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2012年3月

2012年3月29日 (木曜日)

IFRS導入論議のおさらい

企業会計審議会が今日、3/29に開催される。直にその内容がニュース配信されると思うが、それまでに今までの議論をざっと復習してみよう。最近は議論の方向性が若干見てきたようにも思える部分もあるが、まだまだ先行き不透明だ。

 

昨年2月までは、当時のIASB議長のトゥイーディー卿が手を打って喜んだとも言われる20106月の中間報告をベースに、即ち、2012年に強制適用するか否かを決定し、2015年~2016年に適用することを検討するスケジュール感で進んできた。IFRSを導入する範囲は全上場会社、さらに連結先行、即ち、連結よりタイミングは遅れても単体にもIFRSを導入するイメージだった。

 

それが昨年2011年6月の自見大臣の記者会見で、中間報告に捉われずに議論するとして、企業会計審議会に(IFRS慎重派の)メンバーがたくさん追加された。その結果、6/30の企業会計審議会では、IFRSを止めて日本独自の道をという意見まで飛び出し、スケジュール感だけでなく、IFRSを導入する方向感もさえも失われた。

 

その後、8月に金融庁事務局が11項目の検討課題を提示したあとは、月一のペースで企業会計審議会が開催され、その検討課題を一つ一つ潰す形で進んできた。11月から12月には海外視察が行われ、その結果も前々回2/17に報告されている。前回2/29には、経団連が行ったIFRSの導入方法、範囲などについてのアンケートの報告と、原則主義に関する意見交換が行われた。

 

その経過を見ると、6/30の日本独自の道という主張はその後聞かれなくなったが、連単分離(連結のみIFRS)、強制適用は上場会社の一部に限定(或いはすべて任意適用)、カーブアウトする権利の留保といった主張のほか、2012年中に導入の方向性を出すべき(IASBやIFRS財団等における発言権の確保)といった主張もされている。いまのところは意見を出し合うのみで、意見集約はされていない。単体開示の省略や簡略化という意見は繰返し述べられている。

 

このほか前回の議事録を読むと、いまの審議方法(スケジュール感のなさ、意見集約をしないこと)について疑問が呈されたようだ。今日もどの議題が話し合われるのか分からないが、以前も記載した通り、スケジュールははっきり示すべきだと僕も思う。

 

また、単体開示を金融庁が譲らない(単体開示を省略したらどうかという意見には、必ず金融庁事務局から反対意見が出される)が、それほど単体開示は大事だろうかとも思う(これも以前書いた)。僕は連結も単体もIFRSにするのが良いと思っているが、それは単体を開示するためではなく、経営管理を一元化できるからだ。しかし、単体を開示しない前提を置けば、単体をIFRSにするか否かは別議論にして、「金商法の制度下でIFRS導入するか否か」の議論を優先させることができるため、IFRS導入の方向性を出しやすくなるのではないかと思う(連結を作成しない会社は単体をIFRSで開示する)。

 

単体をIFRSにするか、日本基準を残すか、或いは全面的に税務会計にしてしまうか、という議論は、税務当局などを含めて別の審議会を起ち上げてやったらどうだろうか。僕にしてみれば会計は実態を忠実に表現するものであって、だからこそ、会計を税務や他の規制に利用できるのだと思う。それであれば、企業会計審議会で議論してもらった方が良い。しかし、企業会計審議会のメンバーは、会計自体に税制や他の政府規制との利害調整機能がある、即ち、税務や他の規制のために単体の会計数値をIFRSとは変える必要がある、という意見が多そうなのだ。だとすれば、企業会計審議会ではそこまでを議論する権限できないだろう(企業会計審議会で税務会計を議論できないだろう)と思う。

2012年3月24日 (土曜日)

結局、東電は債務超過か?

長々と書いてきたが、このシリーズの冒頭の問い掛け「東電は債務超過か?」への答えをまだ書いていなかった。僕の答えは①「分からない」だ。しかし、②「国民の助け(税金投入)がなければ既に債務超過」だとはいえるだろう。そして、③「東電は国策として非常にリスクの高い事業を担っていた」という、ある意味当たり前のことに僕は気付かされた。

 

詳しく書かせてもらいたい。まず①「分からない」について。

 

機構からの交付金で相殺される原子力損害賠償費関係は、純資産に与える影響は小さいのでここでは考える必要はない。重要なのは災害特別損失だ。前期末に見積り額を引当てたが、ある程度具体的な工程表があったステップ1、ステップ2の期間であっても、各四半期で約1,000億円ずつ、第3四半期までで損失を3,100億円追加で計上している。見積もった直後のの第1四半期でも1,055億円の損失を追加計上していたのだ。これは、メルトダウンにまで至った複数の原子炉から放射線を漏れないようにし、冷温停止状態にすることがいかに困難であったかを示しているといえる。しかし、同時に前期末時点での見通しが甘かったということでもある。例えば、工程表がすべて予定通りに殆どトラブルもなく作業が進捗するような見積りだったのではないだろうか。同種の作業の経験・実績が豊富というのなら、そのスタンスで見積ればよいが・・・。

 

IFRSの概念フレームワークのQC16には次のような記載がある。

 

「その見積りは、報告企業が適切なプロセスを適切に適用し、その見積りを適切に記述し、その見積りに大きく影響する不確実性を説明している場合には、忠実な表現となり得る。」

 

だが、東電の2011/3期の災害損失引当金の注記には、「その被害額の全容の把握が困難であることなどから、現時点の合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している。」としながらも、ステップ1、ステップ2については「具体的な目標期間と個々の対策の内容に基づく見積額を計上している。」とするだけで、見積りの前提など確からしさに関する情報は記載していない。さらに、それ以降の期間について、「一方、具体的なロードマップを示していない中長期的課題に係る費用または損失については、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であることから、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。」と記載しているため、「全容の把握が困難」といっているのは、ステップ1、2が終わった後の中長期的課題に取組む期間のことだろうとも読める。

 

具体的な工程表がない、しかも数十年に及ぶ長い期間の見積りは十分だろうか。それも甘いのではないだろうか。これからも、これまで以上の追加の損失が多額に発生するのではないか。そう考えると、第3四半期末の純資産額9,700億円をそのまま信用するわけにはいかない。

 

僕は日本の開示制度に照らして東電の開示が間違っていると言っているのではない。読み手の側が、東電のスタンスを理解して読む必要があると主張しているのだ。もともとこの引当金は、見積りが非常に難しいと思う。したがって、それが狂うのは仕方ない。しかし、「合理的な見積り」といっても確からしさには幅があり、またどちらに振れやすいのかという問題もある。IFRSはそれも含めて開示することが忠実な表現になると言っているが、日本基準では規定がない。(実態は)準拠性の枠組みの実務では、このような開示をすることは努力目標にしかならない。仮に監査人が気を利かせて会社に記載を勧めても、会社が拒否したらそれまでというのが実務の現状だ。だから読み手の側が、しっかり開示側の姿勢を評価したうえで、開示を理解する必要がある。

 

したがって、読み手としては、純資産9,700億円を信じるのではなく、そういう会計基準と東電のスタンスを推し量って考えるしかない。しかし、9カ月で3,100億円過小だったというだけでは、甘いことは想像できてもいくらぐらい甘いかは分からないので、債務超過かどうかは分からないという結論になる。

 

次に②「国民の助け(税金投入)がなければ既に債務超過」についてだ。(このまま書き続けると、済みません、今回も長くなりそうだ・・・。)

 

