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2012年6月

2012年6月29日 (金曜日)

【東電2012/3有報】GCの注記

2012/06/29

6/27の株主総会終了を受けて、6/28に有価証券報告書が東電から金融庁へ提出され、同日EDINETに掲載された。以下については、その有価証券報告書についての記載となる。6/27の夜のニュースでは、東電等の株主総会の様子が詳しく報道され、みなさんもご存じのとおり、東電の株主総会も5時間半の長時間開催となり、会社提案はすべて可決されたが、東京都の前向きな提案も含め、株主提案はすべて否決されたという。

 

東電が存続できるかに関わる重要議案の1兆円増資は可決されたので、有価証券報告書でも、経理の状況の末尾、付属明細書の手前に「重要な後発事象」が追加され、そのことが開示された。しかし、それだけではGC(継続企業の前提)にかかる重要な不確実性は解消されていないと見えて、決算短信に記載されたGCの注記がそのままの内容で有報にも記載されている。ということは・・・

 

  • 残る不確実性項目として挙げられている電力料金の値上げのみが実現できない場合でも、1年以内に倒産する無視しえない可能性があるというのが東電自らの見立てか?

 

5/14の決算発表資料によれば、2013/3期の連結ベースの営業キャッシュフローは9,887億円もの黒字になるという。うち、大口も含めた電力販売単価上昇による売上見込額の増加は6,600億円だから、一般電気料金の値上げなしでも営業キャッシュフローは、少なくとも3千億円以上の黒字だ。そんな多額の営業キャッシュフローを稼ぎ出せる会社が日本に何社ある? それでも1年以内に倒産すると考える根拠は?)

 

  • 或いは、総会決議がされても、機構が実際に引受けるかどうかに、まだ無視しえない不確実性が残っているのか?

 

(GC注記には、「平成2459日に・・・機構より・・・株式の引受け(払込金額総額1兆円)の決定の通知を受けている。」と記載されているが、機構には、まだ何か重要な、上記の決定が覆る可能性あるような手続が残されていて、かつ、実際に覆ることがありうる状況があるのだろうか?)

 

3月以来何度も記載している通り、原子力災害に関する損害賠償(除染費用も含む)は、機構が資金補填する仕組みになっているから、これが直接の原因で1年以内に倒産に至る可能性は低い。特別掛け金も先の話だろう。震災関係で東電が自ら負担するのは、原子力発電所廃止費用など自らの資産を維持・管理、処分する費用のみで、それについては、損益的にはすでに考え得る合理的な金額を引当済みのはずだし、資金面でも上記の増資でとりあえず当面は賄えるはずだ。

 

 

監査人はどう考えているだろうか。

 

6/27の総会決議を前提に作成された監査人の監査報告書にはいわゆる適正意見が付されている。そのうえで、強調事項という区分が追記され、次のように記載されている。

 

1.・・・株主総会において必要な議案が決議された後、機構による株式の引受けが必要となることや、電気料金の改定の申請について、経産大臣による認可が必要となることを踏まえると、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる。

 

5.・・・平成24627日開催の会社定時株主総会において、本優先株式発行に必要な発行可能株式数の増加等に関する承認を得た。

 

そもそも「強調事項」なので、会社の財務諸表等の記載と異なることは書いてない(書けない)。監査人も東電と同じ見立てということになる。

ちなみに、財務諸表規則のGCの注記に関する条項(第827)には、次のように記載されている。

 

・・・ただし、貸借対照表日後において、当該重要な不確実性が認められなくなつた場合は、注記することを要しない。

 

「注記することを要しない」とは、GCの注記が不要ということだが、それを記載し続けているということは、1年以内に倒産する可能性を否定できない状況が、監査報告書作成時点や有報提出時点でも続いているということだ。しかし、その危機、不確実性がなにかは相変わらず示されない。これでは、うがった見方をしてしまい、値上げを通したいがために危機を演出しているのではないかと勘繰ってしまう。

 

