有用な財務情報とは~「ゆっくり滑り」現象
前回(1/27)より大分間が空いてしまったが、今回はこのブログの本筋であるIFRSの話題に戻ろうと思う。前々回(1/26)、IFRSには継続性の原則に相当する言葉が見当たらず、日本でも継続性の原則がゆっくり滑りして内容が変化していると書き、前回(1/27)は日本の継続性の原則を復習し、最後にIFRSではむしろ積極的に変えろと言っているのではないかと書いて終わった。
そこでいよいよ日本での変化、「ゆっくり滑り」現象を記述していきたいと思う。
① 会計方針が限定された
耐用年数は会計上の見積もりと明確にされた。昭和54年の監査第一委員会報告32号では「現在、耐用年数の変更と継続性原則のかかわりについての考え方は必ずしも定かでない。」とされていたが、今では明確に会計上の見積もりだ。そのほか会計方針は、収益認識基準のように会計基準のないものは別だが、概ね会計基準上で明示されている方法に限定されてきたイメージだ。
② 選択適用できる会計方針が減った
後入先出法禁止、持分プーリング法廃止、棚卸資産の収益性の低下による低価法・時価のある有価証券に対する時価法の強制適用等がある。そして最近の会計基準は複数の会計処理から選択適用できる要素はあまりない。
いま振り返ってみるとこれらは会計ビックバンと言われた2000年ぐらいから漸進的に動いてきたものだと思われる。例えば②についての例に退職給付会計がある。退職給付会計基準が導入される前(2000/3期以前)は、会社によって自己都合による期末要支給額の40%を退職給与引当金として計上したり、保守的に100%を計上したり、場合によっては会社都合による要支給額をベースに計算していたが、いずれの方法も継続適用を条件に認められていた。それが退職給付会計基準によって退職給付債務の見積もり額を現在価値に割引いて、そこから年金資産の時価を差引いて退職給付引当金を計算する方法へ一本化された。監査意見も昔は継続性の原則に関する特別な限定意見があった(正当な理由による会計方針の変更であっても除外事項としていた。2003/3期から廃止。)。
会計基準等に明文化されて変わったものもあるが、間接的に雰囲気で運用が変わってきたものもある。1990年代までは、あらゆるところに継続性の原則を効かせていたように思うし、今は会計方針の範囲も①にあるように限定的に理解されるようになってきた。
そしてこれらの動きのとどめが企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」だ。
会計方針の変更は遡及調整だが、見積もりの変更は将来に向けて行う。従来は見積もりの変更も比較可能性に関する追加情報とするなど会計方針の変更とほぼ同様の取扱いだったが、これで完全に一線を画した。
また会計方針と区別が難しいものは見積もりの変更として扱うこととされたので、会計方針の範囲が狭まった。減価償却方法は、会計方針だが、その変更は区別が難しいものとして会計上の見積もりと同様に扱われる(IFRSでは減価償却方法は会計上の見積もり。日本がこのようにしたのは会計方針なら継続性の原則を効かせられるからと推察されるが果たして・・・。)。
根底で何が起こっているかを理解することが重要だ。地震のゆっくり滑りは、ゆっくり滑ることで地盤のひずみを解消し、周期的な地震が発生しなかったり、発生が遅らされるという説があったが、東日本大震災ではむしろ大地震を誘発したとの見方があるようだ。継続性の原則のゆっくり滑りの行きつく先はどこだろうか。もちろんIFRSだ。IFRSは経済環境の変化に応じて積極的に処理を変更しろと言っている(見積もりは当然、会計方針も)、というのが僕の今の印象だが、それを確認するために、根底にあるもの、即ち財務情報の質的特性の「忠実な表現」をさらに検討していきたい。
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