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2012年4月

2012年4月24日 (火曜日)

【2011進行基準】結論の根拠から~履行義務

前回は2011年公開草案の「結論の根拠」から、収益認識のコア原則について進行基準との関連を中心に検討してきた。なぜ「基準」を読まないのかと思われた方が多いと思うが、残念ながら基準は読みにくい。その理由は次の通りだ。

 

  • どんな取引・業種でも適用されるコア原則ゆえに抽象的な表現となっている。
  • 「履行義務の充足」とか「支配の移転」など馴染みのない言葉が重要な概念として使用されている。

 

出荷とか、検収とか、もっと分かりやすい言葉で基準を作って欲しいと多くの方は感じられたと思うし、僕も同じだ。ただ残念ながら、そういう言葉を使うと経済実態を伴わない出荷や検収が作られてしまうリスクがあるとIASBは考えたと思う。したがって、履行義務とか支配の意味を理解することを避けて通ることはできない。そこで、背景や経緯、一般からのコメントとIASBの判断などが記載され、読み物として基準より読みやすい「結論の根拠」を今回も読んでいこうと思う。

 

まず、「履行義務は、顧客との契約において当該顧客に資産(財又はサービスなど)を移転する約束」とされている。重要な点は3つ。顧客、契約、約束だ。

 

  • 履行義務は顧客へその企業の製品・商品、サービスを提供する義務であって、協力企業や銀行などとの契約による義務とは異なる。
  • 契約なしに、ここでいう約束(履行義務)は発生しない。
  • 契約は強制力を伴うが、約束はもっと広く、慣行など顧客が合理的に期待するものまで含まれる。

 

ということで、履行義務は受注後の一連の活動と考えれば良さそうだ。

 

もう少し細かく書くと「顧客」には例外があって、業者間取引は除かれる。ガソリンなどを同業者間で転がすことがあるが、それが輸送費やリードタイムを節約する意味があったとしても収益計上の対象にならない。(BC38

 

また、「契約」という面では、受注前の活動は履行義務ではないから売上にならない(進行基準にも該当しない)。(BC20

 

そして、「約束」は、口頭や慣行によるものでも、顧客の期待に合理性があれば履行義務となる。例示されているのは、ソフトウェアのアップグレードやマイレージなどのポイントだ(BC63)。ソフトウェアのアップグレードが契約に含まれていれば当然履行義務になるが、そうでない場合でもそれが顧客の期待が合理的といえるほど慣行化しているとか、口頭でそれを約束した場合は、会計処理の対象となる(相当の収益金額が実際のアップグレードまで繰延べられる)。ポイントについては、例えば付与時には有効期限を設けていなかったのに企業側の都合であとから期限を設けるなど、企業側が消滅させることもやろうと思えばできるという意味で顧客側から見て完全な強制力はないが、それでも会計処理の対象となる(この場合も繰延べられる)。ソフトウェアの受託開発について考えると、契約書に記載されていればもちろん、記載されてなくても「1年間の無償保証」などは繰延べの対象になる可能性がある。

 

履行義務は、重要性の有無で会計処理の対象としないことは認められるが、基本的には受注後の顧客に関連するすべての活動が会計処理の対象となりうる。ただ収益計上する単位は、関連性の強いものはまとめた束で、認識時期が異なるなど別個に認識できるものは別個に認識する。進行基準のテーマから外れるのでこれ以上詳しく書かないが、履行義務のイメージは「受注を全うするための生産・製造、納入、据付などすべての活動」と見えてくると思う。

 

発送基準とか検収基準は、イベントを収益計上の要件としているのだが、この公開草案のコア原則はもっと奥行きのある経済実態によって収益を考えている。確かに収益獲得するまでには色々な努力が必要だ。そう考えると基準の文章が複雑で分かり難いことも多少は許せるような気がしてくる。

 

さて、それでは収益を計上するタイミングを決定し、また、進行基準の対象になるかどうかにも直接関連する概念である「支配の移転」がどうなるかだが、これは次回にする。

2012年4月23日 (月曜日)

