまた取り上げるかもしれない。発生している事象や制度間の調整が必要な矛盾は、どれも並列しているわけではない。優先順位、重要性、何が原則かをしっかり判断できれば整理できるはずだ。8/6に放送されたNHKスペシャル「原爆投下 活かされなかった極秘情報」の旧日本陸軍上層部のように、自己の利益を考えすぎると目が曇ってそれが分からなくなる。

 

ところで、次回の企業会計審議会はいつ開催されるのだろうか? 早くIFRS導入時およびその後の制度の概要を示さねばならないのに。それとも導入期間を3~5年を5年~7年にし、US-GAAPの使用期限を撤廃したことで満足してしまったのだろうか。それなら6/30の審議会はなくてもできたことだ。6月21日の自見大臣の発言にもう出ていたことだから。

 

 

最後にちょっともう古いが、IFRSを任意適用し、7/292011/4-6期の四半期決算を公表したHOYAの記事を読み感銘を受けたことを報告したい。証券アナリスト・投資家向け説明会でのやり取りが記事になっていたが、鈴木CEO、江間CFOが、勉強不足と思われる参加者(IFRSは分かりにくい、開示の後退という発言があったそうだ)とのやり取りに苦労されたようだ。しかし、そこからはIFRSを経営に生かそうとする強い意志が感じとられた。投資家にとっても好ましいことに違いない。またIFRS教育の重要性とスピードアップの必要性も感じられた。アナリストにもIFRSに慣れてもらうことが必要だ。

さて、次回以降はJICPAIFRS財団審議会に対する回答のIFRSのアドプションの話に移りたい。そこでアドプション、コンバージェンス、コンドースメントといったことに触れたい。IFRS財団審議会は「アドプション」を目指している。IFRSを理解するために、その意味を検討する必要がある。

 

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