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2012年6月 8日 (金曜日)

原則主義と比較可能性(企会審2/29の議事録等から)

2月29日の企業会計審議会の議事録を読まれた方は、原則主義が比較可能性を損ねるという印象を持たれたのではないかと思う。IFRSにおける比較可能性の問題については、このブログでも1月から2月にかけての有用な財務情報シリーズの中で触れていて、大雑把に次のようなことを書いてきた。

 

 「比較可能性」より「忠実な表現」の優先

 会計方針の選択問題より見積りの重要性増加

 継続性の原則の変容

 

即ち、そもそも、財務情報が経済実態の忠実な表現がなされていないのであれば、比較する意味もない。経済実態の忠実な表現となっていればこそ情報を比較する意味があるので、企業は企業が直面する経済実態に合わせて会計処理を選択すればよい。その結果、個々の会計処理自体は相違したとしても、企業パフォーマンス・レベルでの比較可能性は担保されることになる。

また、IFRSが将来キャッシュフローに関心を向けた結果、見積り項目が増加しその重要性が非常に高くなっている。見積もり方法は経済実態の変化に対応して最適な方法で行われるべきで、そこに日本流の「継続してればよい」式の継続性の原則は向かない。経済実態が変化すれば、見積もり方法を積極的に見直されなければならい。そればかりでなく会計方針についても同様で、経済実態の変化に対応して最適な会計方針を選択する(変更する)必要がある。

 

しかし、この議事録では、それでは済まない問題が指摘されているようだ。具体的には韓国の造船業界における為替差損益の会計処理が各企業間で不揃いだとか、韓国メーカーの財務分析を行うと、営業損益として開示された数字の内訳も不揃いだという。その結果、「原則主義は比較可能性を低下させるのでディメリットの方が大きいし、その解決策も不明」という趣旨の意見も記載されている。

 

そこで、為替差損益の処理と営業損益の開示について検討してみよう。

 

 

(為替差額の処理について)

会計方針等の選択など企業の判断に依存する余地のあるものとして、次の項目が思い浮かんだ。

 a. 機能通貨と表示通貨にどの通貨を選択するかは企業の状況判断に任されている。

 b. 貨幣性資産・負債か、非貨幣性資産・負債かの区別の一部が状況判断によっている。

 c. 在外営業活動体の決算日が親会社決算日と異なる場合の扱い。

 

企業によって処理がばらつきそうな項目としては、abと思われるが、abも企業が自由に決められるものではなく、直面している経済環境に合わせて決まってくるものだ。完全に同じ環境でない限りは処理が分かれることもあるだろうが、同じ造船業でばらつくのは確かに不思議だ。

そこでこの発言の元をさらに辿っていくと、この発言は、217日の企業会計審議会の勧告に関する報告資料に関連して行われていて、その資料の脚注28に次のように記載されている。

 

例えば、造船業では、従来、為替差損益は営業外損益であったが、IFRS では、営業外損益、その他営業損益、営業資産での外貨損益と非営業資産での外貨損益など、会社によって表示にばらつきが生じたとのこと(投資家)。

 

為替差損益を計上する損益区分については、日本でも売上原価など営業項目に含まれることがある。どのような取引で発生したか、その実態を表現するのに適切な区分で表示させるからだが、韓国では従来画一的に営業外損益と決められていたのかもしれない。

営業資産、非営業資産とか、外貨損益などという開示項目としては聞きなれない用語があるものの、その趣旨は従来の韓国会計基準では揃って処理されていたのものが、IFRSを適用したらばらけた、ということではないかと思った。(営業資産とか非営業資産も、韓国流の表示区分方法なのではないだろうか。或いは継続事業・非継続事業のことか?)

 

 

(営業損益の開示について)

IFRSでは包括利益の内訳項目である区分損益は、純損益(当期純利益)、非支配持分と親会社持分に帰属する損益を開示しなければならないとしているが、営業利益は任意開示項目で、営業利益が何かという定義はない。(なお、異常項目・・・日本でいう特別損益項目は区分にしてはならないとされている)

 

 

ということで、ここから導き出すべき教訓は、従来の韓国基準と合わせて検討しないと確かなことは言えないが、「原則主義は比較可能性を低下させ、その対応策も不明」ということではなく、次のようなことではないだろうか。

  • 経済実態に合わせた会計処理の選択や見積もり方法を徹底していくこと(選択は自由に行うものではなく、経済実態に最も合ったものを選択しなければならないし、そういう説明を開示すること)
  • 営業損益のように、IFRSで規定されていないが重要なので開示させる項目については、国内規程や基準、ガイダンスといったもので、内容を明確にすること

 

原則主義シリーズは今回で終了する。思えばこのブログを始めた当初、Jリーグとプレミアリーグの審判の差について記載した。同じルールブックで行われるサッカーのゲームだが、審判の差でゲームの面白さが変わる。それと同様にIFRSも同じ基準であっても適用の仕方、原則主義の運用の仕方が重要だ、という趣旨だった。今日はW杯のアジア最終予選のヨルダン戦が行われるが、先日完勝したオマーン戦では、アジアの審判もプレミア流に軽微な反則は流してゲームの進行を優先させていた。僕が見るところJリーグの審判はまだ個人差が相当あるが、方向はゲームの進行が優先される方へ向かっているように思う。そしてIFRSはどうだろうか。まだ企業会計審議会の結論は出ない。早く方向性を決めて、いかにうまく導入するか、いかに経営に役立つように導入するかに関心が集まるように願うばかりだ。

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

コメントをありがとうございます。時々もらえるコメントがとても励みになります。またよろしくお願いします。

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