« 【東電2012/3決算短信】の気になるところ | トップページ | 【東電2012/3決算短信】継続企業の前提に関する注記の趣旨 »

2012年6月15日 (金曜日)

【東電2012/3決算短信】料金値上げと原発稼働率

東日本大震災は、日本社会に非常に大きなインパクトをもたらした。堺屋太一氏は、これを日本再建の契機にする願いを込めて、著書で「第三の敗戦」と表現した(1年遅いと笑われそうだが、これから読むつもりだ。第一と第二の敗戦は、明治維新と第二次世界大戦で、そのとき、既得権者に権利を戻さなかったことが、大改革を成功に導いた。だから今回も・・・という内容だそうだ)。会計実務の世界はというと、逆にこの震災を契機にIFRS導入の動きがストップし、日本の会計基準は変化にブレーキが掛けられている。

 

さて、東電にとってはどうだろうか。この震災で発生した福島第一原発の事故は、東電の財政状態、経営成績をまるで別の会社であるかのように変えてしまった。そして原子力の安全への意識、原子力損害賠償、資金調達、そして電気料金値上の各問題では、地域独占の巨大企業の責任に対する世間の見方の厳しさと、自らの感覚・意識や対応能力とのギャップに悩んだ一年だったのではないだろうか。

 

決算短信は、企業の当期の実績を投資家に報告するもので、それに翌期の業績予想を付加して公表される。決算短信の表紙はこれらの要約表で、その添付資料に、有価証券報告書の速報版ともいうべき当期業績や事業リスクの説明や(連結)財務諸表の開示が行われる。多分、それらの中に東電が悩んでいるギャップが垣間見られるに違いない。そんな観点を持って、決算短信(と添付資料)の財務諸表の手前までと、東電のHPに公開されているアナリスト向け決算説明会資料(スライド)を読んでみた。そこで、僕が重要と思った記載事項は、以下の通りだ。

 

☆財務面

  1. 販売電力量8.6%減少と売上高微減(0.9%)の関係
  1. 原油価格等の高騰と原子力発電量減少の影響
  1. 損害賠償と災害特別損失
  1. 継続企業の前提にかかる疑義と不確実性の内容

 

☆意識改革

 

今回は、財務面の12について記載したい。34は前回の記事に記載した通り、次回以降にじっくり記載したい。意識改革については、決算短信の財務諸表の直前に記載されていて、「信頼の回復」、「関係者の方々との協力・連携」、「責任を全うする、開かれた東京電力」など、とても良いことが書いてある。財務面のことを検討しながら、その時々に触れていきたい。

 

財務面では、まず、販売電力量が減少したのに売上が減少しないという、一般企業からみれば天国にでもいるような恵まれた数字になっていることが目につく。ただ、これは販売電力量が落ちた場合にそれを補う制度があるというわけではなく、たまたま燃料費が高騰したためにそれに連動して売上単価が上昇し、そして、たまたま前年度並みの売上になったということらしい。その売上単価上昇の影響は、アナリスト向け決算説明会資料に基づいて計算すると3,674億円の売上増加となる。

 

次に原油価格等の高騰の影響と原子力発電量減少(原発稼働率低下)の影響だが、これも前出の決算説明会資料に記載があり、前者は為替レートの影響をネットして3,940億円の費用増加で、上記の売上単価上昇の影響とほぼ見合うので、決算にはあまり影響していないことが分かる。そして、後者の原子力発電量の減少については5,060億円の費用増加になったという。営業損失2,725億円の主原因は、原発稼働率の悪化と考えてよさそうだ。

 

なお、翌期(2013/3期)の業績予想では、原発稼働率はゼロになるので、当期(2012/3期)よりさらに2,950億円費用が増加するとしている。これを当期の営業損失2,725億円に加えると翌期は約5,700億円の営業損失となりそうだが、東電は翌期の業績予想の営業損失を2,350億円としていて、約3,300億円損失が少ない。その理由は、翌期に6,600億円の電力料金の値上げ(原油価格等の上昇が見込まれており、これに連動して値上げされる分を含むが、その金額は不明)などを見込んでいるためだ。

 

こうして見てみると、燃料の購入価格上昇の影響は自動的に電力料金値上げとなって吸収されるので、社会問題にもなった電力料金値上げ問題の根本原因は、原発稼働率の低下(=火力発電への依存度の上昇)にあることが透けて見えてくる。東電は、原発依存度が下がることを見込んでいるために、値上げを申請したのだ。決算説明会資料によれば、今回の値上げ申請の基礎となった料金算定期間(2013/3期から3年間)については、原子力利用率の見通しが平均18.8%と、2008年度の実績43.1%より24.3%下がっている。

 

この火力発電依存度の上昇と料金値上げ申請の強い関連性については、決算短信の「継続企業の前提に関する重要事象等」や、「直面する構造的課題への対応」に、東電自身が記載している。であるならば、今後、18.8%を超えて原発を稼働させる場合は、それは東電の利益の増加になるから、今回とは逆に料金を引下げさせるべきだ。が、今の料金決定の仕組みはそういう仕組みになっているだろうか。柏崎刈羽原発は、来年4月から順次稼働が予定されているが、その後、柏崎刈羽原発が安定稼働を続けるなら、また、他の原発(福島第一5号機、6号機、福島第二、東通)も再起動するのであれば、原子力利用率が18.8%を超えることは現実に起こることだと思う。もし、そのとき料金が値上げされたままだったら、それは不当利得、焼け太りというものだ。

 

今回の電力料金の値上げは、東電に新たな既得権を与えることになる。僕は、この既得権が固定化しない仕組みがあるかをチェックする必要があると思う。

 

一方、東電は原発利用率が18.8%より上昇した後のことについて、社会に説明しているだろうか。東電は、事業者用の電力料金改定の際に、東電に不利になる契約条項について説明不足があったと非難され、謝罪したが、これについても自発的に説明すべきではないだろうか。もし、料金引下げの仕組みがないとすれば、原発をたくさん稼働させるほど東電の利益が増える。だから、18.8%を超えてもなるべくたくさん原発を稼働させるなどということを密かに考えているとすれば、東電の意識改革はまだまだ、ということにならないだろうか。いや、いまの社会情勢で、原発をそんなに稼働させることは考えられないというのであれば、原発の廃止を公表し、原発設備を減損することになるだろうが、そんなニュースは聞かないし、減損についての記載もない。

 

それとも僕が知らないだけで、このことは解決済みなのだろうか。

 

ところで、この決算短信や決算説明会資料では、総合特別事業計画に記載されたコスト削減効果(資産売却以外の合理化効果)が、翌期の業績見通しにどのように影響しているかが見えない。それが明らかでないと、外部者がコスト削減について検証できない。それでは開かれた東電とは言えないのではないだろうか。それとも、翌期はまだ効果が出ないのか?

« 【東電2012/3決算短信】の気になるところ | トップページ | 【東電2012/3決算短信】継続企業の前提に関する注記の趣旨 »

番外編」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/577176/54963072

この記事へのトラックバック一覧です: 【東電2012/3決算短信】料金値上げと原発稼働率:

« 【東電2012/3決算短信】の気になるところ | トップページ | 【東電2012/3決算短信】継続企業の前提に関する注記の趣旨 »

2017年7月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