有用な財務情報とは~基本的な質的特性「目的適合性」
二本足の1本目は目的適合性だ。目的適合性とは、単純に考えれば「目的に適うこと」だ。英語では一語で「relevance」と表記されており、その意味は「The property or state of being relevant or pertinent.(Wiktionary)」(性質や形が関連していたり、適切であること。)となる。そしてIFRSの「概念フレームワーク」は次のように言っている。
「目的適合性のある財務情報は、利用者が行う意思決定に相違を生じさせることができる。(Relevant financial information is capable of making a difference in the decisions made by users.)」(QC6)
「ん、何を言っているの?」と思われた方が多いのではないか。僕もそうだった。そこで前回の財務報告の目的を思い出してほしい。すると上の文章が「目的適合性のある財務情報は、財務報告の目的に適っている。」となるのがお分かりだろうか。もう少し平たくすると「目的適合性のある財務情報とは、将来キャッシュフローの見通しを評価するために知らないと損する(有用な)情報だ。」と考えて良いのだと思う。
僕は思うのだが、この質的特性は、財務情報を利用者側から規定した内容になっている。そしてその利用者の欲しい情報とは、前回の財務報告の目的にあるように将来キャッシュフローの見通しを評価する材料なのだが、それは以下のとおりとなる。
- 経営者及びその統治機構が企業の経済資源を効率的・効果的に使用して生み出すキャッシュの将来のインフロー
- 契約や社会規制によって掛け取引の支払いや短期借入金の返済などに振り向けられる将来のアウトフロー
- 長期借入金の返済や配当の支払いに分配されていく将来のアウトフロー
- これらの結果として社内留保されるキャッシュという将来情報
- これらの不確実な将来情報をサポートする過去の業績情報
「不確かな将来情報は不要で、過去の実績情報があれば十分」と考える方は、IFRSではなく20世紀型の取得原価主義会計がマッチしている。右肩上がりの時代はそれで良かった。しかし、そういう方でも企業と関係を持つのであれば、過去より将来の見通しこそを意思決定の拠り所とするだろう。そのとき足りない情報を自分で補うことになる。当事者の企業自身でさえ将来を見通すことが難しい時代なので、それを自力でやれるのは特殊な一握りの人々しかいない。しかし、それでは「一般目的の財務報告」にならない。
やはり「目的適合性」は、財務報告の目的、即ち利用者側のニーズとワンセットで理解すべきものなのだ。そう考えると英語では単に「relevance」の一語だが、ASBJが翻訳する際に「適合性」とか「関連性」と一語にせず頭に「目的」を加えて何に関連しているかを明示したことが味わい深く感じられる。
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