« 国による財政的な支援の内容 | トップページ | 原発事故に関する注記事項 »

2012年3月17日 (土曜日)

災害特別損失の見積り

原子力損害賠償費及び原子力損害賠償引当金については、前回国の支援内容を検討し、特別事業計画を機構と作成し主務大臣の認可を受けることで、機構から資金が補填されることを見てきた。即ち、損失が計上されても見合う利益が計上される。一方、災害特別損失は、そのような利益項目は見当たらず、そのまま純資産を減少させ東電の負担となっている。債務超過になるとすれば、この災害特別損失の方こそが重要だ。災害特別損失及び災害損失引当金に関する東電の開示をみて、この項目になにが集計され、また、なにがまだ荒い見積りなのかを整理してみようと思う。

 

四半期報告書では、なぜかこの災害特別損失関係の注記はない(上述の通り、これこそ、東電の純資産に直接影響を与えるものであるので、四半期であっても丁寧に説明すべきではないだろうか)。そこでとりあえず、2011/3期の「災害損失引当金」及び「災害特別損失」に関する注記を下記に抜き出してみる。金額は、左側が災害損失引当金(B/S)の内訳、右側が災害特別損失(P/L)の内訳で単位はすべて億円。

 

     
 

新潟県中越沖地震2006/10による損失等に係るもの(このブログには関係ない項目)

 
 

(災害損失引当金)

 

 564億円

 
 

(災害特別損失)

 

   -

 
     
 

東北地方太平洋沖地震による損失等に係るもの

 
 

(災害損失引当金)
      
7.752億円

 
 

(災害特別損失)

 

 1204億円

 

 <内訳>

     
 

a   原子炉等の冷却や放射性物質の飛散防止等の安全性の確保等に要する費用または損失

 
 

4,250

 
 

4,262

 

平成23年5月17日に公表した「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」における当面の取組みのロードマップに掲げたステップ1及びステップ2については、具体的な目標期間個々の対策の内容に基づく見積額を計上している。

一方、具体的なロードマップを示していない中長期的課題に係る費用または損失については、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であることから、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。1

 

                       
 

b   福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に関する費用または損失

 
 

44

 
 

2,070

 
 

 ①原子力発電設備に関する減損損失

 
 

 
 

1,016

 
 

 ②原子力発電施設の解体費用

 
 

 
 

458

 
 

 ③加工中等核燃料の損失、核燃料の処理費用

 
 

44

 
 

594

 

今後の使用が見込めない加工中等核燃料に係る処理費用について、使用済燃料再処理等準備引当金の計上基準に準じた見積額を計上している。なお、装荷核燃料に係る処理費用は使用済燃料再処理等準備引当金に含めて表示している。2

 

     
 

c   福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の原子炉の安全な冷温停止状態を維持するため等に要する費用または損失

 
 

2,118

 
 

2,118

 

被災した福島第一原子力発電所5・6号機及び福島第二原子力発電所の今後の取扱いについては未定であるものの、原子炉の安全な冷温停止状態を維持するため等に要する費用または損失は、新潟県中越沖地震により被災した柏崎刈羽原子力発電所の復旧等に要する費用または損失と同程度と判断し、これに基づく見積額を計上している。3

 

     
 

d   火力発電所の復旧等に要する費用または損失

 
 

497

 
 

497

 

被災した火力発電所の復旧等に要する費用または損失に備えるため、当連結会計年度末における見積額を計上している。資産の損壊状況の把握が困難であるものについては、再取得価額に基づく除却損相当額を見積り、その損失見込額を計上している。

 

     
 

e その他

 
 

842

 
 

862

 

 

1 現時点では既にステップ1もステップ2も終了している。直近の特別事業計画(2/3改定)によれば、ステップ220111216日には終了が確認されたとしている(P10)。したがって、注記でいうところの中長期的な課題に取組む期間に既に入っていることになる。では、12月末が基準日となる第三四半期報告書では、中長期的な課題に取組む期間に関する見積りが更新されただろうか。災害損失引当金は9,266億円と金額が前期末より948億円増加しているが、残念ながら、上述したように四半期報告書には、内容に関する説明は見当たらない。

 

