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2012年2月17日 (金曜日)

2/11放送のNHKスペシャル「東日本大震災「“魚の町”は守れるか~ある信用金庫の200日」の気仙沼信用金庫」

ビデオ録画してあったこの番組を見て感動した。地元とともにある金融機関の不退転の決意とはこういうものだと思った。

 

番組によれば、気仙沼市は地元企業の8割が被災し、被害額は2100億円で、年間生産額の半分に及ぶ規模だという。気仙沼信用金庫(以下、当金庫と記載する)は、ホームページを見ると陸前高田市や南三陸町など東日本大震災で甚大な被害を被った宮城県北部から岩手県にかけてを営業エリアとしていて(当金庫はこの範囲でしか営業できない)、当金庫自体も12本支店中7支店が被災してまだ閉鎖中だ。

 

仕事がなければ地域は再建できない。このエリアの雇用は水産加工業などの中小企業が担っていた。中小企業の経営者が踏ん張って事業再開を決意しても、お金がなければ何もできない。しかし、被災企業への融資は二重ローン問題や休業中に失った得意先があるなど事業が毀損しておりリスクが高い。国や県の補助金は建物や設備などが用途だし、入金するのは建物や設備を取得した後だから、当座の資金には使えない。そして金融機関が逡巡していれば、人はいなくなり、地域経済は疲弊する。

 

当金庫は、融資をするリスクと、融資をしないで地域が疲弊して当金庫の事業基盤が毀損するリスクの両方を見ながら、地域と運命を共にする決意をしたと思う。当金庫の2011/32011/9のディスクロージャー資料を見ると、バーゼルⅡの自己資本比率はそれぞれ9.86%8.47%だが、千年に1度の大震災の真っただ中にバーゼルⅡの統計的手法はあまり意味はない。むしろ会計上の自己資本比率で感覚をつかんだ方が良い。2011/3期で総資産1000億に対して利益剰余金は30億しかなく会計上の自己資本比率は3%台だ。信用金庫なので普通なら健全だが、いま、このエリアではどうだろうか。2011/9で429億円の貸出金のうち58億がすでに不良債権とされているが、余裕は残り30億しかなく、貸出金の1割に満たない。1割が毀損する前にこの大災害から地域が復興できるだろうか。開示はされていないが貸出条件変更の相談を受けた件数や融資額を考えるときっと難しいと思っただろう。だからこの信用金庫は本気なのだ。

 

番組では、日本政策金融公庫の融資審査に時間がかかったり、銀行から妨害されたり、逆に銀行から肩代わり融資を押し付けられそうになったり、国や県の補助金の入金までの融資先企業の資金繰りの厳しさなど、様々な障害に当金庫の融資担当者が遭遇し、融資先とともに対処していく姿が映されていく。その中で、ある水産加工会社のメイン銀行の姿は、この番組を見た人から顰蹙を買ったに違いない。このメイン銀行も震災に苦労をしているのだろうが、当金庫の肝の座った対応に比べると小賢しいとさえ思えない。長くなるが少し内容を記載しよう。

 

今まで取引のない水産加工会社から4.4億円ほどの融資の申し込みがあって、当金庫は前向きに検討した。この会社は、当金庫に申し込む前に創業以来のメイン銀行にも頼んだが取り合ってもらえなかったのだ。この会社にはすでにそのメイン行から3億円を借りており、いわゆる二重ローンの問題もあった。しかし、当金庫が4.4億円のうち日本政策金融公庫の制度で2.8億円を借りられる目途付け、残り1.6億円も半分は信用保証協会の保証を付けられるようにすると、メイン行は急に、日本政策金融公庫が使えるなら1.6億円はウチに出させろ、そうでなければ既存の3億円をすぐ返済しろ、とこの水産加工会社に迫った。

水産加工会社の社長は、メイン行の要求に応じれば早く融資が受けられると思う一方で、一連のやり取りから、メイン行でなく当金庫と付き合っていきたいと感じていた。しかし、メイン行が態度を変えない限り3億円の借入を当金庫に肩代わり融資してもらう必要がある。しかし、当初からそこまではできないと当金庫に言われていた。だから八方ふさがりだったが、思い切って、メイン行にこの融資は当金庫から受けたいと申し入れに出向いた。その結果を社長と専務が当金庫へ報告に来たが、それなら3億円をすぐ返済しなさい、それには信金から3億追加融資が必要だが信金がそこまでできますか、できないでしょう、だからウチから今回の融資を受けなさい、という話であった。メイン行はまったく態度が変わらなかったのだ。

その報告を聞いたあと、当金庫の融資責任者である芳賀理事は社長に確認した。御社としてはどうなんですか。当金庫からの融資でいいんですかと。社長は、当金庫へ融資をお願いしたいと答えた。すると芳賀さんは今までダメだと言っていた追加の3億円の融資も(検討)すると伝えた。実はこのシナリオを想定して事前に理事長に話を通してあったのだ。正式の審査会議の承認はその2日後であったが。

このとき、横にいた専務は俯いて泣いていた。社長と芳賀さんはしっかりと手を握って事業の成功を誓い合っていた。

 

水産加工業が立ち上がると漁業が元気になり、それが造船業にも伝わりと、水産加工業は意外と波及効果が高いのだそうだ。そういうこともこの判断の裏にはあったようだ。地域経済全体を見据えた融資だったわけだ。インタビューでこの芳賀さんが言われていたのは、当金庫も非常に苦しい状況だが、それは地域の企業のみなさんもみな同じ状況だ。それを一緒に苦しみながら乗り越えていきたいということだった。なお、当金庫には150億円の公的資金が信金中央金庫からの出資という形で入ることが決まっている。

 

僕は金融機関は客観的な目を持って、一歩離れたところから融資先を冷静に見ることが必要だと思うので、どこまで個々の融資先に寄り添っていくかは難しい判断を必要とするところだと思うが、当金庫の地域経済との一体感については本当に素晴らしいと思った。

 

そしてもう一つ思った。偉いのは誰か。それは覚悟を持って使命を果たす人々だ。

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コメント

貴殿の感想に心動かされました。小職は現在大学の教師をしていますが、以前銀行勤務だったこともあり、この番組も見ていろいろ考えされられました。
ところで、今、大学の授業で金融に関するいろいろな映像を使っているのですが、この番組がNHKオンデマンドの対象になっていないことを大変残念に感じていたところです。
そこでこのたび貴殿のこの記事を見てお願いなのですが、学生向け教材にしたいので、貴殿のビデオをDVDかデジタル情報(MP3など)の形にして小職にお与えいただけないでしょうか。
もし可能なら、住所などをお知らせいたします。よろしくお願い申し上げます。

近藤さん、了解しました。探してみます。

ただ、もはやブルーレイ・レコーダーのハード・ディスクにはなく、あるとすればブルーレイ・ディスクです。したがって、移動はできますがコピーができません。すなわち、オリジナルをお貸しすることになります。いずれお返しいただくということでもよろしいでしょうか?

まず、探した結果をメールの方へご連絡しますので、少々お待ちください。

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