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2011年11月 2日 (水曜日)

IFRSの資産~B/S中心主義とP/L中心主義

2013/10/25 ※1については、2013年のディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フレームワークの見直し」のセクション6で、IASBは「資産及び負債についての単一の測定基礎は、財務諸表利用者にとって最も目的適合性の高い情報を提供しない場合がある。」としたうえで、“複数の測定方法の選択”について論じており、「いずれすべて公正価値評価になるかもしれない」という危惧は、杞憂であることが確認された。
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2011/11/2

「資産とはお金になるもの」と定義すると、「資産は換金価値(公正価値)で評価する」と考えるのがしっくりくる。すべての資産がそうなっていればシンプルなのだが、実は固定資産の一部についてはそうなっていない。固定資産の一部とはどういうもので、なぜそうなっていないのだろうか。

 この部分を、「そうなっていないといっても形だけの話で実質は換金価値と言っているのと同じだ」と考えている人々、或いは「今はそうなってなくても将来はそうしようとしている」と予想している人々が、IFRSの導入に反対し、製造業に合わないと主張している。ここは重要なところだ。

 実は僕もIASBの意図は測りきれていない。なぜなら、資産・負債アプローチ(資産と負債の差額で純資産を計算し、その期首と期末の増減額を期間損益とする考え方)と、すべての資産・負債項目を公正価値で評価するという考え方は非常に相性が良いからだ。資産・負債アプローチをよしとする限り、いずれはすべてのB/S項目を公正価値、換金価値で評価させるのではないだろうか、と思ってしまう。(但し、IASBはその意図を否定しているらしい。)※1

 (減価償却)

この問題を考えるときに最も重要なキーは「減価償却」であり、「償却後簿価」で評価されている、いわゆる「償却資産」だ。償却資産は減価償却の対象となる資産のことだが、その簿価は減価償却控除後の取得価額を付される。公正価値ではない。もっと平易に書くと、とりあえず買った値段で帳簿に記帳し、その後資産を使用すると決算が来るたびに機械的に評価を下げていき、使用期間が終わった時には処分価値まで下げる。この機械的に評価を下げる方法を減価償却と呼ぶが、減価償却は資産を「評価」する方法ではなく、この決算期にいくら費用配分するかを決める方法であり、結果的に償却後簿価が計算されるに過ぎない。例えば資産を5年間使い、処分価値は0と仮定すると、買った値段を1/5ずつその決算期に費用配分していく。すると結果的に1年後は買った値段の80%で評価され、2年後は買った値段の60%で評価される。このプロセスに公正価値とか、換金価値は全く関係がない。このように買った値段をもとに資産計上額や費用計上額を計算する考え方を取得原価主義という。

 (資産・負債アプローチ)

このように取得原価主義をベースに計算される償却後簿価と、時価主義ベースの公正価値を、単純に足し算、引き算してよいのだろうか。資産・負債アプローチでは、このように評価基準が混在した資産・負債を足したり引いたりして純資産を計算し、損益計算を行う。しかし、僕には両者がドルと円ほどの差があるように思える。公正価値をドルとすれば償却後簿価は円。普通ならドルを円換算しないと足し算、引き算はできない。純資産は企業価値を表わす、とたまに言われることがあるが、単位の違うものを足し算・引き算しても、正確な企業価値は計算できないのではないだろうか。

 (日本基準:P/L中心主義)

この点は日本基準も同じであり、日本基準でも純資産が企業価値を表わしているかどうか疑問だ。しかし、ちょっと違うところは日本基準はB/Sで損益計算をしないところだ。日本基準では収益から費用を控除して損益計算をする。償却資産とそれ以外の資産の評価基準が異なっていても、収益と費用が同じベースの単位であれば足し算・引き算するのに問題はないから、利益も正確に計算できる。したがって、日本基準の場合は、収益と費用が同じベースの数値になっているか否かが重要で、それは(実現主義とか)発生主義という発想・ルールで同一ベースに揃えられていると考えられている。例えば減価償却は発生主義会計の費用配分の方法なので、実現主義(発生主義)で計上された売上から控除して利益を計算することは正しいと考えられている。

 (IFRS:B/S中心主義)

ところでIFRSも発生主義だ。なんだ、じゃあ日本基準と同じじゃないか、というとそうでもない。日本基準は売上や売上原価などP/L項目を中心に発生主義を適用しているが、IFRSは金融商品などB/S項目に発生主義を適用している。これがあるときは微妙に、あるときは大きく決算数値に影響する。

 

さて、色々書いたが、このシリーズは「資産」をテーマにしているのでちょっと話題を広げ過ぎた感がある。しかし、これらが日本基準とIFRSの相違やIFRSの「資産」を理解するうえでも大事な切り口となってくる。今後は、これらの切り口から特定の「資産」を具体的にみていこう。

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