2011進行基準】結論の根拠から~支配の移転3「第35項(b)」の概要
第35項は(a)と(b)に分かれていて、(a)はプロジェクトの成果物がどんどん顧客に移転していくもの、(b)はどんどん移転しているかはっきりしないが、実質的に一定期間にわたって移転されていると推定できる3つのケースを規定している。但し、(b)については、成果物が他の顧客へ転用できないものであることが前提となっている。今回はその(b)を概観する。次回以降、もっと詳細に検討する。
前回、第35項(a)の「どんどん移転している」とは、成果物の実質的な所有(即ち、支配)がプロジェクトの進行にしたがって顧客に移転すると考えられる状況のことで、その判断は、単に契約関係がそうなっているだけでなく、進行状況を顧客と確認し合い、共有していることが決め手になると、僕の意見を書いた。ソフトウェアの受託開発については、この(a)の他、(b)を理解しなければ進行基準適用の判断ができないことがあると思う。それは、どんどん移転しているか明らかでない状況が、ソフトウェア開発には見られるからだ。
(b)項を簡単に下記に記載する。正確には、末尾に原文を転記してあるのでそちらをご参照いただきたい。
(b)(どんどん支配が移転しているか明確でない状況で、かつ、)成果物が他の用途、他の顧客向けへ転用できないときに、次の3つのいずれかに当てはまれば進行基準が適用される。
(ⅰ)企業が提供する都度顧客が受領し消費するサービス
(ⅱ)顧客がプロジェクトの途中で他企業へ発注を切替えてもやり直しや手戻りがない。(発注の切替禁止という契約上の制約は無視して考えるが、切替時点で企業の支配下に仕掛品等が残っている場合は、他の企業がそれを引継げずやり直しが発生すると考える。)
(ⅲ)顧客がプロジェクトの途中で他企業へ発注を切替えても、企業は終了した部分に対応する適正な対価を受領できる。
この(b)項で、なぜ進行基準適用の可否が判断できるかだが、意外とIASBとFASBの両審議会は固い。この(b)項は、どんどん支配が移転していると「推定」できる状況かどうかを判断するための条項であり、結局、「支配」概念から離れていない。よって(b)項で救われて進行基準の適用となるケースは限られるように思われる。詳細は次回以降に検討することになるが、その原因は、両審議会が収益認識のコア原則である「支配」の考え方をそれほど広げようとしてないためだ。広げ過ぎれば概念フレームワークの資産の定義や、他のIFRSと整合しなくなる。(僕は4/26の記事の最後で『今回記載した「支配」とは、一部違うもののような気もする・・・。』と書いたが、気にしなければならないほどには広げていないと思い直した。)
まず、(b)項は、(ⅰ)~(ⅲ)のいずれの場合であっても、特注品であることを条件としている。この意味は、標準品は誰に販売されるか分からないが、特注品であれば販売先が見えているので、その分、製作期間中であっても支配の移転を推定しやすいためだと思う。
(ⅰ)については、企業がサービス提供する場合を想定している。物であれば、物が顧客の支配下にあるかどうかで、移転の状況を理解しやすいが、サービスは形がないため分からないケースもある。それを救うために、顧客がどんどんサービスを消費することも支配の移転に当たることを明確にした。だが、これは当たり前のことを確認したに過ぎないと思う。
(ⅱ)については、上記のカッコ内の「切替時点で企業の支配下に仕掛品が残っている場合はやり直しが発生する」という点に注目してほしい。基本的に、製作・製造・建設が顧客の支配下で行われないと、(ⅱ)には該当しない。
(ⅲ)については、プロジェクトが顧客都合で中断されても、顧客がその時点の成果物を引取ってその対価を支払うなら、顧客に支配が移転していると推定できるということだが、ポイントは、プロジェクトの「進捗状況に応じた対価」を受領できるかどうかだ。実際に成果物を顧客が引取らなくても構わないが、企業がその成果物を他の顧客へ転用するための追加コストや遺失利益を顧客が補填するだけの契約なら、支配が移転されているとはみなされず、この条件には該当しないことになる。
以上の概略で、両審議会が(b)項でもあくまで支配の移転にこだわっていることがご理解いただけるだろうか。その結果、ソフトウェア開発の場合は、例えば顧客のコンピュータ処理環境下で、顧客からPCの貸与を受け、顧客側のプロジェクト・メンバーと一緒に開発しているような場合は問題ない。しかし、その正反対の状況だと、(b)項によったとしても、支配が移転されていると推定することが困難で救われない(進行基準が適用できない)のではないだろうか。
次回は、細かく検討していきたい。
=基準案第35項(b)の原文=
(b) 企業の履行によって、企業が他に転用できる資産(第36 項参照)が創出されず、かつ、次の要件のうち少なくとも1つに該当する。
(i) 企業の履行につれて、顧客が企業の履行による便益を同時に受け取り消費する。
(ii) 他の企業が顧客に対して残りの義務を履行するとした場合に、当該他の企業は、企業が現在までに完了した作業を実質的にやり直す必要がない。この要件を評価する際に、企業は、契約の残りを履行する別の企業は、企業が現時点で支配している資産(例えば、仕掛品)の便益を有さないものと仮定しなければならない。さらに、企業は、残りの履行義務を別の企業に移転することを妨げる潜在的な制約(契約上又は実務上の)を無視しなければならない。
(iii) 企業が、現在までに完了した履行についての支払を受ける権利を有しており、契約を約束のとおりに履行すると見込んでいる。現在までに完了した履行についての支払を受ける権利は、固定金額に対するものである必要はない。しかし、企業は、たとえ企業による約束の不履行以外の理由で顧客が契約を終了できる場合であっても、少なくとも現在までに完了した履行に対して企業に補償することを意図した金額に対する権利を得ていなければならない。現在までに完了した履行に対する補償には、契約が解約された場合の企業の潜在的な利益の喪失のみに対する補償ではなく、現在までに移転した財又はサービスの販売価格に近似する支払(例えば、企業のコストに合理的な利益マージンを加えた額の回収)が含まれる。
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