既に第3四半期末の時点で、機構からの交付金がなければ債務超過だというのはお分かりだと思う。機構からの交付金は15800億円だからだ。これがなければ6,000億円近い債務超過になっている。では、機構交付金を国民の助け(税金投入)といってしまってよいか。あとから特別負担金として回収されるのではないか。

 

既に国民の助けを受けていると僕が考える理由は2つある。一つは、既に東電は自力での資金調達が困難な状況になっている。国民の助けなしに資金繰りを回せない。もう一つは特別負担金による全額の徴収は法律上も想定されておらず、むしろかなり高い割合で国民負担となると考える方が現実的と思われるからだ。

 

一つ目の問題だが、すでに報じられている通り、東電は機構と共に取引先金融機関に1兆円規模の追加融資を要請しているが、金融機関側が簡単に応じておらず難儀している。報道によれば、金融機関が東電を「正常先」に分類しているというが、金融機関も実態は「要管理先(要注意先の一番下)」以下と思っているだろう。だから追加の融資に応じられないのだ。今春を目途に策定される総合特別事業計画が経産大臣により認可され、少なくとも損害賠償費に関連した資金繰りが保証されない限りは、金融機関も東電への貸付金の回収が見込めない。そういう意味では機構からのサポートがあるからこそ、金融機関が追加融資に応じるのであり、すでに機構(≒国民の助け)なしに資金繰りはできない。

 

もう一つは、損害賠償費が機構から補填されているのにもかかわらず、東電は巨額の損失を計上しているが、その理由は福島第一原子力発電所の維持・廃止コスト(災害特別損失)と、化石燃料の追加購入によるコスト増や節電による収入減だ。いずれも長期的な問題であるため、ひと山越えれば黒字が毎期安定して数千億円も出せるようになるとは思われない。総合特別事業計画で資産売却や事業の効率化が行われるとしてもだ。もし、損害賠償が10兆円と仮定すると、毎年5,000億円ずつ毎期特別負担金を拠出しても、払い終わるまでに20年もかかる。その間、東電管内の企業や住民の負担も大変だ。20兆円だったらどうなるか。現実的と思えない。予想されている組織再編にも支障が出るだろう。具体的な割合は分からないが、残念ながらかなり多くの部分を税金から補填せざるえないように思う。政府の責任を定めた原賠法の趣旨からいっても、既に税金投入は実質的に始まっていると考えて良いのではないだろうか。

 

さて、ちょっと話は戻るが、重要な問題なのでお許し願いたい。資金繰りが自力でできないなら継続企業の前提の注記が必要なのではないか、ふと、僕もそう思った。ここに重要な不確実性があるのかと。僕は、前々回「原発事故に関する注記事項」や前回「東電の財政状態とリスク・・・」に、東電が総合事業計画の策定に関連して継続企業の前提に重要な不確実性があると開示ているのを、筋が違うのではないか、該当しないのではないかと書いたが、それは間違いだったのか。しかし、もしそういう趣旨で注記を行ったのなら、総合特別事業計画について機構と意見が合わないケースがあるとか、経産大臣の認可が得られないケースがあって、金融機関から融資を受けられなくなる恐れがあるなどと、率直に記載すべきだっただろう。自力で資金繰りができずに機構に依存しているが、機構は外部組織であり判断の方向性や内容に重要な不確実性があると。いずれにしても、第4四半期に入って、金融機関の追加融資に対する厳しい態度や電力料金値上げの困難さがよりはっきりしてきているので、第3四半期のような抽象的な開示を続けることは困難になると思われる。そして、こういうことがちゃんと書かれるなら継続企業の前提に関する注記があるのもうなづける。

 

だが、結論を出す前にもう少し考えてみよう。機構に資金繰りを依存していても、機構と息が合っているならやはり継続企業の前提の注記は不要だ。なぜ総合特別事業計画が策定できないケースとか、認可されない可能性が考えられるのだろうか。政府は原賠法や機構法の規定に従って、基本的には原子力事業者の資金繰りをサポートしないわけにはいかないはずだ。それに、前期末や第1四半期の時の機構法が可決されるか否かという国会決議のように、東電の努力の及ばないところで不確実性があるのであれば、確かに継続企業の前提に疑義があるといえるだろうが、東電によって解消可能な問題であれば、やはり、継続企業の前提の注記はやはり不要になることも考えられる。したがって、総合特別事業計画が策定できないケースとか、認可されないケースを具体的に想定し、東電の努力でできること、努力の及ばないことを分類してみる必要がある。

 

ただ、残念ながらすべての重要なケースをここにリストアップする能力は僕にはない。だが、仮に政府の持つ議決権比率が2/3を超える、超えないといったことが問題というなら、一株当たり純資産などの計算の考え方に問題がない限り、東電は受け入れるしかないのではないか。受入れたうえで、どうしたら電力の安定供給や原発の問題をうまく解決できるかを、出資者の下で考えていくのが普通の在り方ではないか。そこで東電側が企業の存続が脅かされているなど考えるのは理解できない。

 

もし、総合特別事業計画が策定できず、或いは認可されず、そして金融機関から追加の融資を受けられず、かつ、原賠法や機構法があるにもかかわらずに国が何ら資金的なサポートをしないとして、継続企業の前提の注記の記載を継続するような事態になるなら、なぜそのような事態に陥ったのか、その原因が明確に分かるような注記を期待したい。それが不確実性の内容の説明になるはずだ。

 

(こんなことを書いていたら、総合特別事業計画の全容が22日に判明したというニュースが入ってきた。政府出資が51%で決まったそうだ。但し、改革が進まないなど条件次第で議決権比率が2/3を超えられるような特殊な株式を別に発行する。その総合特別事業計画では、柏崎刈羽原発の再稼働を前提としているとのことだが、原発の再稼働は地元の同意が必要なので、今の雰囲気では東電の努力の及ばない領域で、同意が取れるか、最後に政治がどう判断するかには重要な不確実性があると考えられる。それが金融機関の与信に影響し、東電の資金繰りが窮するということであれば、継続企業の前提の注記が必要になる。ただ、機構は、政府の予算化が必要だが、債務保証や直接の貸付金で、東電の資金繰りをサポートすることもできる。今後の事態の推移次第で、継続企業の前提に関する注記は必要になることもあるし、不要なこともありえる、ということになる。)

 

さて、③「東電は国策の一部として非常にリスクの高い事業をしていた」についてだが、もう長文過ぎるので簡単に済ませたい。結論としては、納税者としては残念だが、相応の負担の覚悟が必要だ。その代わり、東電のみならず、過去の政治や行政の責任(安全管理が甘くなった原因、被害者の補償が遅れた原因)も、速やかに追及・解明されることを期待したい。

2012年3月22日 (木曜日)

東電の財政状態とリスクについての一つの見方(まとめ)

5回にわたって、東電の2011/3期から2012/12基準日の第3四半期までの有価証券報告書及び四半期報告書を見てきた。いまこれらの記事を読み返してみると、我ながらなんと分かり難い文章かと自分で驚くが、なんとか気を立て直して分かりやすくなるように、もう一度努力してみた。順番に読んでこられた方にはくどいかもしれないが、改めて以下に要約した。

 

=資金繰り、財務的な負担について=

  1. 原子力損害についての賠償は、被害者への賠償も除染費用も東電が窓口になって支払うが、資金繰りのサポートを国(機構)が行う。
  1. 1の費用の最終負担は、東電が負担しきれない分を国が負担する。
  1. 12の国(機構)のサポートや最終負担には、特別事業計画の主務大臣(経産大臣)の認可が前提。
  2. 法律上は、株主や金融機関の負担も含めて、原子力発電を国策として進めてきた政府負担の在り方を検討するよう求めている。
  1. 東電が震災から受けた損害(福島第一原子力発電所1~4号機の維持・廃止費用を含む)は東電の負担なので、債務超過の原因となりうる(資金繰りは上記に含めて国(や機構)が考慮するものと思われる)。
  1. 震災後一年間の社会的議論の中で顕在化されてきた原子力発電のリスクによって、国の政策が方向転換しようとしている。それについてどういう財務的な影響があるかを開示するタイミングが来ている。

