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2011年12月

2011年12月29日 (木曜日)

IFRSの資産(まとめ)~将来キャッシュフローの見積もりへ臨むスタンス

この記事が2011年最後の記事となるが、みなさんがこれを読むのは新年明けてからかもしれない。一年の計を新たにしたみなさんの清々しい心境に合う記事になるだろうか。新年の最初から読む記事ではない、などと怒られないことを願いつつ僕は年を越したいと思う。

 

前回、前々回で、見積もりの影響の大きさ、客観的な見積もりの難しさ(特に事業計画に関連するもの)を記載したつもりだ。すると、IFRSによる決算は見積もり次第で良くも悪くもなり信頼することができない、という話につながってくる。確かに将来は不確実性に満ちており、この心配は的を得ている。しかし、財務諸表の作成者側からすると信頼できないとは失礼な話だ。

 

とはいえ、実際こんなに重要な見積もりを客観的にできるか不安もあると思う。それでIFRSになにか書いてないか、書いてあれば頼りたくなるが、読み始めると直ぐにいろいろ厳しい制約がることに気付く。ところが、さらに読んでみると見積もりの根拠次第で例外が許容されている。例えば将来キャッシュフローの見積もり期間には、最長5年という厳しい制約があるが、延長の可能性が残されているし、将来キャッシュフローの成長率についても逓減が原則だが絶対ではない。では、どういう根拠ならそういう例外が許容されるかだ。

 

契約条件からキャッシュフローを見積もったり、評価技法を用いて公正価値の見積もりを行う場合に、仮定を置いたり、評価技法や割引率を選択したりする。そして減損会計では回収可能額を見積もるために適切な事業計画が必要となる。見積もりが客観的な根拠を持つには、これらの仮定の置き方、評価技法や割引率の選択、事業計画の策定に対し、適切な根拠を持つ必要がある。しかし、これらの根拠の完全な説明は難しい、特に事業計画は・・・。

 

例えば、減損の兆候が見られたものについて速やかに改善計画を策定し、期末日には予算管理である程度改善効果の確認ができる状況にしていれば、客観的な説明が行える可能性が増す。しかし、期末日までに効果が出なかったら会計上の見積もりの基礎にする事業計画は、現状の延長線上の慎重なものにせざるをえない・・・か。

 

見積もりは必ず事後確認、差異分析が必要だ。それを効率的に行うには予算管理と連携させるのが良い。そして、見積もりが実際と相違した理由がいい加減ものではないことを確認していく必要がある。もし事業計画を達成できないことが多ければ、その会社は見積もりのスタンスをより慎重なもの、厳しいものに直していく。それが新しい見積もりにも間接的な根拠、信頼感を与えることになるし、事業管理の改善にも役立って事業の成功率を高めることにつながる。

 

というわけで、決算のための机上の事業計画ではなく、実際に即した事業計画の策定と慎重な見積もりの態度を醸成すること、即ちリスク管理の能力を高めることこそが、将来志向的な会計基準であるIFRSを導入する会社側のメリットだと思う。

 

27日の記事に記載した「将来予測は投資家が自らの責任で行うべきで企業が提供すべきではない」という日本の会計基準の伝統的な態度は、「企業は楽観的な将来予測を戒め、現実に即した、慎重な将来予測を踏まえた期末日現在の情報を提供すべき」へ変わっていくかもしれない。

2011年12月28日 (水曜日)

IFRSの資産(まとめ)~将来キャッシュフローの見積もりの種類

将来キャッシュフローの見積もりは、個々の資産・負債の特性に合わせて行われるが、大きく分けると2つのパターンがあると思う。一つは金融商品のように契約によってメインの将来のキャッシュフローが決まっていて、それに手数料等の付随する取引費用や信用リスクなどリスク変動に関する将来キャッシュフローの見積もりを加えるケースと、もう一つは有形固定資産の減損のように事業の将来キャッシュフローを事業計画の策定から見積もるケースだ。実際には貸付金の減損や無形資産の公正価値ように両者の要素が混合されるケースもある。また、活発な市場がない金融商品や有形固定資産の転売などのように類似品等の取引事例を参考に見積もる場合もあるが、金融機関以外は上記2パターンの一部、構成要素として扱われる場合が多いと思う。

