IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について(まとめ)
なんとこのテーマで10回も書いてしまった。加えてデュー・プロセス(基準等の発行手続き)についても書く予定だったが、そろそろ本題のIFRS本体に入らねばと思っている。そこで今回は、長々と書いてきたこのテーマのまとめと、最後にデュー・プロセスに関連して記載しようと思っていたことを簡単に書こうと思う。
(まとめ)
a. IFRSの目的は、企業の財政状態及び業績の忠実な表現を提供する財務報告基準となることであり、他の政策目的は副次的なもの。
b. 投資家に有用な情報を提供することが他の利害関係者にも役立つ(他の利害関係者の典型が経営者)。
c. 事業リスクを評価し、その対応策を立案し、かつそれを決算に反映する会計プロセスを持つことを、IFRSは企業に求めている。
d. IFRS財団審議会は、IFRSの完全な適用をモニタリングする観点から、将来的に各国にアドプションを求めている。しかし、アドプションの内容自体にかなり幅があり、各国の意思や実力、IASBが寄せる信頼感によっても実質的に異なってくる(アメリカのコンドースメント方式がIASBに容認されるかどうかはこの範疇の問題)。
e. 各国は勝手にIFRSの解釈を行えないが、原則主義は各国の実情に合わせたIFRSの導入を意図しており、この「解釈」と「導入」の境界は、アドプションの内容と同様に、各国の意思や実力、IASBが寄せる信頼感によって実質的に異なってくると考えられる。
以上を書き換えると以下の通りで、これが現時点での僕の意見だ。
A. IFRSの趣旨を正確に理解し遵守することが重要であって、細部で教条主義に陥らない
B. リスク評価と対応策の立案およびそれを会計プロセスに反映させる仕組みが企業経営に求められている
C. 各国のIFRSを採用する制度や個別企業へのIFRSの適用は、誰か(例えばIASB)の指示待ちではなく関係者が主体的に検討し提案すべき余地・価値が現時点では大きい
特に原則主義に関連した部分では、僕の考えは企業やその監査人の自由度が大き過ぎ、統一のグローバル基準としてのIFRSの意義を損ねるのではないか、という批判が聞こえてきそうだ。或いは基準の読み方に幅がありすぎて、IFRSの適切な適用を保証する監査が行えるのか、という意見もありそうだ。
しかし、もう一度6/30からの東京電力関係の記載や7/3の「7/2放送のHNKスペシャル「果てなき苦闘・・・」の石井医師」を見てもらえると有難い。サッカー好きの人は7/4の「日英サッカー審判の違い」や7/22の「なでしこJAPANの勝因」でもよい。細部に拘ってもより大きな目的が達成できないということになっては、それこそ本末転倒だ。IFRSを経営に生かす観点がより重要だ。
いずれにしてもIFRSは、将来予測が増える分、企業も監査人もより多くの難しい判断が求められる基準だ。より大きな責任を負うことを覚悟する必要がある。
(デュー・プロセス)
さて、また長くなって恐縮だがIASBの基準等の発行手続(デュー・プロセス)については、「デュー・プロセス・ハンドブック」なるものが開示されているので、興味のある方はこれを参照されるようお願いしたい。
IASBのデュー・プロセスは、企業会計審議会等より透明性が高く、関係者が意見を申し述べる機会も確保されていることがお分かりいただけると思う(ただし英語)。しかし僕が注目しているのは、ハンドブックに記載されている「遵守か説明か」アプローチだ。IASBは、外部に対して、或いはIFRS財団審議会など内部に対しても、原則でできないものは、しっかり説明をすればよい、という考えを持っている。IFRSの適用・運用を考えるうえでも参考になる。
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