 

=開示に関するコメント=

 

以下は、今までの開示に不備があると指摘するものではない。ただ、今まで一般には意識されてこなかった、或いは、意識が薄かったリスクが震災から1年たって顕在化され、今春を目途に提出される総合特別事業計画を一つの契機として、(たとえ総合事業計画が認可されなくても)状況が大きく変わると思われるので、前期末の混乱の中で考案された開示の骨格を、2012/3期決算では見直すのではないかと期待してのものだ。

 

(継続企業の注記)

機構法の成立によって資金繰りが破たんする可能性は大きく低減された。唯一あるのは、株主や金融機関の責任を問う東電の破たん処理を国の政策として選択する場合だが、その場合であっても、損害賠償の窓口、電力の安定供給という機能を維持するために、会社の形は変わっても事業は継続され存続する。その会社が上場廃止にならない方法もある。よって継続企業の前提に関する重要な疑義はあるかもしれないが、重要な不確実性が存在しているとはいえない。よって第2四半期以降は継続企業の前提に係る注記は不要だったかもしれない。

一方で、直接電力供給に関連しない資産・事業の売却や発送電分離といった企業の形を大きく変えるような改革の可能性や、損害賠償に多くの人的資源を割くことや、電力料金の設定(値上げ)が従来以上に困難になるといった経営上の負担については、事業上のリスク等など適当な個所でより具体的な情報開示が必要ではないか。

 

(引当金、偶発債務の注記)

損害賠償費や除染費用に関しては上記のとおり国のサポートがあるので、財務的にはリスクではないが(但し、経営に与える影響も、プラス・マイナスの両面で大きい。企業の形を変えたり、多くの人的資源を割くことになる)、財務面に関連した多くの注記や文章による開示が行われている。一方、東電が直接被災して発生した損害については、債務超過の原因になりうるのに四半期報告書に注記がないなど開示が不足している。また、見積もれない、或いは概算計上しているものについて、定量的なイメージを持つのに参考になる情報が開示されていない、或いは情報の更新がされていない。また、特別事業計画に盛込まれていない費用を引当金に含めても、会計上は差支えない、というか、B/S、P/Lで全体像を見られることが理想なので、なるべく盛り込んでほしい。

 

(事業上のリスクなど)

脱原発(依存)政策は、既存の原発関係資産の減損に結びつくので、財務的な影響は非常に大きい。これだけで債務超過になりえる。また、核燃料サイクルの技術的或いは制度的な実現可能性は疑われており、これによる財務的な影響も大きい。これらについて、長期間原発が停止するリスク、核燃料サイクルの追加コストについての記載はあるが、従来はこれで良くてもこの一年間の社会的議論を踏まえれば、今後は十分とは言えない。国の政策・制度が変更されることの影響を具体的に記載すべき時が来ていると思う。

また、「使用済燃料再処理等積立金」を被害者の賠償へ流用するという話は、あまり実現性のある良いアイディアとは思えないが、議論の進展によっては開示が必要になるかもしれない。

 

=僕の見方=

以上は、内実をよく知らない第三者(僕)が、開示制度に照らして考えたことだが、どうももう少し何かありそうな気がする。実は、僕が(財務的な)リスクがないとした損害賠償をサポートする国の仕組みに東電は、本当に、大きなリスクを感じているのかもしれないとも思うのだ。継続企業の前提の不確実性には当たらないものを注記をしてきたとか、資金繰りはサポートされ財務的なリスクはない項目に詳しい説明をし、その一方で自らが被災した被害の見積りの情報は更新してこなかったなどといった指摘は、内実を知らない者の形式論なのかもしれない。東電にしてみれば、素直に怖いと思っているものについて、一生懸命説明していただけかもしれない。そこで、もう少し東電の側に立って、なぜこのような開示をしてきたかを考えてみたい。

 

東電が、四半期報告書で詳しく情報開示をしていたのは、主に、損害賠償費に関連する部分で、しばしば今春策定される総合特別事業計画策定に関連するリスクを強調していた。第3四半期報告書では、以下の6か所で繰返し記載している。尋常ではない。

・「事業等のリスク」の継続企業の前提

・「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の対処すべき課題

・同じく、事業等のリスクに記載した重要事象等についての対応策

・継続企業の前提に関する事項の注記

・追加情報の注記

・偶発債務の注記

 

一つには、損害賠償責任を果たす姿勢を強調したいという思いもあると思うが、それは財務情報としては主役ではない。やはり特別事業計画に関連することだろう。特別事業計画は、機構と一緒に策定して経産大臣の認可を受けるわけだが、東電は、そこに重要な不確実性があると言っている。特別事業計画がどのようなものになるかその内容に不確実性を感じているということか、それとも計画が策定されても認可されずに資金の支援がなされない可能性を感じているのか。いずれにしても政治と関わる部分、政策変更のリスクを感じているらしい。

 

今回の大震災では、今まで隠れていた色々なリスクが震災を機に顕在化したと言われる。リスクはもともとあったのに意識していなかったのだ。公益企業といえば、いままで業績が安定しているイメージがあったが、公益企業にも隠れていたリスクがあって、それが今回顕在化したということだろう。それは、政治による政策変更のリスクだ。いままでは国の政策と一体で事業を進めてきて、安定した利益を得ていた。ところが、それが変更される可能性が高まったということだ。

 

国の政策は国民のためにあるもので、特定の組織のためのものではない。だが、長期間一貫した政策が行われると既得権益が生まれる。既得権益を持った者は勘違いしてそれが権利だと思ってしまうが、たまたま幸運だったに過ぎない。国の政策に協力してきた、との思いもあるだろうが、それで安定した事業基盤が維持されてきたのだから、ちょうど相殺だ。変化を拒むのではなく、みんなと同じに変化に対応することを考える必要がある。

 

東電が、国と長い間二人三脚をしてきたとしても、早くそういう整理が付けられれば、この2012/3期の開示は変わるはずだ。国の政策を代弁するとか、国と共同歩調を取るようにとか、そういう感じではなくて、国を第三者と同様にちょっと突き放して冷静に眺めてみれば、政策変更の方向性と財務的な影響評価の重要性に思いが至るはずだ。そして自分を客観視できるのであれば、どれだけ恩恵を受けてきて、また、失おうとしているかも分かるはず。株主や債権者にとっても、具体的にそういうリスクを見ることが、国や東電にどういうスタンスで臨むかの意思決定に役立つ。これがIFRSの概念フレームワークでいうところの、目的適合性のある開示ということになるのだと思う。

 

そう考えると、やはり、脱原発(依存)や核燃料サイクルの実現可能性は率直かつ具体的にリスクを書いた方が良いだろうと思う。また、特別事業計画に盛込めないと引当が積めないなどと考えず、むしろ財政状態がどうであるかをしっかり把握する目的で数字を計算してみて、なるべくB/S、P/Lに載せられるようにすべきだと思う。どうしても載せられない項目について、定量的なイメージが持てるような注記を記載してほしい。

 

というわけで、やはり上記のコメントと同じ内容になってしまった。これをお読みのみなさんも、こういう観点を持って当事業年度の東電の決算を読んでもらうと、少し退屈せずに読めるかもしれない。