東電が原発事故で世間の注目を集め、色々な問題を会計的にどのように対応するかが、非常に良いケース・スタディになるということで始めたシリーズだったが、どうもスッキリ、ガッテンとはいきそうもない。

2012年6月27日 (水曜日)

1周年を機にTOP PAGEの模様替え

2012/06/27

このブログも早いもので、書き始めて一年が経ち、書き溜めた記事も130を超えました。もう自分でも、何をいつごろ書いたのか記憶がつかなくなっています。また、このブログのアクセス・ログをみると、十数、数十もの記事を次々と開いている方々が散見されますが、その中には、目当ての記事がなかなか見つけられないで、そうなってる方がいるのだろうと思います。

 

ということで、キーワードやテーマ別に記事を分類して表示し、各記事へリンクを貼ったページを作成し、それをTOP PAGEとして公開します。次のような構造です。

 

◯ TOP PAGE

目次のような役割で、キーワードやテーマがリストアップされている。それをクリックすると、キーワードやテーマごとのページへジャンプする。従来のTOP PAGE(新しい順に記事が並んだページ)へのリンクも載せる。

 

◯ キーワードやテーマごとのページ

そのキーワードやテーマに関連する記事のタイトルがリストアップされている。その記事のタイトルをクリックすると記事へジャンプする。キーワードやテーマについての若干の説明やその記事を書いた経緯、動機なども記載されている。

 

従来のTOP PAGEの方が良いという方は、大変申し訳ありませんが、もう一度ブックマークの設定をやり直していただけるようお願いします。従来のHTMLは、新しいTOP PAGEへ流用されるので、現在のブックマークをそのまま使うと、新しいTOP PAGEへジャンプするようになります。

2012年6月23日 (土曜日)

【東電2012/3決算短信】GCの注記内容

2012/06/23

GCの注記は、監査・保証実務委員会報告第74号や財務諸表規則(第8条の27)等でパターン化されていて、次の4つの内容が記載されるはずだ。

 

  1. GCに重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する旨及びその内容
             

企業の危ない状況を企業が自ら開示する。具体性を持って書かないと、次の対応策が的を得たものになっているかどうかが分からないので、具体的に分かりやすく書くことが重要だ。通常第一段落に記載され、「~の重要な疑義がある」で文章が締めくくられる。典型例が債務制限条項への抵触だ(借入金の一括返済を金融機関から迫られ、資金繰りが破たんする可能性があるから)。


東電は、ここに東日本大震災により被災した福島第一原子力発電所事故に関する「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)による損害賠償責任の発生による財務体質の大幅な悪化を記載している。


  1. 危ない状況を解消し、又は改善するための対応策
             

疑義あっても、それに経営が適切に対応できるなら倒産することはない。或いは外部環境が好転していれば、やはり倒産を免れることができる。経営者としては、1に記載した状況を打破するために、外部環境・内部環境を精査し、有効な対応策を立案・実行しなければならない。その内容をここへ記載する。

 

東電は、ここに以下の項目を記載している。

・昨年
8月に「原子力損害賠償支援機構法」(機構法)が成立したこと
・機構法に基づき
11月に緊急特別事業計画が認可され、また本年2月にその変更が認可され、それぞれ機構から(支出した損害賠償額を補填する)資金交付決定の通知を受けたこと
5月に徹底的な合理化策を含めた総合特別事業計画の認可を受け、資金交付額の変更の決定、株式の引受の決定(払込総額1兆円)の通知を受けたこと
・原発停止、火力依存度上昇による収益構造悪化について、
5月に電力料金改定の申請を行ったこと

  1. 上記の対応策を行っても、なお重要な不確実性が認められる旨及びその理由
             

この注記が記載されるということは、上記 2の対応策が十分でないか、実現可能性が高くなく、会社がこの先1年間存続できるかどうか不確実な状況にある場合だ。典型例は、金融機関に債務返済期限の延長を申入れ、その回答待ちの状況にある場合だ。金融機関の返事次第では資金繰りに詰まる可能性がある場合は、重要な不確実性があるとされる。このように他者の協力が不可欠なのに、まだ協力が得られるかどうか不明な場合も重要な不確実性があるとされる。

