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2011年11月

2011年11月30日 (水曜日)

IFRSの資産~償却資産と減損1

果たして売掛金と償却資産(固定資産)は減損でつながっているのだろうか。

最初から種明かしをすると、ご存じのとおり日本でも固定資産には減損会計が適用されているし、IFRSも同じだ。そして実はIFRSでは貸倒引当金、貸倒損失のことも「減損」と表現されている。さて、両者はたまたま名前が同じなのか、それとも関連があるのか。もちろん後者だ。(IFRSには金融商品に関連して「償却原価」という言葉もある。)

もう一つ、固定資産の減損会計は日本基準とIFRSで相違する部分があるが、その底流にある考え方の違いはなんだろうか。ここに資産に対するIFRSのスタンスが見えてくる(これは後日)。

 

(売掛金と減損)

ご存知の方も多いと思うが、現在IASBはリーマンショックの反省から金融商品の会計基準であるIAS39号を改定し、金融資産の分類及び測定、金融負債の分類及び測定、金融商品の認識の中止、減損、および、ヘッジ会計に分割して改定プロジェクトを進めている。このうち金融資産の分類及び測定に係る基準(IFRS9号)はすでに確定しているが、減損を含めあとのものは、よりシンプルな分かりやすいものにするためにまだ改定作業中だ。

 

このような事情もあって、償却原価および減損については特徴について大雑把な説明をする。

 償却原価で金額を測定する資産に減損を適用する。両者はセット。

 償却原価は、市場性があるなど売買によって換金でき公正価値評価される資産以外の金融資産に対し適用される。

 よって減損は、公正価値で評価されない金融資産に適用される。

上記、①~③も随分ラフな説明だと思うが、それでも面倒だと思う方は、取得した時点で誰からCashを回収するかを契約によって特定できるような金融資産は減損が適用される、というのでもよいかもしれない。例えば売掛金、貸付金、市場性のない社債、満期まで保有する社債などが減損の対象となる。これらは金融資産を取得した時点で、誰から、どのタイミングで、いくら回収するというスケジュールが決まっている。それに対して公正価値で評価される金融資産は、短期売買する有価証券や、株式のように売却によってCashが入ってくる可能性の高い資産、或いは、最終的には売却される資産といってよいと思う。

ということで、売掛金は減損の対象となる資産だ。基本的には公正価値評価はしない。

 

(償却原価と償却資産)

いずれにしても(公正価値評価するものも償却原価が付されるものも)、金融資産は金を生むことが前提となっている。それはIFRSの資産の定義、僕の簡単な定義でよいが、それにマッチしている。ただ、公正価値で評価されるものは最終的に誰かのCashと交換されるが、償却原価で評価されるものは相手が契約を履行することでCashとなる。その際前者は売買益を期待するが、後者に対しては金利による運用益を期待する。後者については取得時点で元本および利息などについて契約などによって将来キャッシュフローを見積もることができるので、当初投資額に対するリターンという形で運用成績を測ることができる。そこで、複利計算によるこの運用収益率を実効金利として、実効金利が毎期実現されるように将来キャッシュフローを実効金利で割り引いて決めた簿価が償却原価だ。

 

このように償却原価を決めるので、償却原価を付した金融資産は、その後償却原価に固定の実効金利を乗じた金額を毎期運用収益として計上し、最終的に元本が回収されて帳簿から消える。このような処理は、有形固定資産などの償却資産に毎期償却率を乗じて費用化し(費用化された減価償却費は対応する収益で回収され)、経済耐用年数経過後に処分されて処分時の収入と残存価額が相殺されて帳簿から消えていく減価償却と似ていなくもない。償却原価によって評価される金融資産と、償却資産(固定資産)は生み出す損益が逆方向(一方は収益を生むが、もう一方は費用)というだけで、ほぼパラレルな処理となる。

 

ちょっと説明が複雑になってしまったので、もっと直感的に表現すると、いずれも投資時に投下資本を回収するスキームが決まっており、将来キャッシュフローによって利益を生むと期待できるので、それに沿って計画的・規則的に収益計上したり、費用計上したりする。その計画的・規則的にという共通部分が、「償却」という言葉で表されている。かつ、いずれも取得時の支出額をベースに(多少の加工をして)簿価を決めるので、両者は取得原価主義の会計処理であると説明されている。償却原価と減損がセットと書いたが、実は取得原価主義と減損がセットになっている。

 

なお、売掛金については、通常売上割引以外は金利を生むと期待していないが、回収期間が短いため実効金利0とされた金融資産と考えればよい。(だが、もし長期になれば、金利を擬制して実効金利による割引計算で簿価を計算する可能性も当然想定され、その際は費用が計上される。)

 

(減損)

減損は、投資額を将来キャッシュフローで回収できない場合に、回収可能額まで簿価を減額し損失を計上する会計処理だ。固定資産の場合は、取得した資産を利用した事業が期待した将来キャッシュフローを実現できないと見込まれる場合に減損損失が計上されることとなる。金融資産もまったく同様に、その金融資産に期待した将来キャッシュフローが実現できない見込みとなった時に減損処理が行われる。

 

固定資産の「期待した将来キャッシュフローが実現できない場合」とは事業が不振なときということだが、金融資産の「期待した将来キャッシュフローが実現できない場合」とはどういう場合だろうか。それは相手が契約を履行しない場合、債務不履行の場合、即ち、貸倒が予想される場合となる。

 

IFRSは資産を金を生むものとしているので、以上のように、公正価値評価する金融資産であろうが、償却原価を付す金融資産であろうが、償却資産(固定資産)であろうが、金を生まないと判断された部分はどんどん損失計上する。資産は金を生むものというIFRSの定義は、含み損を決して許さないというスタンスを表わしたものと考えることができる。

 

次回は、この「どんどん」という部分を、日本の減損会計との違いから見ていくことにしよう。スタンスの強さが見えてくる。

2011年11月29日 (火曜日)

IFRSの資産~償却資産と減損(前回までの復習)

オリンパスのことは一時忘れてIFRSの資産に戻ろう。資産の意味が分かっていればオリンパスもあれが粉飾だと分かって踏みとどまったかもしれない。(それはないか・・・。)

 

今回は、ざっと復習をしてみよう。11/1の記事で僕は「資産とは金を生むもの」と書いて、売掛金はCashを受取れるので換金価値で資産計上することにしっくりくるが、償却資産も同じかと疑問を呈した。償却資産は生産設備のように長期間使用する資産であり、通常は売却することを予定してない。そこで償却資産は換金価値ではなく原価償却後の簿価でB/Sに計上されるからだ。

 

すると換金価値(≒公正価値)で評価される資産と償却後簿価(取得原価主義による原価)で計上される資産がB/S上に並存するが、11/2の記事に書いたようにIFRSでは、それらを足したり引いたりして利益計算することになる。それは正しい利益計算といえるだろうか。

 