原発事故に関する注記事項

前々回前回と、B/SP/Lに会計処理されている項目を見てきた。その結果、損害賠償に関係する項目(原子力損害賠償費等)は、特別事業計画が認可されれば、損失が機構によって補填され、かつ、機構は東電の資金繰り等の状況から、一般掛け金、特別掛け金の額を決めるため、これによって東電の資金繰りが破たんする可能性は低いと考えられた(前々回)。また、東電自体が受けた損害(災害特別損失等)については、同様の補填の仕組みがないため、東電が債務超過になる可能性が考えられたし、ステップ2の後の見積りや国の政策が即時脱原発となった場合に財政状態へ与える影響が注目された(前回)。さて、これらが注記にどのように表現されているだろうか。

 

注記は、会計処理のイメージや勘定科目の内容を理解するのに役立つが、それだけではない。時には財務諸表本体より重要な場合がある。東電の場合は、次の注記が重要だと思う。

 

 ① 継続企業の前提に関する注記

 ② 合理的に見積ることができないとして引当金の限界を示した注記(偶発債務の注記等)

 ③ 過去実績と比較するために重要として特に説明を加えている注記(追加情報、継続性の変更)

 

このほかに、財務諸表自体ではないが、前の方に記載されている事業等のリスクも重要だ。以上の観点から、第3四半期報告書の注記を見てみよう。

                             
 

注記の種類

 
 

関連性の強い勘定科目

 
 

上記の観点から記載内容のうち重要と思われる部分

 
 

継続企業の前提に関する注記

 
 

原子力損害賠償費等

 
 

当社の経営のあり方について中長期的視点からの抜本的な改革に向けた見直しを行うために、今春を目途に、同計画を改定した「総合特別事業計画」を策定する必要があることを踏まえると、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。

 
 

追加情報

 
 

原子力損害賠償費等

 
 

避難等対象者の避難費用や精神的損害、自主的避難等に係る損害に加え、客観的な統計データ等により合理的な見積りが可能となった避難指示等による就労不能に伴う損害や営業損害および農林漁業における出荷制限等に伴う損害、農林漁業や観光業における風評被害等の賠償見積額1,764,512百万円から、「原子力損害賠償補償契約に関する法律」(昭和36年6月17日   法律第148号)の規定による補償金(以下「補償金」という)の受入額120,000百万円を控除した1,644,512百万円について、当第3四半期連結累計期間において原子力損害賠償費に計上している。これらの賠償額の見積りについては、参照するデータの精緻化や被害を受けられた皆さまとの合意等により今後変動する可能性があるものの、現時点での合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している。

 
 

偶発債務

 
 

原子力損害賠償費等

 

 

 

 

 
 

具体的算定方法及び客観的な統計データ等に基づき合理的な見積りが可能な額については、当第3四半期連結累計期間において原子力損害賠償引当金に計上しているが、中間指針等の記載内容や現時点で入手可能なデータ等により合理的に見積ることができない農林漁業や観光業以外の風評被害や、間接被害及び財物価値の喪失や減少等については計上していない。なお、「平成二十三年三月十

 

一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年8月30日   法律第110号)に基づき講ぜられる廃棄物の処理及び除染等の措置等に要する費用として当社に請求又は求償される額については、現時点で当該措置の具体的

 

な実施内容等を把握できる状況になく、合理的に見積ることができないことから計上していない。

 
 

セグメントの変更

 
 

 
 

東北地方太平洋沖地震の影響を踏まえて平成23年5月20日に公表した「当面の事業運営・合理化方針」において、グループ体制についても見直しを行い、電気の安定供給に必要不可欠なもの以外の事業について、大幅に縮小・再編することとなった。

 

 

みなさんは以下のことに気付かれただろうか。

                   
 

 A

 
 

債務超過になる可能性がある災害特別損失に関する説明がない。

 
 

 B

 
 

資金繰りが保証されている原子力災害賠償費に関する注記はたくさんある。但し、合理的に見積れない項目に関して定量的なイメージを持てるような情報は一切記載がない。(合理的に見積れない項目についても、定量的なイメージを持てるような情報を記載すべきことは、既に2011/7/6の記事に記載済みだ。)

 
 

 C

 
 

継続企業の前提に重要な不確実性がある場合に、継続企業の前提に関する注記が記載される。通常は少なくとも1年間資金繰りに重要な不確実性がある、即ち、倒産する可能性のある場合に記載するのに、経営の在り方が抜本的な見直しされることについて記載している。(しかし、組織再編されたり、上場廃止になることは、継続企業の前提に関する疑義にも不確実性にもならないはずだ。)

 
 

 D

 
 

脱原発の動きが東電の経営に与える影響については一切記載がない。(事業等のリスクなどでも、一切触れていない。
   
赤字部分は不正確でした。脱原発(依存)についての記載はありませんが、事業等のリスクの(4)に長期間停止するリスクについては記載がありました。申し訳ありません。2012/3/22

 
 

 E

 
 

世間では、核燃料サイクルの実現性も疑われているが、再処理や高速増殖炉が実現できない場合のリスクについて記載がない。(事業等のリスクなどでも、一切触れていない。
   
赤字部分は不正確でした。実現できない可能性についての記載はありませんが、事業等のリスクの(4)に追加コストについては記載がありました。申し訳ありません。2012/3/22

 

 

以上は、事実を僕は追いかけてきたつもりだ。次回はこれら、特に上記のA,C,D,Eから読み取れることを僕の意見として記載したい。

 

僕は文句ばかりつけている、或いはこれからつけようとしているが、実は注記を読んで見ると、東電が被災者に対して誠実に、速やかに、そして、十分な補償を行おうとする姿勢が随所に表れている。有報や四半期報告書に、財務報告とはちょっと筋の違った内容をここまで書くのは異例だと思う。少し感動すらしている。一体何が障害になっているのだろうか。早くそれが適うことを願っている。

2012年3月17日 (土曜日)

災害特別損失の見積り

原子力損害賠償費及び原子力損害賠償引当金については、前回国の支援内容を検討し、特別事業計画を機構と作成し主務大臣の認可を受けることで、機構から資金が補填されることを見てきた。即ち、損失が計上されても見合う利益が計上される。一方、災害特別損失は、そのような利益項目は見当たらず、そのまま純資産を減少させ東電の負担となっている。債務超過になるとすれば、この災害特別損失の方こそが重要だ。災害特別損失及び災害損失引当金に関する東電の開示をみて、この項目になにが集計され、また、なにがまだ荒い見積りなのかを整理してみようと思う。

 

四半期報告書では、なぜかこの災害特別損失関係の注記はない(上述の通り、これこそ、東電の純資産に直接影響を与えるものであるので、四半期であっても丁寧に説明すべきではないだろうか)。そこでとりあえず、2011/3期の「災害損失引当金」及び「災害特別損失」に関する注記を下記に抜き出してみる。金額は、左側が災害損失引当金(B/S)の内訳、右側が災害特別損失(P/L)の内訳で単位はすべて億円。

 

     
 

新潟県中越沖地震2006/10による損失等に係るもの(このブログには関係ない項目)

 
 

(災害損失引当金)

 

 564億円

 
 

(災害特別損失)

 

   -

 
     
 

東北地方太平洋沖地震による損失等に係るもの

 
 

(災害損失引当金)
      
7.752億円

 
 

(災害特別損失)

 

 1204億円

 

 <内訳>

     
 

a   原子炉等の冷却や放射性物質の飛散防止等の安全性の確保等に要する費用または損失

 
 

