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2011年11月18日 (金曜日)

【オリンパスの粉飾】上場は維持されるか

報道によるとオリンパスの株価は10/14から3日連続のストップ高だったそうだ。第2四半期報告書の提出や過年度の有報の訂正が東証の定める期限に間に合いそうで、債務超過にならない可能性が高いだとか、主力の内視鏡の事業価値を見込むとか、銀行団に含み損はすべて処理したと説明したとか、そして「証券取引等監視委員会がオリンパスに対して課徴金などの行政処分にとどめる方向で、上場維持となる公算が出てきた」との一部報道が、上場回避観測の根拠になっているらしい。17日は筆頭株主日本生命の売りが明らかになって乱高下。

しかし、こんな悪質な、世紀の大不祥事でも上場が維持されるのだろうか?

 

報道が正しいとすると、他にオリンパスに該当しそうな上場廃止基準は以下のところだろう。aには間違いなく該当する。bは第三者委員会の調査の状況にもよるが、可能性はあるが低いと思う。

a. 有価証券報告書等に「虚偽記載」を行った場合で、その影響が重大であると当取引所が認めたとき

b. 監査報告書等において「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨等が記載され、その影響が重大であると当取引所が認めたとき

 

aについての過去事例は、2005年のカネボウ(虚偽記載および監査意見不表明)、2006年のライブドアがある。みなさんは2007年の日興コーディアル証券の事件を覚えてらっしゃるだろうか。日興コーディアル証券の場合は影響が重要でないと判断され上場廃止を免れたが、それはシティ・グループに買収されることが前提だったからだと思う。

bについては、不適正意見はまず出ないと思うが、意見を表明しない、即ち意見不表明は僅かに可能性がある。そして東証は不適正意見の場合は直ちには上場廃止にしないが、意見不表明だとすぐに上場廃止の決断をする。(この東証の考え方については、我々監査人としては不服だが・・・それはいずれの機会にまた。)

 

「影響が重大か」の判断をいかに行うかについて東証は特に説明していないので、上記の事例から推測するしかない。ただ、僕は個人的には重大だと思う。

 

東証目線でなく、監査人目線になってしまい申し訳ないが、僕にはオリンパスの経営陣は、現経営陣を含めてしっかり反省ができているか疑問だ。まずは反省から始めて欲しいが、それには時間がかかる。

 M&Aの件で、損失処理が終わったというが、僕は疑わしいと思っている。
 
当初M&Aの件は、支出額を損失に計上したのではなくのれんに資産計上している。即ち、含み損のままで損失処理したわけではない。のちにのれんを減損したのでその分は結果として含み損が資産から減額され、損失計上することとなったが、過去の反省を形にしたものではない。単に運用に失敗し、不正運用のファンドが減ってしまったので資金を補給したに過ぎない。資金が足りなかった分と含み損の金額は、一致するとは限らないのだ。即ち、含み損をすべて消そうという意思の下に一連のM&Aの取引を仕組んだとは思えない、会社は過去を反省してけじめをつけようとしたわけでない。もしかして、IFRSになればのれんは償却もしなくてよいなどと考えていなかっただろうか。20年もの長きにわたり粉飾を続けてきた事実は、そういう非常識なことさえ連想させる。

 

 前任監査人の最後の監査対象決算期に監査証明業務に基づく監査報酬が407百万円となっていて、突出して高い。
監査報酬は、この前年度が187百万円、後任監査人の初年度が225百万円なので、この年度だけ著しく高額だ。多分、その年度だけ特殊要因があって監査人の手間がかかったのだろう。ちょうど内部統制報告諸制度の初年度と重なっていて、そのために高額となっている分もあるだろうが、倍以上というのは考えにくい。その期に多額ののれんを減損しているのだが、恐らくそれに関して監査人の手間がかかったため監査人に追加の報酬を請求されたのではないだろうか。会社が素直に自らの過ちを認めていれば不要なコストだったはずだ。会社には悪意があったのに、まだそれを本当に悪いと思っていない。やむを得なかったなどと思っていると思う。まだそこまで反省が及んでいないのではないだろうか。

 

 元社長ウッドフォード氏に対する謝罪なり名誉回復なりをしたという話が伝わってこない。
 
社長に復帰してほしいといったところでウッドフォード氏が受けるかどうかわからないし、ウッドフォード氏が社長になると、オリンパスが外国資本に身売りする可能性が高まるなどいろいろ考えられるが、合理的な理由のある疑問を解任によって封じ込める(他の取締役も異議を唱えない)という現在の経営上層部の体質は、例の3名の個性の問題だけでは済まないと思う。そういう体質は容易に変われるものではない。ウッドフォード氏のインタビュー記事を読むと社内にもはびこっている気風のように思うので、外部の人材を活用するのが良いだろう。総入れ替えが必要かもしれない。いずれにしても、いったん上場廃止し、もう一度上場審査を受け直して再上場するのが良い。

 

 前回書いたように過去の動機に遡った原因追究と反省が必要だ。
 
これは第三者委員会に会社がどれだけ協力できるかにかかっていて、まだ結果が見えない。また、過去の経営者に遡って、責任追及すべきだ。法律上は時効になってできないとしても何らかのけじめが必要だと思う。

 

反省しなければまた繰り返す。「こんなもので済むのか、じゃあ、またやっちゃえ」ってことになりかねない。ほかの企業へ及ぼす影響も恐ろしい。中国の会計不正が問題なったばかりのアメリカでも関心が高いようだ。その流れで日本企業全体に嫌疑がかけられたら大変なことになる。

 

もし、現経営陣が会社の将来と日本の資本市場を本当に心配するのなら、いまは第三者委員会調査への協力と、次のオーナー探しの両方を同時に進めるべきだろう。ちゃんとしたオーナーが見つかるなら、現在の株主もそれなりの値段で株式を引き取ってもらえる。日興コーディアル証券のように、上場廃止を強制されずに自主的に株式市場から立ち去ったと装うこともできるだろう。その買取り資金をオーナーが負担するか、結局会社の負債になるのかはスキーム次第だが、とにかくまずはオープンな感覚を持った経営陣が必要だ。自分の部門のことしか分からず、他の取締役のチェックができない経営者、経営者と一緒に不正をやる監査役、合理的な批判を真面目に受けない経営者では、いまの上場会社のガバナンスを担えない。実際に自分の専門外のことを理解したり、チェックしたりするのは難しいのだが、そこで企業ガバナンスの仕組みを構築し活用することが重要になる。監査役や内部監査は当然お飾りではない。わずか数名で会社の重要事項を決めて、それを秘密にして20年も漏らさないで過ごすのとは対極の組織運営をしなければならない。こういうことは、いうほど簡単ではないので、内部昇格者では難しいように思う。

 

さて、当然のことだが、監査人の責任も重大だ。監査人がどうすべきだったか、今後どうするかについて考え続けている。人のことを批判するのは簡単だが、自分のこととなると、なかなか難しい。僕はもう監査人ではないのだが。

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コメント

オリンパスの件で教えていただきたいことがあります。
puta2nd@nifty.com にメールすれば、貴方にとどきますか
私のアドレスに、何か送信していただけますか。
期待ギャップのことで、疑問があります。

ぼんさん、コメントをありがとうございます。

「期待ギャップ」とは難しい話になりそうですね。私の個人的な意見でよければご質問ください。メールいたします。

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