【東電2012/3有報】GCの注記
2012/06/29
6/27の株主総会終了を受けて、6/28に有価証券報告書が東電から金融庁へ提出され、同日EDINETに掲載された。以下については、その有価証券報告書についての記載となる。6/27の夜のニュースでは、東電等の株主総会の様子が詳しく報道され、みなさんもご存じのとおり、東電の株主総会も5時間半の長時間開催となり、会社提案はすべて可決されたが、東京都の前向きな提案も含め、株主提案はすべて否決されたという。
東電が存続できるかに関わる重要議案の1兆円増資は可決されたので、有価証券報告書でも、経理の状況の末尾、付属明細書の手前に「重要な後発事象」が追加され、そのことが開示された。しかし、それだけではGC(継続企業の前提)にかかる重要な不確実性は解消されていないと見えて、決算短信に記載されたGCの注記がそのままの内容で有報にも記載されている。ということは・・・
- 残る不確実性項目として挙げられている電力料金の値上げのみが実現できない場合でも、1年以内に倒産する無視しえない可能性があるというのが東電自らの見立てか?
(5/14の決算発表資料によれば、2013/3期の連結ベースの営業キャッシュフローは9,887億円もの黒字になるという。うち、大口も含めた電力販売単価上昇による売上見込額の増加は6,600億円だから、一般電気料金の値上げなしでも営業キャッシュフローは、少なくとも3千億円以上の黒字だ。そんな多額の営業キャッシュフローを稼ぎ出せる会社が日本に何社ある? それでも1年以内に倒産すると考える根拠は?)
- 或いは、総会決議がされても、機構が実際に引受けるかどうかに、まだ無視しえない不確実性が残っているのか?
(GC注記には、「平成24年5月9日に・・・機構より・・・株式の引受け(払込金額総額1兆円)の決定の通知を受けている。」と記載されているが、機構には、まだ何か重要な、上記の決定が覆る可能性あるような手続が残されていて、かつ、実際に覆ることがありうる状況があるのだろうか?)
3月以来何度も記載している通り、原子力災害に関する損害賠償(除染費用も含む)は、機構が資金補填する仕組みになっているから、これが直接の原因で1年以内に倒産に至る可能性は低い。特別掛け金も先の話だろう。震災関係で東電が自ら負担するのは、原子力発電所廃止費用など自らの資産を維持・管理、処分する費用のみで、それについては、損益的にはすでに考え得る合理的な金額を引当済みのはずだし、資金面でも上記の増資でとりあえず当面は賄えるはずだ。
監査人はどう考えているだろうか。
6/27の総会決議を前提に作成された監査人の監査報告書にはいわゆる適正意見が付されている。そのうえで、強調事項という区分が追記され、次のように記載されている。
1.・・・株主総会において必要な議案が決議された後、機構による株式の引受けが必要となることや、電気料金の改定の申請について、経産大臣による認可が必要となることを踏まえると、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。
5.・・・平成24年6月27日開催の会社定時株主総会において、本優先株式発行に必要な発行可能株式数の増加等に関する承認を得た。
そもそも「強調事項」なので、会社の財務諸表等の記載と異なることは書いてない(書けない)。監査人も東電と同じ見立てということになる。
ちなみに、財務諸表規則のGCの注記に関する条項(第8条27)には、次のように記載されている。
・・・ただし、貸借対照表日後において、当該重要な不確実性が認められなくなつた場合は、注記することを要しない。
「注記することを要しない」とは、GCの注記が不要ということだが、それを記載し続けているということは、1年以内に倒産する可能性を否定できない状況が、監査報告書作成時点や有報提出時点でも続いているということだ。しかし、その危機、不確実性がなにかは相変わらず示されない。これでは、うがった見方をしてしまい、値上げを通したいがために危機を演出しているのではないかと勘繰ってしまう。
東電が原発事故で世間の注目を集め、色々な問題を会計的にどのように対応するかが、非常に良いケース・スタディになるということで始めたシリーズだったが、どうもスッキリ、ガッテンとはいきそうもない。
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