4,250

 
 

4,262

 

平成23年5月17日に公表した「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」における当面の取組みのロードマップに掲げたステップ1及びステップ2については、具体的な目標期間個々の対策の内容に基づく見積額を計上している。

一方、具体的なロードマップを示していない中長期的課題に係る費用または損失については、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であることから、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。1

 

                       
 

b   福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に関する費用または損失

 
 

44

 
 

2,070

 
 

 ①原子力発電設備に関する減損損失

 
 

 
 

1,016

 
 

 ②原子力発電施設の解体費用

 
 

 
 

458

 
 

 ③加工中等核燃料の損失、核燃料の処理費用

 
 

44

 
 

594

 

今後の使用が見込めない加工中等核燃料に係る処理費用について、使用済燃料再処理等準備引当金の計上基準に準じた見積額を計上している。なお、装荷核燃料に係る処理費用は使用済燃料再処理等準備引当金に含めて表示している。2

 

     
 

c   福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の原子炉の安全な冷温停止状態を維持するため等に要する費用または損失

 
 

2,118

 
 

2,118

 

被災した福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の今後の取扱いについては未定であるものの、原子炉の安全な冷温停止状態を維持するため等に要する費用または損失は、新潟県中越沖地震により被災した柏崎刈羽原子力発電所の復旧等に要する費用または損失と同程度と判断し、これに基づく見積額を計上している。3

 

     
 

d   火力発電所の復旧等に要する費用または損失

 
 

497

 
 

497

 

被災した火力発電所の復旧等に要する費用または損失に備えるため、当連結会計年度末における見積額を計上している。資産の損壊状況の把握が困難であるものについては、再取得価額に基づく除却損相当額を見積り、その損失見込額を計上している。

 

     
 

e その他

 
 

842

 
 

862

 

 

1 現時点では既にステップ1もステップ2も終了している。直近の特別事業計画(2/3改定)によれば、ステップ220111216日には終了が確認されたとしている(P10)。したがって、注記でいうところの中長期的な課題に取組む期間に既に入っていることになる。では、12月末が基準日となる第三四半期報告書では、中長期的な課題に取組む期間に関する見積りが更新されただろうか。災害損失引当金は9,266億円と金額が前期末より948億円増加しているが、残念ながら、上述したように四半期報告書には、内容に関する説明は見当たらない。

 

また、「・・・中長期的課題に係る費用または損失については、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であることから、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。」と記載されている。海外の事故とは、具体的にスリーマイル島の事故なのか、チェルノブイリの事故なのか、或いはその両方なのか、そしてどのようにこれらの実績を利用したのかは分からない。スリーマイル島より原子炉の損傷は厳しく、チェルノブイリはソ連時代のことなのであまりデータはないのではないだろうか。いずれにしても、これだけでは十分な引当になっているか判断は困難だし、東電も「概算」であることを強調している。

 

2 「加工中等核燃料」の「加工」とは、使用済核燃料を核燃料サイクルで利用できるように六ヶ所村などで再処理することを指す。また「装荷核燃料」とは原発内の核燃料を指す。再処理計画が具体的に決まっている使用済核燃料については「使用済燃料再処理等引当金」、装荷中のものなど、まだ決まっていないものは「使用済燃料再処理等準備引当金」に計上される。これらの引当金は、六ヶ所村などの再処理施設の建設・運用・廃棄のコストの総額を一定の想定のもとに19兆円と試算し、その19兆円を各原子力事業者へ分担させたものを、割引いて、年々の核燃料の使用状況によって引当計上しているものだ。(2011/3期時点の引当額は、計画のあるもの11,928億円、計画のないもの550億円となっている。)

僕は詳しくはないが、計画が決まっているといっても六ヶ所村の再処理工場は、2009年から稼働するはずだったものが、トラブルで稼働が延びている。稼働が延びればその分確実に再処理コストは膨らんでいく。ただ一方で、再処理せずに直接最終処分した方がコストが安いという話もあるようだが、最終処分は候補地も決まっていないから、果たしてそうなるのか何ともいえない。また、使用済核燃料等の放射能汚染物質の最終処分コストは見積り計上されていないらしい(それらしき科目は見当たらない)。

 

参考だが、資産に「使用済燃料再処理等積立金」なるものが2011/3期で9,826億円計上されている。これは上記のコストを外部資金管理団体へ拠出して再処理するときのキャッシュを確保するもので拘束性の預金のようなものだ。この外部資金管理団体(公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センター)には、各原子力事業者から集められた資金が、昨年3月末時点で24,416億もあるという。そして、これを原発被災者への損害賠償に流用するアイディがある。しかし、この外部資金管理団体が各電力会社へ払戻しをせずこの資金を被害者への損害賠償へ使用した場合は、それに応じて各電力会社が「使用済再処理等積立金」を取崩して損失計上することになる。(もし、電力料金を上げないためのアイディアであれば、この損失が電力料金に跳ね返られないようにしなければならないが、残念ながらそれは無理ではないか。)このアイディアが実際に採用されるかどうかは分からないが、東電にとっては預金が無くなることなので、財務的なリスクとなる。

 

3 福島第一原子力発電所の5号機、6号機については、再稼働する前提なので、もし、1号機~4号機と同様に廃止されることになった場合は、減損やその他の追加費用が発生し、さらに純資産を減少させる原因となる。減損額については、上記のb①の1,016億円が1号機~4号機の分であり、金額イメージを持つには参考になる。

原子力発電施設の廃止費用は、従来からその一部が「原子力発電施設解体引当金」として計上されていたが、2011/3期から資産除去債務に係る会計処理基準が適用されたため、その見積り総額の現価相当額が資産除去債務として計上されている。福島第一の1号機~4号機の分について、従来の引当額を超える部分はこの災害損失引当金、特別災害損失に計上されており、上記のb②の458億円がそれに相当する金額と思われる。これも同様に5号機、6号機が廃止される場合の金額感を持つのに役立つ。

 

なお、仮に原発がこのまま再稼働せず、もうこれ以上原子力発電が行われないことになれば、2011/3期の数字でいうと、少なくとも以下のものが減損されることになる。すると、東電は完全に債務超過だ。電力会社が再生可能エネルギーに消極的に見えるのは、こういうところに一つの原因があるのかもしれない。

 ・原子力発電設備   7,341億円

 ・装荷核燃料     1,339

 ・加工中等核燃料   7,360

  合計       16,041億円

 

このほか、偶発債務、継続企業の前提、追加情報といった注記に原発関連のことが記載されている。財務諸表以外の部分では事業等のリスクにも記載されている。これらについても詳細に内容を見てみたい。

2012年3月15日 (木曜日)

国による財政的な支援の内容

国の支援内容は、資金繰りのサポートに限定されるのか、それとも資金供与(政府負担、即ち、国民負担)までをも含むのか。これが前回示した1(損害賠償費用)と2(汚染瓦礫等の廃棄・除染費用)の東電の負担の重さを決める。東電は、これに関する支出と収入を特別損失と特別利益に両建てし、注記には特別事業計画を機構とともに作成し、かつ、賠償責任を全うするとの決意を記載しているが、最終的に誰が負担するのかについては明確ではない。例の特別負担金はどうなっているのだろうか。

 

これを理解するには、これも前回記載した昨夏成立した機構法について理解する必要がある。法律を読むのは得意ではないが、原賠法に続いて機構法についても、やらざるを得ない。

 

その前に、昨年2011513日原子力発電事故経済被害対応チームから関係閣僚会合決定として「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」という文書が公表されている。これで概要を頭に入れてみよう。そこに次のような文章がある。