【2011進行基準】結論の根拠からソフトウェア開発への適用について考える

公開草案は、基準、設例、結論の根拠の3つからなる。基準として確定すると、これらはPart A(基準)とPart B(結論の根拠)に納められる。Part Bは基準とは別冊にされ基準自体ではないが、基準の説明文書として尊重されるべきものとされている。結論の根拠は基準より分量が多いが、論点、経緯、寄せられたコメントとそれに対するIASBの判断が記載されており、読み物として基準より読みやすい。今回は、結論の根拠に記載されているこの公開草案の経緯や進行基準に関連する部分を紹介し、ソフトウェア受託開発契約を考える取っ掛かりにしたい。(なお、この公開草案は、ASBJによる日本語翻訳版もIFRS財団ホームページに掲載されている。)

 

この公開草案はIASBとFASBの共同プロジェクトの成果として公表された。したがってほとんど主語は「両審議会」とされている。まずは、この両審議会がなぜ収益認識を取り上げたかだが、US GAAP100以上の基準から構成されており細則主義としての欠点、細部に整合性が取れてない可能性があること、一方IFRSには収益に関する原則が2つある(IAS11工事契約IAS18収益)が質も量も不十分であること、さらに両基準とも開示の規程が不十分とされている。そこで両審議会は、広範囲の取引及び業種に適用できる包括的な収益認識モデル、完了基準と進行基準が整合した新しい基準を開発することを決定した。(但し、リース、保険契約、金融商品に関連する収益、配当は除く。)

 

両審議会は議論を重ね、その包括的な収益認識モデルとして「契約により支配を移転した結果として履行義務を充足したときに収益を認識する」というコア原則(一般原則)を提案することにした。そして2008年にディスカッションペーパー「顧客との契約における収益認識に関する予備的見解」を公表し、一般からコメントを求めたところ、このコア原則について工事契約について実務的でない、従来適用していた工事進行基準が適用できなくなると批判が寄せられ(そのほか多くの点について批判的意見があったが省略する)、それらを考慮、改善したものを2010年に一回目の公開草案として公表した。しかし、それでも一般からのコメントが収まらなかったので、この2011年公開草案が公表された。

 

ひとつ、象徴的なエピソードが紹介されているので、下記に引用する。

 

BC43 多くのコメント提出者が、収益認識モデルが建設型の契約にどのように適用されるのかについて懸念を示し、それらの契約について現行の要求事項を維持することを両審議会に求めた。両審議会は、いろいろな機会にそうした懸念について建設業界からの代表者と議論し、この懸念の一部は誤解に起因したものであることに気付いた。その誤解とは、本提案により、現在はIAS 第11 号「工事契約」又は建設型及び製造型契約に関するASCサブトピック605-35 の範囲内である契約について、工事完成基準の会計処理が要求されるというものである。さらに、建設業界の多くの人々は、単一の工事契約を多数の履行義務として会計処理する際のコストについて懸念していた。2010 年公開草案で、両審議会は、工事契約の全部について企業が収益を工事完成時にのみ認識することとなるわけではないことを明確化した。さらに、後述のように、本基準案は、工事契約における履行義務の識別及びどのような場合に当該履行義務が一定の期間にわたり充足されるのかの判定に関して、一層の明確化をしている。したがって、両審議会は、基準案を工事契約に適用すべきだという見解を確認した。

 

「進行基準がなくなるのではないか」という懸念は、

  ・ IASBは誤解だと言っているが、実際に多くの人がそういう心配をした。

  ・ 英語で読んだ人たちも同じ誤解をした(翻訳の問題ではなかった)。

そして、 2010年公開草案で修正・改善したが、それでは足りず2011年公開草案でさらに改善した。(但し、日本公認会計士協会の2011年公開草案に対する意見(2012/3)を見ると、もっと改善が必要といっている。)

 

上記に出てくる「ASCサブトピック605-35 」(実は翻訳版は305-35となっているが、英語版は605-35なので翻訳版は誤植)とは、US GAAP605番が収益認識に関するもので、その35が工事契約に関する基準となっている。さらに605-35の中の15-3には対象となる業種が例示されていて、建設業の他、造船業、宇宙・航空産業などの他にソフトウェアも例示されているから、「両審議会は、基準案をソフトウェアに適用すべきだという見解を確認した」ということになる。即ち、ソフトウェアに関してもこの基準案により「履行義務が一定の期間にわたり充足される」かどうかの判定を行い、該当すれば進行基準の適用が考えられるということになる。