11/3の記事では、まず売上計上基準について考察して、IFRSによる収益計上が日本基準よりキャッシュと密接に関連していることを記載した。今日はB/Sで利益計算すると言い切るIFRSにとっての償却資産とキャッシュの関係を検討したい。ポイントは、償却資産とキャッシュの関係が強いほど売掛金との同質性が増すので足し算引き算、即ち利益計算が有効になるが、関係が弱ければ売掛金と償却資産を足しても意味がないということだ。しかし、実は両者は「減損」でつながっている。減損の考え方がポイントになるが、これは次回に譲る。

2011年11月21日 (月曜日)

【オリンパスの粉飾】-11/18、19の日経電子版の記事に関連して

多くの方がすでに読まれたと思うが、もし、下記の見出しに見覚えがなければ日経電子版のこれらの記事をお読みいただけるとありがたい。

11/18 オリンパスはなぜ、一線を越えたのか

11/19 オリンパスが問う、「問題先送り」の経営風土

18日の記事はオリンパスが粉飾に手を染めていく様子と企業が本業から離れていく怖さが、19日の記事はこの事件からの教訓(特に企業統治面)が記載されている。今日はこれらの記事を参考に会計面からコメントを記載したい。

 

18日の記事は1985年のプラザ合意による急激な円高から始まっている。当時10月決算だったオリンパスは、本業の業績悪化をカバーするための土地の売却取引を行い、1996年10月決算を乗り越えた。これが財テクに手を染めていくきっかけになったという。19日の記事は、タイトル通り問題先送り体質が日本企業にないか問うている。

 

短期的な利益を求める取引、即ち、年度決算を取り繕う取引は、これほどまでに経営者に魅力的に映る。日本の製造業は長期的経営を標榜しているといわれるが、確かにそれを踏み外すと恐ろしいことになる。オリンパスが良い例だ。ただよく見受けられるのは「長期的経営=含み益」という発想だ。業績が悪くても含み益を吐き出して利益をよく見せればよい、そういう考え方だ。オリンパスもこれに嵌ってしまった。

 

僕には投資家、株主、そしてその代理人と自認するアナリストやマスコミが、もっとそういう目を持って決算を見てほしいと思う。経営者が減益や赤字決算に怯えるのは、一に役員や従業員が減益や赤字決算に慣れてしまうことの怖さ、そして減益や赤字になると、上記利害関係者からの批判、叱責が怖いのだ。しかし、意外と知られてないのは、決算を取り繕うことの怖さ。最終利益をよく見せれば利害関係者からの追及が柔らかくなる。しかし、それで事業が改善されたわけではない。問題が先送りされただけだ。たまに益出し取引を非難する株主も見かけるが、配当が出るなら良いという利害関係者があまりに多い。もっと前段階で、厳しく、かつ、長期的な視点で、経営者を叱咤、激励してほしい。

 

財テクに嵌っていくプロセスも、同じ経営者心理が働いている。その効果も同じ。本業は何も改善されていないのに、利害関係者が責任追及しないので問題が先送りされていく。オリンパスでも、こういう構図の中で、1991年の営業特金解約時の有価証券等の甘い評価が行われたことは容易に想像される。有価証券で損失を出せば非難されるから出すのを止めようと思ったのだろう。資産評価を甘くしてはいけない。経営者は、高い意識で勇気をもって厳しく資産評価を指示してほしい。資産には事業の結果が蓄積されるので、悪いものもそこに溜まる。それを理解し、反省することが対応策につながる。利害関係者はすでに終わった期の赤字云々より、経営者のそういう姿勢を見て欲しい。経営者が事業上の問題に対処する姿勢がそこに現れる。過去のことより、その経営者で業績の回復が期待できるかどうか、その方が重要な関心事であるはずだ。

 

意外に思われるかもしれないが、利害関係者が日本の経営風土に与える影響は大きい、経営者を育てるのは利害関係者だ、そんなふうに僕は思う。監査人にとっても同様だ。株主総会に監査人が出席することが多いが、株主からの質問は非常に刺激的に感じる。

2011年11月18日 (金曜日)

【オリンパスの粉飾】上場は維持されるか

報道によるとオリンパスの株価は10/14から3日連続のストップ高だったそうだ。第2四半期報告書の提出や過年度の有報の訂正が東証の定める期限に間に合いそうで、債務超過にならない可能性が高いだとか、主力の内視鏡の事業価値を見込むとか、銀行団に含み損はすべて処理したと説明したとか、そして「証券取引等監視委員会がオリンパスに対して課徴金などの行政処分にとどめる方向で、上場維持となる公算が出てきた」との一部報道が、上場回避観測の根拠になっているらしい。17日は筆頭株主日本生命の売りが明らかになって乱高下。

しかし、こんな悪質な、世紀の大不祥事でも上場が維持されるのだろうか?

 

報道が正しいとすると、他にオリンパスに該当しそうな上場廃止基準は以下のところだろう。aには間違いなく該当する。bは第三者委員会の調査の状況にもよるが、可能性はあるが低いと思う。

a. 有価証券報告書等に「虚偽記載」を行った場合で、その影響が重大であると当取引所が認めたとき

b. 監査報告書等において「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載され、その影響が重大であると当取引所が認めたとき

 

aについての過去事例は、2005年のカネボウ(虚偽記載および監査意見不表明)、2006年のライブドアがある。みなさんは2007年の日興コーディアル証券の事件を覚えてらっしゃるだろうか。日興コーディアル証券の場合は影響が重要でないと判断され上場廃止を免れたが、それはシティ・グループに買収されることが前提だったからだと思う。

bについては、不適正意見はまず出ないと思うが、意見を表明しない、即ち意見不表明は僅かに可能性がある。そして東証は不適正意見の場合は直ちには上場廃止にしないが、意見不表明だとすぐに上場廃止の決断をする。(この東証の考え方については、我々監査人としては不服だが・・・それはいずれの機会にまた。)

 

「影響が重大か」の判断をいかに行うかについて東証は特に説明していないので、上記の事例から推測するしかない。ただ、僕は個人的には重大だと思う。

 

東証目線でなく、監査人目線になってしまい申し訳ないが、僕にはオリンパスの経営陣は、現経営陣を含めてしっかり反省ができているか疑問だ。まずは反省から始めて欲しいが、それには時間がかかる。

 M&Aの件で、損失処理が終わったというが、僕は疑わしいと思っている。
 
当初M&Aの件は、支出額を損失に計上したのではなくのれんに資産計上している。即ち、含み損のままで損失処理したわけではない。のちにのれんを減損したのでその分は結果として含み損が資産から減額され、損失計上することとなったが、過去の反省を形にしたものではない。単に運用に失敗し、不正運用のファンドが減ってしまったので資金を補給したに過ぎない。資金が足りなかった分と含み損の金額は、一致するとは限らないのだ。即ち、含み損をすべて消そうという意思の下に一連のM&Aの取引を仕組んだとは思えない、会社は過去を反省してけじめをつけようとしたわけでない。もしかして、IFRSになればのれんは償却もしなくてよいなどと考えていなかっただろうか。20年もの長きにわたり粉飾を続けてきた事実は、そういう非常識なことさえ連想させる。

