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2012年3月24日 (土曜日)

結局、東電は債務超過か?

長々と書いてきたが、このシリーズの冒頭の問い掛け「東電は債務超過か?」への答えをまだ書いていなかった。僕の答えは①「分からない」だ。しかし、②「国民の助け(税金投入)がなければ既に債務超過」だとはいえるだろう。そして、③「東電は国策として非常にリスクの高い事業を担っていた」という、ある意味当たり前のことに僕は気付かされた。

 

詳しく書かせてもらいたい。まず①「分からない」について。

 

機構からの交付金で相殺される原子力損害賠償費関係は、純資産に与える影響は小さいのでここでは考える必要はない。重要なのは災害特別損失だ。前期末に見積り額を引当てたが、ある程度具体的な工程表があったステップ1、ステップ2の期間であっても、各四半期で約1,000億円ずつ、第3四半期までで損失を3,100億円追加で計上している。見積もった直後のの第1四半期でも1,055億円の損失を追加計上していたのだ。これは、メルトダウンにまで至った複数の原子炉から放射線を漏れないようにし、冷温停止状態にすることがいかに困難であったかを示しているといえる。しかし、同時に前期末時点での見通しが甘かったということでもある。例えば、工程表がすべて予定通りに殆どトラブルもなく作業が進捗するような見積りだったのではないだろうか。同種の作業の経験・実績が豊富というのなら、そのスタンスで見積ればよいが・・・。

 

IFRSの概念フレームワークのQC16には次のような記載がある。

 

「その見積りは、報告企業が適切なプロセスを適切に適用し、その見積りを適切に記述し、その見積りに大きく影響する不確実性を説明している場合には、忠実な表現となり得る。」

 

だが、東電の2011/3期の災害損失引当金の注記には、「その被害額の全容の把握が困難であることなどから、現時点の合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している。」としながらも、ステップ1、ステップ2については「具体的な目標期間と個々の対策の内容に基づく見積額を計上している。」とするだけで、見積りの前提など確からしさに関する情報は記載していない。さらに、それ以降の期間について、「一方、具体的なロードマップを示していない中長期的課題に係る費用または損失については、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難であることから、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。」と記載しているため、「全容の把握が困難」といっているのは、ステップ1、2が終わった後の中長期的課題に取組む期間のことだろうとも読める。

 

具体的な工程表がない、しかも数十年に及ぶ長い期間の見積りは十分だろうか。それも甘いのではないだろうか。これからも、これまで以上の追加の損失が多額に発生するのではないか。そう考えると、第3四半期末の純資産額9,700億円をそのまま信用するわけにはいかない。

 

僕は日本の開示制度に照らして東電の開示が間違っていると言っているのではない。読み手の側が、東電のスタンスを理解して読む必要があると主張しているのだ。もともとこの引当金は、見積りが非常に難しいと思う。したがって、それが狂うのは仕方ない。しかし、「合理的な見積り」といっても確からしさには幅があり、またどちらに振れやすいのかという問題もある。IFRSはそれも含めて開示することが忠実な表現になると言っているが、日本基準では規定がない。(実態は)準拠性の枠組みの実務では、このような開示をすることは努力目標にしかならない。仮に監査人が気を利かせて会社に記載を勧めても、会社が拒否したらそれまでというのが実務の現状だ。だから読み手の側が、しっかり開示側の姿勢を評価したうえで、開示を理解する必要がある。

 

したがって、読み手としては、純資産9,700億円を信じるのではなく、そういう会計基準と東電のスタンスを推し量って考えるしかない。しかし、9カ月で3,100億円過小だったというだけでは、甘いことは想像できてもいくらぐらい甘いかは分からないので、債務超過かどうかは分からないという結論になる。

 

次に②「国民の助け(税金投入)がなければ既に債務超過」についてだ。(このまま書き続けると、済みません、今回も長くなりそうだ・・・。)

 

既に第3四半期末の時点で、機構からの交付金がなければ債務超過だというのはお分かりだと思う。機構からの交付金は15800億円だからだ。これがなければ6,000億円近い債務超過になっている。では、機構交付金を国民の助け(税金投入)といってしまってよいか。あとから特別負担金として回収されるのではないか。

 

既に国民の助けを受けていると僕が考える理由は2つある。一つは、既に東電は自力での資金調達が困難な状況になっている。国民の助けなしに資金繰りを回せない。もう一つは特別負担金による全額の徴収は法律上も想定されておらず、むしろかなり高い割合で国民負担となると考える方が現実的と思われるからだ。

 

一つ目の問題だが、すでに報じられている通り、東電は機構と共に取引先金融機関に1兆円規模の追加融資を要請しているが、金融機関側が簡単に応じておらず難儀している。報道によれば、金融機関が東電を「正常先」に分類しているというが、金融機関も実態は「要管理先(要注意先の一番下)」以下と思っているだろう。だから追加の融資に応じられないのだ。今春を目途に策定される総合特別事業計画が経産大臣により認可され、少なくとも損害賠償費に関連した資金繰りが保証されない限りは、金融機関も東電への貸付金の回収が見込めない。そういう意味では機構からのサポートがあるからこそ、金融機関が追加融資に応じるのであり、すでに機構(≒国民の助け)なしに資金繰りはできない。

 