 

以上を整理して将来キャッシュフローの種類を書きだすと下記のようになると思う。

A.契約によるキャッシュフロー
 
売掛金や貸付金によるキャッシュフロー。短期であれば割引計算を省略して額面=将来キャッシュフローとなることが多いと思われるが、利息や割引の定め(利率、支払日)がある場合はそれが加味される。
 
通常は見積もりと言っても返済スケジュール表を作成して割引計算するだけだが、オプションなどのデリバティブの要素が加わると途端に難易度が百倍アップする。商品設計(契約内容の検討)の段階でそのデリバティブが本当に必要か、慎重に検討する必要がある。

 A1.メイン取引に付随して発生するキャッシュフロー。
 
いわゆる付随費用(取引費用)とその発生時期を見積もる。金融商品の販売に関する代理人手数料や棚卸資産の販売費用、有形固定資産の付随費用など、内部コストも見積もりの対象となるものがあるので注意を要する。

 A2.メイン取引に関連するリスクによって変動するキャッシュフロー
 
信用リスクが最も重要。特に金融機関における貸付金等金融商品の減損は、事業リスク管理の高度化と一体となったシステム対応が必要といわれている。ただ、一般企業が普通の商売をやっている限りはあまり難しいことはないだろう。

 C.類似品等の取引事例を参考に算定されるキャッシュフロー
 
減損における転売によるキャッシュフローなど、IFRSを読むと、割と簡単に活発な市場が存在したり、活発ではなくても市場があるとか、信頼できる取引価格が入手できる印象だが、現実は甘くない。

B.事業計画に基づいて算定されるキャッシュフロー
 
このキャッシュフローをしっかり見積もれることが企業にとっては最も重要だ。これについてはすでに「IFRS前提内部統制」に記載しているので繰返さない。机上のテクニックではない事業計画の作成能力、即ち、事業を研究し考え抜く態度と能力を磨くことこそ、事業投資の成功率を上げることだと僕は思っている。IFRSを導入する際には、是非この点を見直してほしい。

 C.類似品等の取引事例を参考に算定されるキャッシュフロー
 
上記に同じ。資産の転売が重要なキャッシュフローであるような事業計画と出会わないことを祈りたい。

 

ちなみに決算数値として扱うには、客観的で、確実性のある、検証可能な見積もりが求められるが、容易なことではない。果たして恣意性のない見積もりとはどんなものだろうか。

 

本題からは外れて申し訳ないが、このように見ても金融機関など特殊業種を除き、Bの事業計画に関連する見積もりが重要だ。一般の会社はAの金融商品の難しい世界=デリバティブには関わらない方が良いとさえ思う。IFRSは金融商品分野のデリバティブ、ヘッジ会計、保険、負債と資本の区別などが飛び抜けて難解だが、IFRSが難解なのは、その取引が難解だからだ。難解な取引を理解して、難解なIFRSと向き合って、その苦労に見合う成果が見込まれるのなら良いのだが、どれほどそういうものがあるだろうか。リーマン・ショックの記憶はまだ新しいが、難解さとは、落とし穴の深さでもあると思う。

2011年12月27日 (火曜日)

IFRSの資産(まとめ)~将来キャッシュフローの見積もりの影響範囲

将来キャッシュフローについては、その影響の大きさ、見積もりの種類、見積もりへ臨むスタンスについて記載してみたい。今回はその影響の大きさについてだ。

 

繰返しになるが、金を生むものを資産として「認識」する。では「いくらで計上するか」について、会計上は「測定」の問題という。「いつ認識」して、それを「いくらで測定」するかが決まれば、伝票を起票する基本情報が得られる。IFRSでは、いつ金を生むものとしての要件が整うかが認識の問題であり、将来キャッシュフローの現在価値がいくらになるかが測定の問題、それを期末のB/S項目についていえば評価の問題となる。

 

IFRSでの主な資産の評価基準>

現金 (公正価値)

