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2012年3月 8日 (木曜日)

減価償却-異説

今日は少々極論、そもそも論を交えて、減価償却の意味を考えてみたい。極論やそもそも論は、具体的な問題の解決を目指す議論には合わないことが多いが、隠れていた重要ポイントを浮き上がらせてくれることがあるので、たまにはよい。が、ちょっと長い。

 

では、減価償却はなぜ行わなければならないか、というところから始めたい。減価償却は、固定資産への投資額を費用化し、期間損益計算に含める機能を持つ。だが、固定資産投資の管理としては、本来、投資額以上のキャッシュが回収できるかどうかが重要なはずで、それには投資の単位(事業やそれを細分化した単位)ごとに収益や追加コストを累積していけばよい。損益計算の必要はない。だが、次の2点のために実際にはなかなか難しい。

 

 ① 投資の回収までに長期を要し、それまで投資の評価ができないのは経営として困る。

 ② 再投資が繰返されると、投資単位が永続するので、回収できたか判別が困難。

 

そこで実際には、投資を直接管理をするのではなく、期間損益管理によって間接的に投資を管理している。それには投資額を各期間に費用として配分する必要が出てくるが、個別具体的に期間へ配分することができないので、機械的な配分ルールとして減価償却を行う。

 

ここで出てくる重要ポイントとは、もし経営者に投資管理を直接行う手法があれば、期間損益計算は不要であり、減価償却という手続も存在しなかったと考えられる点だ。

 

経営者の仕事は経営資源「人・物・金・情報・時間・知識」の最適配分などとも言われるから、経営資源を投下し(配分し)、投下した以上の成果を生むよう管理することが重要だが、これは投資管理だ。では、損益管理はどう位置づけられるのか。僕は経営にとって本質的に重要なのは投資管理であり、損益管理はその代替手法だと思う。

 

損益管理は非常に便利で有効な代替手法だが、資産か費用(損失)かの判断が自然にはできず人為的であり、過去、含み損が経営的に放置されるという弊害を生んできた。会計ビックバンを含むこの20年間の会計基準の改正の多くはその是正のプロセスだったとさえ思う。かつて「キャッシュフロー経営」という言葉が流行ったが、これもこの大きな欠点を抱えた損益計算、損益管理をパスしていた。経営目標にすべきは投資に対するリターンである正味キャッシュフローだと。そういえばIFRSも、将来の正味キャッシュ・インフローに対するその企業の見通しを提示することが目的だ

 

さて、IFRSはP/Lが主要な財務諸表と位置付けられており、投資管理の基準ではない。ただ、ちょっと損益管理から投資管理の方へ重心を寄せ、B/Sで損益計算を行う。それによって従来の損益計算の欠点を是正しようということだろう。

 

それでも、期間損益計算重視の方々(典型なのは伝統的な会計学者の方々)はIFRSに強い違和感を持つ。それは、期間損益計算を投資管理の代替手段と考えず、期間損益計算こそが企業の実態把握に最重要と考えているからだ。それに財務諸表の作成・監査の実務家にとっても、もともと実務的に困難なので代替手法たる損益管理をしていたのだから、投資管理の方へちょっと寄せただけでも見積もり・判断が増えて困難が増す。

 

しかし、重要なのは企業の実態を経営者が把握(し、意思決定を)しやすくすることで、そうでなければ企業実態を適切に開示することもできない。経営者にとっての企業の実態とは、当期にいくらの利益が出たということより、個々の投資意思決定の結果が、その期待通りに進捗しているか、期待通りの結果が出ているか、ということではないだろうか。だとすれば、このような投資管理の観点を踏まえた開示をすることが経営実態の忠実な表現となるはずだ。

 

このような投資管理の観点から減価償却について考えてみると、減価償却計算の構成要素である取得原価、減価償却方法、耐用年数、残存価額についてのイメージが少々変わってくる。投資は、いくらの投資で、いつごろまでに、どれぐらい正味キャッシュフローを得られるかを期待して行うものだから、重要なのは、投資額たる取得原価、投資の成果を期待する期限である耐用年数、キャッシュ・インフローの一部である残存価額の見積もりだ。減価償却方法は出てこない。

 

上記に加え、耐用年数を経過するまでの追加投資(原材料の調達、加工費、販売費用等々)と事業収益が重要だ(≒事業計画、将来キャッシュフローの見積もり)。これらが期待通りに進捗しているか、期待と相違する点の是正をどうしていくか、最終的にリターンは期待通りか、こういう観点を持つことが投資管理的な事業運営ということになる。

 

経営に対しこのような情報提供を担い得るのは、減価償却ではなく減損会計であることがお分かりだろうか。もし、減価償却を実施しなくても、投資管理と結びついた減損会計がしっかりできるのであれば、適切な企業経営も、企業の経済実態の忠実な表現も可能なのかもしれないとさえ、僕は思う。しかし、実際には損益計算を適切に実施して、P/Lを開示しなければならない。そこで減価償却が必要になるので、減価償却方法は各期間における投資の進捗となるべく近似できる方法で実施することになる。

 

というわけで、残念ながら減価償却を機械的にやれば、経済実態を適切に把握できるというものではない。大切なのは投資額である取得原価、その後追加投資、資産除去までも考慮したトータルのキャッシュアウトと、キャッシュイン・フローをしっかり予測し、管理することだ。逆に、将来予測を含めたトータルのキャッシュアウトとキャッシュインを見ながら(=減損テスト)、減価償却の前提となる耐用年数や残存価額の見積もり、減価償却方法が適切であるかを毎期確認することが、適切な減価償却計算、期間損益計算を支える。関心も、過去ではなく将来に向く。

 

IFRSは複式簿記を前提とした会計基準だが、減損会計部分だけでなく全体的に、企業経営のもっと本源的な要素である投資管理の香りがする。IFRSを導入する際は、そもそも論に立ち返り、時には極論も交えてみるとよいのではないか。企業のメリットはIFRSの複式簿記部分だけを見ていても限りがある。もっと経営に本源的なところからIFRSのメリットを引き出すことが重要だと思う。

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