IFRSの資産(まとめ)~将来キャッシュフローの見積もりの種類
将来キャッシュフローの見積もりは、個々の資産・負債の特性に合わせて行われるが、大きく分けると2つのパターンがあると思う。一つは金融商品のように契約によってメインの将来のキャッシュフローが決まっていて、それに手数料等の付随する取引費用や信用リスクなどリスク変動に関する将来キャッシュフローの見積もりを加えるケースと、もう一つは有形固定資産の減損のように事業の将来キャッシュフローを事業計画の策定から見積もるケースだ。実際には貸付金の減損や無形資産の公正価値ように両者の要素が混合されるケースもある。また、活発な市場がない金融商品や有形固定資産の転売などのように類似品等の取引事例を参考に見積もる場合もあるが、金融機関以外は上記2パターンの一部、構成要素として扱われる場合が多いと思う。
以上を整理して将来キャッシュフローの種類を書きだすと下記のようになると思う。
A.契約によるキャッシュフロー
売掛金や貸付金によるキャッシュフロー。短期であれば割引計算を省略して額面=将来キャッシュフローとなることが多いと思われるが、利息や割引の定め(利率、支払日)がある場合はそれが加味される。
通常は見積もりと言っても返済スケジュール表を作成して割引計算するだけだが、オプションなどのデリバティブの要素が加わると途端に難易度が百倍アップする。商品設計(契約内容の検討)の段階でそのデリバティブが本当に必要か、慎重に検討する必要がある。
A1.メイン取引に付随して発生するキャッシュフロー。
いわゆる付随費用(取引費用)とその発生時期を見積もる。金融商品の販売に関する代理人手数料や棚卸資産の販売費用、有形固定資産の付随費用など、内部コストも見積もりの対象となるものがあるので注意を要する。
A2.メイン取引に関連するリスクによって変動するキャッシュフロー
信用リスクが最も重要。特に金融機関における貸付金等金融商品の減損は、事業リスク管理の高度化と一体となったシステム対応が必要といわれている。ただ、一般企業が普通の商売をやっている限りはあまり難しいことはないだろう。
C.類似品等の取引事例を参考に算定されるキャッシュフロー
減損における転売によるキャッシュフローなど、IFRSを読むと、割と簡単に活発な市場が存在したり、活発ではなくても市場があるとか、信頼できる取引価格が入手できる印象だが、現実は甘くない。
B.事業計画に基づいて算定されるキャッシュフロー
このキャッシュフローをしっかり見積もれることが企業にとっては最も重要だ。これについてはすでに「IFRSの前提となる内部統制」に記載しているので繰返さない。机上のテクニックではない事業計画の作成能力、即ち、事業を研究し考え抜く態度と能力を磨くことこそ、事業投資の成功率を上げることだと僕は思っている。IFRSを導入する際には、是非この点を見直してほしい。
C.類似品等の取引事例を参考に算定されるキャッシュフロー
上記に同じ。資産の転売が重要なキャッシュフローであるような事業計画と出会わないことを祈りたい。
ちなみに決算数値として扱うには、客観的で、確実性のある、検証可能な見積もりが求められるが、容易なことではない。果たして恣意性のない見積もりとはどんなものだろうか。
本題からは外れて申し訳ないが、このように見ても金融機関など特殊業種を除き、Bの事業計画に関連する見積もりが重要だ。一般の会社はAの金融商品の難しい世界=デリバティブには関わらない方が良いとさえ思う。IFRSは金融商品分野のデリバティブ、ヘッジ会計、保険、負債と資本の区別などが飛び抜けて難解だが、IFRSが難解なのは、その取引が難解だからだ。難解な取引を理解して、難解なIFRSと向き合って、その苦労に見合う成果が見込まれるのなら良いのだが、どれほどそういうものがあるだろうか。リーマン・ショックの記憶はまだ新しいが、難解さとは、落とし穴の深さでもあると思う。
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