 

事故によって住民や事業者の方々に大きな損害が発生していることに対し、今般、東京電力が、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」)に基づく公平かつ迅速な賠償を行う旨の表明があった。また、東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の事故等により資金面での困難を理由として、政府による支援の要請があった。

・・・政府は、これまで政府と原子力事業者が共同して原子力政策を推進してきた社会的責務を認識しつつ、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うものとする。

 

これが機構法の制定につながった。原賠法の下の制度ということだが、原賠法は、被害者の救済が遺漏なく迅速に行われるために原子力損害の責任を原子力事業者たる東電に集中させるものであった。そして原賠法16条に「政府は、・・・損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。」とされている。即ち、損害賠償措置額(現在は1,200億円)を超える損害額が発生したら、国が援助するのは、原賠法が制定された1961年からの既定方針だ。ただ、「資金面での困難を理由として」と「国民負担の極小化を図る」とされているところが、上記文書の新しいところだ。これが何を意味しているか、即ち、資金繰りのサポートに限定されており、政府負担は殆どない仕組みが担保されているのだろうか。僕の法律の読解力を信頼してもらえるのであれば、この点について機構法は次のようになっている。

 

結論から言えば、この機構法では政府負担が想定されている。納税者としては残念ながら、というところだが、東電の財務諸表を読むうえでは「そういうことだったのか」と特別負担金について会計処理がないことに一応合点がいく。政府負担が想定されていると思う理由は2つある。

 

まず、一つ目の理由から。

 

政府が機構を通じて東電に交付する資金は2種類あり、一つは国債を交付する形(機構は必要に応じて国債の償還を求め資金化する)、もう一つは資金を交付する形(第51条、第68条)がある(このほかに債務保証等によるサポートもあるが端折る)。前者(国債を交付する形)は、機構に剰余金が発生すれば、剰余金から国庫に返納される仕組みがあるが(第59条第4項)、後者については回収について特に触れられていない。

 

では、後者についてどんな支出が考えられるかというと、いま駆引きされている東電への出資(1兆円?)がそれに当たると思う。これが政府負担になるかどうかは東電の財政状態次第だが、これだけではない。注目すべき条文を下記に転記する。

 

(政府による資金の交付)

第六十八条 政府は、著しく大規模な原子力損害の発生その他の事情に照らし、機構の業務を適正かつ確実に実施するために十分なものとなるように負担金の額を定めるとしたならば、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼす過大な額の負担金を定めることとなり、国民生活及び国民経済に重大な支障を生ずるおそれがあると認められる場合に限り、予算で定める額の範囲内において、機構に対し、必要な資金を交付することができる。

 

交付した国債分の資金については、原子力事業者(電力会社等)から負担金を機構が徴収し、剰余金が発生すればそれを国庫へ回収するが、負担金が重くなり過ぎて返って国民経済に重大な支障を生じる場合は、政府が資金を交付をすることとなっている。そういえば、既に東電が電力料金の値上げを言い出すと、あちこちから悲鳴が上がっている。いずれは、これが重大な支障とされるだろう。これに加え、附則に珍しい(と僕は思う)「検討」という項目がある。

 

(検討)

第六条 2 政府は、この法律の施行後早期に、平成二十三年原子力事故の原因等の検証、平成二十三年原子力事故に係る原子力損害の賠償の実施の状況、経済金融情勢等を踏まえ、平成二十三年原子力事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方、当該資金援助を受ける原子力事業者の株主その他の利害関係者の負担の在り方等を含め、国民負担を最小化する観点から、この法律の施行状況について検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。

 

要するに、「政府負担」の在り方を早期に検討するよう政府に義務付けている。「国民負担を最小化する観点」とも書いてあるが、これらは10兆、20兆の単位だ。冷静に考えれば、誰の目にも東電がすべて負担できるような金額ではない。しかし、被害者への損害賠償や放射能に汚染された廃棄物、除染は、可及的速やかに行わなければならない。その窓口を東電にやらせている現状では、東電を潰しようがない。

 

次に2つ目の理由。

 

機構が徴収する負担金には一般負担金と特別負担金があるが、この総額及び各社ごとの負担割合は機構の運営委員会によって毎年決められる(主務大臣との協議は必要。第39条、第52条)。原発事故を起こした東電から徴収する特別負担金は「できるだけ高額」とされているだけで、援助した資金の全額とは書いてない。(ただ、負担金は原子力事業者ごとに管理されるので(第58条第4項)、誰が多く、誰が少ないかは分かる仕組みにはなっている。)

 

運営委員会が負担金の額を決めるにあたっては、各原子力事業者の収支の状況に照らし、電力の安定供給への支障や利用者に著しい負担を及ぼすおそれのないものとなるよう求められている。原発の再稼働が見込めず、化石燃料が高騰し、再生可能エネルギーへ転換していかなければならない電力会社の収支は、これから楽になっていくとは到底思えず、自ずと負担金は少額に留まるに違いない。

 

さて、以上からいえることは、原子力事業者は負担金を徴収されるといっても、東電が負担する特別負担金も含め、収支状況によって加減してもらえる上に、政府は政府負担についても早急に検討せねばならず、上限にキャップが付けられる可能性が高い。即ち、債務額が確定していない。さらに、東電は特別事業計画の中で多額のコスト削減や資産売却を求められる予定だが、現実には、超円高にもかかわらず、化石燃料の購入増だけで第3四半期までで2,200億円の営業赤字になる収支状況で、特別負担金について多額の支払いを求められることは、当分の間は可能性が低いのではないだろうか。すると、この状況で特別負担金について負債認識(会計処理)することは、難しいことが理解できる。だが、注記での開示はどうだろう。特別負担金について現在の注記はどのように扱っているのだろうか。

 

またもう一方で、上記の附則第6条第2項では、株主や金融機関への負担も含めた検討を求められている。即ち、いったん破綻させ、会社分割等を行って再生させる可能性もないわけではない。それについての注記は必要ないだろうか。或いは(今春をめどに策定される総合特別事業計画に重要な不確実性があるとしている)現在の継続企業の前提に関する注記(GC注記)で十分なのだろうか。

 

既に非常に長くなってしまったが、これらの注記の検討については、前回記載した他のポイント(災害特別損失や原発再稼働問題)を検討した後、合わせて改めて検討する。

2012年3月13日 (火曜日)

原子力事故に関係する重要な決算項目

まずは、原子力事故災害の損害賠償の仕組みと絡めて関連する勘定科目の概要を理解しようと思う。これが原子力損害賠償引当金(被災者への賠償額)や災害損失引当金(原発廃炉費用等)、そして継続企業の前提に関する注記などを理解するのに役立つからだ。

 

どうやら、今回の原発事故の損害で、決算に関係するものは、次の種類のものらしい。

  1. 東電に損害賠償請求される避難費用や精神的損害、風評被害、その他間接被害
  2. 国、地方公共団体(、東電)の放射能廃棄物処理、除染事業にかかる費用
  3. 福島第一原発の冷温停止や廃炉に関する費用(例のロードマップに対応する費用)

 

12は、国の財政上の支援があるが、3についてはないようだ。

 

12について)

