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2012年6月21日 (木曜日)

【東電2012/3決算短信】継続企業の前提に関する開示制度(監査上の判断と開示)

2012/06/21

前回は、継続企業の前提(以下「GC」と記載する。Going ConcernAssumption)の略。)に重要な疑義がある場合、即ち、企業の存続が危うい状況にある場合に、どのような理論的、制度的背景があって開示が行われるかを記載した。今回は、監査人の監査報告書の種類から、監査人及び企業が、その企業の倒産リスクをどのように考えているかを読み取れるので、それを記載したい。ついでに、参考までに、世間から会計士が意見不表明を乱発し過ぎると非難された2009年監査基準改正前のGCの制度がどういうものであったかを記載する。

 

GCに重要な疑義がある場合、監査人は、以下の種類の監査報告書を作成する。()内は、企業の開示。

 

  1. 適正意見・・・普通の監査報告書

(企業は、事業等のリスクなどにGCの疑義の内容や疑義に対する対応策を記載するが、財務諸表のGCの注記は不要)

 

  1. GCの追記付の適正意見

(企業は、財務諸表の注記としてGCの注記を記載する)

 

  1. 不適正意見

(企業は存続できない旨のGC注記か、不適切なGC注記を記載する。または、GC注記が必要なのに注記しない)

 

  1. 意見不表明

(企業は基本的にはなんらかのGCの注記を記載する)

 

これらを分けるのは、GCに関する不確実性の大きさと、開示の適切性だ。

 

GCに関する不確実性とは、平たく言えば会社が期末日から少なくとももう1年存続できるかどうかの見通しをどの程度確信を持って言えるかだ。疑義があっても適切な経営的対応がなされ存続できそうであれば 1の適正意見、存続できるともできないとも言えないならば 2のGCの追記付の適正意見、存続できないと分かっていれば 3の不適正意見となる。そして経営者が経営責任を放棄し、さじを投げている状態なら 4の意見不表明となる。

 

開示の適切性では、GCの状況を開示する必要があるのに開示してないとか、GCの状況について読者に誤解を与えるような開示をしている場合に不適切となる。そういう場合も 3の不適正意見(状況によって限定付適正意見)となる。

 

東電の場合は、2のGC追記付適正意見なので、「もう1年会社が存続できるかどうか分からない状況を適切に開示した」場合となる。GCについては、経営者と監査人の双方が検討し、どの状況にあるかを決める。一般的には監査人が会社を指導して決めると思う。その際、次の3ステップで検討する。

  1. GCについて重要な疑義があるか否か(いわゆる危ない状況か)
  2. 重要な疑義があるとすればその疑義に会社がどう対応するか
  3. その結果この先1年以内に会社の存続に重要な不確実性があるか(倒産を防げるか)

 

したがって、GCについて重要な疑義があっても、会社がそれに適切な対応策を立てており、かつ、それが実現できそうであれば、期末日から少なくとも1年間の存続は可能と考えて 1の(GC注記なしの)適正意見になる。しかし、対応策が十分でないとか、有効でないとか、実現が難しい、或いは自力だけでは実現できず有力な他者(例えば金融機関)の協力が必要で、その他者が対応策の実現に不利な意思決定を行う可能性を無視できないという判断であれば、東電のように 2の財務諸表にGC注記を開示し、監査報告書はGC追記付適正意見となる。

 

なお、決算短信に監査報告書は添付されないから、正確には決算短信だけでは 2なのか 3(不適正意見)なのかは分からない。ただ、もし不適正意見であれば、3月決算会社の株主総会の招集通知の発送が終わった今の時期には、すでに監査人が不適正意見を表明したことが適時開示されて大きな話題になっているはずだ。しかし、東電に関してそういうニュースは聞かないので監査人の意見は、2のGC追記付適正意見と推定できる。

 

前回と今回でお分かりいただけたと思うが、GCの注記は会計公準の一つである継続企業の前提が成立していないかもしれないと開示することで、企業の存続の危険性、倒産のリスクを開示するものだ。上場廃止になりそうだとか、企業買収のように企業の支配権を他者に奪われそうだとか、大きな組織再編をするかもしれないなどといった、会社の存続以外の可能性を開示するものではない。そういうことは「継続企業の前提」という会計公準とは関係ない。そこにリスクがあってもGCの注記としては記載されない。

