【2011進行基準】ソフトウェア受託開発と2011年公開草案「顧客との契約から生じる収益」
企業は、企業が約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することにより企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)収益を認識しなければならない。資産は、顧客が当該資産の支配を獲得した時に(又は獲得するにつれて)顧客に移転される。(2011年公開草案パラグラフ31)
これを読んだ時に、進行基準はなくなったのかと心配された方は多いと思う。特にソフトウェア業界は平成21年3月期に正式に進行基準が導入されたばかりなので、戸惑いが多かったと思う。だが、IASBとFASBの共同プロジェクトはなくしたつもりはなかった。ただし、設例4を見る限り、無条件に適用されるものではなく、進行基準を適用するか否かはパラグラフ35の条件に適合しているかが鍵となる。
なぜ、このパラグラフ31の記述で、ソフトウェアの受託開発契約へ進行基準の適用が可能となるのだろうか。日本語への翻訳の問題か、いや、翻訳に問題はない。履行義務とか支配といった言葉が問題だ。そして、パラグラフ35の2つの条件も分かり難いが、どのように理解したらよいのだろうか。
僕は、この2つの疑問を概念フレームワークの資産の定義の視点から解きほぐしていくことにした。そしてこれからソフトウェアの受託開発契約が進行基準適用の範囲に含まれるか否かについての僕の検討を記載する。もちろんこれは、僕の私見によるもので、何らオーソライズされたものではないが、今後権威ある団体等(ASBJや監査人)から提供されるであろう正しい解釈を理解するときの参考程度にはなると思う。そしてこの中で、会計基準は道具に過ぎず、目的は経営実態を忠実に表現し、目的適合性のある財務情報を報告することにあり、それが経営に役立つことであることが示せたら嬉しい。
長くなると思うので、以下にこれからの筋道をざっと示したい。書いていくうちに変わってしまうかもしれないし、横道にも逸れるかもしれないが、それはお許し願いたい。
1.2011年公開草案「顧客との契約から生じる収益」の経緯
・ソフトウェアの受託開発が進行基準の適用範囲から門前払いされてないと考える理由
・収益認識の一般基準(31)
・履行義務充足基準(公開草案) vs. 顧客満足基準(僕の認識)
2.資産の創出又は増価につれて顧客が当該資産を支配する35の(a)のケース
・資産の創出又は増価
・支配(32、37)
3.他に転用できる資産が創出されない35の(b)のケース
・便益を同時に受け取り消費する(35の(b)-(ⅰ))
・完了した作業を実質的にやり直す必要がない(35の(b)-(ⅱ))
・完了した履行についての支払を受ける権利(35の(b)-(ⅲ))
・他に転用できる資産(36)
4.35の(b)のケースにおける顧客満足基準(経営に役立つ意味付け)
この公開草案全体をここで検討する意図はない。概念フレームワークと個別基準の関係を原則主義重視の立場から提示するための例題なので、認識の問題だけで十分だ。したがって履行義務の識別、測定の問題、顧客の定義、回収可能性等々については触れないつもりなので、それについてもご容赦願いたい。
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