12は、ともに「原子力損害の賠償に関する法律」(昭和36617日、最終改正平成21417日、以下「原賠法」という)の対象範囲の費用だ。この法律の下に、例の管首相の退陣と引換えに国会で昨夏可決された法律の一つ、「原子力損害賠償支援機構法」(平成23810日、以下「機構法」)により「原子力損害支援機構」なる組織が発足し、ここが東電の財政上の支援を行うことになった。東電は、これらに関する費用を「原子力損害賠償費」として特別損失に計上する一方で、その未支出の見積額を「原子力損害賠償引当金」として負債に計上し、さらにこの機構からの「原子力損害賠償支援機構資金交付金」を特別利益に、その未収額である「未収原子力損害賠償支援機構資金交付金」を資産に計上している。この結果、前回記載したように、これに関する特別利益と特別損失は、ほぼ相殺されるような金額となっている。但し、2にかかる費用について東電は、まだ合理的な見積りが行えないとして、当第3四半期までは計上していない。

 

1については「原子力損害賠償紛争審査会」(以下「審査会」)と、「原子力損害賠償紛争解決センター」(以下「紛争解決センター」)が設けられ、審査会は補償の対象者や賠償額の算定についての指針を公表し、紛争解決センターは、具体的な申立てについて、審査会が公表した指針に基づいて弁護士等による和解が図られる仕組みになっている。一時、自動車事故の自賠責の慰謝料を参考にしてよいのかと話題になった避難者の精神的損害に対する1カ月10万円の補償は、この審査会が公表した中間指針(平成2385日)に記載されている。また、先月上旬に報道された、被害者との和解案を東電が拒否したというのは、この紛争解決センターが作成した和解案だ。中間指針のあとに中間指針追補(平成23126日)が公表され、自主的避難者等に関する対応が追加されている。

 

2については「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する特別措置法」(以下、放射能物質汚染対処特別措置法、平成23830日公布、平成2411日全面施行)に基づいて定められた地域の放射性物質により汚染された廃棄物の処理、土壌等の除染作業にかかる費用だ。福島県双葉郡に最長30年間或いは20年使用する中間貯蔵施設を作るかどうかが検討されているが、この法律に基づくものだ。これらの費用は国から東電へ請求されることになる。

 

これらの費用は、東電と機構が特別事業計画を作成し経産大臣に認可されると、「合理的に算定可能な見積り額」として取扱われ、東電の決算にも計上されるようだ。今までの特別事業計画は緊急事項に対応させた「緊急特別計画」だそうで、今春を目途に「総合特別事業計画」が策定されるという。これが策定されるとそれに盛り込まれた費用が引当計上され、同時に機構交付金がもらえることになる。

 

3について)

3に関する費用について東電は「災害特別損失」に含めて特別損失に計上し、このうちの未支出額の見積額は「災害損失引当金」に計上している。これについて国からの財政上の支援措置は特にないらしく、12のように対応する特別利益はない。2のうち、原子力発電所敷地内のものについては東電が直接行うが、これも「災害特別損失」及び「災害損失引当金」に含まれている(東電が公表したロードマップ「事故の収束へ向けた道筋」(平成23417日)に含まれている)。

 

廃炉が決定された福島第一原子力発電所第1号機~第4号機以外の原子炉の廃炉費用(原子力発電施設解体費)については、資産除去債務に含められている。原子力発電施設解体費については、「原子力発電施設解体引当金に関する省令」(経産省令)により、2010/3期までに福島第一を含め、5,100億円が計上されている。福島第一の今回の事故による1号機~4号機の見積り増加額は「災害特別損失」及び「災害損失引当金」に含まれているとされている。だが、福島第二原子力発電所の取扱いは未定であるため、これについては廃炉を前提とされた処理はされていない。

 

また、使用済み核燃料の処分費用としては、「使用済燃料再処理等引当金」が11900億円、「使用済燃料再処理等準備引当金」が550億円が計上されている(いずれも2011/3期)。前者が再処理計画が具体的な使用済み核燃料、後者が同計画がないものを対象にしているとされている。被災した福島第一の1号機~4号機の核燃料もこの550億円に含めているというが、前期から180億円しか増加していない。それは、メルトダウンした燃料を取出す費用は、上記の「災害特別損失引当金」に見積り計上されているためだ。(これらはいずれも割引かれているので(前者は1.5%、後者は4%)、再処理予定時期の想定も具体的になされているのだろうだが、果たして再処理自体、できるのか。)

 

これらの見積りは、東電が公表した「事故の収束へ向けた道筋」に沿って行われているので、ある程度具体的な工程が明示されているステップ1、ステップ2についてはそれなりの精度の見積りが行われ、かつ、すでに「冷温亭状態」にまでこぎつけている。しかし、その先の中期的な課題については概算額の計上に留まっているという(2011/3期の災害特別損失の注記)。気を付けるべきことは、当期に入って3,100億円も追加計上されていることから、ステップ1、ステップ2についてもかなり想定以上のコストがかかったことになるが、その先の中期的な課題についての概算額は大丈夫か。甘くなってないか。

 

(まとめ)

  • 国の支援の内容
     
    12については国が支援するというが、単に資金繰りをサポートするだけなのか、資金を提供するのかが、東電の財政状態を判断するうえで重要になると思う。
             
  • 災害特別損失の見積り精度
       3
    については、どこまで十分に引当てができているかがポイントだ。
             
  • 原発再稼働
      上記のほか、原発が定期点検を終えても再稼働せず、このまま廃止になるようなことがあれば、上記以外の資産(発電設備や核燃料など)に相当の金額が計上されているので、これらの評価や廃棄も深刻な問題となる。

 

これらについて、さらに深掘りしていく必要がありそうだ。

2012年3月12日 (月曜日)

東京電力への政府出資と財務情報

このところのニュースでは、福島第一原子力発電所の事故対応に追われる東京電力が債務超過にならないために、株主総会での議決権の2/3を握りたい政府(経産省)と、政府の経営介入を阻止するために1/3程度に抑えたい東京電力側が対立していると報道されている。

 

東電はすでに債務超過だ、多くの人がそういう印象を持っていると思う。ただ、B/Sを見ると資産超過だが、それは原発事故の損害賠償などの見積もりを合理的に算定できないために引当金が未計上になっているからだ。したがって、B/Sの資産超過は会計技術上そうなっているだけで、本当に資産超過だと思ってはいけない。

 

しかし、そうなるとすでに債務超過の東電に対し「東京電力が債務超過にならないために」という政府の言い分もおかしいし、債務超過の東電が政府の出資に条件を付ける姿勢も理解できない。実は債務超過ではなく本当に資産超過なのではないか。実は政府も東電も、債務超過だと思っていないのではないか。そんな疑問を持ったので、東電の有価証券報告書(有報)や四半期報告書(四半期)を改めて読んでみようと思う。

 

次回から以下の観点で東電の会計処理や開示について分析してみたい。

 

  • 原発事故賠償債務は東電の債務か、政府債務か。
  • 原子力損害賠償支援機構はこの債務を引受けたのか。
  • 原子力損害賠償引当金はいつ満額計上されるのか。

 

以上の結果、東電の会計処理や開示はその財務状況を適正に表示しているだろうか。

 

ちなみに、財務諸表の読み手は、東電から開示された財務情報のみに依存すればよいわけではない。IFRSでも、財務情報の受け手は、自らが独自に入手した情報も合わせて意思決定すると想定されている。上記の分析に当たっては、原発事故損害賠償関連の仕組みを別途理解しておく必要があるかもしれない。

 

だが、だからといって、財務諸表作成者が重要な間違いや書洩らしをしてよいわけでもない。日本の制度では金融商品取引法第二十一条の二において、重要な間違いや書洩らしのある開示書類の提出会社に無過失の賠償責任を設けている。また第百七十二条の四においては課徴金の納付命令について、さらに第百九十七条においては刑事罰を含む罰則が規定されている。

 

さて、とりあえず今回は東電の第三四半期報告書を概観しておこう。

 

