リスク管理プロセスと会計上の見積もり
ご存じのとおり10/5にアップルの創業経営者スティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。僕は高級パソコンのマッキントッシュに憧れはしたものの、自分で買ったのはWindows3.1の廉価パソコン。パソコン通信やInternetを閲覧するにはそれで十分だった。アップル社の製品は、今年購入したiPhone4が初めてだ。
みなさんはジョブズ氏が亡くなった直後のNHKのクローズアップ現代の追悼番組をご覧になっただろうか。印象の残ったのは自分のアイディアを世の中に問いたい、広めたい、そして世界を変えたいという情熱だった。夢を実現させる秘訣は、そのことを止めない、やり続けることだそうだ。人々に感銘与えた母校スタンフォード大学でのスピーチでは、ハングリーであり続けろ、愚直であり続けろ、と締めている。10年前のインタビューだが、ベンチャー企業を興したいといって相談に来る人たちに、なぜ事業をやりたいのか問い、お金持ちになりたいと答える人には起業は止めた方が良いとアドバイスするのだそうだ。
10/12のクローズアップ現代ではソフトバンクの孫正義氏が出演し、ジョブズ氏は売上がどうだとか、今期の決算がどうなるなんて発想はない。ただ自分の作品、アップル社の製品で世の中を変えたいという狂おしいほどの情熱があったという趣旨の話をしていた。
会計は手段であって目的ではない。会計は、事業に対する強い情熱をサポートする、事業の成功率を高める道具に過ぎない、事業の中身こそが重要であって、会計はその実態を表現する技法だということを改めて感じた。問題があれば警鐘を鳴らせるようにするのが会計だ。問題を見ぬふりして決算を良く見せる道具ではない。
さて、前置きが長くなったが、オーナーシップを持った人の真摯な事業への思い、責任感、好奇心。これらがすべての基本になるが、いよいよリスク管理がどのように決算、IFRSに関連してくるか、一連の流れを書いてみよう。
(リスクの識別と特徴づけ)
事業に対する思いを、事業環境へ適応するための具体的なアイディアにし、それを時間軸や影響の大きさ、発生可能性などで特徴づけし、メイン・シナリオ、代替シナリオ、オプション、棄却のいずれかの箱に分類する。
(リスクの分類と対応策の立案)
メイン・シナリオに分類したものは、その性質によって直ちに(予算化して)実行する、来期の予算に組み込む、中期経営計画に含めるための具体的な計画づくり行う。代替シナリオについても、実現可能性が比較的高いもの、影響の大きいものはメイン・シナリオと同様の具体的な計画を検討する。オプションについては、将来メイン・シナリオや代替シナリオになる可能性や期待に応じた検討を行う。この過程で新たな問題が発見され、それへの対応策がまたメイン・シナリオ、代替シナリオ、オプションに分類されていく。
(リスク対応策策定のポイント)
ここでしっかり問題を識別しておかないと実行段階で急な対応を迫られるので失敗の確率が上がってしまう。したがって、このプロセスこそが重要だ。僕の経験ではこのプロセスに十分経営資源を投入していないケースが多いように感じられる。或いはまるで予算書さえできればよいとばかりに、事業上の検討が全く不十分で絵にかいた餅のような計画ができてしまったりする。
だからここには時間がかかる。(年度予算を策定するために)1~2か月でできてしまう計画はあまり多くないはずだ。日常的に事業上のアイディアを特徴づけし、分類し、必要に応じて計画化し、年度予算策定時はそれを整理・集計するだけでよくなるような体制、仕事のやり方にすることが必要だ。そして事業環境が想定外に変化したときは適宜その計画を機動的に展開する。即ち、メイン・シナリオと代替シナリオを入替えたり、オプションをメイン・シナリオや代替シナリオへ昇格させたりする。
(会計上の見積もり)
さて、計画化する際に注意が必要なのは次の点だ。
・投資の回収までを計画する。
・年度決算の会計処理と整合的な収益・費用計上を行う。
そうすると、この計画が事業収益の見積もりそのものとなる。
以上で分かる通り、決算のために、IFRSのために計画を作成するのではない。あくまでその会社らしい事業を行い、その成功率を高めるために計画を作る。そうするとそれが決算の裏付けになる。IFRSによる決算に必須の会計上の見積もりを支える内部統制とは、事業を成功に導く内部統制だ。しっかり計画を策定できれば、予算実績対比も手間をかけずに深い分析が可能となり、効果的・効率的な予算管理ができるというメリットも享受できる。くどくなるが、僕の経験ではこの部分が弱い会社が多い。これこそ、鍛えて鍛えがいのある内部統制だ。
監査人に、「どこまでやってあれば事業計画を妥当と認めてもらえますか」などと質問をするのは、決算のために事業計画を作るとゲロしたようなもので、ナンセンスだ。この計画で事業を成功させられるのか、それを真剣に突き詰めていくことこそが必要だ。
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