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2012年2月29日 (水曜日)

有用な財務情報とは~「忠実な表現」と「比較可能性」(売上基準を例に)

有用な財務情報であるためには「目的適合性」と「忠実な表現」という2つの基本的な質的特性が必要とされている。即ち、将来キャッシュフローの見通しを評価するために有益で、かつ、経済実態を忠実に表した記述になっていることが基本的な要件とされている。しかし、IFRSは、国際的な会計基準の相違を乗り越え、国籍の異なる企業の財務情報も比較可能にするために開発されたものだ。なのに、なぜ「比較可能性」という質的特性が、基本的でなく「忠実な表現」を補強するに過ぎない質的特性とされたのだろうか。

 

それが垣間見られる概念フレームワークの記述を抜き出してみよう。

 

QC23

比較可能性は画一性ではない。情報が比較可能となるためには、同様のものは同様に見え、異なるものは異なるように見えなければならない。財務情報の比較可能性は、同様でないものを同様のように見せることで向上するものではない。同様のものを異なるように見せることで比較可能性が向上しないのと同じである。

 

QC24

ある程度の比較可能性は、基本的な質的特性の充足により達成できる可能性が高い。目的適合性のある経済現象の忠実な表現は、おのずと、他の報告企業による類似の目的適合性のある経済現象の忠実な表現とのある程度の比較可能性があるはずである。

 

そして、IFRS自体ではないが、IFRSと共に公表される附属文書(パートB)には次のように解説されている。

 

BC3.33

目的適合性があり忠実に表現された情報は、他の企業および他の期間における同一企業が報告する類似の情報と容易に比較できる場合には、最も有用である。財務報告基準が必要とされる理由のうち最も重要なものは、報告される財務情報の比較可能性を高めることである。しかし、容易に比較可能でない場合であっても、目的適合性があり忠実に表現された情報は、やはり有用である。比較可能な情報であっても、目的適合性がない場合は有用ではなく、忠実に表現されていない場合は誤解を招く可能性がある。したがって、「比較可能性」は基本的な質的特性ではなく補強的な質的特性であると考えられる。

 

僕が読み取るエッセンスは次の通りだ。

 

 A 比較可能性は作成手続や様式で担保されるのではない。実際の受け取られ方が重要。

 B 経済事象を忠実に表現してない情報を比較(分析)に使っても意味がない。

 C 比較(分析)の単位は、取引などの細かい単位ではなくもっと大きな経済事象レベルが想定されている。

 

AとBはすんなり受け入れられるのではないだろうか。会計方針が同一であれば比較可能性を高める可能性が高まることには同意するが、すべての場合にそうなるとはいえない。逆に会計方針が異なっていても、それぞれが経済実態を忠実に表現しているのであれば、分析に値する。そう思えるのはなぜか。意外にCが大事だと思う。

 

例えば、売上を出荷基準で処理している会社と検収基準で処理している会社の財務情報を比較するのは意味があるだろうか。もし、出荷後、据付工事や稼働テストなどを経てから検収があがるような製品の売上であれば、比較分析する価値は下がるだろう。出荷しても返品される可能性もあるし、据付工事や稼働テストに無視できない追加コストが翌期に計上されるかもしれないので、両社の将来キャッシュフローのイメージは、売上や売掛金に計上されている数字から正しく把握できない。

 

しかし、返品がほとんどない汎用品を出荷基準で計上している会社と、据付工事や稼働テストが必要な個別仕様品を検収基準で計上している会社の比較はどうだろう。これなら両社の将来キャッシュフローの状況を売上や売掛金の数字から評価するのに問題は少ないはずだ。なぜなら、会計方針は違っていても、それぞれが経済実態に合った会計方針を採用しているからだ。

 

では、汎用品を生産・販売していた会社が、顧客の要望に応じて個別仕様品を供給するようになり、その比率があがっていったらどうするだろうか。ここまで読んでこられたみなさんなら迷わず、会計方針を変更するか、少なくとも個別仕様品については検収基準を採用する、と考えるだろう。

 

なんだ、当たり前のことじゃないか、と思われる方も多いと思うが、意外と「我社の会計方針は出荷基準」、「継続性の原則は守らなければならない」などと言って、出荷基準を継続している会社も多いのではないだろうか。IFRSが話題になって変化も見られるが、日本基準では、それを容認する雰囲気が強い。しかし、大事なのは手続や方法を継続することではなく、その経済実態に合わせる感覚を持つことだ。

 

さて、Cの意味がお分かりだろうか。経済実態に合わせようとすると、単に取引のみを見るのではなく、その背景にある経済事象に目を向けることになる。そのとき同一・類似の経済事象を背景に持つとか、同一・類似の経済事象創出のための活動だとか、そういうまとまりが、会計方針や見積もりの単位、減損会計の単位、そして比較・分析の単位となってくる。しかし、代表的な財務諸表の読者である外部者が比較・分析を行う場合は、外部経済環境の変動の影響、セグメント単位、連結グループなど、その単位が大きいので、そのレベルでも、経済実態に忠実な表現となっているかを気遣う感覚が必要となってくる。合成の誤謬が起こっていないかだ。日本では個々の取引をルール通りに処理することで、その集計結果たる全体も正しくなると信じられているが、本当にそうか、確認する目が必要なのだ。そういうことも、この質的特性の読み込みから見えてくる。

 

今回は売上を例に考えてきたが、次回は、減価償却について考えてみたい。

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