 

 前任監査人の最後の監査対象決算期に監査証明業務に基づく監査報酬が407百万円となっていて、突出して高い。
監査報酬は、この前年度が187百万円、後任監査人の初年度が225百万円なので、この年度だけ著しく高額だ。多分、その年度だけ特殊要因があって監査人の手間がかかったのだろう。ちょうど内部統制報告諸制度の初年度と重なっていて、そのために高額となっている分もあるだろうが、倍以上というのは考えにくい。その期に多額ののれんを減損しているのだが、恐らくそれに関して監査人の手間がかかったため監査人に追加の報酬を請求されたのではないだろうか。会社が素直に自らの過ちを認めていれば不要なコストだったはずだ。会社には悪意があったのに、まだそれを本当に悪いと思っていない。やむを得なかったなどと思っていると思う。まだそこまで反省が及んでいないのではないだろうか。

 

 元社長ウッドフォード氏に対する謝罪なり名誉回復なりをしたという話が伝わってこない。
 
社長に復帰してほしいといったところでウッドフォード氏が受けるかどうかわからないし、ウッドフォード氏が社長になると、オリンパスが外国資本に身売りする可能性が高まるなどいろいろ考えられるが、合理的な理由のある疑問を解任によって封じ込める(他の取締役も異議を唱えない)という現在の経営上層部の体質は、例の3名の個性の問題だけでは済まないと思う。そういう体質は容易に変われるものではない。ウッドフォード氏のインタビュー記事を読むと社内にもはびこっている気風のように思うので、外部の人材を活用するのが良いだろう。総入れ替えが必要かもしれない。いずれにしても、いったん上場廃止し、もう一度上場審査を受け直して再上場するのが良い。

 

 前回書いたように過去の動機に遡った原因追究と反省が必要だ。
 
これは第三者委員会に会社がどれだけ協力できるかにかかっていて、まだ結果が見えない。また、過去の経営者に遡って、責任追及すべきだ。法律上は時効になってできないとしても何らかのけじめが必要だと思う。

 

反省しなければまた繰り返す。「こんなもので済むのか、じゃあ、またやっちゃえ」ってことになりかねない。ほかの企業へ及ぼす影響も恐ろしい。中国の会計不正が問題なったばかりのアメリカでも関心が高いようだ。その流れで日本企業全体に嫌疑がかけられたら大変なことになる。

 

もし、現経営陣が会社の将来と日本の資本市場を本当に心配するのなら、いまは第三者委員会調査への協力と、次のオーナー探しの両方を同時に進めるべきだろう。ちゃんとしたオーナーが見つかるなら、現在の株主もそれなりの値段で株式を引き取ってもらえる。日興コーディアル証券のように、上場廃止を強制されずに自主的に株式市場から立ち去ったと装うこともできるだろう。その買取り資金をオーナーが負担するか、結局会社の負債になるのかはスキーム次第だが、とにかくまずはオープンな感覚を持った経営陣が必要だ。自分の部門のことしか分からず、他の取締役のチェックができない経営者、経営者と一緒に不正をやる監査役、合理的な批判を真面目に受けない経営者では、いまの上場会社のガバナンスを担えない。実際に自分の専門外のことを理解したり、チェックしたりするのは難しいのだが、そこで企業ガバナンスの仕組みを構築し活用することが重要になる。監査役や内部監査は当然お飾りではない。わずか数名で会社の重要事項を決めて、それを秘密にして20年も漏らさないで過ごすのとは対極の組織運営をしなければならない。こういうことは、いうほど簡単ではないので、内部昇格者では難しいように思う。

 

さて、当然のことだが、監査人の責任も重大だ。監査人がどうすべきだったか、今後どうするかについて考え続けている。人のことを批判するのは簡単だが、自分のこととなると、なかなか難しい。僕はもう監査人ではないのだが。

2011年11月15日 (火曜日)

【オリンパスの粉飾】1990年代の損失の内幕

1990年代といえば、僕が監査スタッフという責任の軽い立場で気楽に経験を積めた時代だが、世の中は激震に見舞われていた。即ち昂揚感のあったバブル時代が収束し長い停滞の時代に入っていく。多くの企業が難しい舵取りを強いられたが、オリンパスはその時代に財務面で多くの間違った判断を行って、いまツケを払わされようとしている。何が起こったのだろうか。スタッフ時代の時代背景を思い出しながら、オリンパスの抱えた経営問題を想像してみた。

 

(時代背景とオリンパスの事業)

ホームページに掲載されている最も古い有報(2000/3期)から、これらの時代のオリンパスの状況を拾ってみた。

                                       
 

 

 
 

時代背景

 
 

オリンパスの事業

 
 

経営課題

 
 

1980年代

 
 

2度のオイルショックを乗り越えて、ジャパン・アズ・ナンバー1といわれた時代。自動車、家電、その他多くの工業製品が世界の工場日本から輸出されていた。ただ円高が進行し、生産拠点の海外展開が始まった時代でもある。

 
 

1936年に写真機、1952年に医療機器、1960年に測定機器の製造を開始。1964年にヨーロッパ、1968年にアメリカに販売子会社を設立。1969年には海外で資金調達開始。1970年代、1980年代は1960年代までに築いた基盤を拡張。1980年代に海外生産を開始。

 
 

基本的には良い時代だったと思う。

 

・海外生産

 

・半導体関連事業への進出

 

・為替管理(多額の差損が発生)

 

・エクイティで調達した余資運用(財テク)

 
 

1992/3期まで

 
 

198912月日経平均が最高値。1990年より下落が始まる。大蔵省金融引締め開始(総量規制)。損失補填問題発生。

 
 

1980年代までの事業拠点の新設から、この時代は各事業拠点の“強化”へシフト。

 
 

円高対応力、コスト削減が課題だったと思われる。

 
 

1996/3期まで

 
 

1ドル130円ぐらいだったものが、1995年一時79円台の超円高。そこから一転して100円台へ戻る。

 
 

リストラと思われる施策が行われている。

 
 

同上。

 
 

2001/3期まで

 
 

アジア通貨危機、国内金融危機。円は1998年一時140円台まで下がるが概ね100円~130円。

 
 

大きな事業拠点の変更はない。

 

内視鏡が大黒柱。

 

デジタル・カメラも好調に。

 
 

同上。

 

2000/3期に特定金外信託及びスワップ契約を整理し170億円の損失計上。

 

 

(1980年代)

僕が1985年に卒業旅行をしたときの円レートは250/$260/$だった。それが1990年には130/$とか120/$台まで上昇している。1980年代は円高不況もあったけれど、基本的には好景気に沸いていた時代、バブル時代だ。オリンパスも円高の影響を受けて生産の海外シフトを始めているが、基本的には製品は良く売れ、企業規模を拡大できた時代だっただろう。

 

1990/3期~1992/3期)

