原則主義と、企業と監査人の責任(企会審2/29の議事録等から)
下記は、企業会計審議会事務局が作成した資料や議事録に記載されていた原則主義のメリットとディメリットだ。メリットには、とても良いことが色々書いてあるが、それに伴う重い責任を企業と監査人が負うことになる。その覚悟を日本も早く持てると良いと思う。その方が原則主義のメリットをたくさん享受できるからだ。このままでは、原則主義が米国に切り刻まれてしまう・・・。
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(メリット)
- 各企業の判断で会計方針を作成し、経営の実態をより適切に反映した会計処理が可能となる、また、企業として会計に対し受身でないしっかりとした方針の作成を促進することにつながる。
- 取引の実態に応じてあらゆるケースを想定して基準を用意することには限界があることから、作成されたルールを適用することで実態に適合しない処理になってしまう状況を避けうる。
- 細則主義における数値基準などを悪用し、ルールを潜脱するような行為を抑止できる。
(ディメリット)
- 形式的には原則主義の会計基準で統一が達成されたとしても、その適用にあたって解釈の幅が広すぎたり、選択できる処理が複数ありうるなどの理由から、恣意的な処理が行われる可能性があることや実質的な比較可能性が損なわれる可能性があること。
- 作成者にとっては会計処理の適用についての判断及びその判断の根拠を示す必要が生じるため、一定の作業が生じる可能性があること。
- 作成者・監査人・当局間において見解が相違し、調整のための負担が増加することや、事後的な修正のリスクがあること。
(なお、米国においては、このような懸念のほか、財務諸表の虚偽記載に係る訴訟が増加するのではないかとの懸念も聞かれる。)
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簡単に言えば、企業の自主的な判断を尊重するので、経営の実態を適切に開示してください、というのが原則主義だ。一見良さそうだが、世の常で自由や権利には責任が伴う。その典型が、次のIAS第1号のパラグラフ19の記載だ。
『IFRSの中にある要求事項に従うことが、「フレームワーク」に示されている財務諸表の目的に反するほどの誤解を招くと経営者が判断する極めてまれなケースにおいては・・・当該IFRSの要求事項から離脱しなければならない。』
財務諸表の目的については、1/20の記事などですでに記載しているが、即ち、IFRSの基準通りに処理・開示を行うと、財務諸表の利用者に、企業が考える将来キャッシュフローの適切な見通しを提示できなくなると判断した場合は、その基準を遵守してはいけない、その基準から離脱しなさいと言っている。離脱した場合は、その内容や判断の理由を開示しなければならないから、監査人のサポートがあるにしても企業は相当強い心理的プレッシャーと戦う必要があるし、相応の手間もかかるに違いない。
恐らく、おかしいと思っても基準に沿って処理した方が楽だと感じることが多いのだと思う。じゃあ、基準通りに処理するか? しかし、重要性が非常に高いなら、それは許されない。勇気をもって、別の方法で処理し、IFRSが経営実態に合致しないと開示しなければならない。原則主義を採用するということは、企業と監査人がそういう責任を負うことでもある。
ところで、基準開発において原則主義が徹底されていれば、メリットの2にあるように、そのような実態と合わない基準が開発されることもないはずだが、実際には、IASBはFASB(米国)との共同プロジェクトで、次々と細かい規定のある基準を公表している。ということは、この「極めてまれ」なことの起こる確率も上がってきているはずだ。
本当に細かい基準が必要なのか。僕は早く日本が基準開発で大きな発言権を持てるようになり、IASBがFASBに妥協しないように圧力をかけて欲しいと願っている。だがそのためには、米国が決めてから日本も採用を決めればよいなどといってられない。米国は米国の訴訟社会を反映させた細則をどんどんIASBに要求してくる。僕は、IFRSが細かくなればなるほど、日本企業が不自由な思いと余計なコストを強いられると思うので、もし、原則主義が日本の国益に適っていると考えられるのであれば、企業会計審議会には時間を大事に使ってほしいと思う。
また、企業や監査人も、「基準通りにやっていればよい」とか「基準がないから会計処理ができない」などという感覚が残っているなら、早く捨て去る必要がある。その資産は金を生むのかというシンプルな問い掛けを徹底して行い、問題を深く掘り下げて、自ら解決していく姿勢が重要になると思う。
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