 

2011年公開草案で追加された設例の4には、ソフトウェアについて次のように記載されている。

 

設例4――ソフトウェアの大幅なカスタマイゼーション

企業が、顧客に顧客関係管理ソフトウェアをライセンス供与する。さらに、企業は、合計CU600,000 の対価で、顧客の情報技術環境にソフトウェアを大幅にカスタマイズするためにコンサルティング・サービスを提供することを約束する。

企業は、顧客が契約した結合物に財及びサービス(ライセンスとコンサルティング・サービス)を統合する重大性のあるサービスを提供している。さらに、ソフトウェアは、顧客と交渉した仕様に従って企業により大幅にカスタマイズされる。したがって、企業は、ライセンスとコンサルティング・サービスを一緒にして1 つの履行義務として会計処理することとなる。その履行義務に係る収益は、履行義務の完全な充足へ向けての進捗度についての適切な測定を選択することにより、一定期間にわたって認識されることとなる(一定期間にわたる履行義務の充足について第35 項の要件が満たされていると仮定する)。

 

以上によって、原則主義のIFRSと細則主義のUS GAAPの差が垣間見られると思う。両審議会は原則主義の立場で新基準を開発しており、収益について包括的に適用できるコア原則(一般原則)を作ろうとしている。

また、ソフトウェア開発に進行基準が適用できるかどうかは、焦点は35項の要件ということになるが、その前に次回は基本的となる概念の「履行義務」とか「支配」についてもう少し検討してみよう。

2012年4月21日 (土曜日)

【2011進行基準】ソフトウェア受託開発と2011年公開草案「顧客との契約から生じる収益」

企業は、企業が約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することにより企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)収益を認識しなければならない。資産は、顧客が当該資産の支配を獲得した時に(又は獲得するにつれて)顧客に移転される。2011年公開草案パラグラフ31

 

これを読んだ時に、進行基準はなくなったのかと心配された方は多いと思う。特にソフトウェア業界は平成213月期に正式に進行基準が導入されたばかりなので、戸惑いが多かったと思う。だが、IASBとFASBの共同プロジェクトはなくしたつもりはなかった。ただし、設例4を見る限り、無条件に適用されるものではなく、進行基準を適用するか否かはパラグラフ35の条件に適合しているかが鍵となる。

 

なぜ、このパラグラフ31の記述で、ソフトウェアの受託開発契約へ進行基準の適用が可能となるのだろうか。日本語への翻訳の問題か、いや、翻訳に問題はない。履行義務とか支配といった言葉が問題だ。そして、パラグラフ35の2つの条件も分かり難いが、どのように理解したらよいのだろうか。

 

僕は、この2つの疑問を概念フレームワークの資産の定義の視点から解きほぐしていくことにした。そしてこれからソフトウェアの受託開発契約が進行基準適用の範囲に含まれるか否かについての僕の検討を記載する。もちろんこれは、僕の私見によるもので、何らオーソライズされたものではないが、今後権威ある団体等(ASBJや監査人)から提供されるであろう正しい解釈を理解するときの参考程度にはなると思う。そしてこの中で、会計基準は道具に過ぎず、目的は経営実態を忠実に表現し、目的適合性のある財務情報を報告することにあり、それが経営に役立つことであることが示せたら嬉しい。

 

長くなると思うので、以下にこれからの筋道をざっと示したい。書いていくうちに変わってしまうかもしれないし、横道にも逸れるかもしれないが、それはお許し願いたい。

 

1.2011年公開草案「顧客との契約から生じる収益」の経緯

  ・ソフトウェアの受託開発が進行基準の適用範囲から門前払いされてないと考える理由

  ・収益認識の一般基準(31

  ・履行義務充足基準(公開草案) vs. 顧客満足基準(僕の認識)

 

2.資産の創出又は増価につれて顧客が当該資産を支配する35(a)のケース

  ・資産の創出又は増価

  ・支配(3237

 

3.他に転用できる資産が創出されない35(b)のケース

  ・便益を同時に受け取り消費する(35(b)-()

  ・完了した作業を実質的にやり直す必要がない(35(b)-()

  ・完了した履行についての支払を受ける権利(35(b)-()

  ・他に転用できる資産(36

 