この時代はバブルが破裂し、株式相場が下落し、企業の財テクが破たんした時代だ。典型的なのは営業特金と呼ばれた証券口座で、損失補填が社会問題になった。

ウィキペディアを読むと、1990/3月期から1992/3期の間に大蔵省に要求されて、各証券会社が顧客企業との間で交わされていた営業特金契約の解消に動いていたことが分かる。

 =ウィキペディアの記事から分かること=

 1989年12月 大蔵省証券局は、通達により各証券会社に損失補填等を「厳に慎む」ことを求めた。しかし、同時にバブル崩壊が始まったこともあり、過去の契約については、各証券会社が顧客企業との契約を解消する過程でやむをえず損失補填が続けられた。

 1991年8月 日本証券業協会が国会に損失補填の手法などの説明資料を提出。

 1991年9月 日本証券業協会から、その後1991/3期までの損失補填の総額は787件、2100億円であることが公表される(但し、中小の証券会社については一部未集計の取引あり)。

 1991年 証券取引法が改正され、損失補填等の禁止が明文化される。

 

オリンパスの財テクも、多分、この営業特金の仕組みを使っていたと思う。すると営業特金契約の解消を迫られたはずだ。その結果営業特金というファンドをいったん解消し、ファンドを構成する個別銘柄で引き取ることになるので、会計上は個別銘柄ごとの評価をせざるえなくなる。すると強制評価損の計上が必要な銘柄が結構多く、それが多額となる会社が多かった。

会計基準としては、バスケット方式というものが認められていて、複数銘柄をあたかもファンドのようにまとめてしまい、ファンド全体で評価をする方法もあった。この方法では個別銘柄に著しく価値が下落しているものがあっても、他の銘柄の価値が上昇していれば通算されるので、個別銘柄ごとに評価する方法より、損失計上額が少なかった。オリンパスは2001/3期の決算で特定金外信託を整理しているので、営業特金解約直後にこの信託を設定していたかもしれない。その際にこのバスケット方式を採用していたかどうかは分からないが、採用していれば含み損が残りやすくなっていただろう。しかし、営業特金を解消した段階で、いったん個別銘柄として引き取り、改めてファンドを組みなおすはずなので、いったんは個別銘柄ごとに評価をしているはずだ。したがって、ちゃんとその手続きを踏んでいれば、その段階では含み損はそれほど多くはなかったと思う。

もしかしたら、その個別銘柄ごとの評価をやらずにそのまま新しいファンドに組み入れてしまったのだろうか。或いは、著しい価値の下落かどうかの判定は基本的には各企業の判断に委ねられていたので、甘い基準で判定したのだろうか。

 

いずれにしても、当時の監査人からは注意喚起なり、警告なりがあったはずだが、それはどのように行われて、経営者はどのように受け取ったのだろうか。監査人は監査意見を出すにあたって、最終的にどのように判断したのだろうか。

オリンパスの経営者にとって、そして監査人にとって、このときの判断が最も悔やまれるのではないだろうか。このときしっかりやっておけば、のちの経営者たちの頭を悩ませたり、ここまで損失が拡大することはなかったと思われる。ここに最も多くの教訓が隠れているように思う。第三者委員会によって解明されることを期待する。

 

僕はこのとき、会計基準の趣旨を会社がしっかり受け止めて、メーカーにとっての余資運用がどういうものであるべきかしっかり根本から見直す必要があったと思う。当時、それをしっかりやって財テクを反省した会社も多かったと思うが、オリンパスの経営者と監査人はそのようにできなかったのではないだろうか。

 

(~1996/3期)

為替予約は当たり前に行われていた為替リスクのヘッジ手法だったが、僕の記憶ではこのころは、為替予約契約のロールオーバーや通貨オプション取引など、正常なヘッジ行為と思えない取引や投機取引が行われていて問題となった。一部の企業では多額の損失が計上されていたと思う。

<為替予約契約のロールオーバー>
 
会社にとって不利なレートだと為替予約を実行しないで金利を払って予約の実行期限を延長した。しかし、延長しても会社に有利な方向へレートが動くとは限らないので、かえって損失を膨らませることにつながった。また、ロールオーバーし始めると、実需を伴わないオーバーヘッジ、リスクの高い投機的な取引になることが多かった。

<リスクの高い通貨オプション取引>
 
代表的なものにゼロ・コスト・オプションがあった。通貨オプションの買いと売りを組み合わせた複合金融商品だ。シンプルな通貨オプションだと銀行にオプション料を支払う(オプションを買う)だけだが、それに企業側が銀行に通貨オプションを売る(企業が銀行からオプション料を受取る)取引と複合させ、企業のオプション料の支払いをゼロにした商品だ。一見お得に思えるのだが、実は企業にとってリスクの高い商品設計となっており、企業が予想した方向と異なる方向に円レートが動いた場合は、多額の損失が発生した。1995年は80/$を下回るところまで円高となったが、その後急に円安に転じたため、1996/3期決算で多額の損失を計上する会社が散見された。実は僕がスタッフとして担当した会社もこの取引を行っていて、監査チームは会社にこの取引のリスクを説明した。会社はそのときは聞き入れなかったが、結局相場の方向を読み間違い、ひどい額の損失を計上した。当時、財務担当の副社長(日銀出身)が、失踪したという噂を聞いた。もちろん、その方は副社長を解任された。しかし、その会社は高い授業料をちゃんと払いきった。

 

オリンパスは輸出企業だったので、為替予約取引は馴染みがあったと思う。ロールオーバーは行っていなかっただろうか。また、金融機関からゼロ・コスト・オプションのようなデリバティブを勧められることもあったと思うが、この手の取引を行っていなかっただろうか。そして、経営者はこれらの取引のリスクを理解していただろうか。監査人はどうだろうか。リスクが実際に損失となった時に覚悟ができていないとそれを見ないふりをすることがある。問題の先送りだ。事前にシュミレーションをして損失を受容れる覚悟を決めておくことが重要だ。

 

また、1992/3期に損失計上せずに特定金外信託等にしていたものの含み損を解消するために、オプション取引などのデリバティブを使っていなかったか。特定金外信託等は、会社がどのような指図してそのファンドの中で何が行われているかが分かりにくい商品だ。加えて、デリバティブは、オフバランス取引とも呼ばれ、帳簿を見ても取引状況が分からない。取引状況が分からないので、そこに損失が隠れていると発見が難しい。そういうものを経営者がどのように管理していたのだろうか。監査人はどうしていただろうか。この当時は時価会計が導入されていないので、信託先の金融機関から時価情報が来ることもなかったと思うので、管理は非常に難しかっただろう。したがって、信託財産の価値がどうなっているかについて、ブラックボックスになっていたのではないだろうか。

 

 

以上は僕の経験したことを参考にして行った推測ばかりだ。実際の状況は、第三者委員会の調査結果を期待して待つしかない。僕はこの1990年代の経営者が実態の把握にどれぐらい熱心だったか、見たくないものを遠ざけるような姿勢がなかったか、臭いものに蓋をするような傾向がなかったか、というところを注目したい。そういう姿勢が問題を先送りさせるのだと思っている。それが部下や、後任の経営者に重荷を被せることになる。悪いことにこそ関心を持ち対処する、それが経営者の基本的な資質だと思う。これは監査人にも全く同じことが言える。

