【2011進行基準】ソフトウェア-意外に重要な顧客とのコミュニケーション体制
財務数値ばかり気にすると、進行基準が適用できるか否か、カットオーバーはしっかりできるか、といったところに注目しがちだ。2011年公開草案でいえば、履行義務の充足や支配の移転の部分(前回の5)に当たる。しかし、経営として事業を成功させる、事業からキャッシュフローを生み出すという視点から見ると、それに至るプロセスこそが重要だ。2011年公開草案でいえば、契約や履行義務の識別のプロセス(前回の1や2)、そして進捗率を測定する体制だ。だが、会計的にはあまり明示的に取扱われない顧客とのコミュニケーションが、経営上も、会計上も重要だ。
(受注とプロジェクト体制構築)
受注が重要なのは言うまでもない。この時点で「得意先の要望又はニーズを満足させる」アイディアがなければ受注できないが、同時に「得意先の要望又はニーズを満足させる」履行義務の内容を企画・計画できなければならない。だがそれと共に顧客満足のために重要なのは、顧客とのコミュニケーション体制の企画・構築だ。これがなければ顧客は安心しないし、開発が始まってからプロジェクトの価値を伝え続ける必要もある。顧客がこれに関心を示さないとすれば、そのプロジェクトはリスキーだ。受注できても黄信号(注意して止まれ)。
顧客を満足させるアイディアや実現力は、人材開発、採用、情報収集、パッケージベンダーを含めた協力企業との関係などに依存すると思う。これらへの経営資源の配分は経営者の役割だ。
履行義務の企画・計画は、アイディアへの実行可能性を担保する。そして、顧客の信用リスクと共に、企業のリスク管理機能を働かせて受注可否を決める重要ポイントだ。そしてここで識別した履行義務が原価集計や取引価格算定、取引価格配分(前回の3と4)の単位となっていくし、進捗率を管理する単位にもなる。顧客とのコミュニケーションのベースにもなっていく。
しかし、注目すべきは顧客とのコミュニケーション体制だ。これについての企画・構築は、顧客側の経営トップ層、開発担当者ベースの両方について検討が必要だ。また、企業側の担当者に任せきりにせず、担当者とは別に企業側の管理者が顧客のトップ層に評価をもらう機会や仕組みも必要なことが多い。プロジェクトの価値を顧客に理解してもらい、関心を惹き続けることが、顧客の協力と良い評価を引出す。そのために、プロジェクトの進行状況に合わせたイベントの設定(より深いシステムの説明や関連する話題の提供、そのときどきの課題についての議論、プロジェクトの進捗状況の確認)が必要だが、このベースには日常的な現場での進捗管理と担当者レベルでの顧客とのコミュニケーションがある。
このような検討の結果、この契約が一定期間にわたって支配が移転するものか、それとも一時点で移転するものかが見えてくる。人事や予算に十分な権限を持ち、関連部署もほぼ配下に持つ経営陣がプロジェクト・オーナーになり、顧客側の優秀な人材がプロジェクト・リーダーになって、日常的な進捗管理や情報管理を行い、企業側がそれをサポートする体制ができれば、進行基準の対象となってくるだろう。顧客が、成果物を支配する気満々だからだ。
一方で、顧客が「協力はするができたものを持ってこい」といったスタンスなら、とても「プロジェクトの進行のつど支配が移転する」状況ではない。よほど簡単な、定型的なものなら良いが、そうでなければ、結局顧客の協力が得られずトラブルになることが見えている。納品さえ覚束ない。進行基準どころか、受注を請けてもよいか見直しが必要になるかもしれない。
顧客に期待と満足を提供し、プロジェクト・オーナーとしての意識を持たせられたか、それが契約内容(著作権の所在、開発場所、プロジェクト・オーナー、リーダー)にどのように反映させられたか、十分遂行可能な履行義務か、顧客の関心を惹き続けられそうか。経営としてプロジェクトの成功率が高いと確信できる体制ができれば、受注時点で、プロジェクトの進行の都度成果物の支配が顧客に移転する条件が整ってくる。
しかし、プロジェクトを成功させるに足る顧客の協力を得られる見通しは立ったが、結果として、開発体制が成果物を顧客がその都度支配する体制には至らない場合も出てくると思う。この場合は、プロジェクトの進捗管理と顧客とのコミュニケーションは、顧客の満足を得るために一層難易度があがる。会計上は進捗率を計算する必要はないが、経営的には関心を高めなければならないので、この点は会計と経営の目線が離れてしまう。注意が必要だ。
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コメント
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とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
投稿: 賞罰の書き方 | 2012年5月31日 (木曜日) 10時42分
コメントをありがとうございます。
ご存じのとおり、このブログはあまりコメントが付かないので、戴けると励みになります。
是非またいらしてください。
投稿: はみだし | 2012年5月31日 (木曜日) 17時11分