4.35(b)のケースにおける顧客満足基準(経営に役立つ意味付け)

 

この公開草案全体をここで検討する意図はない。概念フレームワークと個別基準の関係を原則主義重視の立場から提示するための例題なので、認識の問題だけで十分だ。したがって履行義務の識別、測定の問題、顧客の定義、回収可能性等々については触れないつもりなので、それについてもご容赦願いたい。

2012年4月18日 (水曜日)

原則主義と企業の手間(企会審2/29の議事録等から)

下記は、企業会計審議会事務局による原則主義のメリットとディメリットのそれぞれ2番目を抜き出したものだ。メリットでは経営の実態に適合しない処理(基準)を避けられるとしつつ、ディメリットでは企業の判断が増える分、その説明が必要になるので手間が増えるとしている。

 

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(メリット)

取引の実態に応じてあらゆるケースを想定して基準を用意することには限界があることから、作成されたルールを適用することで実態に適合しない処理になってしまう状況を避けうる。

(ディメリット)

作成者にとっては会計処理の適用についての判断及びその判断の根拠を示す必要が生じるため、一定の作業が生じる可能性があること。

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例えば細則主義で業種別に細かく会計基準を規定してあれば、該当する基準を見つけ出してそれを適用すればよい。そして、その会計基準は一般公開されているものなので、財務諸表の利用者はそれを知っているという前提を置いて、企業は簡潔な説明を行えばよい。だが、業種別に細かく規定した会計基準を財務諸表の利用者が知っているという前提は、果たして利用者にとって有難いことだろうか。

 

また、もし、その細則に規定されていない取引があったとしたら、無理やり類似の規程を適用せねばならず、形式的でおかしな処理や開示になるかもしれない。

 

一方、原則主義の場合は、抽象的な、しかし、包括的な規定となるので、実際の適用に当たっては、会社の状況に合わせて解釈することになる。よって、どのように適用したかを説明しないと、財務諸表の利用者が経営の実態を正確に理解できない。確かにその説明(注記の作成)に手間がかかる。仮に同業他社と異なる解釈、具体的な適用を行った場合、その適否を含めてアナリストや株主から質問を受けるかもしれない。「説明が必要」ということは、企業によって処理がばらけることでもある。

 

その代わり、「規定されていない取引をどうするか」とか、「実態に合わない基準」で悩む可能性は低くなる。

 

2/29の企業会計審議会では、この問題について事務局から各国の工夫がいくつか紹介されている。まず、IFRS財団(IFRS解釈指針委員会)自体がIFRSやIFRIC/SIC(解釈指針)の他に教育文書を公表していることが紹介されている。そしてヨーロッパでは欧州証券監督機構(ESMA)がガイダンスや事例のデータベースを公表していること、フランスやドイツでは基準設定主体とか会計士協会もガイダンスを公表していること、それから、規制当局が特定の会計処理が認められるものかどうかという作成者の疑問に答えるというようなシステム(事前質問制度、プリクリアランス)が実施されていることが紹介されている。このほか、中国、韓国、カナダの例が紹介されている。

 

データベースが公表されているというのは、日本のように決まり文句の会計方針ではなく、財務諸表に会計処理の注記が細かく記載されている(=手間がかかっている)ので、企業による違いが出ていてデータベース化する意味がある。ガイダンスや教育文書が公表されると、どのように会計基準を適用したらよいか判断しやすくなるし、その結果説明も楽になる。

 

この事務局の説明の中で、僕は次の部分が興味深い。

「作成者自身として自社特有の適用指針を国際会計基準に加味したもの、そういう社内アカウンティング・マニュアルというようなものが作成されているようでございます。これはヨーロッパにおけるヒアリングにおいても、かなり評価が高いといいますか、積極的に評価されているようでして、監査人もこの作成段階には関与するということで、事後的なトラブルを減らす効果もありますし、企業の会計担当者の理解を深めるという意義もあったと言われております。」

 

歴史のある会社、規模が大きくなった会社はえてして業務がマニュアル化され過ぎて、会計業務も作業になってしまうきらいがある。改めて普段処理している取引にどんな背景や意味があるのか、取引の実態を改めて考える機会を与えられること、それを文書化、見える化することは有意義だと思う。だが、これはJ-SOXの時も聞かれた話だ。大事なのは、単に会計原則や規程に合わせることではなく、経営にとって役立つこと、会社の価値を高めることに役立つように、会計原則や規程をどう意味づけをするかではないだろうか。これができるなら、説明に手間がかかることなど安いものだと思えると思う。