2011年11月14日 (月曜日)

【オリンパスの粉飾】1990年代の損失と事件の本質

11/10の朝に、「1990年代の財テク手仕舞い時の含み損は500億円未満ではないか」と書いてブログにアップした。しかし、報道では「1990年代の含み損は一千数百億円」とされている。両者は微妙に違うのだ。財テク手仕舞い時とは具体的に1992/3期までを指すが、報道の方は一千数百億の含み損を抱えたのが1990年代のどの時点か時期が分からない。また、今回問題となったM&A関係の損失で含み損は処理済となっているらしいことも、報道されている。

僕は少々危惧していることがある。どうも報道は法的な責任を問える最近の動きに関心を集中させているようだ。しかし、このような不祥事を2度と起こさないためには、きっかけや動機にさかのぼって事実が明らかにされなければならない。そしてニュースの端々に「損失は処理済なので罪は軽い」という考え方が見え隠れしているのも気になる。

 

僕はこのような流れの結果、次のような弊害が現われると思っている。

●きっかけや動機から明らかにしないと事件の本質が見えてこない。

事件の本質が見えてこないということは、責任の所在がはっきりしない。

事件の本質が見えてこないということは、防止策を的確に立案できない。

根拠のはっきりしない処罰が行われる。

 

もう少し具体的に書けば、僕は以下の人々に責任があると思う。

A. 財テクに多額の会社財産を振り向けた経営者(これは経営者の裁量のうちと思うが、ここから得られる教訓は少なくないと思うのでここに掲げる)

B. 営業特金解消時に適切に強制評価損を計上せず多額の含み損を持つことを選択した経営者(~1992/3期)

C. 多額の含み損解消のために不正な資産運用を繰返し損失を膨らませた経営者(1993/3期~2008/3期)

D. 時価会計(金融商品会計)を導入したとき適切に損失を出さなかった経営者(2000/3期~2001/3期)

E. 今回問題となったM&A関連取引を行った経営者(2006/3期~2008/3期)

F. BEの期間の監査人(1993/3期~2008/3期)

G. もし、含み損がまだ残っていれば、その後の経営者、監査人(2009/3期~)

 

これらの責任と、「過去の不良資産を引継いた者が状況改善に尽くした努力」は分けて考える必要がある。責任は責任として追及すべきだ。それを情状酌量の要素とごちゃ混ぜにしてはいけない。仮に現時点で損失がすべて綺麗になっていたとしても、1990年代から最近まで多額の粉飾がなされ続けて株価や信用が形成され、それらで意思決定してきた多くの関係者に対する罪は消えない。したがって、ACの責任はきっちり問われなければならない。D以降はA~Cがなければ起こらなかった問題だが、どうも報道はD以降のみをクローズアップしている気がしている。しかし逆なのだ。ACこそクローズアップされるべき。今回の事件では時効もあってACが法的に責任を問われない可能性が高いと思われるが、だからこそ、マスコミはそこを突っ込んで、関係者に社会的責任を問い、現役経営者や監査人に教訓を与えるべきだ。

第三者委員会も同様だ。これは僕の勝手な期待に過ぎないのかもしれないが、第三者委員会の役割は事実の解明を通じて再発防止に貢献することにあると思っている。したがって、法的責任を問えるかどうかで、調査の範囲を狭めて欲しくない。

事件の本質が見えぬまま再発防止策が立案されると、再発防止策もピントのぼやけたものになる。再発防止策は、オリンパスだけの問題ではない。他の上場企業や監査人にも必ず影響する。社会に与える影響が大きいのだ。ピントがぼけた状況では、例えば新しい監査手続がやたらにたくさん要求され、監査人にも、対応する企業にも負担が及ぶことになる。

 

僕は、第三者委員会からはっきり否定する情報が出るまで、財テク解消時の損失は500億円未満だったという仮定でこのブログを書き続けていくことにしたい。「1990年代の損失は一千数百億」というぼやけた事実のつかみ方では、ACの責任を明確にできない。第三者委員会やマスコミがそこにケリをつけて明確にしてくれると信じて、このまま話を勧めたい。

 

ところで、僕が「財テク手仕舞い時の含み損は500億円未満だった」とする根拠は状況証拠と勘であって、あまり強力なものではない。しかし、なぜ僕がそういうイメージを持つのか、その根拠を次回以降に記載したいと思う。

それから、「過去の不良資産や不正を引継ぐよう圧力を受けた後任者はどうすべきか」という重い問題も提起されている。監査人も同じ監査法人内の前任者が正さなかった問題を後任者がどう扱うか、監査人交代の時はどうするかという同じ問題を抱えている。

2011年11月10日 (木曜日)

【オリンパスの粉飾】事件の概要

最初に断わっておくが、僕はオリンパスやオリンパスの監査チームとは関係がない。したがって、特別な情報を知っているわけではない。ただこの問題が、監査の社会的信頼性を損なわせる可能性があるので危機感を持っている。そこで自分なりにこの問題の整理をしたい。

 

まず、今のところ僕が注目しているのは以下の点だ。

 損失の実態と責任の所在

 損失隠しに正義はあるか? 損失隠しが成功するとはどういうことか?

 監査(1990年代前半の財テク手仕舞い時、2000年当時の時価評価導入時、のれんや手数料の計上時)と監査人の引継ぎ

 

次に、報道されて僕が知ったこの事件の概要は以下の通りだ(オリンパスの財務数値は適当な桁で切り捨てている)。

 

A. 英国人のマイケル・ウッドフォード氏が社長在任中に問題提起し、その結果、社長を解任された。ウッドフォード氏の問題提起に正当な根拠があったと判明した現在も、オリンパスはウッドフォード氏の名誉や立場を回復していない。

B. オリンパスは1990年代の財テク失敗による損失を隠し続けていたが、それを処理するためにM&Aを利用して帳簿を動かした。これに関連して動いた金額は2800億円に上る(英ジャイラスに2100億円、国内3社に700億円)。2008/3期決算ではのれんが2007/3期の700億円から2900億円と2200億円も増加し、翌2009/3期には逆にのれんに減損損失550億円(国内3社分)が計上されるなど1200億円減少し、のれんの残高は1800億円となっている。ジャイラスや国内3社に関連する説明は特に開示されていない。
 
(この影響の大きさを理解するために次のデータを頭に入れておこう。オリンパスの連結総資産は2007/3期/2008/3期/2009/3期の順に1兆0900億円/1兆3500億円/1兆1000億で、2600億円も増加したと思ったら、すぐ2500億円減少した。これはのれんの増減と連動している。ただ、2009/3期はのれんのほか投資有価証券が700億円減少している。また、2008/3期/2009/3期の順で、純資産は3600億円/1600億円、連結売上高は1兆1000億円/9800億円、当期純利益は570億円/マイナス1100億円だ。)

