10月17日の企業会計審議会~日本の戦略に影響を与えるもの
戦略を持つということは、個別問題を一定の方向性、統一感を持って解決していくことに他ならない。IFRS導入問題に端を発し、日本の会計基準についての考え方が日本経済の利益になるよう整理されることは素晴らしいことだ。草の根の議論にしかならないとしても、それ自体に意味があると思うので、僕なりの提案や問題提起をしてみたい。
(前提の確認)
僕がここで確認したい前提とは、会計の目的が「企業の財政状態及び業績を忠実に表現すること」ということだ。これは会計学の教科書にも記載されている常識であることは以前記載した。また、これに関連して次の当たり前の2点を確認したい。
①よく言われるように会計基準は物の長さ(=企業の財務実態)を図る定規であり、長過ぎる、或いは、短過ぎるといって定規を勝手に変えてはならない。
②財務情報の利用者は実態(企業の財務状態および業績の忠実な表現)を見たいのであり、実態の把握がそれぞれの利用者が直面している問題の解決に必要と考えている。
(日本が享受したいメリット)
日本企業が海外企業に比べ不利にならない会計制度を持つ目的は、次の2点に要約されると思う。
① 資金調達が不利にならない(直接金融・間接金融)。
② 経営戦略の立案・実行管理や経営改善に役立つ。
このような会計制度によって生み出された財務情報は、多少の工夫を加えることで銀行などの債権者、配当に関心を持つ株主、税務当局にも役立つ。さらに、これらの結果として日本経済の安定や成長に寄与し、また消費者、従業員や取引先など関係者の生活に良い影響をもたらすことが期待される。
このようなメリットを日本が享受するために重要な条件はなんだろう。
(資金調達の場所)
企業がどの国や地域の資金を調達するかだが、残念ながら国内資金は多額の国債の償還問題や少子高齢化による貯蓄減少見通しなどから今後は厳しい状況になる可能性がある。
このため海外資金の存在感が増すが、僕の感覚では資本主義を標榜し、株式市場や金融取引について全く同じではないが似た価値観や倫理観を持ち、したがって相手の考えることを合理的に理解しやすく、日本の考えることも合理的と理解してもらいやすい相手から資金を調達することが好ましいと思う。
上記に加え、資金調達するにはその国に民間資金が十分になければ元も子もないため、経済規模も重要だし、生産・販売拠点を持つなどの経済関係の濃さも重要だ。また、為替相場があまりに大きく変動する国はリスクがあるため、経済の安定性や成長性のほか、政治的な安定性も重要だ。
100点満点をとれるところなどないと思うが、どの国や地域での資金調達が日本企業にとって大切かを検討することは、会計基準についてどこと連携するのがよいかを考えることにつながる。或いは独自の制度を維持するか。
(開示情報の品質)
財務諸表(注記を含む)の利用者、読者は企業の財務実態を理解したい。会計基準に問題があればもちろん目的は達成できない。会計基準を作成・運用するプロセスに不当な圧力がかかって会計基準が曲げられても目的は達成できない。企業財務に関連した重要なリスクを網羅的、適切に開示させる基準はどのようにしたら開発できるか、また、不当な圧力がかからない、或いはかかってもはねつけられる開発・運用体制とはどういうものか、を考えることは、誰が日本の会計基準を作成し運用するかを考えるうえで有用だ。
(情報開示コスト)
身に染みてらっしゃる方が多いと思うが情報開示にはコストがかかる。過大なコストが発生するのは、次のケースが考えられる。
A. 会計基準自体に問題がある(開示要求が多い、複雑性や手間、有益でない開示)
B. 会計基準以外の個別要求が多い
C. 会計基準が複数あって、それごとに開示資料を作成することを要求される。
これらを最小化するためにどうしたらよいかを考えることが、実効性の高い会計基準イメージすることに役立つ。
(情報開示の副産物)
日本人にとって分かりやすい財務情報が提供される必要があるが、ご存じのとおり日本の株式市場には海外資金が相当入っているし、一部の企業は海外で直接・間接に資金調達を行っている。その結果、新たな企業情報開示の要請は欧米からくるものが多い。その背景にはリスク管理を体系的・網羅的に行おうとする考え方の徹底具合が欧米の方が強いからだと思う。しかし、そのおかげで日本企業がリスク管理を向上・進歩させることが可能になっている(単なる制度対応では効果は限定的だが)。
企業が資金調達を行える代償として情報開示が必要になるわけだが、その副産物として企業のリスク管理能力向上が見込まれるならば、そのような副産物を多く見込める相手と情報開示、会計基準について連携することも重要だ。見込めないなら独自の道を行く手もある。
これらの項目をざっと検討し、稚拙ながら日本の戦略について次回に考えてみたい。
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