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2012年1月18日 (水曜日)

【オリンパスの粉飾】最後に・・・

 

1/17に監査役等責任調査委員会の報告書が開示され、これで取締役、監査役、監査法人への責任追及の会社のスタンスも定まった。これでひと段落した感じだ。この事件は、僕が監査から離れて初めて出会った本格的な粉飾事件というだけでなく、財テク、円高、バブルとその崩壊、会計ビックバン等々、僕が社会人になったころからの日本経済の変遷や様々な事象を改めて見返す機会を与えてくれた。オリンパスも僕も、確かに同じ時代を生きてきた。この事件で損害を被った方々には誠に申し訳ないが、僕にはそんな郷愁を誘う事件だった。

 

 

 

しかしそこに、変わらなかったことが二つある。それはオリンパスが隠した含み損と監査に対する期待ギャップだ。

 

 

 

ということで、これらについてこれからポツポツ書きたいが、みなさんの関心はそんなことより、この事件に関連する主な動きだろう。そこでこのシリーズの最後として、前回12/6の第三者委員会の調査報告書以降の動きをまとめてみよう。論評を交えず淡々と・・・。

 

 

 

                           
 

12/6 第三者委員会の調査報告書の公表
   

 
 

1980年代の財テクに端を発した損失を2001/3期の会計基準の改正後も「飛ばし」の手口で温存し続けたが、飛ばし先の隠しファンド資金の返済を迫られM&Aに関連した偽装取引でファンドを解消していく過程が記載された。これに関連した関係者(歴代の取締役・監査役、監査法人)の責任の有無についてレポートされていた。

 
 

12/7 取締役責任調査委員会、監査役等責任調査委員会の設置

 
 

第三者委員会の報告を受け、責任ありとされた取締役、監査役、監査法人、執行役員等に関する業務執行に関する法的責任を明らかにするための調査委員会を設置。(12/14にはタコ配に関する責任についても調査を追加して依頼。)

 
 

12/14 過年度の訂正有価証券報告書等、当第2四半期報告書を財務局へ提出

 
 

上場廃止基準への抵触を避けるため、本来の提出期限の1か月後のこの日までに第2四半期報告書を提出する必要があった。過去5年間の有価証券報告書、四半期報告書及びそれらの確認書もこの日までに訂正報告書を提出した。内部統制報告書についても、内部統制が有効でない旨、評価結果を訂正して再提出した。
      なお、監査法人も訂正後の財務諸表について監査報告書、レビュー報告書を再提出した。あずさ監査法人は適正意見としたものの、受け皿ファンド(隠しファンド)の評価等については意見表明の範囲から除いている(いわゆる範囲限定付適正意見)。新日本監査法人は無限定適正意見で再提出している。内部統制監査報告書は、会社の訂正内部統制報告書が制度上内部統制監査の対象外のため再提出なし。

 
 

1/10 取締役責任調査委員会の報告書公表

 
 

総額859億円の損害額を認定するとともに、個人別に退任した取締役を含めて責任の有無及び損害額を記載した。検討対象となった取引または事象、検討結果の概要は以下のとおり。
    ・飛ばしの実施、維持・・・
199億円
     (
107億円 内容は金利、ファンド手数料等/下山・岸本・菊川・山田・森)
     (
91億円 内容はITX株式の評価損/下山・岸本・菊川)
    ・隠しファンドの解消・・・
72億円/菊川・山田・森・川又・遊佐・降旗・寺田・長崎・大久保・藤田・千葉・柳澤・森嶌・高山・塚谷・林
     (内容は、国内3社株式取得やジャイラス買収にかかる高額の報酬支払等)
    ・
ウッドフォードの解任・・・責任認定せず
    ・不正発覚後の対応不備・・・
1千万円を下回らず/菊川・山田・森・中塚
     (内容は、不正を他の取締役に隠し、その結果会社に不適切な対応をさせたこと)
    ・有価証券報告書等の虚偽記載の責任・・・金額未確定/菊川・山田・森・中塚
     (内容は、今後科される罰金の負担、虚偽記載による株主への損害賠償訴訟。)

 

・タコ配、自己株式取得・・・587億円/菊川・山田・森・中塚
     (内容は会社法上の資本充実義務違反)

 
 

同日 上記報告書を受けての適時開示

 
 

監査役会は、全員一致で報告書の内容に従って損害額の一部についての損害賠償請求訴訟を1/8に東京地裁へ提訴。請求額については各取締役の支払い能力や各責任原因に対する関与の度合い等を考慮したとしている。請求額の総額は361千万円。

 
 

1/17 監査役等責任調査委員会の報告書公表

 
 

総額46億円の損害額を認定するとともに、個人別に調査対象者の責任の有無、損害額を記載した。責任ありとされたのは、太田、今井、小松、島田、中村の各監査役。監査法人、執行役員は責任なしとされている。山田は取締役として責任追及されるとして対象外となっている。

 
 

同日 上記報告書を受けての適時開示

 
 

取締役会は、報告書の内容に従って損害額の一部についての損害賠償請求訴訟を1/16に東京地裁へ提訴。請求額については各取締役の支払い能力や各責任原因に対する関与の度合い等を考慮したとしている。請求額の総額は10億円。なお、上記のうち島田氏、中村氏はいわゆる社外監査役だが、他の監査役と同様請求額は5億円とされた。

 

 

 

 

最後にどうしても触れておきたいことがある。監査役等調査委員会報告書の最後に「最後に」というタイトルの文章がある。以下、そこを全文転記する。

 

 

 

4 最後に

 

本件においては、本件国内3社の株主取得及びジャイラス買収に係るFA報酬としての株式オプションの優先株への交換に関する監査役等の責任を判断する中で、専門家の意見書又は、調査報告書がそれぞれ重要な要素となっている。しかしながら、2009年委員会報告書も井坂公認会計士事務所の事業価値算定書においても、いずれも極めて限定された特異な前提を置き、作成されたものである。

 

当時の関係者が、このような前提条件を十分理解せず、その結論を重視していることは、事後的な法律の専門家の判断としては、不注意ないし軽率とみられることはあるが、その分野の専門家ではない監査役や会計監査人においては、それらの不自然さに思い至らないことをもって、直ちに注意義務に違反するとすることはできない。言い換えれば、本件の首謀者は、巧妙に専門家の意見や調査報告書を操って、違法行為を隠蔽していたといえるのである。

 

 

 

これを読んで首謀者たちの悪質さには同感するし、監査人の実情を理解されていると思うのだが、一方で僕は悲しい、寂しい、やるせない。大監査法人がこれに甘んじてよいのかと思うのだ。

 

 

 

以上は、民事上の責任を問うたものであり、刑事罰(特別背任)については捜査が進行中だ。また上場会社の経営者としての評価は法律だけで測れるものではない。社会的、道義的な責任を含めて考える必要がある。

 

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