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2012年5月19日 (土曜日)

【2011進行基準】結論の根拠から~支配の移転4「第35項(b)」への当てはめ

35項は(a)(b)に分かれていて、(a)は支配の移転が明らかなもの、(b)は明らかではないが、移転していると推定できる条件を規定している。前者の典型をソフトウェア受託開発でいえば、成果物の著作権が特に制約なく顧客にあることが契約上で明示され、顧客のコンピュータ処理環境下でのみ開発作業が進められ、顧客から開発用PCの貸与を受け、顧客側のプロジェクトメンバーが進捗状況をしっかり把握できている状況だと思う。成果物が顧客の施設下の顧客の記憶媒体に保管され、かつ、その状況を顧客が理解し管理できているからだ。プログラム等の成果物は、顧客が著作権を持つと契約書に記載されることが多いが、それとこの実際の開発体制が整合しているので、進捗するごとに支配が移転することが明らかと判断できると僕は思う。

 

では、契約上の著作権に制約はないが、顧客の開発への関与が薄く、顧客が開発状況をあまり理解していないケースはどうだろうか。契約上の著作権の扱いに問題がないのであれば、法的に成果物はどんどん顧客に移転するので(a)と考えて問題ないという考え方もあるかもしれないが、支配概念を固く捉える僕はそう考えていない。このような顧客は、完成後のシステムには関心を持っているが、仕掛中の成果物には価値を感じず、中止までに要した企業側のコスト及び利益を負担しようとしない可能性が高いからだ。

 

(b)項(参考として一番下に5/9の記事に記載したものを再掲した)に当てはめてみると・・・

(b)項本体要件:契約上で転用が禁止されていればクリアできるとされている。制約なく著作権が顧客にあるとされていれば大丈夫だろう。あとは、()()のいずれかに該当すればよいことになる。

 

()要件:顧客かその代理人がプロジェクト管理していればこれに該当する可能性があるが、このケースでは顧客の関与が薄いので該当しない。

 

()要件:ソフトウェアの特質で、他企業に残りの開発を引継ぐには相当手戻りが発生するので、これにも該当しない。

 

()要件:上述したように開発プロジェクトの内容を把握できてない顧客が、進捗分に相当する請求額を満額支払うと推定するのは難しい。

 

ところで、()は、()にも()も該当しない場合の助け舟のような位置づけだという(BC100)。()をもっと優先順位の高い条件にしない趣旨は、あくまで支配の移転が実質的に起こっていることを推定する条件をこの(b)項で挙げているのであって、支払を受ける権利の確定では固すぎる、或いは筋が違うとIASB(とFASB)が考えているということだ(BC101BC103)。

 

しかし、()()に該当する取引はあまり多くないのではないだろうか。結局()まで来てしまうことが多いと思う。()で救われるには、プロジェクトが中断したとしても顧客がそれを引継いで完成させたいと思える状況になっているか、企業側の履行義務を果たす努力が正当に評価されていることが必要で、それは開発に顧客を巻き込んでいるということだと思う。

 

顧客にITの知識が不足しているとか、優先順位が低いなどとして、顧客が開発に積極的に関わろうとしないことがあるが、これはリスクの高いプロジェクトといわざるえない。開発体制をいかに構築するかは、プロジェクトを成功させる重要な要素だ。顧客とのコミュニケーションの在り方、開発場所の選定、成果物の管理方法といった面で、顧客と共にプロジェクトを推進していく体制をいかに整えるかが、()を考えるうえでも重要になってくると思う。

 

なお、企業が履行義務を充足できる(開発を完成・納品できる)と見込んでない場合は、このような想定はできないから、()には該当しないことになる。

 

=ご参考 第35(b)の概略=

(b)(どんどん支配が移転しているか明確でない状況で、かつ、)成果物が他の用途、他の顧客向けへ転用できないときに、次の3つのいずれかに当てはまれば進行基準が適用される。

()企業が提供する都度顧客が受領し消費するサービス

()顧客がプロジェクトの途中で他企業へ発注を切替えてもやり直しや手戻りがない。(発注の切替禁止という契約上の制約は無視して考えるが、切替時点で企業の支配下に仕掛品等が残っている場合は、他の企業がそれを引継げずやり直しが発生すると考える。)

()顧客がプロジェクトの途中で他企業へ発注を切替えても、企業は終了した部分に対応する適正な対価を受領できる。

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