 

ということで、単純な例で恐縮だが、次は収益認識の公開草案から、ソフトウェア開発が工事進行基準の対象になるか否かを題材にして、この「意味づけ」を考えてみたい。

 

2012年4月11日 (水曜日)

原則主義と、企業と監査人の意識のバージョンアップ(企会審2/29の議事録等から)

下記は、企業会計審議会事務局による原則主義のメリットとディメリットのそれぞれ1番目を抜き出したものだ。メリットでは経営の実態をより適切に反映できるとしていて、ディメリットでは比較可能性を損なうとしている。

 

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(メリット)

各企業の判断で会計方針を作成し、経営の実態をより適切に反映した会計処理が可能となる、また、企業として会計に対し受身でないしっかりとした方針の作成を促進することにつながる。

(ディメリット)

形式的には原則主義の会計基準で統一が達成されたとしても、その適用にあたって解釈の幅が広すぎたり、選択できる処理が複数ありうるなどの理由から、恣意的な処理が行われる可能性があることや実質的な比較可能性が損なわれる可能性があること。

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これはどこかで見た議論だ。そう、概念フレームワークの「忠実な表現」と「比較可能性」だ。概念フレームワークは「忠実な表現」を財務情報の基本的な特性と位置付ける一方で、「比較可能性」を補強的とし、「忠実な表現」を優先する(比較可能性より経営の実態の反映を優先する)という整理をしている(2/29の記事を参照)。

簡単に言えば、経済実態に忠実な表現はそれ自体で価値のある情報だが、そうでない情報はいかに比較可能性を備えていたとしても意味がない、というか、逆に害をなす。経済実態に忠実であればこそ、情報を比較する意味が出てくる、ということだ。

 

しかし、これは程度問題であって、あまりにバラバラな解釈がなされれば、情報の比較ができなくなるだけでなく、経済実態の忠実に表現にもならなくなる。そこでどこまで丁寧な(細かい)基準にすればルールが適切に運用できるかが問題となる。そして、これが細部にまで及べば細則主義になってしまう。

2/29の企業会計審議会の議事録には数名の委員から「原則主義と細則主義は、対立する概念ではなく相対的なもの」という発言がされているのはそういう意味だと思う。即ち、原則主義と細則主義のどちらかを選ぶということではなく、適切に運用されるにはどの程度細かく規定する必要があるかで詳細さが決まっていくということだ。したがって、少ない基準でもしっかり趣旨を生かした適切な解釈がなされるのであれば、原則主義のメリットが享受でき、ディメリットを抑制できる。解釈する側の能力が問われるということだ。

 

そして議事録には、斉藤静樹氏の次のような発言も記録されている。

「言葉だけ原則主義を唱えても、その解釈を当事者がどこまで決められるかについて、私自身はASBJ委員長としての6年間の経験に照らして非常に懐疑的であります。私がいくらプロフェッションの判断にゆだねようとしても、判で押したように、何か決めてくれないと動けないということを言われ続けた経験がございまして、そういうことを特に申し上げておきたいと思います。」

これは厳しい現実を表わした重い言葉だ。

 

原則主義のメリットを享受するためには、能力だけでなく、企業と監査人の意識のバージョンアップ(今までできていなかったという自覚と、これからはギヤを変えて挑まねばならないという覚悟)が要求されている。

2012年4月 9日 (月曜日)

原則主義と、企業と監査人の責任(企会審2/29の議事録等から)

下記は、企業会計審議会事務局が作成した資料や議事録に記載されていた原則主義のメリットとディメリットだ。メリットには、とても良いことが色々書いてあるが、それに伴う重い責任を企業と監査人が負うことになる。その覚悟を日本も早く持てると良いと思う。その方が原則主義のメリットをたくさん享受できるからだ。このままでは、原則主義が米国に切り刻まれてしまう・・・。

 

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(メリット)