C. 問題としてフォーカスされているのは、M&Aの仲介手数料(660億円)が高過ぎること、ジャイラスや国内3社の買収価格が高過ぎること。

D. 今のところ責任ありとされているのは、先日まで最高権力者だった菊川氏、副社長の森氏、常任監査役の山田氏だが、1990年代から取締役だったのは菊川氏のみで、代々引継がれてきた問題だという。但し、1984年から1993年まで社長を務めた下山氏は営業系の人で、この問題を知らないとしている。ちなみに1993年から2001年までの社長は財務畑の岸本氏で、そのあとは上記菊川氏、そしてウッドフォード氏と続く。

E. 1990年代に財テク失敗の含み損が一千数百億円あったがその後の運用で損失が減少した。そのため2000/3期に140億円の損失を計上したときは、残りの含み損失は500億円程度となっていて、それを「飛ばし」で社外に隠した。しかし、今回の取引で資金を捻出し外部のファンドに補填したのは一千数百億円にもなるため、損失は2000/3期時点から倍以上に膨らんでいた。

 

僕が監査法人に入社したのは1989年なので、1990年代前半の財テクブームの終焉を経験している。僕がスタッフとして監査していた会社も多額の損失補填を受けていて、当時、新聞に名前が載った。1997年には山一證券が経営破綻した。営業特金取引(下記参照)の名残だと思うが、顧客の損失を山一證券が負担し、それを「飛ばし」で隠して粉飾していたと記憶している。

それはともかくとして、この問題を理解するのに以下の知識が必要だ。

 

(有価証券等の評価方法の変遷-時価のある有価証券)

1990年代は取引所の相場のあるものは原価法や低価法だったので、通常は評価損益をP/Lに計上しなくてよかった。例外は低価法による評価損および著しく時価が下落したものについての損失計上(強制評価損)だ。

金融商品会計基準が導入された2001/3期からは、流動資産に計上されているものは時価評価され評価損益がP/Lに計上されるようになった。投資有価証券(固定資産)にあるものは、時価評価はするものの、資本直入といわれるP/Lを通さず直接資本の部に評価損益を計上する処理を始めた(初年度は任意適用)。著しく時価が下落したものについて評価損(強制評価損)が計上されるのは従前どおりだが、時価の下落が著しいか否かの判定に形式基準が導入され、通常時価が取得価額の50%になると評価損が計上されることとなった。

 

(有価証券等の評価方法の変遷-時価のない有価証券)

昔も今も実質価額(主な資産の時価を考慮した純資産)が著しく下落したものについて強制的に評価損を計上するが、2001/3期からは著しい下落か否かの判定に上述と同様に50%という形式基準が導入された。

 

(営業特金)
営業特金は、
企業の財テクに利用されていたファンドで損失補填が暗黙の前提とされていた。損失補填は一部の大企業しか受けられず一般投資家が不利となるなど投資の自己責任の自覚や公平性の面に問題があり、1990年代前半に大蔵省によって明確に禁止された。それによってこのファンドが解消されるので、企業はこのファンドの構成財産を個別銘柄にばらして引き取らなければならなかった。ファンドごとに取得原価で計上されていたものを個別銘柄にばらして評価しなおすと、時価が著しく下落した銘柄から多額の強制評価損が計上されることが多く、当時話題になった。

 

(1990年代の含み損について)

非常に長くなって恐縮だが、上記Dの報道については若干気になることがあるので記載する。実はオリンパス社のホームページに掲示されている有報を見たが、最も古いデータである1996/3期の連結売上と連結総資産、純資産は、それぞれ2500億、4800億、1800億で、1990年代前半の財テク手仕舞い時に含み損が一千数百億あったというのは、さすがに含み損の規模がでかすぎるように思う。含み損が一千数百億なら、その元本はもっと大きくなるが、簿外にその規模のファンドがあったとは考えづらい。真相は第三者委員会の調査を待つべきだが、この点についてはちょっと注意が必要だ。僕は、1990年代の財テクの損失は500億円未満じゃなかったかと思う。ということは、もしかしたら、1990年代の一千数百億の含み損の多くは、もっと別の原因で生じた損失を隠した可能性がある。それが何かは分からないが。例えばデリバティブとか、もしかしたら営業関係か。或いは、この一千数百億円という数字が間違っているか。

 

 

さて、次回以降、冒頭に掲げた①~③について、その時々に追加で報道された状況を加味しながら記載していきたい。ただ言い訳がましくて申し訳ないが、監査は完全、万能ではない。強制調査権がないから、不正に加担する外部協力者がいる場合はつらい。加えて経営者が自ら不正行っているとなると隠蔽工作や口裏合わせにも念が入っており、残念ながら監査がすべて成功するとは限らない。

2011年11月 9日 (水曜日)

TPPとIFRS

「国論を2分している」とも言われるTPP問題を11日に首相が判断するという(10日かも知れない)。きっと、このような状況で判断を行うプレッシャーはとてつもなく大きなものなのだろう。せっかくなら、どちらの判断が下されても日本は良い結果を得たいものだ。しかし、残念ながらそんな楽観はできないというのが僕の意見だ。みなさんも同じではないだろうか。

 

(環境の変化、日本の変化)

日本を取巻く環境が激変していて、それにどう対応しようかという話なのに、周りは変わっても日本だけは変わらなくていい、変わらなくても生活水準を維持する方法がある、そんな暗黙の前提で議論されている気がする。日本は、FTAに出遅れたうえにその原因である農業政策に行き詰って農業分野の改善は進んでいないにもかかわらず、自動車や家電といった日本の看板産業は厳しい状況に追い込まれている。そして中国にはGDPで追越され、尖閣諸島から五島列島周辺の排他的経済水域の安全を脅かされている。

 

(日本の戦略)

技術立国と経常収支の黒字。僕は、この2つが日本の戦略でありKPI(Key Performance Indicator)だと思っていた。しかし、日本の人口は減少に転じているのに世界の人口は爆発的に増加していて、これらが地球環境、天然資源や農産物の配分に及ぼす影響、天然資源や農業生産能力の偏在を考慮すると、日本の戦略とKPIをどうしていけばよいのか。そういう議論が必要ではないだろうか。

 

(コミュニケーションの重要性)

外交交渉を止めると残された国益実現の手段は戦争ということになる。TPPが直接戦争に結びつくとは思えないが、外交交渉というコミュニケーションの重要性は認めるべきだ。多国籍間の枠組みを一緒に構築しようと誘われたのにも拘らず、その検討プロセスに加わることさえも断った場合、のちのち日本にどのような影響があるのだろうか。

特にTPPがよく分からないからこの段階で参加すべきでないという意見は子供じみている。良く分からないのは日本の国内事情(政治家やマスコミの不作為)によるもので、外国に主張できる話ではない。そんな理由でコミュニケーションの窓口を閉ざしてよいものか。なぜ協議に参加して理解しようとしないのか。

 

(国益の基準)