金融商品 ・・・・・・・・・・・・・・・・公正価値(活発な市場のあるもの、ないもの・・・評価技法を使う
 
取得原価(償却原価・減損

棚卸資産 ・・・・・・・・・・・・・・・・取得原価(低価法

有形固定資産 ・・・・・・・・・・・・取得原価(減損
 
公正価値(再評価モデル、企業結合取引、交換取引

無形資産 ・・・・・・・・・・・・・・・・取得原価(減損)、
 
公正価値(再評価モデル、企業結合取引、交換取引

 

上記のうち、黄色の背景を付けた項目は「将来キャッシュフローの見積もり」が関係する。ほぼすべての資産と言っても過言ではない。取得原価主義の資産は低価法、減損会計を通して将来キャッシュフローが関係するし、取得原価主義以外の項目、即ち公正価値の項目は、活発な市場があり、その市場価格をそのまま付す場合以外は、やはり将来キャッシュフローを見積もるから当然といえば当然だ。

 

日本の会計基準もコンバージェンスの結果、すでに上記に近づきつつあるが、IFRSは資産を金を生むものとしているので、将来キャッシュフローの見積もりと資産の評価が直感的によりストレートに重要であると感じていただけるだろうか。

 

一方、日本には確立された資産の定義はない。企業会計基準委員会の「財務会計の概念フレームワーク」に資産の定義があるが、これはさらなる進化を前提とした討議資料だ。とはいえ200612月という比較的最近公表されたものなのに、資産の定義は将来キャッシュフローと直接関連付けた表現ではない。IFRSとはスタンスが相違するのだろう。将来予測は投資家が自らの責任で行うべきで企業が提供すべきではないとしている。だが、コンバージェンスによって日本の会計にも確実性の不安な将来予測が入り込んでいる。そしてこの部分こそがIFRSを日本に導入する際の重要ポイント、意識改革が必要なテーマとなる。長くなるのでそれは次回へ回すことにする。

2011年12月15日 (木曜日)

IFRSの資産(まとめ)~シンプルな定義と直感力の向上

IFRSの負債の定義を見てみよう。

「負債とは,過去の事象から発生した企業の現在の債務で,その決済により,経済的便益を有する資源が当該企業から流出することが予想されるものをいう。」

 

資産の定義も再掲する。

「資産とは,過去の事象の結果として企業が支配し,かつ,将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。」

 

概ね、将来の経済的便益の「流入」が「流出」になっているだけで、資産とパラレルになっている。実にシンプルだ。

 

このように将来キャッシュフローの裏付けという共通項があるからこそ、B/Sの資産・負債の各項目を足したり引いたりすることができ、それで算出した純資産の増減額を、期間損益(包括利益)と考えることができる。細かい個別規程へ入っていく前に、この大雑把な資産(と負債)のイメージを持つことは重要だ。このようなイメージを持つことで直感力が養われ、個別規程を読むうえでも余計な横道にそれなくて済むからだ。

 

また、会計に携わらない一般の方もこの程度の知識があれば、かなり決算書を実感を持って読むことができるようになると思う。特に経営者はこの感覚を持つことが重要だと思う。

 

 

実はIFRSのフレームワークは、P/Lにもっと気を使う方向で改定作業中だ。しかし、資産はお金を生むものという考え方は変わっていないと思う。(B/Sは将来キャッシュフローを表現する未来志向的な情報、P/Lは将来キャッシュフローを推定するための過去実績の情報と位置づけているようだ。)

 

さて、IFRSは財務諸表の各項目をシンプルに定義しているが、その裏に厄介な問題もある。それは会計上の見積もりの確からしさ、即ち、将来キャッシュフローの確からしさの問題だ。このシリーズでは、最後にそれを取り上げて締めとしたいと思う。

2011年12月14日 (水曜日)

IFRSの資産(まとめ)~資産のシンプルなイメージ

「資産はお金を生むもの」ということをIFRSがどのように表現しているかを概観してきた。ここで、おさらいをする。

 

 会計上の資産には、A.金融商品のように直接お金と交換される資産と、B.有形・無形固定資産のように利用することで間接的にお金を稼ぐことが期待されている資産がある。

 A.金融商品においても取得時点で回収スケジュールがほぼ決まっているもの、即ち、売掛金とか貸付金には「減損」という会計処理があって、それがB.固定資産との共通項になっている。