  1. 各企業の判断で会計方針を作成し、経営の実態をより適切に反映した会計処理が可能となる、また、企業として会計に対し受身でないしっかりとした方針の作成を促進することにつながる。
  1. 取引の実態に応じてあらゆるケースを想定して基準を用意することには限界があることから、作成されたルールを適用することで実態に適合しない処理になってしまう状況を避けうる。
  1. 細則主義における数値基準などを悪用し、ルールを潜脱するような行為を抑止できる。

 

(ディメリット)

  1. 形式的には原則主義の会計基準で統一が達成されたとしても、その適用にあたって解釈の幅が広すぎたり、選択できる処理が複数ありうるなどの理由から、恣意的な処理が行われる可能性があることや実質的な比較可能性が損なわれる可能性があること。
  1. 作成者にとっては会計処理の適用についての判断及びその判断の根拠を示す必要が生じるため、一定の作業が生じる可能性があること。
  1. 作成者・監査人・当局間において見解が相違し、調整のための負担が増加することや、事後的な修正のリスクがあること。

(なお、米国においては、このような懸念のほか、財務諸表の虚偽記載に係る訴訟が増加するのではないかとの懸念も聞かれる。)

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簡単に言えば、企業の自主的な判断を尊重するので、経営の実態を適切に開示してください、というのが原則主義だ。一見良さそうだが、世の常で自由や権利には責任が伴う。その典型が、次のIAS1号のパラグラフ19の記載だ。

 

『IFRSの中にある要求事項に従うことが、「フレームワーク」に示されている財務諸表の目的に反するほどの誤解を招くと経営者が判断する極めてまれなケースにおいては・・・当該IFRSの要求事項から離脱しなければならない。』

 

財務諸表の目的については、1/20の記事などですでに記載しているが、即ち、IFRSの基準通りに処理・開示を行うと、財務諸表の利用者に、企業が考える将来キャッシュフローの適切な見通しを提示できなくなると判断した場合は、その基準を遵守してはいけない、その基準から離脱しなさいと言っている。離脱した場合は、その内容や判断の理由を開示しなければならないから、監査人のサポートがあるにしても企業は相当強い心理的プレッシャーと戦う必要があるし、相応の手間もかかるに違いない。

 

恐らく、おかしいと思っても基準に沿って処理した方が楽だと感じることが多いのだと思う。じゃあ、基準通りに処理するか? しかし、重要性が非常に高いなら、それは許されない。勇気をもって、別の方法で処理し、IFRSが経営実態に合致しないと開示しなければならない。原則主義を採用するということは、企業と監査人がそういう責任を負うことでもある。

 

ところで、基準開発において原則主義が徹底されていれば、メリットの2にあるように、そのような実態と合わない基準が開発されることもないはずだが、実際には、IASBはFASB(米国)との共同プロジェクトで、次々と細かい規定のある基準を公表している。ということは、この「極めてまれ」なことの起こる確率も上がってきているはずだ。

 

本当に細かい基準が必要なのか。僕は早く日本が基準開発で大きな発言権を持てるようになり、IASBがFASBに妥協しないように圧力をかけて欲しいと願っている。だがそのためには、米国が決めてから日本も採用を決めればよいなどといってられない。米国は米国の訴訟社会を反映させた細則をどんどんIASBに要求してくる。僕は、IFRSが細かくなればなるほど、日本企業が不自由な思いと余計なコストを強いられると思うので、もし、原則主義が日本の国益に適っていると考えられるのであれば、企業会計審議会には時間を大事に使ってほしいと思う。

 

また、企業や監査人も、「基準通りにやっていればよい」とか「基準がないから会計処理ができない」などという感覚が残っているなら、早く捨て去る必要がある。その資産は金を生むのかというシンプルな問い掛けを徹底して行い、問題を深く掘り下げて、自ら解決していく姿勢が重要になると思う。

2012年4月 4日 (水曜日)

原則主義のエッセンス(企会審2/29の議事録等から)

3/29に開催された企業会計審議会については、すでに報道されていて、中小企業の会計基準や監査人の対応がテーマになっていたようだ。しかし、まだ議事録は公開されていない。そこで今回から数回にわたり、2/29の議事録等を参考にしながら、原則主義について検討してみたい。

 

審議会では、事務局から原則主義のエッセンス、メリット・ディメリットやすでにIFRSを採用している国・法域における対応が説明され、事務局が論点となるだろうと考えたテーマが提示された。今回は、そのエッセンスについて考えてみたい。