 

東電は、ここに重要な不確実性がある項目として以下を記載している。

a. 株主総会での(第三者割当増資に)必要な議案の決議、及び、機構による株式の引受
b. 経産大臣による電気料金改定の認可

  1. 重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しているか否かの別
             

ここには「財務諸表は継続企業を前提として作成されており、継続企業の前提に関する重要な不確実性の影響を反映していない」という定型句が入る。要は、普通の会計基準で作成しており、資産や負債の評価に倒産を前提とした特別な処理はしていません、ということだ。東電もそのように記載している。

 

(東電のGCの注記を正確に読みたい方は、東電のHPの開示資料(添付資料のP44をご覧ください。)

 

ということで、東電の開示によれば、東京電力がこの1年間存続できるかは、株主総会での増資決議と、電気料金の値上げが実行できるかにかかっている。(なお、機構による増資引き受けも記載されているが、機構は引受を承諾しているので、「機構と合意した条件」での増資が総会で承認されるかどうかについて不確実性があるということであろうと思われる。)

 

さて、みなさんは、この注記で「うん、それは危ない」と、東電と危機感を共有できただろうか。

 

 ・1年間存続するには増資と値上げの両方が必要?

 ・増資決議はそんなに不確実?

 

原子力損害賠償については、多少のタイムラグはあっても機構から資金補填されるし、2012/3期の営業キャッシュフローは赤字といっても僅か28億円に過ぎない。1兆円近くある手元資金では不足か? しかし、通常GCの検討を行う場合は、資金繰りシュミレーションを行っているはずだ。きっと増資と値上げが実現しない場合は、(何かの条件が加わって)1年以内に破綻するシナリオを否定できなかったのだろう。・・・と、一応は思う。

 

増資決議も必要な賛成票が得られるかどうか、票読みをしたに違いない。その結果、(僕には考えにくいが)株式が無価値になるより希釈化を嫌うなど、増資に賛成しない株主が相当数いると考えざるえない理由があったに違いない。・・・と、一応思う。

 

だが、それがなにか書いてない。もしかしたら、そこにこそ、本当の疑義なり、不確実性があるのではないだろうか。中長期的な事業性、存在意義が問われているのは分かるし、自律的な資金調達能力を復活させることも重要だが、それはGC注記の目的ではない(それらについて書きたければ別のところに書けばよい)。

 

いずれにしても、この2つを重要な不確実性のある事象として注記した以上、これらが有価証券報告書提出前に解消・解決された場合は、今度は重要な後発事象の記載が必要になる。例えば、有価証券報告書を定時総会終了後に提出する場合は、増資決議についての記載が(可決した場合も否決の場合も)重要な後発事象として追加されるだろう。また、値上げについても、もし、有価証券報告書提出前に認可された場合は、同様に後発事象が追加される。そして、他の経営環境に大きな変化がなければ、これらが解消された以降の決算(最早で第1四半期)からは、GCの注記が不要になると思う。

2012年6月21日 (木曜日)

【東電2012/3決算短信】継続企業の前提に関する開示制度(監査上の判断と開示)

2012/06/21

前回は、継続企業の前提(以下「GC」と記載する。Going ConcernAssumption)の略。)に重要な疑義がある場合、即ち、企業の存続が危うい状況にある場合に、どのような理論的、制度的背景があって開示が行われるかを記載した。今回は、監査人の監査報告書の種類から、監査人及び企業が、その企業の倒産リスクをどのように考えているかを読み取れるので、それを記載したい。ついでに、参考までに、世間から会計士が意見不表明を乱発し過ぎると非難された2009年監査基準改正前のGCの制度がどういうものであったかを記載する。

 

GCに重要な疑義がある場合、監査人は、以下の種類の監査報告書を作成する。()内は、企業の開示。

 