TPPへ参加することが有利か、不利かといった議論をする場合、どうもTPPへ参加した場合と現状とを比較して議論しているようだ。例えばTPPに参加すると農業にひどい影響があるとされているが、TPPに参加しなくてもジリ貧ではないか。両方の5年後、10年後、20年後を比較すると、不幸なことに意外と不利でなかったりするかもしれない。

 

(アメリカの策略)

アメリカの策略に乗せられるな、アメリカに騙されるな、日本は損するぞ、こういう意見は、日本に戦略がないことの裏返しに思えて少し恥ずかしい。日本に戦略があって、ちゃんと将来を見据えて意思決定しているのであれば、乗ってもよいはずだし、乗ってもよいようにTPPを変えていけばよい。

 

 

さて、みなさんも様々な意見をお持ちだと思うが、僕の意見は上記のとおりTPP協議には参加すべきで、結果としてTPP協議から離脱することになっても、それが日本の戦略に基づいたものであるとすれば、まだ納得がいくだろうと思う。戦略はTPPに参加して時間を稼いでいるうちに国論をまとめていくしかない。農業や混合医療といった個別問題の議論に終始し、どちらの団体の声が大きいか、などというレベルで決まってほしくない。

 

さて、実はTPPのことを書いたのは専門外のことに関する僕の粗雑な意見をみなさんに披露したかったためではない。上記の文章の「TPP」を「IFRS」に置き換えて読んでみて欲しかったからだ。TPP協議へ参加するかどうかという問題と、IFRS開発へ参加するかという問題の議論の仕方は、役者こそ違うが、妙に重なってくる。

 

2011年11月 3日 (木曜日)

IFRSの資産~売上と売掛金

(P/L中心主義の日本基準とB/S中心主義のIFRS)

僕は売上計上基準という言葉を使うとまずはP/Lの基準、日本基準をイメージする。日本の収益認識は実現主義で行われ、要件は財・役務の提供と対価の受取りだ。一方IFRSはB/S中心主義であるため、売上の認識もB/S項目の売上債権の成立によって認識される。即ち日本基準でいうところの対価の受取りだ。基準だけの比較をすると両者には大した差はないように見えるがそうなのだろうか。

 

もっと細かく実務を見ていくと両者の性格の相違が見えてくる。

 

(発送基準)

より具体的には例えば発送基準では、製品・商品を発送したときに売上を計上するが、これだと対価の受取りがまだ行われていない。しかし、多くの場合返品等はあまりなく、ほとんどは得意先に到着すればほどなく受領されるため、多くの会社で利用されている。と言いたいところだが、実際は税法で規定された基準であるため、多くの会社に利用されている。返品が多い、出荷してから何か月もたたないと検収されない、そんな製品・商品さえも出荷基準で売上計上されるのをよく見ることがあった。

果たして発送基準は実現主義の会計処理と言えるのか。このように感じた人は多分すごく多いと思う。でも税法に規定されていて、昔から採用しているし楽だから、ということで採用され続けてきた。

しかし、IFRSがそこに揺さぶりをかけてきた。相手が支払いの意思を見せてない段階、即ち検収を受けてないのに売上を上げられるのかと。売掛金が成立してないじゃないかと。

 

(出荷基準を止めた会社)

ある会社ではハイテク機器の生産設備を製品として販売していた。製品は受注して生産を始めてから、得意先の技術者が工場を訪れ、技術的なポイントをチェックしたり、改善要求を受けたりした後出荷され、得意先の生産ラインに組込まれ、実際にラインで稼働させてから検収を受ける。しかし、会社は得意先の技術者のチェックが終わっていることを条件に出荷時に売上計上していた。

国内の得意先に納めているうちは、それでも出荷してから数か月程度で検収を受けていたが、輸出をするようになって売掛金が年単位で長期に滞留するようになった。海外得意先は、設備が生産ラインに組込まれてその得意先の製品がラインをどんどん流れて生産されているにもかかわらず、検収を上げないのだ。さらに検収を上げても全額支払わず、一部保留する。商慣行が国内とは違うのだ。

 

こんな状況でIFRSが導入されるかもしれないという話題が会社の耳に入った。監査法人からはいつも売上計上基準がおかしい、改善した方が良いといわれている。そういう目でもう一度会社の実態を振返ってみると、売上債権の入金は滞っている、営業は製品の出荷を急がせるが得意先の意思かどうか疑わしい、出荷してから検収までの期間が長期化している、技術者の渡航費用が増加している等々・・・。そして、その会社は売上計上基準を出荷基準から検収基準へ変更した。

 

(金を生むか・・・B/S中心主義の視点)

既に起こっている話だから、IFRSを導入するために売上計上基準を変更したわけではない。しかし、IFRSが一つの視点を与えてくれて、自分の会社を新しい目で見てみると、今まで普通だと思っていたことが普通じゃない、改善すべきだと見えてくる。そういうことが大事だと思う。そしてそのIFRSが与えた視点というのは「お金を生むものが資産」ではないかと僕は思っている。出荷しただけで計上された売掛金は、お金を生む状態になっておらず、それが会社に良い影響を与えていなかったということに気が付いたのだと思う。

 

雑誌などで「出荷の翌日に売上を計上すればよい」みたいな話が書いてあったりするが、決してIFRSを形式的にとらえてはいけない。出荷だけで売上を計上することが、得意先に対する関心を薄めてしまったり、得意先からサービスが良くないと思われたり、得意先から管理がルーズで扱いやすいと思われたりする原因につながっていないかよく見直してみることが大事だ。検収書があればいいのか、そうではない、得意先が製品やサービスに満足することが重要だ。満足したからもらえる検収書でなければ会社にとって意味がない。そういう実態を備えた「金になる売掛金」が成立していなければ、IFRSで売上を計上することはできない。(日本基準でも本来はそうあるべきなのだが。)

 

ところで、この「お金になる売掛金」ではない売掛金がIFRSでも認められるケースがある。それは進行基準による売掛金だ。ただ、ご存じの方が多いと思うが、IASBは進行基準について売上計上を制限する方向で見直しを行っている最中だ。

2011年11月 2日 (水曜日)

IFRSの資産~B/S中心主義とP/L中心主義

2013/10/25 ※1については、2013年のディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」のセクション6で、IASBは「資産及び負債についての単一の測定基礎は、財務諸表利用者にとって最も目的適合性の高い情報を提供しない場合がある。」としたうえで、“複数の測定方法の選択”について論じており、「いずれすべて公正価値評価になるかもしれない」という危惧は、杞憂であることが確認された。
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2011/11/2

「資産とはお金になるもの」と定義すると、「資産は換金価値(公正価値)で評価する」と考えるのがしっくりくる。すべての資産がそうなっていればシンプルなのだが、実は固定資産の一部についてはそうなっていない。固定資産の一部とはどういうもので、なぜそうなっていないのだろうか。

 この部分を、「そうなっていないといっても形だけの話で実質は換金価値と言っているのと同じだ」と考えている人々、或いは「今はそうなってなくても将来はそうしようとしている」と予想している人々が、IFRSの導入に反対し、製造業に合わないと主張している。ここは重要なところだ。

