IFRS財団評議会の戦略レビューの報告について(1.会計の目的 の2)
前回はIFRS財団評議会とJICPA(日本公認会計士協会)の考え方について、JICPAがIFRS財団評議会へ提出した回答から見てきた。両者はともに会計(IFRS)の目的が企業の財政状態及び業績の忠実な表現を提供することであると言っている。この点について会計学者の意見や金融庁のHPに公開されている6月30日の企業会計審議会の資料と比べてみたい(議事録はこの記事を記載している時点(7/31)で未公表)。
といっても実は、金融庁HPの資料のうち、産業界および経団連のものについては、会計の目的とか機能について正面から取り上げた個所はない。金融庁および自見大臣の資料も同じ。しかし、関連するものとしては、次のような主張が印象に残った。
A. IFRSはM&Aを手掛ける投資銀行のための会計(会計学者)
B. IFRSは製造業の経営、原価計算と合わない(会計学者、産業界、経団連)
C. 純利益、包括利益の性格付け、リサイクリング(会計学者、経団連)
D. 連結財務諸表と単体財務諸表に適用する会計基準は相違してよいし、単体は有報に乗せなくてよい(単体F/S、会計学者、産業界、経団連)
(注) 会計学者:前出の石川教授、田中教授の著作
単体F/S:「単体財務諸表に関する検討会議」報告書(2011年4月28日)
産業界:「我が国のIFRS対応に関する要望」(2011年5月25日)
経団連:「国際会計基準(IFRS)の適用に関する早期検討を求める」 (2011年6月29日)
なお、「2012年度 連合の重点政策」(抄)(2011年6月30日)は簡単に書いてあるので具体的に内容を捉えるのが難しいという理由で上記の対象に含めていない。ただ、このテーマに関連して特徴をあげれば、会計基準に他の政策を絡めて考えている。前回記載した言葉でいえば、会計の目的に不純物を入れようとしているということだ。
産業界・経団連のメインの主張は、企業会計審議会の議論を早期に再開し、IFRS導入に関連した制度の全体像を早く明確にしてほしいというものである。決める側がちゃんと決めてくれないと、企業側は導入するのに過大な負担がかかる、それは勘弁してくれということだ。また、企業開示制度全般の簡素化も要望している。IFRSを強制適用とする企業の範囲についても検討を要望している。これらは非常に有益な意見だ。
さて、そろそろ僕の意見を書きたい。
このブログはIFRSのことを学ぶのが目的であり、企業会計審議会について論評することではない。しかし僕は、企業会計審議会はまずIFRSを投資家のために導入すると確認すべきだと思う。例の投資家のための会計が、他の利害関係者への情報提供に最も役立つ、という会計の教科書の最初に載っていることだ。このためにIASBは企業の実態を忠実に表現するための会計基準を開発している。
おそらく、この点が確認でき、そこからIFRSを理解すれば複雑に見える多くの問題の優先順位が見えてくる。そうすれば問題解決に近づける。例えば以下の観点を次回以降に考えてみよう。
① 製造業と投資銀行で会計基準が異なるだろうか。企業の実態を忠実に表現する目的はどちらも共通だ。投資家や経営者は過去の業績が知りたいのだろうか。本当の目的は今後の意思決定に役立てたいのではないだろうか。
② 会社法や税法など日本の制度に起因する問題の調整をIASBに求めるべきか。IASBには実態に忠実な表現かどうか、そのベネフィットとコストが見合っているか、という観点で要求すべき。国内制度のことは国内でやる。
③ 取引慣行が違う=経済実態が違う=IFRSの適用の仕方・運用が違う。原則主義ならではの柔軟な運用は考えられないか。
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