 

(エッセンス)

 ①例外規定をなるべく認めないこと

 ②核となる原則が明解であること

 ③各会計基準間に不整合がないこと

 ④概念フレームワークと規定が結びついていること

 ⑤作成者と監査人に判断が委ねられており、その判断が重要であること

 ⑥不必要にガイダンスを多く設けることはしないこと

 

これは、前IASB議長のトゥイーディー卿が2007 年5 月メルボルン大学で開催された財務報告に関する会議において説明した内容とのことであるが、僕は、概念フレームワークの位置づけをもっと明確に尊重して欲しいと思う(④)。

 

僕は、概念フレームワークが最も重要な基準で、個別のIFRSはそれをサポートする位置づけになっていることが、本来の原則主義だと思うが、実際は『矛盾が生じている場合には、IFRSの要求事項が「概念フレームワーク」の要求に優先する』(はじめに))とされている。

 

IASやIFRSやその解釈指針は、概念フレームワーク(の改正)より前に作成されたものであるため、基準の運用上そのようになるのも分かるが、何とかあるべき姿にしてほしいものだ。特に、事務局の方が説明している通り、IASB(国際会計基準審議会)は、近年では、特に米国との共同プロジェクトなどにおいて、かなり詳細な基準を開発している。そのため、何処が原則主義か? どこが明解か? と思うような基準も出てきている。

 

資産や負債や損益計算の概念を決めている概念フレームワークを尊重せずに、個別のIFRSを優先させ、それを複雑・詳細にしてしまえば、個別のIFRS間に齟齬が出てくる(③)。例えば、現金と固定資産を足し算して総資産を計算しても、現金と固定資産が別の概念で評価されていれば意味がない。すべての資産が「将来のキャッシュインフローを表わしている」という概念で統一されてこそ、それぞれの資産を足し算することに意味が出てきて、資産から負債を控除して純資産を計算することに妥当性が出てくる。期首と期末の純資産の増加が利益だというなら、すべての資産、負債が統一した概念で評価されなければならない。それが概念フレームワークの役割のはずだ。即ち、個々のIFRSは概念フレームワークに整合してこそ、会計基準となりえるということになるのだから、現状とは反対の位置づけだ。

 

僕は、読者が概念フレームワークをしっかり理解すれば財務諸表を概ね正しいイメージで読むことができるというのが理想だと思う。理想と書いたが、実際それ以上を期待できるだろうか。2000ページから3000ページの基準書を勉強しないと財務諸表は読める優良な投資家とは認めません、というのでは、投資家にとって負担が重過ぎる。経営者だって困るだろう。実際、日本でも、会計基準の意味が分からなくて困っているとか、会計基準嫌いの経営者は多いと思う。概念フレームワークを優先するのは、そういう意味もある。

 

もちろん、作成者、アナリスト、監査人等の専門家は、個々のIFRSまで熟知しなければならない。

2012年4月 1日 (日曜日)

NHKスペシャル シリーズ日本新生「インフラ危機を乗り越えろ」

3/31に放送されたNHKスペシャル「インフラ危機を乗り越えろ」の感想を書かせていただきたい。人口減少を踏まえて、高度成長時代やバブル崩壊後の景気対策として建設されてきた上下水道、道路・橋梁、文化施設といった箱モノの維持管理ができなくなってきているそうだ。結論から言えば、危機的な現状を行政と市民が情報共有することと、住民参加により解決策を模索していくのがよいのではないか、ということだった。即ち、一般市民も民主主義の基本に立ち返ることが求められる。その具体的なアイディアとしては、コンパクト・シティと呼ばれるインフラ整備・維持する範囲を制限する考え方の提案がなされていた。だが、問題の根本にある行政組織の見通しの甘さや管理の杜撰さについては、番組では触れていない。行政の会計管理の仕組み等で、それを改善することはできないだろうか。

 

 

上下水道や道路といったインフラが維持できない、その修繕や建替えに必要な予算が捻出できないという状況がすでに始まっているというのも衝撃的だったが、80%の自治体がインフラ資産の老朽化の実態を把握でいてない、そして、30%の自治体がその老朽化の実態を住民に知らせなくてよいと考えていることもショックだった(総務省のアンケート)。