 実は僕もIASBの意図は測りきれていない。なぜなら、資産・負債アプローチ(資産と負債の差額で純資産を計算し、その期首と期末の増減額を期間損益とする考え方)と、すべての資産・負債項目を公正価値で評価するという考え方は非常に相性が良いからだ。資産・負債アプローチをよしとする限り、いずれはすべてのB/S項目を公正価値、換金価値で評価させるのではないだろうか、と思ってしまう。(但し、IASBはその意図を否定しているらしい。)※1

 (減価償却)

この問題を考えるときに最も重要なキーは「減価償却」であり、「償却後簿価」で評価されている、いわゆる「償却資産」だ。償却資産は減価償却の対象となる資産のことだが、その簿価は減価償却控除後の取得価額を付される。公正価値ではない。もっと平易に書くと、とりあえず買った値段で帳簿に記帳し、その後資産を使用すると決算が来るたびに機械的に評価を下げていき、使用期間が終わった時には処分価値まで下げる。この機械的に評価を下げる方法を減価償却と呼ぶが、減価償却は資産を「評価」する方法ではなく、この決算期にいくら費用配分するかを決める方法であり、結果的に償却後簿価が計算されるに過ぎない。例えば資産を5年間使い、処分価値は0と仮定すると、買った値段を1/5ずつその決算期に費用配分していく。すると結果的に1年後は買った値段の80%で評価され、2年後は買った値段の60%で評価される。このプロセスに公正価値とか、換金価値は全く関係がない。このように買った値段をもとに資産計上額や費用計上額を計算する考え方を取得原価主義という。

 (資産・負債アプローチ)

このように取得原価主義をベースに計算される償却後簿価と、時価主義ベースの公正価値を、単純に足し算、引き算してよいのだろうか。資産・負債アプローチでは、このように評価基準が混在した資産・負債を足したり引いたりして純資産を計算し、損益計算を行う。しかし、僕には両者がドルと円ほどの差があるように思える。公正価値をドルとすれば償却後簿価は円。普通ならドルを円換算しないと足し算、引き算はできない。純資産は企業価値を表わす、とたまに言われることがあるが、単位の違うものを足し算・引き算しても、正確な企業価値は計算できないのではないだろうか。

 (日本基準:P/L中心主義)

この点は日本基準も同じであり、日本基準でも純資産が企業価値を表わしているかどうか疑問だ。しかし、ちょっと違うところは日本基準はB/Sで損益計算をしないところだ。日本基準では収益から費用を控除して損益計算をする。償却資産とそれ以外の資産の評価基準が異なっていても、収益と費用が同じベースの単位であれば足し算・引き算するのに問題はないから、利益も正確に計算できる。したがって、日本基準の場合は、収益と費用が同じベースの数値になっているか否かが重要で、それは(実現主義とか)発生主義という発想・ルールで同一ベースに揃えられていると考えられている。例えば減価償却は発生主義会計の費用配分の方法なので、実現主義(発生主義)で計上された売上から控除して利益を計算することは正しいと考えられている。

 (IFRS:B/S中心主義)

ところでIFRSも発生主義だ。なんだ、じゃあ日本基準と同じじゃないか、というとそうでもない。日本基準は売上や売上原価などP/L項目を中心に発生主義を適用しているが、IFRSは金融商品などB/S項目に発生主義を適用している。これがあるときは微妙に、あるときは大きく決算数値に影響する。

 

さて、色々書いたが、このシリーズは「資産」をテーマにしているのでちょっと話題を広げ過ぎた感がある。しかし、これらが日本基準とIFRSの相違やIFRSの「資産」を理解するうえでも大事な切り口となってくる。今後は、これらの切り口から特定の「資産」を具体的にみていこう。

2011年11月 1日 (火曜日)

IFRSの資産~会計上の「資産」とは

2011/11/1

しばらく、IFRS導入論議について記載してきたが、これをこのまま続ける前に、もう少しIFRSの基本を勉強したいと思う。それは資産についてだ。みなさんはすでに資産と負債の差額で純資産を計算し、その期首と期末の増減差額で期間損益計算するというIFRSの資産・負債アプローチをご存じのことと思う。すると資産と負債のことが分かれば損益計算も分かってしまうことになる。さらに負債は資産のちょうど反対のイメージだから、資産が分かれば損益計算まで分かってしまうことになる。だから資産について勉強してみよう。

 

IFRSに書いてある資産の定義は以下の通りで、ちょっと取っ付き難いと思う。

「資産とは,過去の事象の結果として企業が支配し,かつ,将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。」

前半と後半に分かれていて、前半はその企業が資産を所有・支配・使用することのその時点での正当性を表現し、後半はその資産が経済的便益、即ちお金によって裏付けられていることを表現していると僕は思っている。よって簡単に書くと、「金を生むもの」を資産と言っている。

 

また「期待」という言葉も会計用語と思った方が良い。「思い」や「気持ち」、ましてや「夢」だけでは資産にならない。もっと具体的に「金」に結びついていないと「期待される」とは言わない。「金」になる可能性が低いもの、定かでないものは資産ではない。この辺りが一般的な「資産」という言葉と「財務情報としての資産」の相違する部分で、難しいところだ。

 

例えば、よく、「人は財産」と言われる。しかし会計上はそれがスティーブ・ジョブズ氏であっても「人」を資産計上することはない。「人が行動することで価値が生まれる」ので根源たる「人」自体に価値認識してもよいと思われる方もいらっしゃるかもしれないが、人身売買をするのでもなければ会計上は「人」を資産計上することはない。

 

人は、うまく行動すればお金を稼ぐがいつもうまく行動するとは限らないし、うまく行動するといってもその行動の具体的な内容やタイミングで、稼げる金額や稼げる可能性は相当異なってくる。だが、人の行動内容やタイミングが特定され、それでお金が入ってくることが確実な場合は、資産価値を認識する。例えばどれぐらい特定されることが必要かというと、売掛金や貸付金は、相手が支払いという行動をすることが契約されているので約束された支払額をとりあえず資産計上する。或いは、「発注」という行動だけでは資産計上しないが、それが納品されて具体的な「もの」になった場合は、その「もの」を(その換金価値を上限として)棚卸資産として資産計上する、といった具合だ。

 

この辺りまでは日本基準も同じなので、会計をちょっとでも知っている人はあまり違和感を感じないだろう。でも「じゃあ、固定資産はどうなるのか。これも換金価値なのか。減価償却や(償却後)簿価とはなんなのか」と思われた方は鋭い。この辺りから難しくなってきて、日本基準とIFRSとのズレも出てくるところだが、次回以降に譲る。

 

とりあえず今回は「資産とはお金になるもの」と頭に入れていただき、お金にならないのに帳簿に載っている資産、或いは帳簿上の評価額ほどの価値がない資産は不良資産、ということを改めてご確認いただきたい。不良資産は減損される。

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