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2012年6月 5日 (火曜日)

原則主義と粉飾決算(企会審2/29の議事録等から)

進行基準シリーズに区切りがついた(と思う)ので、元の原則主義シリーズに戻りたい。下記は企業会計審議会事務局が作成した資料や議事録に記載されていた原則主義のメリットとディメリットのそれぞれ3つ目の項目だ。メリットにはルール潜脱行為を抑止できると書かれているが、原則主義ならオリンパス事件を防げただろうか?

 

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(メリット)

細則主義における数値基準などを悪用し、ルールを潜脱するような行為を抑止できる。

 

(ディメリット)

作成者・監査人・当局間において見解が相違し、調整のための負担が増加することや、事後的な修正のリスクがあること。

(なお、米国においては、このような懸念のほか、財務諸表の虚偽記載に係る訴訟が増加するのではないかとの懸念も聞かれる。)

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これを見て、ピンとこないと感じた方もいらっしゃると思う。なぜ原則主義だとルール潜脱行為を抑止できるのかと。そこで僕が思い出すのはカネボウの連結外しだ。

 

記憶だが、当時の新聞記事には「会計士が連結外しを指南」などと見出しが躍った。確か、持分比率が20%を下回らなければ連結から外せないと会計士がカネボウに言ったとか、言わないとか。そしてカネボウは取引先に資金提供し株を持たせ、持分比率を20%より引き下げ子会社を連結から外し、そこへ押し込み販売をしてたとか・・・。

 

当時でも実質的に支配していれば、持分比率0%の会社でも原則連結に含めていた。もしこの20%発言が事実であれば、この会計士は、何らかの前提の下に20%という条件を言ったはずだが、20%が独り歩きし悪用されたのだ(或いは、悪用されることを知りつつ20%と言ったか・・・)。数値基準はこのように格好の言い訳の材料になる。ところが原則主義ではそういう具体的数値基準を設けないから、言い訳の材料を与えない。

 

しかし、会計基準を原則主義で作ったとしても、企業が独自の細則(例えば数値基準)を作り、形式的に運用した場合はカネボウのケースと同じことが起こりうる。形式的に運用しても大丈夫なところにだけ数値基準を入れるとか、数値基準を入れたところには実質的なチェックも加えるといった工夫をしないと、この原則主義のメリットは台無しになる。そして、監査人と見解が相違し、余分なエネルギーを費やすことになる。監査人は、企業の細則に合意していたとしても、最終的には会計基準の原則で判断するからだ。(さらにIFRSは、必要な場合はIFRSからも離脱せよ、とまで言っている!・・・4/9の記事を参照。)

 

結局、会計基準がなぜその規程を設けているかという目的を理解する能力や、そこへ向かおうとする意識の強さがなければ原則主義のこのメリットは生きてこない。IFRSでいえば、財務報告が、企業の生み出す将来キャッシュフローの適切な予測情報となっているか、経済実態を忠実に表現しているか、という2点を常に意識し続ける必要がある。この2/29の議事録には「会計に対するコンプライアンス意識」(八木委員)と表現されているが、この目的に向かおうとする弛まぬ意識のことだと思う。

 

ちなみに「compliance」を辞書で引くと、「人の願いなどをすぐ受けいれること,迎合性; 人のよさ,親切」などとも記載されており、自分の都合ではなく相手を受入れ相手に合わせること、この場合でいえば、自社の事情でなくルールの趣旨を優先するという語感があることが分かる。問題を解決したければ、自分の都合だけ並べ立てても前へ進めない。原則主義を生かせるかどうかは目的に向かう気持ちの強さに掛っているが、これは小人にはできない、まさに大人としての振舞ができるかが問われているということだろう。

 

もちろん、第三者委員会に「サラリーマン根性の集大成(この言葉遣いに異論のあるアサラリーマンも多いと思うが・・・)」などと糾弾されたオリンパスの旧経営陣が大人であるはずもなく、「会計に対するコンプライアンス意識」など持ち合わせていなかったに違いない。原則主義など、オリンパスの旧経営陣にとっては猫に小判、豚に真珠だろうと思う。

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