固定資産の減損会計を支えるもの
会計上の見積もりや公正価値というと金融商品が話題の中心になることが多いが、有形固定資産の減損、そしてのれん、試験研究費などといった実務家が頭を悩ませるテーマも将来キャッシュフローを見積もって現在価値に割引くというベースは公正価値の算定方法と共通している。金融商品は多くの会社にとっては余資運用とか副業の分野だが、より重要なのは事業に密接に関係する有形固定資産、のれんや試験研究費を含む無形固定資産ではないかと思う。これらの多くは事業収益予測が基礎になるため内部データによらないと見積もりができないが、内部データの信頼性を支えるのは事業計画や予算関連業務の質、その内部統制だ。
会計上の見積もりの内部統制とリスク管理の話のために、会計上の見積もりについてざっと振り返ってみよう。
IFRSの考え方はシンプルで、会計上の見積もりとは公正価値の見積もりのことだ。市場価格のあるものは市場価格をつければよいが、そうでないものはなるべく外部の客観的データを利用し、それができない場合は内部データを使うことになる。価格データのないものは、IFRSの資産・負債の定義通り、将来キャッシュフローを見積もり現在価値に割引く。
その際、生産設備など有形固定資産については、事業収益を見積もることになる。ただ、再評価モデルを採用しない一般的な会社は、公正価値を貸借対照表価額にするわけではなく、あくまで減損テストのための見積もりに過ぎないのだが、将来キャッシュフローを見積もって現在価値に割引く考え方は同じだ。
減損については、日本基準とIFRSでは共通するところが多いのだが相違するところもある。それは一端計上した減損損失を取り戻して簿価を復活できるかどうかだ。日本基準は簿価を復活できないので、減損の兆候の識別、減損認識、減損損失の測定の3ステップを要し、兆候を識別したらすぐ減損損失を測定するIFRSよりステップを1つ増やして減損対象を慎重に限定している。また減損の兆候を識別する方法も、IFRSの方が早いというか兆候に該当しやすい。結果としてIFRSは少額の減損が頻発する傾向、日本基準は多額の減損が時々計上される傾向になると思う。本質はどちらも「投資が回収できないものは減損する」と理解しておけばよいと思うが、IFRSは減損損失計上の原因となった事由が解消されれば減損損失を取り戻せる柔軟性がある(実務は面倒だが)。
さて、事例に戻るが、その会社のメイン事業の一部の資産グループは減損損失を計上した。工場と営業所を一体としたエリア別の資産グループを形成していたが、適当なM&Aの対象が見つからないエリアなどの地域特性から事業効率を上げられないところがあったためだ。例の2年連続赤字で翌事業年度も黒字が見込まれないからではなかったと思う。また、これは監査人が指摘したものではなく会社から決算前に協議の申し入れがあって我々も同意した。
日本基準の場合、営業キャッシュフロー或いは営業損益が2年連続赤字で翌年度に黒字になることが明らかでないという条項のイメージが強く、その他の事業環境や事業収益の変化があっても2年連続で赤字にならないと減損の兆候でないと判定してしまう実務があるように思う。しかし、日本基準においても、減損の兆候の本質は投資が回収できなくなるきっかけに該当するかどうかだ。IFRSにはこのような営業損益云々の形式的な判定をサポートする条項はない。この事例の会社のようにより事業の本質的なところで判断する必要がある。
こういう判断を適切に行えるためには、事業に対する期待と実際との相違を敏感に感じ取る必要があるわけだが、特に事業に対する明確な将来イメージを持つことが重要だ。事業に対する将来イメージとは事業計画や予算に他ならない。これに関連して、事業計画の策定や予算編成、そして予算統制のポイントを9/30に記載した記事(リスク管理体制~創業経営者の頭の中)と合わせて次回に検討してみたい。
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