まず、営業利益は前第三四半期より4,700億減少し、1,400億円の赤字となっている。節電の影響などで1,500億円以上売上が減少しているうえ、原発停止による化石燃料の購入増などで売上原価が3,100億円も増加している。経常利益は、営業利益の減少を受けて4,900億円減少し、2,200億円の赤字になっている。特別利益には原子力損害賠償支援機構交付金15,800億円が計上され、特別損失の原子力損害賠償費16,400億円とほぼ見合っている。これ以外に特別損失として大きなものは災害特別損失が3,100億円計上されている。この科目は、前期末から計上され始めたものであり、前期の有報によればその内容の主なものは福島第一原発の冷温停止対策や廃炉費用等の見積りが8,800億円あるほか、総額1200億円が計上されている。当期に入って追加で支出される見込みとなったものが3,100億円あったということだろう。かなり大きい(結果として前期の見積りが過小だった)。以上の結果、前第3四半期では1,300億円の純利益だったものが、6,200億円の赤字となっている。純資産は、期首(前期末)に16000億円だったものが、6,200億円減少し9700億円となっている。

 

要約すれば、節電や化石燃料コストによる事業採算の悪化で4,900億円、原発事故対応の追加コストが3,100億円、税金費用が500億円減少したものの、前第三四半期より7,600億円業績が悪化し、純資産は期首から6,200億円減少している。気を付けなければいけないのは、被災者に対する損害賠償費は機構交付金として補填されているので、業績にはあまり影響してないということだ。やはり、損害賠償は債務超過と関係ないのか・・・。

2012年3月 8日 (木曜日)

減価償却-異説

今日は少々極論、そもそも論を交えて、減価償却の意味を考えてみたい。極論やそもそも論は、具体的な問題の解決を目指す議論には合わないことが多いが、隠れていた重要ポイントを浮き上がらせてくれることがあるので、たまにはよい。が、ちょっと長い。

 

では、減価償却はなぜ行わなければならないか、というところから始めたい。減価償却は、固定資産への投資額を費用化し、期間損益計算に含める機能を持つ。だが、固定資産投資の管理としては、本来、投資額以上のキャッシュが回収できるかどうかが重要なはずで、それには投資の単位(事業やそれを細分化した単位)ごとに収益や追加コストを累積していけばよい。損益計算の必要はない。だが、次の2点のために実際にはなかなか難しい。

 

 ① 投資の回収までに長期を要し、それまで投資の評価ができないのは経営として困る。

 ② 再投資が繰返されると、投資単位が永続するので、回収できたか判別が困難。

 

そこで実際には、投資を直接管理をするのではなく、期間損益管理によって間接的に投資を管理している。それには投資額を各期間に費用として配分する必要が出てくるが、個別具体的に期間へ配分することができないので、機械的な配分ルールとして減価償却を行う。

 

ここで出てくる重要ポイントとは、もし経営者に投資管理を直接行う手法があれば、期間損益計算は不要であり、減価償却という手続も存在しなかったと考えられる点だ。

 

経営者の仕事は経営資源「人・物・金・情報・時間・知識」の最適配分などとも言われるから、経営資源を投下し(配分し)、投下した以上の成果を生むよう管理することが重要だが、これは投資管理だ。では、損益管理はどう位置づけられるのか。僕は経営にとって本質的に重要なのは投資管理であり、損益管理はその代替手法だと思う。

 

損益管理は非常に便利で有効な代替手法だが、資産か費用(損失)かの判断が自然にはできず人為的であり、過去、含み損が経営的に放置されるという弊害を生んできた。会計ビックバンを含むこの20年間の会計基準の改正の多くはその是正のプロセスだったとさえ思う。かつて「キャッシュフロー経営」という言葉が流行ったが、これもこの大きな欠点を抱えた損益計算、損益管理をパスしていた。経営目標にすべきは投資に対するリターンである正味キャッシュフローだと。そういえばIFRSも、将来の正味キャッシュ・インフローに対するその企業の見通しを提示することが目的だ

 

さて、IFRSはP/Lが主要な財務諸表と位置付けられており、投資管理の基準ではない。ただ、ちょっと損益管理から投資管理の方へ重心を寄せ、B/Sで損益計算を行う。それによって従来の損益計算の欠点を是正しようということだろう。

 

それでも、期間損益計算重視の方々(典型なのは伝統的な会計学者の方々)はIFRSに強い違和感を持つ。それは、期間損益計算を投資管理の代替手段と考えず、期間損益計算こそが企業の実態把握に最重要と考えているからだ。それに財務諸表の作成・監査の実務家にとっても、もともと実務的に困難なので代替手法たる損益管理をしていたのだから、投資管理の方へちょっと寄せただけでも見積もり・判断が増えて困難が増す。

 

しかし、重要なのは企業の実態を経営者が把握(し、意思決定を)しやすくすることで、そうでなければ企業実態を適切に開示することもできない。経営者にとっての企業の実態とは、当期にいくらの利益が出たということより、個々の投資意思決定の結果が、その期待通りに進捗しているか、期待通りの結果が出ているか、ということではないだろうか。だとすれば、このような投資管理の観点を踏まえた開示をすることが経営実態の忠実な表現となるはずだ。

 

このような投資管理の観点から減価償却について考えてみると、減価償却計算の構成要素である取得原価、減価償却方法、耐用年数、残存価額についてのイメージが少々変わってくる。投資は、いくらの投資で、いつごろまでに、どれぐらい正味キャッシュフローを得られるかを期待して行うものだから、重要なのは、投資額たる取得原価、投資の成果を期待する期限である耐用年数、キャッシュ・インフローの一部である残存価額の見積もりだ。減価償却方法は出てこない。

 

上記に加え、耐用年数を経過するまでの追加投資(原材料の調達、加工費、販売費用等々)と事業収益が重要だ(≒事業計画、将来キャッシュフローの見積もり)。これらが期待通りに進捗しているか、期待と相違する点の是正をどうしていくか、最終的にリターンは期待通りか、こういう観点を持つことが投資管理的な事業運営ということになる。

 

経営に対しこのような情報提供を担い得るのは、減価償却ではなく減損会計であることがお分かりだろうか。もし、減価償却を実施しなくても、投資管理と結びついた減損会計がしっかりできるのであれば、適切な企業経営も、企業の経済実態の忠実な表現も可能なのかもしれないとさえ、僕は思う。しかし、実際には損益計算を適切に実施して、P/Lを開示しなければならない。そこで減価償却が必要になるので、減価償却方法は各期間における投資の進捗となるべく近似できる方法で実施することになる。

 

というわけで、残念ながら減価償却を機械的にやれば、経済実態を適切に把握できるというものではない。大切なのは投資額である取得原価、その後追加投資、資産除去までも考慮したトータルのキャッシュアウトと、キャッシュイン・フローをしっかり予測し、管理することだ。逆に、将来予測を含めたトータルのキャッシュアウトとキャッシュインを見ながら(=減損テスト)、減価償却の前提となる耐用年数や残存価額の見積もり、減価償却方法が適切であるかを毎期確認することが、適切な減価償却計算、期間損益計算を支える。関心も、過去ではなく将来に向く。

 

IFRSは複式簿記を前提とした会計基準だが、減損会計部分だけでなく全体的に、企業経営のもっと本源的な要素である投資管理の香りがする。IFRSを導入する際は、そもそも論に立ち返り、時には極論も交えてみるとよいのではないか。企業のメリットはIFRSの複式簿記部分だけを見ていても限りがある。もっと経営に本源的なところからIFRSのメリットを引き出すことが重要だと思う。

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