 減損は将来キャッシュフローで回収が見込まれないもの、即ち、お金を稼げない資産を識別し、損失処理する会計処理。逆に見れば将来キャッシュフローで回収できる範囲のものが資産となる。

 減損について日本基準と比べるとIFRSの方がストレートに将来キャッシュフローとリンクしている。このことはIFRSの資産が将来キャッシュフローとリンクして定義されていることとストレートに整合する。

 

ちなみに、減損の対象とならない資産は公正価値で評価されるが、公正価値は簡単に言えば換金価値なので、売ろうと思えばその金額のお金が入ってくることになる。したがってIFRSでは、すべての資産が将来キャッシュフローの裏付けを持つことになる。

 

このように資産はお金を生むものとイメージすると負債はどうなるか、損益計算はどうなるか。これも改めて次回におさらいする。

2011年12月 7日 (水曜日)

【オリンパスの粉飾】第三者委員会の報告書の概略

昨日早朝にアップした記事で、この件に関連したニュースを列挙して、情報のアップデートをしたつもりだった。しかし、早々に第三者委員会からの報告書が公表されたので、一気に陳腐化してしまった。そして今日はオリンパスの現社長である高山氏から、今後の方針について会見が開かれるという。その会見を待ってからこの記事を書いてもよかったのだが、元社長のウッドフォード氏が「期待以上」と言ったという報告書が気になって、急いで読んでみたので感想を記載する。

 

直感で感じたのは、「これは会計士がドラフトしたレポート」ということだ。第三者委員会のメンバーは殆ど弁護士だが、法律論的なものには触れず、何が起こったか、ポイントとなる事実を記載し、経営的な問題点が浮き彫りになるようまとめられている。

 

 1980年代の財テク時代のこと

法律論的に片づけようとすれば、この時代は無視されてもよいのだが、あえてこの時代から初めていることを僕は評価する。冒頭に、当初は2006年頃からのM&Aに関連した調査を依頼されたが、その後1990年代からの損失先送りについても調査対象に含めるよう会社側から依頼内容の変更があった旨記載されている。

 

しかし、第三者委員会は1980年代の下山社長時代の財テクにのめり込んだことについても踏み込み、そして早期に財テクの失敗を清算しなかったことへの経営責任を問うている。この点こそが、他の多くの企業に対する警鐘、教訓となって生かしていくべきところだと僕は思う。

 

だが、本当はもっとこの部分へ踏み込んで欲しかった。「営業特金解約時に会計基準で許容されるから、或いは拡大解釈して行った甘い判断」にもっとフォーカスして、さらに厳しいコメントを入れて欲しかった。また、1990年代の資金運用で損失を膨らませていく実態も知りたかった。なぜなら、失敗を隠そうとすればするほど損失が拡大する泥沼の実態が生々しく明るみになれば、それがいかに企業にとって悪いことかがはっきり理解できるからだ。これは他の一般企業にとっても大きな教訓だ。しかし、第三者委員会としては、短期間に報告をまとめなければならず、要約版の16ページから17ページの表現が限界だったのだろう。そこが少し残念だ。

 

 1998年からの飛ばしとM&A

隠れ損失の飛ばしの仕組みは3つのルートがあって、それがM&Aで捻出された資金で穴埋めされていく様子が記載されている。複雑なものが分かるように配慮された文章だ。だが、もともと複雑なのでやはり読むのは大変だ。ここに多くの紙面を割いている。読まれる方は気合を入れて。

 

ただ、気をつけなくてはいけないのは、ファンドの資金不足は充足し解消したが、オリンパスが抱えている含み損を今までの決算ですべて実現したとは書いてないことだ。14日までに提出される有価証券報告書の訂正報告書や第2四半期報告書に十分注意が必要だ。

 

短期間の調査でこれだけの複雑な資金の流れを把握できたのは、首謀者たちの(一部かも知れないが)協力があったからに相違ない。裏帳簿も首謀者たちから自主的に提出され、それが役立ったのだろう。この態度が歴代の社長が関わってきた不正にも拘らず、第三者委員会が「会社ぐるみではない」と言い切る自信につながったのかもしれない。また、反社会勢力の関わりについては短く認められなかった旨の記載があるだけだが、そう書けるのも、調査の中で首謀者たちを信じてよいと思える心証をつかんだからだろう。