また、「・・・中長期的課題に係る費用または損失については、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であることから、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。」と記載されている。海外の事故とは、具体的にスリーマイル島の事故なのか、チェルノブイリの事故なのか、或いはその両方なのか、そしてどのようにこれらの実績を利用したのかは分からない。スリーマイル島より原子炉の損傷は厳しく、チェルノブイリはソ連時代のことなのであまりデータはないのではないだろうか。いずれにしても、これだけでは十分な引当になっているか判断は困難だし、東電も「概算」であることを強調している。

 

2 「加工中等核燃料」の「加工」とは、使用済核燃料を核燃料サイクルで利用できるように六ヶ所村などで再処理することを指す。また「装荷核燃料」とは原発内の核燃料を指す。再処理計画が具体的に決まっている使用済核燃料については「使用済燃料再処理等引当金」、装荷中のものなど、まだ決まっていないものは「使用済燃料再処理等準備引当金」に計上される。これらの引当金は、六ヶ所村などの再処理施設の建設・運用・廃棄のコストの総額を一定の想定のもとに19兆円と試算し、その19兆円を各原子力事業者へ分担させたものを、割引いて、年々の核燃料の使用状況によって引当計上しているものだ。(2011/3期時点の引当額は、計画のあるもの11,928億円、計画のないもの550億円となっている。)

僕は詳しくはないが、計画が決まっているといっても六ヶ所村の再処理工場は、2009年から稼働するはずだったものが、トラブルで稼働が延びている。稼働が延びればその分確実に再処理コストは膨らんでいく。ただ一方で、再処理せずに直接最終処分した方がコストが安いという話もあるようだが、最終処分は候補地も決まっていないから、果たしてそうなるのか何ともいえない。また、使用済核燃料等の放射能汚染物質の最終処分コストは見積り計上されていないらしい(それらしき科目は見当たらない)。

 

参考だが、資産に「使用済燃料再処理等積立金」なるものが2011/3期で9,826億円計上されている。これは上記のコストを外部資金管理団体へ拠出して再処理するときのキャッシュを確保するもので拘束性の預金のようなものだ。この外部資金管理団体(公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センター)には、各原子力事業者から集められた資金が、昨年3月末時点で24,416億もあるという。そして、これを原発被災者への損害賠償に流用するアイディがある。しかし、この外部資金管理団体が各電力会社へ払戻しをせずこの資金を被害者への損害賠償へ使用した場合は、それに応じて各電力会社が「使用済再処理等積立金」を取崩して損失計上することになる。(もし、電力料金を上げないためのアイディアであれば、この損失が電力料金に跳ね返られないようにしなければならないが、残念ながらそれは無理ではないか。)このアイディアが実際に採用されるかどうかは分からないが、東電にとっては預金が無くなることなので、財務的なリスクとなる。

 

3 福島第一原子力発電所の5号機、6号機については、再稼働する前提なので、もし、1号機~4号機と同様に廃止されることになった場合は、減損やその他の追加費用が発生し、さらに純資産を減少させる原因となる。減損額については、上記のb①の1,016億円が1号機~4号機の分であり、金額イメージを持つには参考になる。

原子力発電施設の廃止費用は、従来からその一部が「原子力発電施設解体引当金」として計上されていたが、2011/3期から資産除去債務に係る会計処理基準が適用されたため、その見積り総額の現価相当額が資産除去債務として計上されている。福島第一の1号機~4号機の分について、従来の引当額を超える部分はこの災害損失引当金、特別災害損失に計上されており、上記のb②の458億円がそれに相当する金額と思われる。これも同様に5号機、6号機が廃止される場合の金額感を持つのに役立つ。

 

なお、仮に原発がこのまま再稼働せず、もうこれ以上原子力発電が行われないことになれば、2011/3期の数字でいうと、少なくとも以下のものが減損されることになる。すると、東電は完全に債務超過だ。電力会社が再生可能エネルギーに消極的に見えるのは、こういうところに一つの原因があるのかもしれない。

 ・原子力発電設備   7,341億円

 ・装荷核燃料     1,339

 ・加工中等核燃料   7,360

  合計       16,041億円

 

このほか、偶発債務、継続企業の前提、追加情報といった注記に原発関連のことが記載されている。財務諸表以外の部分では事業等のリスクにも記載されている。これらについても詳細に内容を見てみたい。

« 国による財政的な支援の内容 | トップページ | 原発事故に関する注記事項 »

番外編」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/577176/54239041

この記事へのトラックバック一覧です: 災害特別損失の見積り:

« 国による財政的な支援の内容 | トップページ | 原発事故に関する注記事項 »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