【オリンパスの粉飾】1990年代の損失と事件の本質
11/10の朝に、「1990年代の財テク手仕舞い時の含み損は500億円未満ではないか」と書いてブログにアップした。しかし、報道では「1990年代の含み損は一千数百億円」とされている。両者は微妙に違うのだ。財テク手仕舞い時とは具体的に1992/3期までを指すが、報道の方は一千数百億の含み損を抱えたのが1990年代のどの時点か時期が分からない。また、今回問題となったM&A関係の損失で含み損は処理済となっているらしいことも、報道されている。
僕は少々危惧していることがある。どうも報道は法的な責任を問える最近の動きに関心を集中させているようだ。しかし、このような不祥事を2度と起こさないためには、きっかけや動機にさかのぼって事実が明らかにされなければならない。そしてニュースの端々に「損失は処理済なので罪は軽い」という考え方が見え隠れしているのも気になる。
僕はこのような流れの結果、次のような弊害が現われると思っている。
●きっかけや動機から明らかにしないと事件の本質が見えてこない。
●事件の本質が見えてこないということは、責任の所在がはっきりしない。
●事件の本質が見えてこないということは、防止策を的確に立案できない。
●根拠のはっきりしない処罰が行われる。
もう少し具体的に書けば、僕は以下の人々に責任があると思う。
A. 財テクに多額の会社財産を振り向けた経営者(これは経営者の裁量のうちと思うが、ここから得られる教訓は少なくないと思うのでここに掲げる)
B. 営業特金解消時に適切に強制評価損を計上せず多額の含み損を持つことを選択した経営者(~1992/3期)
C. 多額の含み損解消のために不正な資産運用を繰返し損失を膨らませた経営者(1993/3期~2008/3期)
D. 時価会計(金融商品会計)を導入したとき適切に損失を出さなかった経営者(2000/3期~2001/3期)
E. 今回問題となったM&A関連取引を行った経営者(2006/3期~2008/3期)
F. B~Eの期間の監査人(1993/3期~2008/3期)
G. もし、含み損がまだ残っていれば、その後の経営者、監査人(2009/3期~)
これらの責任と、「過去の不良資産を引継いた者が状況改善に尽くした努力」は分けて考える必要がある。責任は責任として追及すべきだ。それを情状酌量の要素とごちゃ混ぜにしてはいけない。仮に現時点で損失がすべて綺麗になっていたとしても、1990年代から最近まで多額の粉飾がなされ続けて株価や信用が形成され、それらで意思決定してきた多くの関係者に対する罪は消えない。したがって、A~Cの責任はきっちり問われなければならない。D以降はA~Cがなければ起こらなかった問題だが、どうも報道はD以降のみをクローズアップしている気がしている。しかし逆なのだ。A~Cこそクローズアップされるべき。今回の事件では時効もあってA~Cが法的に責任を問われない可能性が高いと思われるが、だからこそ、マスコミはそこを突っ込んで、関係者に社会的責任を問い、現役経営者や監査人に教訓を与えるべきだ。
第三者委員会も同様だ。これは僕の勝手な期待に過ぎないのかもしれないが、第三者委員会の役割は事実の解明を通じて再発防止に貢献することにあると思っている。したがって、法的責任を問えるかどうかで、調査の範囲を狭めて欲しくない。
事件の本質が見えぬまま再発防止策が立案されると、再発防止策もピントのぼやけたものになる。再発防止策は、オリンパスだけの問題ではない。他の上場企業や監査人にも必ず影響する。社会に与える影響が大きいのだ。ピントがぼけた状況では、例えば新しい監査手続がやたらにたくさん要求され、監査人にも、対応する企業にも負担が及ぶことになる。
僕は、第三者委員会からはっきり否定する情報が出るまで、財テク解消時の損失は500億円未満だったという仮定でこのブログを書き続けていくことにしたい。「1990年代の損失は一千数百億」というぼやけた事実のつかみ方では、A~Cの責任を明確にできない。第三者委員会やマスコミがそこにケリをつけて明確にしてくれると信じて、このまま話を勧めたい。
ところで、僕が「財テク手仕舞い時の含み損は500億円未満だった」とする根拠は状況証拠と勘であって、あまり強力なものではない。しかし、なぜ僕がそういうイメージを持つのか、その根拠を次回以降に記載したいと思う。
それから、「過去の不良資産や不正を引継ぐよう圧力を受けた後任者はどうすべきか」という重い問題も提起されている。監査人も同じ監査法人内の前任者が正さなかった問題を後任者がどう扱うか、監査人交代の時はどうするかという同じ問題を抱えている。
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