もう一つは、損害賠償費が機構から補填されているのにもかかわらず、東電は巨額の損失を計上しているが、その理由は福島第一原子力発電所の維持・廃止コスト(災害特別損失)と、化石燃料の追加購入によるコスト増や節電による収入減だ。いずれも長期的な問題であるため、ひと山越えれば黒字が毎期安定して数千億円も出せるようになるとは思われない。総合特別事業計画で資産売却や事業の効率化が行われるとしてもだ。もし、損害賠償が10兆円と仮定すると、毎年5,000億円ずつ毎期特別負担金を拠出しても、払い終わるまでに20年もかかる。その間、東電管内の企業や住民の負担も大変だ。20兆円だったらどうなるか。現実的と思えない。予想されている組織再編にも支障が出るだろう。具体的な割合は分からないが、残念ながらかなり多くの部分を税金から補填せざるえないように思う。政府の責任を定めた原賠法の趣旨からいっても、既に税金投入は実質的に始まっていると考えて良いのではないだろうか。

 

さて、ちょっと話は戻るが、重要な問題なのでお許し願いたい。資金繰りが自力でできないなら継続企業の前提の注記が必要なのではないか、ふと、僕もそう思った。ここに重要な不確実性があるのかと。僕は、前々回「原発事故に関する注記事項」や前回「東電の財政状態とリスク・・・」に、東電が総合事業計画の策定に関連して継続企業の前提に重要な不確実性があると開示ているのを、筋が違うのではないか、該当しないのではないかと書いたが、それは間違いだったのか。しかし、もしそういう趣旨で注記を行ったのなら、総合特別事業計画について機構と意見が合わないケースがあるとか、経産大臣の認可が得られないケースがあって、金融機関から融資を受けられなくなる恐れがあるなどと、率直に記載すべきだっただろう。自力で資金繰りができずに機構に依存しているが、機構は外部組織であり判断の方向性や内容に重要な不確実性があると。いずれにしても、第4四半期に入って、金融機関の追加融資に対する厳しい態度や電力料金値上げの困難さがよりはっきりしてきているので、第3四半期のような抽象的な開示を続けることは困難になると思われる。そして、こういうことがちゃんと書かれるなら継続企業の前提に関する注記があるのもうなづける。

 

だが、結論を出す前にもう少し考えてみよう。機構に資金繰りを依存していても、機構と息が合っているならやはり継続企業の前提の注記は不要だ。なぜ総合特別事業計画が策定できないケースとか、認可されない可能性が考えられるのだろうか。政府は原賠法や機構法の規定に従って、基本的には原子力事業者の資金繰りをサポートしないわけにはいかないはずだ。それに、前期末や第1四半期の時の機構法が可決されるか否かという国会決議のように、東電の努力の及ばないところで不確実性があるのであれば、確かに継続企業の前提に疑義があるといえるだろうが、東電によって解消可能な問題であれば、やはり、継続企業の前提の注記はやはり不要になることも考えられる。したがって、総合特別事業計画が策定できないケースとか、認可されないケースを具体的に想定し、東電の努力でできること、努力の及ばないことを分類してみる必要がある。

 

ただ、残念ながらすべての重要なケースをここにリストアップする能力は僕にはない。だが、仮に政府の持つ議決権比率が2/3を超える、超えないといったことが問題というなら、一株当たり純資産などの計算の考え方に問題がない限り、東電は受け入れるしかないのではないか。受入れたうえで、どうしたら電力の安定供給や原発の問題をうまく解決できるかを、出資者の下で考えていくのが普通の在り方ではないか。そこで東電側が企業の存続が脅かされているなど考えるのは理解できない。

 

もし、総合特別事業計画が策定できず、或いは認可されず、そして金融機関から追加の融資を受けられず、かつ、原賠法や機構法があるにもかかわらずに国が何ら資金的なサポートをしないとして、継続企業の前提の注記の記載を継続するような事態になるなら、なぜそのような事態に陥ったのか、その原因が明確に分かるような注記を期待したい。それが不確実性の内容の説明になるはずだ。

 

(こんなことを書いていたら、総合特別事業計画の全容が22日に判明したというニュースが入ってきた。政府出資が51%で決まったそうだ。但し、改革が進まないなど条件次第で議決権比率が2/3を超えられるような特殊な株式を別に発行する。その総合特別事業計画では、柏崎刈羽原発の再稼働を前提としているとのことだが、原発の再稼働は地元の同意が必要なので、今の雰囲気では東電の努力の及ばない領域で、同意が取れるか、最後に政治がどう判断するかには重要な不確実性があると考えられる。それが金融機関の与信に影響し、東電の資金繰りが窮するということであれば、継続企業の前提の注記が必要になる。ただ、機構は、政府の予算化が必要だが、債務保証や直接の貸付金で、東電の資金繰りをサポートすることもできる。今後の事態の推移次第で、継続企業の前提に関する注記は必要になることもあるし、不要なこともありえる、ということになる。)

 

さて、③「東電は国策の一部として非常にリスクの高い事業をしていた」についてだが、もう長文過ぎるので簡単に済ませたい。結論としては、納税者としては残念だが、相応の負担の覚悟が必要だ。その代わり、東電のみならず、過去の政治や行政の責任(安全管理が甘くなった原因、被害者の補償が遅れた原因)も、速やかに追及・解明されることを期待したい。

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