 

しかし、このブログとしては、なぜ修繕や建替えに支障がでてくるようになるまで、この問題が気付かれなかったんだろう、自治体の経営システムは一体どうなっているのか、という角度から取上げるのが相応しいと思う。インフラといえば電力やガスなどのエネルギー会社や通信会社が思い浮かぶが、同じようなことがあり得るのだろうか。いやあり得まい。その差はなんだろうか。民間企業が大きな投資をする場合は、それに見合う収入の増加を見込むが、行政の場合は民間企業ほど投資と収益の関係が強くない。そこで、管理面からポイントを3点挙げてみよう。

 

 ・複式簿記による発生主義会計

 ・事業計画

 ・資産管理台帳

 

聞くところによると、国を始め地方自治体の行政機関の会計システムは複式簿記ではないという。単年度の収入(税収等)と支出を単年度の予算で現金主義的に管理しているだけで、資産や負債を正確に把握していないらしい。最近はB/Sを作ろうとしている自治体もあるが、複式簿記を知らない国家公務員も多いという。したがって、網羅的な資産の把握及びその詳細(資産台帳)も整備されていない。そういう発想がない。これが上記のアンケートの80%という回答につながっているのだろう。(事実を知らせなくてよいとする30%の自治体に住まわれている方々は非常に不幸だ。どの自治体がそのように回答したのか公表してほしいと思うが、このテーマからは逸れるので、これ以上は触れない。)

 

では、複式簿記、事業計画、資産台帳があれば、この状況は未然に防げたのか。或いは繰り返さないようにできるか。

 

複式簿記は、収入と支出を資産・負債・損益に分類し、それぞれの性質に応じてB/SP/Lに分類していくことで、財務的な項目を網羅的に重複することなく正確に把握することができる。そして理論的には、固定資産項目は減価償却等によって費用化され、収入と対比されることで、総収入が総費用を上回っている限り、再投資の財源を内部留保することができる(減価償却の自己金融機能)。借入で建設したものは借入の返済資金が確保される。

 

しかし、一般企業でもそうだが、内部留保された資金が積立てられて再投資されるまでCashという形で保有される保証はない。新規投資や修繕など他の用途に支出されるかもしれない。そうなればCashはなくなってしまうので、やはりインフラの維持はできないことになる。そこで僕が考えるのは、次のような事業計画だ。

 

事業計画で、資産が耐用年数を迎えるまでの収支を見積るところまでは一般企業と同じだが、異なるのは、その期間経過後に再投資可能な資金が留保されるよう(借入で建設されたものは借入が返済されるよう)管理することだ。その事業計画においては、インフレ・デフレのリスク、技術革新、耐用年数の短縮・延長、事業を継続する価値があるか否か、即ち再投資が必要か否かなどの見直しが適宜行われる必要がある。場合によっては耐用年数期間中に事業を縮小・廃止する可能性もあるだろう。これば一般企業の減損に当たる。事業計画が達成できなかったり、減損がかさめば自治体は債務超過になって借入や債券の発行が困難になる。

 

資産管理台帳は、事業計画に精度の高い修繕費の見積りを提供したり、現物を管理するのに必要なものだというのは、あまり説明を要さないだろう。

 

日本の会計基準では、事業計画がなくても何となる。IFRSを導入すると、例外もあるが、中長期の事業計画を経営の根幹に据える必要があると僕は思う。国や自治体もIFRSベースの国際公会計基準(IPSAS)を早期に導入したらどうだろうか。僕は良く知らないが、IPSASも事業計画の存在を前提としているのではないだろうか。そして長期の事業計画をベースに行政をマネジメントをしてほしいものだ。行政はあまりに将来への見通しが甘すぎる。住民に説明するにも、このような情報が必要なのではないだろうか。

 

国(政治家も)は地方自治体に対して、インフラ建設にばかり補助金を付けるが、その維持については無関心という。その結果地方自治体はインフラ維持費で悲鳴を上げている。国(政治家も)には資産の管理や維持といった複式簿記をベースにした発想がないのだと思える。バブル崩壊後の公共事業の実績から、すでに乗数効果の高いインフラ建設事業はあまり存在しないことは明らかだ。今後は維持についても、複式簿記や事業計画を踏まえた考慮が必要だ。

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