【2011進行基準】IFRSは経営に役立つか
5/21の早朝は、みなさんの中にも金環日食をご覧になった方が多いと思う。マスコミも世紀の天体ショーとして盛り上げたので、僕も近所の南東側の開けた標高300Mの山に登って観察した。しかし、この日食も、昔は不吉なものとされていたそうだ。今は、仕組みやその希少性、学問的価値、そして我々の生活に特に悪い影響がないことなどが明らかになっており、肯定的にとらえられている。
IFRSも実態を理解している人が少ないなか、イメージで色々語られることも多い。しかも、それらの中で企業経営を理解している人はさらに少ないだろう。僕も理解できていない一人だが、IFRSの中に幾筋かの光明を見出している。その一つが次の一節だ。
4.9 企業は,通常,得意先の要望又はニーズを満足させることが可能な財貨又は役務を生み出すために資産を使用する。それらの財貨又は役務は,得意先の要望又はニーズを満足させることができるので,得意先はそれらに対して支払を行い,したがって当該企業のキャッシュ・フローに貢献することとなる。・・・
これは、概念フレームワークの資産の説明の一部だが、IFRSは「顧客満足」が企業にキャッシュ・イン・フローをもたらすことを前提にしていると読み取れる。みなさんは会計基準の根底にドラッカーの経営哲学のような思想があると想像されていただろうか。「会計基準が企業経営を間違った方向へ導くようでは困るのだから、会計基準も企業経営と基礎を共有すべきだ」と思われている方は多いと思うが、日本の会計基準、例えば企業会計原則を見ても、そのような表現は出てこない(前文には「我が国企業の健全な進歩発達」という政策目線の表現はあるが、この文脈にいう経営哲学、経営論には当たらない)。
企業会計原則を引き合いに出したのは、概念フレームワークと位置づけが少し似ているからだ。概念フレームワークは、既存のIFRSの個別規程と矛盾する場合はその個別規程が優先されるとしているものの、新しいIFRSを開発する際に参照され、IFRS全体の整合性を取るための基礎となり、IASBだけでなく各国の会計基準設定主体、財務諸表作成者、利用者、監査人の助けになるものと位置づけられている。企業会計原則も、かなりくたびれてはいるものの、各個別の会計基準の一般原則的な位置づけにある。
過去9回にわたって、2011年に公表された公開草案「顧客との契約から生じる収益」の進行基準に関連するところを見てきた。その結果僕は、もはやこの公開草案を昔の人が日食を見るように気味悪がることはなくなったが、残念ながらそこに「顧客の満足」という表現は見られなかった。だが失望したわけでもない。「履行義務」や「支配概念」に、その一端が現われているように思うからだ。
従来の日本の売上計上基準だと、発送とか検収などといった「イベント」、即ち、顧客を満足させるための企業の努力のほんの一断面で、会計処理のタイミングをとらえていた。しかし、この公開草案では、企業が受注し、顧客に約束した履行義務(財・サービスの提供)を充足して、その財・サービスから得られる将来キャッシュフローを顧客が自分のものにできたとき、支配が移転し収益が実現したと考えている(対応する原価も同時に費用計上)。即ち、顧客と企業との関係を断面でなく一連の流れとしてとらえている。
IFRSも会計基準に過ぎず、企業経営に直接役立たせようとしたものではない。しかし、企業と顧客の関係をリアリティを持って、とまでは言えないが、より重層的にとらえることで、経営に役立たせやすくはなっていると思う。IFRSを経営に役立たせるかどうか、どのように利用するかは、企業の自主的な努力にかかっている。このシリーズの冒頭に記載したように、次回はこのシリーズの締めくくりとして、僕の考える「顧客満足基準」について書きたいと思う。果たしてみなさんのお役にたつかどうか自信はないが・・・。
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