 

 関係者の責任

取締役、監査役、監査法人は当然のこととして、M&Aに関連して会社が設置した第三者委員会についても責任を問うている。僕は昨日の記事で第三者委員会の振る舞いについて記載したが、「第三者」の立場は非常に難しい。監査法人も含め、「第三者」の立場をとることについてもっと真摯な姿勢で臨むことが必要だ。

 

 再発防止策

旧経営陣の一新が明確に記載されたこと、経営監視委員会の設置が提案されたことに特徴があるが、何より「意識改革」が重要としているのには全く同感だ。いくらいい形を作ってみても、それぞれの役割が果たされなければ屋上屋を重ねるだけだ。役割を果たすには、人が自覚を高めていくしかない。不正や甘い判断はどの会社でも起こりえる。厳しい競争社会、生活環境で魔がさすことは誰にでもある。しかし、そこで踏みとどまる勇気を持つこと、他人のやっていることに踏込む勇気を持つこと、そして、自分の役割が単に会社組織の一部ではなく社会的意義があることを自覚することが、もっとも良い結果を生む。そうみんなで信じられるようになりたいと僕も思う。

 

 情報開示

27ページに「したがって、法令等に基づく開示は当然として、投資者にとって重要・有益かどうかという尺度で開示を促進すべきである」とある。これは、正にこのブログでも主張した「適正開示の枠組み」だ。制度はそうなっている。実務が早くそれに追いつかなければならない。

 

さて、第三者委員会の報告書は、要約版と言っても24ページに及ぶものであり、時間のない方がすべて読むことは難しい。余分なことも書いてあるが、上記が概略、イメージの把握に役立てば幸いである。

2011年12月 6日 (火曜日)

【オリンパスの粉飾】第三者委員会の振舞

この件に関連して、最近目についたニュースを挙げてみた。

 マイケル・ウッドフォード氏の来日、取締役会主席、日米捜査当局への協力、取締役辞任

 第三者委員会調査報告書の事前リーク?記事(反社会的勢力の関与否定、1999/3期飛ばし開始、損失最大1300億円)

 首謀者3名取締役・監査役辞任、菊川氏不正を最近知ったと証言

 上場維持を望む声(海外ファンド等)

 EC(欧州委員会)オリンパスを監査失敗事例に

 

これらからなんとなく読み取れる国内の雰囲気は、オリンパスが海外企業に買いたたかれることを防ぐためか、オリンパスに対して寛大な扱いを求めている人たちがいて、その方向へ流れが向かっている感じだ。流れの行先は、上場維持、現経営陣の延長でのオリンパス改革、オリンパス(や大王製紙)だけの特殊問題として扱い新たな規制は最小限に、という感じではないだろうか。となると監査人への処置も寛大な対応か。

一方海外は、EC(欧州委員会)が厳しい。タイミングの悪いことにリーマンショックの反省をしているところ、ちょうど監査制度改革等(相当ドラスティックなものになるらしい)を検討しているところにこの事件が入ってきた。またフィナンシャルタイムズ紙(英)も関心が高く、盛んに報道しているようだ。少なくても、規制強化で迷惑を被るだろうヨーロッパ経済界からは、この件の対処について厳しい目で見られるのではないか。また、日本企業の情報開示に関する閉鎖的体質、日本の企業統治制度(会社法)の遅れなどという、日本企業全体の評判を下げるような内容の報道は気になるところだ。

 

さて、この事件に関して、守られるべき国益は何か。そしてオリンパスにとって何が望ましいか。当たり前の結論で申し訳ないが、まずは投資家の利益で、次にオリンパス以外の日本企業の利益だ。そしてオリンパスにとって望ましいことは、自分や自分の周りの一部の人々の利益をあたかも会社の利益のように考えてしまう人を取締役から追い出して、本当に社会の公器としての会社の利益を考えられる経営者を招くことだろう。

 

ここで、いくつか気になっているのだが、一つだけ書いておきたい。第三者委員会のことだ。

 

