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2011年11月10日 (木曜日)

【オリンパスの粉飾】事件の概要

最初に断わっておくが、僕はオリンパスやオリンパスの監査チームとは関係がない。したがって、特別な情報を知っているわけではない。ただこの問題が、監査の社会的信頼性を損なわせる可能性があるので危機感を持っている。そこで自分なりにこの問題の整理をしたい。

 

まず、今のところ僕が注目しているのは以下の点だ。

 損失の実態と責任の所在

 損失隠しに正義はあるか? 損失隠しが成功するとはどういうことか?

 監査(1990年代前半の財テク手仕舞い時、2000年当時の時価評価導入時、のれんや手数料の計上時)と監査人の引継ぎ

 

次に、報道されて僕が知ったこの事件の概要は以下の通りだ(オリンパスの財務数値は適当な桁で切り捨てている)。

 

A. 英国人のマイケル・ウッドフォード氏が社長在任中に問題提起し、その結果、社長を解任された。ウッドフォード氏の問題提起に正当な根拠があったと判明した現在も、オリンパスはウッドフォード氏の名誉や立場を回復していない。

B. オリンパスは1990年代の財テク失敗による損失を隠し続けていたが、それを処理するためにM&Aを利用して帳簿を動かした。これに関連して動いた金額は2800億円に上る(英ジャイラスに2100億円、国内3社に700億円)。2008/3期決算ではのれんが2007/3期の700億円から2900億円と2200億円も増加し、翌2009/3期には逆にのれんに減損損失550億円(国内3社分)が計上されるなど1200億円減少し、のれんの残高は1800億円となっている。ジャイラスや国内3社に関連する説明は特に開示されていない。
 
(この影響の大きさを理解するために次のデータを頭に入れておこう。オリンパスの連結総資産は2007/3期/2008/3期/2009/3期の順に1兆0900億円/1兆3500億円/1兆1000億で、2600億円も増加したと思ったら、すぐ2500億円減少した。これはのれんの増減と連動している。ただ、2009/3期はのれんのほか投資有価証券が700億円減少している。また、2008/3期/2009/3期の順で、純資産は3600億円/1600億円、連結売上高は1兆1000億円/9800億円、当期純利益は570億円/マイナス1100億円だ。)

C. 問題としてフォーカスされているのは、M&Aの仲介手数料(660億円)が高過ぎること、ジャイラスや国内3社の買収価格が高過ぎること。

D. 今のところ責任ありとされているのは、先日まで最高権力者だった菊川氏、副社長の森氏、常任監査役の山田氏だが、1990年代から取締役だったのは菊川氏のみで、代々引継がれてきた問題だという。但し、1984年から1993年まで社長を務めた下山氏は営業系の人で、この問題を知らないとしている。ちなみに1993年から2001年までの社長は財務畑の岸本氏で、そのあとは上記菊川氏、そしてウッドフォード氏と続く。

E. 1990年代に財テク失敗の含み損が一千数百億円あったがその後の運用で損失が減少した。そのため2000/3期に140億円の損失を計上したときは、残りの含み損失は500億円程度となっていて、それを「飛ばし」で社外に隠した。しかし、今回の取引で資金を捻出し外部のファンドに補填したのは一千数百億円にもなるため、損失は2000/3期時点から倍以上に膨らんでいた。

 

僕が監査法人に入社したのは1989年なので、1990年代前半の財テクブームの終焉を経験している。僕がスタッフとして監査していた会社も多額の損失補填を受けていて、当時、新聞に名前が載った。1997年には山一證券が経営破綻した。営業特金取引(下記参照)の名残だと思うが、顧客の損失を山一證券が負担し、それを「飛ばし」で隠して粉飾していたと記憶している。

それはともかくとして、この問題を理解するのに以下の知識が必要だ。

 

(有価証券等の評価方法の変遷-時価のある有価証券)

1990年代は取引所の相場のあるものは原価法や低価法だったので、通常は評価損益をP/Lに計上しなくてよかった。例外は低価法による評価損および著しく時価が下落したものについての損失計上(強制評価損)だ。

金融商品会計基準が導入された2001/3期からは、流動資産に計上されているものは時価評価され評価損益がP/Lに計上されるようになった。投資有価証券(固定資産)にあるものは、時価評価はするものの、資本直入といわれるP/Lを通さず直接資本の部に評価損益を計上する処理を始めた(初年度は任意適用)。著しく時価が下落したものについて評価損(強制評価損)が計上されるのは従前どおりだが、時価の下落が著しいか否かの判定に形式基準が導入され、通常時価が取得価額の50%になると評価損が計上されることとなった。

 

(有価証券等の評価方法の変遷-時価のない有価証券)

昔も今も実質価額(主な資産の時価を考慮した純資産)が著しく下落したものについて強制的に評価損を計上するが、2001/3期からは著しい下落か否かの判定に上述と同様に50%という形式基準が導入された。

 

(営業特金)
営業特金は、
企業の財テクに利用されていたファンドで損失補填が暗黙の前提とされていた。損失補填は一部の大企業しか受けられず一般投資家が不利となるなど投資の自己責任の自覚や公平性の面に問題があり、1990年代前半に大蔵省によって明確に禁止された。それによってこのファンドが解消されるので、企業はこのファンドの構成財産を個別銘柄にばらして引き取らなければならなかった。ファンドごとに取得原価で計上されていたものを個別銘柄にばらして評価しなおすと、時価が著しく下落した銘柄から多額の強制評価損が計上されることが多く、当時話題になった。

 

(1990年代の含み損について)

非常に長くなって恐縮だが、上記Dの報道については若干気になることがあるので記載する。実はオリンパス社のホームページに掲示されている有報を見たが、最も古いデータである1996/3期の連結売上と連結総資産、純資産は、それぞれ2500億、4800億、1800億で、1990年代前半の財テク手仕舞い時に含み損が一千数百億あったというのは、さすがに含み損の規模がでかすぎるように思う。含み損が一千数百億なら、その元本はもっと大きくなるが、簿外にその規模のファンドがあったとは考えづらい。真相は第三者委員会の調査を待つべきだが、この点についてはちょっと注意が必要だ。僕は、1990年代の財テクの損失は500億円未満じゃなかったかと思う。ということは、もしかしたら、1990年代の一千数百億の含み損の多くは、もっと別の原因で生じた損失を隠した可能性がある。それが何かは分からないが。例えばデリバティブとか、もしかしたら営業関係か。或いは、この一千数百億円という数字が間違っているか。

 

 

さて、次回以降、冒頭に掲げた①~③について、その時々に追加で報道された状況を加味しながら記載していきたい。ただ言い訳がましくて申し訳ないが、監査は完全、万能ではない。強制調査権がないから、不正に加担する外部協力者がいる場合はつらい。加えて経営者が自ら不正行っているとなると隠蔽工作や口裏合わせにも念が入っており、残念ながら監査がすべて成功するとは限らない。

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