有用な財務情報とは~財務報告の目的
改定後がなぜ2本足かというと基本的な質的特性が2つあるから(目的適合性、忠実な表現)だが、それでスタスタ歩けるのは両者の相性が非常に良いためだ。この2つがそろうと安定感があって、他の要素が付け足しでもよいと思えてくる。ところで、スタスタ歩くには歩く方向、目的地が定まってなければふらふらしてしまうので難しい。そこでこの2つを見る前にその目的地たる「財務報告の目的」について考えてみよう。
IFRSの概念フレームワーク(正確には「財務報告に関する概念フレームワーク」)の第1章は「一般目的財務報告の目的」となっていて、その頭の方で次のように定義している。
「一般目的財務報告の目的は、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者が企業への資産の提供に関する意思決定を行う際に有用な、報告企業についての財務報告を提供することである。」
この文章については「見覚えはあるが深く考えたことがない」という人が多いと思う。そこでこの機会に突っ込んでみよう。つまり一般財務報告の目的は「利用者の意思決定に役立つようにその企業についての財務情報を報告する」ことだが、「意思決定に役立つ財務情報」とは「①どんな意思決定」に「②どんな財務情報」が役立つのだろうか。そして「③役立つ」とは具体的に何か。関係個所を読んでみると①~③について次のように理解することができる。(末尾のカッコは概念フレームワークの該当段落番号なので、興味のある方はご参照ください。)
① 将来の正味キャッシュ・インフローに対するその企業の見通しを評価するのに役立つ情報が、出資や融資、掛け取引による信用の供与、及びこれらの維持、中止の意思決定に必要とされる。(OB3)
② ①の見通しを評価するために必要な情報とは、企業の資源、企業に対する請求権、及び企業の資源を利用する責任をどれだけ効率的かつ効果的に果たしたかに関する情報。(OB4)
③ その情報がなかった場合に比べて利用者が行う意思決定に相違を生じさせることができることが、役立つということ。(QC6)
平たく言うと財務報告の目的は「それを知らないとその企業の将来キャッシュフローの見通しを良いとも悪いとも言えないので、読まないと損する(かもしれない)情報を提供すること」といったところだろうか。基本的な質的特性を考える上では、特に③の「違いを生じさせることができる」、即ち「読まないと損する」ところが重要になる。それは次回。
なお、この「一般目的財務報告の目的」の章には、他にもいろいろ突っ込みどころがある。例えば
- 利用者とは具体的にだれのことか、特に政府は含まれないのか(・・・含まない。これは第1章の前の「序文」。)
- 「一般目的財務報告」の「一般」とは何か(・・・実はIFRSが規程する財務情報の限界を表現している。)
- 利用者が「企業が行った将来キャッシュフローの見通し」を評価するというが、企業は正しい将来キャッシュフローの見通しを開示しているのではないのか(・・・利用者は企業の財務報告以外の情報も加味して最終判断する。)
- 価格や技術などの外部環境の変化やコンプライアンス対応もさりげなく財務情報(経営者の責任)に含めているがどこまで財務報告に含まれるのか(・・・これは直接利益の範囲、包括利益に関連してくる。)
などなど。
気を付けているのだが今回も長くなってしまった。これらは追々機会があれば触れたい。
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