【2011進行基準】結論の根拠から~履行義務
前回は2011年公開草案の「結論の根拠」から、収益認識のコア原則について進行基準との関連を中心に検討してきた。なぜ「基準」を読まないのかと思われた方が多いと思うが、残念ながら基準は読みにくい。その理由は次の通りだ。
- どんな取引・業種でも適用されるコア原則ゆえに抽象的な表現となっている。
- 「履行義務の充足」とか「支配の移転」など馴染みのない言葉が重要な概念として使用されている。
出荷とか、検収とか、もっと分かりやすい言葉で基準を作って欲しいと多くの方は感じられたと思うし、僕も同じだ。ただ残念ながら、そういう言葉を使うと経済実態を伴わない出荷や検収が作られてしまうリスクがあるとIASBは考えたと思う。したがって、履行義務とか支配の意味を理解することを避けて通ることはできない。そこで、背景や経緯、一般からのコメントとIASBの判断などが記載され、読み物として基準より読みやすい「結論の根拠」を今回も読んでいこうと思う。
まず、「履行義務は、顧客との契約において当該顧客に資産(財又はサービスなど)を移転する約束」とされている。重要な点は3つ。顧客、契約、約束だ。
- 履行義務は顧客へその企業の製品・商品、サービスを提供する義務であって、協力企業や銀行などとの契約による義務とは異なる。
- 契約なしに、ここでいう約束(履行義務)は発生しない。
- 契約は強制力を伴うが、約束はもっと広く、慣行など顧客が合理的に期待するものまで含まれる。
ということで、履行義務は受注後の一連の活動と考えれば良さそうだ。
もう少し細かく書くと「顧客」には例外があって、業者間取引は除かれる。ガソリンなどを同業者間で転がすことがあるが、それが輸送費やリードタイムを節約する意味があったとしても収益計上の対象にならない。(BC38)
また、「契約」という面では、受注前の活動は履行義務ではないから売上にならない(進行基準にも該当しない)。(BC20)
そして、「約束」は、口頭や慣行によるものでも、顧客の期待に合理性があれば履行義務となる。例示されているのは、ソフトウェアのアップグレードやマイレージなどのポイントだ(BC63)。ソフトウェアのアップグレードが契約に含まれていれば当然履行義務になるが、そうでない場合でもそれが顧客の期待が合理的といえるほど慣行化しているとか、口頭でそれを約束した場合は、会計処理の対象となる(相当の収益金額が実際のアップグレードまで繰延べられる)。ポイントについては、例えば付与時には有効期限を設けていなかったのに企業側の都合であとから期限を設けるなど、企業側が消滅させることもやろうと思えばできるという意味で顧客側から見て完全な強制力はないが、それでも会計処理の対象となる(この場合も繰延べられる)。ソフトウェアの受託開発について考えると、契約書に記載されていればもちろん、記載されてなくても「1年間の無償保証」などは繰延べの対象になる可能性がある。
履行義務は、重要性の有無で会計処理の対象としないことは認められるが、基本的には受注後の顧客に関連するすべての活動が会計処理の対象となりうる。ただ収益計上する単位は、関連性の強いものはまとめた束で、認識時期が異なるなど別個に認識できるものは別個に認識する。進行基準のテーマから外れるのでこれ以上詳しく書かないが、履行義務のイメージは「受注を全うするための生産・製造、納入、据付などすべての活動」と見えてくると思う。
発送基準とか検収基準は、イベントを収益計上の要件としているのだが、この公開草案のコア原則はもっと奥行きのある経済実態によって収益を考えている。確かに収益獲得するまでには色々な努力が必要だ。そう考えると基準の文章が複雑で分かり難いことも多少は許せるような気がしてくる。
さて、それでは収益を計上するタイミングを決定し、また、進行基準の対象になるかどうかにも直接関連する概念である「支配の移転」がどうなるかだが、これは次回にする。
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