振返ってみると、上記の国内の雰囲気づくりは、第三者委員会からのリーク?記事によるところが大きいような気がするのだ。まず、上場廃止かどうかが話題になって、反社会勢力に金が渡っていると金融機関や東証が厳しい判断になるだろうという見方が出ると、第三者委員会から「闇勢力の関与は見られない」と情報が流され、粉飾の内容が悪質だということについては「1999/3期に飛ばし」と既に過去のことであると強調するような情報が、また「損失の最も大きい時は1300億」とか「すでに損失は処理済」といった、状況が改善されたかのごとくの情報がでるという具合だ。損を出したこと自体、そして、それを隠蔽していたことが悪質だというのに、問題のすり替えだ。

 

まさか第三者委員会は最初からオリンパスの上場を維持するために業務を請け負ったわけではないだろう。まさか第三者委員会は現経営陣とつながってるわけはないだろう。だが、そう疑いたくなるように、世間の関心に合わせて一定方向に進むように選択的に情報が出されて、適時開示され、新聞記事になってくる。

 

第三者委員会は独立の立場から真相を究明し、再発防止に役立てることが目的のはずだ。まずは全体像が見えるように真相究明があって、それから様々な判断が行われるのが筋なのに、最初から上場維持が目的になって、会社と第三者委員会が吊るんで見えるようなこのやり方は、海外からはどう映るのだろうか。もちろん国内投資家の目だって同じだ。

 

第三者委員会の第三者とは、現経営陣からも独立していることを意味している。そう見えない場合は、敏感な海外投資家は第三者委員会を疑うし、第三者委員会を疑えば1214日に提出されるオリンパスの中間決算や過年度有報等の訂正報告書も信頼されない。監督官庁や東証はとりあえずこれを受けるしかないだろうが、海外投資家は日本の株式市場全体に対して信頼感を持てるだろうか。また、日本企業一般のガバナンスを疑う見方もあるときに、再発防止策に効果があると信じてくれるだろうか。海外資金が入ってこなければ日本企業の株価は下がって一般投資家まで損害を被るし、海外企業は日本企業を買い叩くことができる。

 

ちょっと話を大袈裟にしたが、第三者委員会の立場とはこれほどに難しいものだ。このように世間の注目が集まった事案について、寛大な方向へ誘導したり、また寛大な判断をすることが、いや「寛大」と感じられること自体が、一般投資家や他の日本企業にどのような影響を及ぼすか。上記は僕の少々穿った見方である。みなさんも日常生活で「第三者」の役割を求められることがあると思うが、これが、「第三者」についてじっくり考えてみる機会になったら嬉しい。

2011年12月 5日 (月曜日)

IFRSの資産~償却資産と減損2

今回は、固定資産の減損会計について日本基準とIFRSの相違点を概観し、IFRSの資産観を探り出すことがテーマだ。

IFRSはB/S中心主義で、そのB/Sは金融商品のように公正価値評価中心の資産と償却資産(固定資産)のように取得原価をベースに簿価を決定する資産があり、その両者を結びつけているのは、将来キャッシュフローをベースとする「減損」であることを見てきた。したがって「減損」にこそ、IFRSの資産観が色濃く出ているはずだ。

 

(日本基準とIFRSの主な相違点)

10/7の記事にも概略を記載したが、僕が注目しているのは次の点だ。

 日本基準は3ステップ、IFRSは2ステップ

 減損の兆候では、日本基準は実績の悪化、IFRSは予算に対する実績の悪化

 減損損失の戻入は、日本基準は禁止、IFRSは必要(但し、のれんはダメ)

 

 日本基準は3ステップ、IFRSは2ステップ

日本基準の減損処理は、兆候・認識・測定の3ステップがある。すべての資産に減損テストを行うのではなく、兆候がある資産に対してのみ減損テストをする。よって、まず減損の兆候があるかどうかのステップがあるわけだ。兆候があると判定されたものは認識のステップへ進む。認識のステップでは割引前の将来キャッシュフローと資産の帳簿価額を比較し、資産の帳簿価額を上回る割引前将来キャッシュフローが期待できればOKだが、期待できなければ次の測定のステップへ進む。測定のステップでは割引後将来キャッシュフロー(即ち、現在価値)を見積もり、減損損失金額を算定し、伝票を起票する。

