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2012年4月 1日 (日曜日)

NHKスペシャル シリーズ日本新生「インフラ危機を乗り越えろ」

3/31に放送されたNHKスペシャル「インフラ危機を乗り越えろ」の感想を書かせていただきたい。人口減少を踏まえて、高度成長時代やバブル崩壊後の景気対策として建設されてきた上下水道、道路・橋梁、文化施設といった箱モノの維持管理ができなくなってきているそうだ。結論から言えば、危機的な現状を行政と市民が情報共有することと、住民参加により解決策を模索していくのがよいのではないか、ということだった。即ち、一般市民も民主主義の基本に立ち返ることが求められる。その具体的なアイディアとしては、コンパクト・シティと呼ばれるインフラ整備・維持する範囲を制限する考え方の提案がなされていた。だが、問題の根本にある行政組織の見通しの甘さや管理の杜撰さについては、番組では触れていない。行政の会計管理の仕組み等で、それを改善することはできないだろうか。

 

 

上下水道や道路といったインフラが維持できない、その修繕や建替えに必要な予算が捻出できないという状況がすでに始まっているというのも衝撃的だったが、80%の自治体がインフラ資産の老朽化の実態を把握でいてない、そして、30%の自治体がその老朽化の実態を住民に知らせなくてよいと考えていることもショックだった(総務省のアンケート)。

 

しかし、このブログとしては、なぜ修繕や建替えに支障がでてくるようになるまで、この問題が気付かれなかったんだろう、自治体の経営システムは一体どうなっているのか、という角度から取上げるのが相応しいと思う。インフラといえば電力やガスなどのエネルギー会社や通信会社が思い浮かぶが、同じようなことがあり得るのだろうか。いやあり得まい。その差はなんだろうか。民間企業が大きな投資をする場合は、それに見合う収入の増加を見込むが、行政の場合は民間企業ほど投資と収益の関係が強くない。そこで、管理面からポイントを3点挙げてみよう。

 

 ・複式簿記による発生主義会計

 ・事業計画

 ・資産管理台帳

 

聞くところによると、国を始め地方自治体の行政機関の会計システムは複式簿記ではないという。単年度の収入(税収等)と支出を単年度の予算で現金主義的に管理しているだけで、資産や負債を正確に把握していないらしい。最近はB/Sを作ろうとしている自治体もあるが、複式簿記を知らない国家公務員も多いという。したがって、網羅的な資産の把握及びその詳細(資産台帳)も整備されていない。そういう発想がない。これが上記のアンケートの80%という回答につながっているのだろう。(事実を知らせなくてよいとする30%の自治体に住まわれている方々は非常に不幸だ。どの自治体がそのように回答したのか公表してほしいと思うが、このテーマからは逸れるので、これ以上は触れない。)

 

では、複式簿記、事業計画、資産台帳があれば、この状況は未然に防げたのか。或いは繰り返さないようにできるか。

 

複式簿記は、収入と支出を資産・負債・損益に分類し、それぞれの性質に応じてB/SP/Lに分類していくことで、財務的な項目を網羅的に重複することなく正確に把握することができる。そして理論的には、固定資産項目は減価償却等によって費用化され、収入と対比されることで、総収入が総費用を上回っている限り、再投資の財源を内部留保することができる(減価償却の自己金融機能)。借入で建設したものは借入の返済資金が確保される。

 

しかし、一般企業でもそうだが、内部留保された資金が積立てられて再投資されるまでCashという形で保有される保証はない。新規投資や修繕など他の用途に支出されるかもしれない。そうなればCashはなくなってしまうので、やはりインフラの維持はできないことになる。そこで僕が考えるのは、次のような事業計画だ。

 

事業計画で、資産が耐用年数を迎えるまでの収支を見積るところまでは一般企業と同じだが、異なるのは、その期間経過後に再投資可能な資金が留保されるよう(借入で建設されたものは借入が返済されるよう)管理することだ。その事業計画においては、インフレ・デフレのリスク、技術革新、耐用年数の短縮・延長、事業を継続する価値があるか否か、即ち再投資が必要か否かなどの見直しが適宜行われる必要がある。場合によっては耐用年数期間中に事業を縮小・廃止する可能性もあるだろう。これば一般企業の減損に当たる。事業計画が達成できなかったり、減損がかさめば自治体は債務超過になって借入や債券の発行が困難になる。

 

資産管理台帳は、事業計画に精度の高い修繕費の見積りを提供したり、現物を管理するのに必要なものだというのは、あまり説明を要さないだろう。

 

日本の会計基準では、事業計画がなくても何となる。IFRSを導入すると、例外もあるが、中長期の事業計画を経営の根幹に据える必要があると僕は思う。国や自治体もIFRSベースの国際公会計基準(IPSAS)を早期に導入したらどうだろうか。僕は良く知らないが、IPSASも事業計画の存在を前提としているのではないだろうか。そして長期の事業計画をベースに行政をマネジメントをしてほしいものだ。行政はあまりに将来への見通しが甘すぎる。住民に説明するにも、このような情報が必要なのではないだろうか。

 

国(政治家も)は地方自治体に対して、インフラ建設にばかり補助金を付けるが、その維持については無関心という。その結果地方自治体はインフラ維持費で悲鳴を上げている。国(政治家も)には資産の管理や維持といった複式簿記をベースにした発想がないのだと思える。バブル崩壊後の公共事業の実績から、すでに乗数効果の高いインフラ建設事業はあまり存在しないことは明らかだ。今後は維持についても、複式簿記や事業計画を踏まえた考慮が必要だ。

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