 

 

 

ところで、上記は2009年の監査基準改正後の現行制度だが、それ以前の制度を記載しながら、以下に企業経営に与える影響にも言及したい。

 

(改正前)

重要な疑義がある場合、以下の監査報告書を作成する。

 

  1. GCの追記付適正意見(企業はGCの注記を記載する)
             
  2. 意見不表明(企業はGCの注記を記載する)
             
  3. 不適正意見(企業は存続できない旨のGC注記か、不適切なGC注記を記載する。または、GC注記が必要なのに注記しない)

 

当時は、重要な疑義があれば即GCの追記付となり、もう1年存続する根拠あるストーリーが描けなければ意見不表明だった。もう1年存続できるかどうかは、主に金融機関の融資姿勢ともう1年間の事業計画の実現可能性(最終的には資金繰り)で評価されるが、それは、もともと売上の激減や大赤字を継続している会社には厳しいことだった。金融機関の融資姿勢も厳しくなっていた。だから、当時は新興市場を中心に多くの意見不表明の監査報告書が提出された。当時の制度ままであれば、1年間の存続に重要な不確実性があるとされている東電にも意見不表明の監査報告書が提出されたかもしれない。監査人が意見不表明の監査報告書を提出すると、東証はほぼ自動的に「著しく不適切な開示を行った」という理由で上場廃止を決定するから、そうなると東電も20113月期決算で上場廃止になっていたことになる。なお、3の不適正意見については、現行制度と変わらない。

 

企業の側から考えてみよう。改正前は、企業が「もう一年存続できるかどうか分からない」と実情を素直に開示し、できる限りの対応策を立案しなんとか存続しようともがいているにもかかわらず、監査人から意見不表明だと言われ、東証からは「著しく不適切な開示」と言われて上場廃止になるという過酷な仕組みになっていた。株主も株式価格が下落したり、売買する場を失って損失を被る可能性が高かった。しかし、2009年の監査基準の改正で、企業が実態を適切に開示している限り、意見不表明で上場廃止となるのは経営者がやる気を失って責任を放棄しているような極端な場合に限定されるようになった。この改正後、GCに関連して意見不表明の監査報告書が提出されたり、上場廃止になった会社は、寡聞にして聞かない。(GC以外の理由による意見不表明は最近報道されたが。)

 

倒産リスクが高いかどうかは、投資家や株主にとっても重要な情報だが、実は経営者にとっても重要だ。特に第三者たる監査人にそのリスクを指摘されることで、問題の重要性を再確認できる。GCに関する重要な疑義を意識することで、足踏みしていた経営課題の解決にアクセルを踏んだり、逆に投資回収リスクの大きい案件を白紙に戻したり、今までにない大胆な改革を立案するきっかけになる。そこで適切な舵取りを行えば、監査人から適正意見、悪くてもGC追記付の適正意見をもらえ、上場を維持しながら経営改革を行えるのが現行の制度だ。

 

僕の感想を言えば、現行制度は財務情報の開示という意味でも、企業経営に与える影響の面でも、とても良い制度になったと思う。あとは実際の運用で、適切な情報開示に努めることが求められる。それが結果として企業経営者に適度な緊張感を与える。

 

ちなみに、IFRSでのGCの扱いだが、これまでの記述から分かるように、「GCは会計公準(会計基準の前提)である」という会計理論からきているが、日本では会計基準ではなく、監査基準系で制度的な対応が図られている(具体的な企業の開示に関しては財務諸表規則等で規定)。しかし、IFRSでは概念フレームワークやIAS第1号「財務諸表の表示」など会計基準の中でも扱われている。原則主義のIFRSらしく大雑把にしか記載されていないが、内容は、「重要な不確定事項(material uncertainties)」を開示させるから、改正後の日本の制度と概ね同じだと思う。

 

さて、次回は東電の「もう1年会社が存続できるかどうか分からない状況を適切に開示した」決算短信を見ながら、具体的に疑義は何で、対応策は何で、その対応策のどの部分を東電と監査人が十分でない、とか、実現可能性が高くないと考えたのか、即ち、もう1年存続できるか分からないと判断した理由は何かについて読み解いていこう。

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