 

一方IFRSには、日本基準でいう認識のステップがない。ないというか、兆候のステップに実質的に取込まれていると考えて良いと思う。というのは次の②に関連するが、兆候のステップでIFRSが減損の兆候として例示している「予算に対する実績の著しい悪化」における「予算」は、その資産(投資)を回収する投資回収計画とリンクしているからだ。投資回収計画は将来キャッシュフローの見積もりとそう大きな違いはなさそうだ。したがって、予算比で著しい悪化をしているかを見ることで、日本基準の認識のステップもやっていることになる。

 

一方IFRSは、設備投資の意思決定時に投資の効果を試算するだけでなく、投資後も投資回収の状況をフォローすることを想定している。手間はかかるが、資産は金を生むものという資産の定義と一直線に合致している。

 

 減損の兆候では、日本基準は実績の赤字、IFRSは予算に対する実績の悪化

上述した通り、IFRSは、予算に対する実績の著しい悪化を減損の兆候の例に挙げている。ところが、日本基準のそれに当たる部分は「継続して赤字」となっている。日本基準は実務の手間を考慮して、実績の推移だけで兆候の判定ができるように工夫をした。そのために赤字が1年目であれば兆候に当たらないと判断できることになった。

 

一方IFRSは予算に対する実績の著しい悪化を例示しているので、悪化したその年度に兆候に当たってしまうことになる。したがって日本基準より猶予はない。

(ただ、使用価値算定の規程では、未決定のリストラや追加の改善・拡張投資の効果を見込んではいけないとしているが、オペレーションの改善効果については触れていない。悪化の原因がオペレーションの改善で除去でき、その改善策の実行可能性が高ければ、その改善効果を見込んだ将来キャッシュフローで簿価を回収できる限り、「著しい」とは判断しないのであろう。だが、これには予実差異分析をタイムリーに行っている必要がある。決算時に慌てて考えても改善策の実現可能性を評価できない。)

 

 減損損失の戻入は、日本基準は禁止、IFRSは必要(但し、のれんはダメ)

日本基準では一旦資産を減損すると、さらなる減損を計上する場合以外はその資産は放置されるが。一方IFRSでは、減損損失の原因が改善されていないか、逆サイドの兆候の有無のチェックが毎期必要で、兆候がある場合は回収可能金額を算定し、取得原価主義の範囲で戻入を行わなければならない。リストラや機能改善投資も、実際に実行されれば逆サイドの兆候となり、その改善効果は回収可能価額の算定に含められる。

 

これも面倒といえば面倒だが、減損の兆候のチェック項目と、この逆サイドの兆候のチェック項目はちょうどパラレルとなるため、両者を一緒にチェックすれば手間は大差ないだろう。だが、その効果は大きい。改善すれば改善によってなされたコスト削減や収益増加に加え、減損の戻入益も計上されるのだから。これを業績が変動すると嫌う人もいるだろうが、積極的に改善へ取組む誘因になる。

 

資産の定義との関係を考えると、これもストレートに合致する。日本基準では改善されるとある種の含み資産が生じることになる。保守的でよいとする考え方も捨てがたいが、資産の定義との関係ではIFRSの方が素直だろう。

 

以上をまとめると、IFRSは減損損失をより早期に計上し含み損を許さないし、含み益さえも許容せず、将来キャッシュフローと資産がストレートにリンクしている。資産は金を生むかどうかの観点からチェックされ続け、放置されることはない。「金を生むものが資産」という資産観は、単に会計基準の中の話ではなく、会計実務に携わらない一般従業員の方すべてにとって分りやすいし、日常業務の中でも大切な感覚なのではないだろうか。

 

さて、日本基準とIFRSの相違点は他にもある。例えば減損の兆候を示す例示としてIFRSには日本基準にない「時価総額が純資産額を下回る場合」というものがある。これはマーケットが、その企業の資産に含み損が生じている可能性を示したものかもしれないが、面白い考え方だ。これらについては、また個別基準として減損基準を検討する際に触れたいと思う。

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