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2012年3月15日 (木曜日)

国による財政的な支援の内容

国の支援内容は、資金繰りのサポートに限定されるのか、それとも資金供与(政府負担、即ち、国民負担)までをも含むのか。これが前回示した1(損害賠償費用)と2(汚染瓦礫等の廃棄・除染費用)の東電の負担の重さを決める。東電は、これに関する支出と収入を特別損失と特別利益に両建てし、注記には特別事業計画を機構とともに作成し、かつ、賠償責任を全うするとの決意を記載しているが、最終的に誰が負担するのかについては明確ではない。例の特別負担金はどうなっているのだろうか。

 

これを理解するには、これも前回記載した昨夏成立した機構法について理解する必要がある。法律を読むのは得意ではないが、原賠法に続いて機構法についても、やらざるを得ない。

 

その前に、昨年2011513日原子力発電事故経済被害対応チームから関係閣僚会合決定として「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」という文書が公表されている。これで概要を頭に入れてみよう。そこに次のような文章がある。

 

事故によって住民や事業者の方々に大きな損害が発生していることに対し、今般、東京電力が、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」)に基づく公平かつ迅速な賠償を行う旨の表明があった。また、東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の事故等により資金面での困難を理由として、政府による支援の要請があった。

・・・政府は、これまで政府と原子力事業者が共同して原子力政策を推進してきた社会的責務を認識しつつ、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うものとする。

 

これが機構法の制定につながった。原賠法の下の制度ということだが、原賠法は、被害者の救済が遺漏なく迅速に行われるために原子力損害の責任を原子力事業者たる東電に集中させるものであった。そして原賠法16条に「政府は、・・・損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。」とされている。即ち、損害賠償措置額(現在は1,200億円)を超える損害額が発生したら、国が援助するのは、原賠法が制定された1961年からの既定方針だ。ただ、「資金面での困難を理由として」と「国民負担の極小化を図る」とされているところが、上記文書の新しいところだ。これが何を意味しているか、即ち、資金繰りのサポートに限定されており、政府負担は殆どない仕組みが担保されているのだろうか。僕の法律の読解力を信頼してもらえるのであれば、この点について機構法は次のようになっている。

 

結論から言えば、この機構法では政府負担が想定されている。納税者としては残念ながら、というところだが、東電の財務諸表を読むうえでは「そういうことだったのか」と特別負担金について会計処理がないことに一応合点がいく。政府負担が想定されていると思う理由は2つある。

 

まず、一つ目の理由から。

 

政府が機構を通じて東電に交付する資金は2種類あり、一つは国債を交付する形(機構は必要に応じて国債の償還を求め資金化する)、もう一つは資金を交付する形(第51条、第68条)がある(このほかに債務保証等によるサポートもあるが端折る)。前者(国債を交付する形)は、機構に剰余金が発生すれば、剰余金から国庫に返納される仕組みがあるが(第59条第4項)、後者については回収について特に触れられていない。

 

では、後者についてどんな支出が考えられるかというと、いま駆引きされている東電への出資(1兆円?)がそれに当たると思う。これが政府負担になるかどうかは東電の財政状態次第だが、これだけではない。注目すべき条文を下記に転記する。

 

(政府による資金の交付)

第六十八条 政府は、著しく大規模な原子力損害の発生その他の事情に照らし、機構の業務を適正かつ確実に実施するために十分なものとなるように負担金の額を定めるとしたならば、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼす過大な額の負担金を定めることとなり、国民生活及び国民経済に重大な支障を生ずるおそれがあると認められる場合に限り、予算で定める額の範囲内において、機構に対し、必要な資金を交付することができる。

 

交付した国債分の資金については、原子力事業者(電力会社等)から負担金を機構が徴収し、剰余金が発生すればそれを国庫へ回収するが、負担金が重くなり過ぎて返って国民経済に重大な支障を生じる場合は、政府が資金を交付をすることとなっている。そういえば、既に東電が電力料金の値上げを言い出すと、あちこちから悲鳴が上がっている。いずれは、これが重大な支障とされるだろう。これに加え、附則に珍しい(と僕は思う)「検討」という項目がある。

 

(検討)

第六条 2 政府は、この法律の施行後早期に、平成二十三年原子力事故の原因等の検証、平成二十三年原子力事故に係る原子力損害の賠償の実施の状況、経済金融情勢等を踏まえ、平成二十三年原子力事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方、当該資金援助を受ける原子力事業者の株主その他の利害関係者の負担の在り方等を含め、国民負担を最小化する観点から、この法律の施行状況について検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。

 

要するに、「政府負担」の在り方を早期に検討するよう政府に義務付けている。「国民負担を最小化する観点」とも書いてあるが、これらは10兆、20兆の単位だ。冷静に考えれば、誰の目にも東電がすべて負担できるような金額ではない。しかし、被害者への損害賠償や放射能に汚染された廃棄物、除染は、可及的速やかに行わなければならない。その窓口を東電にやらせている現状では、東電を潰しようがない。

 

次に2つ目の理由。

 

機構が徴収する負担金には一般負担金と特別負担金があるが、この総額及び各社ごとの負担割合は機構の運営委員会によって毎年決められる(主務大臣との協議は必要。第39条、第52条)。原発事故を起こした東電から徴収する特別負担金は「できるだけ高額」とされているだけで、援助した資金の全額とは書いてない。(ただ、負担金は原子力事業者ごとに管理されるので(第58条第4項)、誰が多く、誰が少ないかは分かる仕組みにはなっている。)

 

運営委員会が負担金の額を決めるにあたっては、各原子力事業者の収支の状況に照らし、電力の安定供給への支障や利用者に著しい負担を及ぼすおそれのないものとなるよう求められている。原発の再稼働が見込めず、化石燃料が高騰し、再生可能エネルギーへ転換していかなければならない電力会社の収支は、これから楽になっていくとは到底思えず、自ずと負担金は少額に留まるに違いない。

 

さて、以上からいえることは、原子力事業者は負担金を徴収されるといっても、東電が負担する特別負担金も含め、収支状況によって加減してもらえる上に、政府は政府負担についても早急に検討せねばならず、上限にキャップが付けられる可能性が高い。即ち、債務額が確定していない。さらに、東電は特別事業計画の中で多額のコスト削減や資産売却を求められる予定だが、現実には、超円高にもかかわらず、化石燃料の購入増だけで第3四半期までで2,200億円の営業赤字になる収支状況で、特別負担金について多額の支払いを求められることは、当分の間は可能性が低いのではないだろうか。すると、この状況で特別負担金について負債認識(会計処理)することは、難しいことが理解できる。だが、注記での開示はどうだろう。特別負担金について現在の注記はどのように扱っているのだろうか。

 

またもう一方で、上記の附則第6条第2項では、株主や金融機関への負担も含めた検討を求められている。即ち、いったん破綻させ、会社分割等を行って再生させる可能性もないわけではない。それについての注記は必要ないだろうか。或いは(今春をめどに策定される総合特別事業計画に重要な不確実性があるとしている)現在の継続企業の前提に関する注記(GC注記)で十分なのだろうか。

 

既に非常に長くなってしまったが、これらの注記の検討については、前回記載した他のポイント(災害特別損失や原発再稼働問題)を検討した後、合わせて改めて検討する。

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