  1. 適正意見・・・普通の監査報告書

(企業は、事業等のリスクなどにGCの疑義の内容や疑義に対する対応策を記載するが、財務諸表のGCの注記は不要)

 

  1. GCの追記付の適正意見

(企業は、財務諸表の注記としてGCの注記を記載する)

 

  1. 不適正意見

(企業は存続できない旨のGC注記か、不適切なGC注記を記載する。または、GC注記が必要なのに注記しない)

 

  1. 意見不表明

(企業は基本的にはなんらかのGCの注記を記載する)

 

これらを分けるのは、GCに関する不確実性の大きさと、開示の適切性だ。

 

GCに関する不確実性とは、平たく言えば会社が期末日から少なくとももう1年存続できるかどうかの見通しをどの程度確信を持って言えるかだ。疑義があっても適切な経営的対応がなされ存続できそうであれば 1の適正意見、存続できるともできないとも言えないならば 2のGCの追記付の適正意見、存続できないと分かっていれば 3の不適正意見となる。そして経営者が経営責任を放棄し、さじを投げている状態なら 4の意見不表明となる。

 

開示の適切性では、GCの状況を開示する必要があるのに開示してないとか、GCの状況について読者に誤解を与えるような開示をしている場合に不適切となる。そういう場合も 3の不適正意見(状況によって限定付適正意見)となる。

 

東電の場合は、2のGC追記付適正意見なので、「もう1年会社が存続できるかどうか分からない状況を適切に開示した」場合となる。GCについては、経営者と監査人の双方が検討し、どの状況にあるかを決める。一般的には監査人が会社を指導して決めると思う。その際、次の3ステップで検討する。

  1. GCについて重要な疑義があるか否か(いわゆる危ない状況か)
  2. 重要な疑義があるとすればその疑義に会社がどう対応するか
  3. その結果この先1年以内に会社の存続に重要な不確実性があるか(倒産を防げるか)

 

したがって、GCについて重要な疑義があっても、会社がそれに適切な対応策を立てており、かつ、それが実現できそうであれば、期末日から少なくとも1年間の存続は可能と考えて 1の(GC注記なしの)適正意見になる。しかし、対応策が十分でないとか、有効でないとか、実現が難しい、或いは自力だけでは実現できず有力な他者(例えば金融機関)の協力が必要で、その他者が対応策の実現に不利な意思決定を行う可能性を無視できないという判断であれば、東電のように 2の財務諸表にGC注記を開示し、監査報告書はGC追記付適正意見となる。

 

なお、決算短信に監査報告書は添付されないから、正確には決算短信だけでは 2なのか 3(不適正意見)なのかは分からない。ただ、もし不適正意見であれば、3月決算会社の株主総会の招集通知の発送が終わった今の時期には、すでに監査人が不適正意見を表明したことが適時開示されて大きな話題になっているはずだ。しかし、東電に関してそういうニュースは聞かないので監査人の意見は、2のGC追記付適正意見と推定できる。

 

前回と今回でお分かりいただけたと思うが、GCの注記は会計公準の一つである継続企業の前提が成立していないかもしれないと開示することで、企業の存続の危険性、倒産のリスクを開示するものだ。上場廃止になりそうだとか、企業買収のように企業の支配権を他者に奪われそうだとか、大きな組織再編をするかもしれないなどといった、会社の存続以外の可能性を開示するものではない。そういうことは「継続企業の前提」という会計公準とは関係ない。そこにリスクがあってもGCの注記としては記載されない。

 

 

 

ところで、上記は2009年の監査基準改正後の現行制度だが、それ以前の制度を記載しながら、以下に企業経営に与える影響にも言及したい。

 

(改正前)

重要な疑義がある場合、以下の監査報告書を作成する。

 

  1. GCの追記付適正意見(企業はGCの注記を記載する)
             
  2. 意見不表明(企業はGCの注記を記載する)
             
  3. 不適正意見(企業は存続できない旨のGC注記か、不適切なGC注記を記載する。または、GC注記が必要なのに注記しない)

 

当時は、重要な疑義があれば即GCの追記付となり、もう1年存続する根拠あるストーリーが描けなければ意見不表明だった。もう1年存続できるかどうかは、主に金融機関の融資姿勢ともう1年間の事業計画の実現可能性(最終的には資金繰り)で評価されるが、それは、もともと売上の激減や大赤字を継続している会社には厳しいことだった。金融機関の融資姿勢も厳しくなっていた。だから、当時は新興市場を中心に多くの意見不表明の監査報告書が提出された。当時の制度ままであれば、1年間の存続に重要な不確実性があるとされている東電にも意見不表明の監査報告書が提出されたかもしれない。監査人が意見不表明の監査報告書を提出すると、東証はほぼ自動的に「著しく不適切な開示を行った」という理由で上場廃止を決定するから、そうなると東電も20113月期決算で上場廃止になっていたことになる。なお、3の不適正意見については、現行制度と変わらない。

 

企業の側から考えてみよう。改正前は、企業が「もう一年存続できるかどうか分からない」と実情を素直に開示し、できる限りの対応策を立案しなんとか存続しようともがいているにもかかわらず、監査人から意見不表明だと言われ、東証からは「著しく不適切な開示」と言われて上場廃止になるという過酷な仕組みになっていた。株主も株式価格が下落したり、売買する場を失って損失を被る可能性が高かった。しかし、2009年の監査基準の改正で、企業が実態を適切に開示している限り、意見不表明で上場廃止となるのは経営者がやる気を失って責任を放棄しているような極端な場合に限定されるようになった。この改正後、GCに関連して意見不表明の監査報告書が提出されたり、上場廃止になった会社は、寡聞にして聞かない。(GC以外の理由による意見不表明は最近報道されたが。)

 

倒産リスクが高いかどうかは、投資家や株主にとっても重要な情報だが、実は経営者にとっても重要だ。特に第三者たる監査人にそのリスクを指摘されることで、問題の重要性を再確認できる。GCに関する重要な疑義を意識することで、足踏みしていた経営課題の解決にアクセルを踏んだり、逆に投資回収リスクの大きい案件を白紙に戻したり、今までにない大胆な改革を立案するきっかけになる。そこで適切な舵取りを行えば、監査人から適正意見、悪くてもGC追記付の適正意見をもらえ、上場を維持しながら経営改革を行えるのが現行の制度だ。

 

僕の感想を言えば、現行制度は財務情報の開示という意味でも、企業経営に与える影響の面でも、とても良い制度になったと思う。あとは実際の運用で、適切な情報開示に努めることが求められる。それが結果として企業経営者に適度な緊張感を与える。

 

ちなみに、IFRSでのGCの扱いだが、これまでの記述から分かるように、「GCは会計公準(会計基準の前提)である」という会計理論からきているが、日本では会計基準ではなく、監査基準系で制度的な対応が図られている(具体的な企業の開示に関しては財務諸表規則等で規定)。しかし、IFRSでは概念フレームワークやIAS第1号「財務諸表の表示」など会計基準の中でも扱われている。原則主義のIFRSらしく大雑把にしか記載されていないが、内容は、「重要な不確定事項(material uncertainties)」を開示させるから、改正後の日本の制度と概ね同じだと思う。

 

さて、次回は東電の「もう1年会社が存続できるかどうか分からない状況を適切に開示した」決算短信を見ながら、具体的に疑義は何で、対応策は何で、その対応策のどの部分を東電と監査人が十分でない、とか、実現可能性が高くないと考えたのか、即ち、もう1年存続できるか分からないと判断した理由は何かについて読み解いていこう。

2012年6月19日 (火曜日)

【東電2012/3決算短信】継続企業の前提に関する注記の趣旨

もう20年も前のこと、監査法人に入社してほんの数年だった僕は、当時所属していた部署の一角に、どうもいつもと違う雰囲気があるのを感じた。僕が勤務していた事務所は、他部署との垣根もない大部屋で、パートナー席でもマネジャー席でも、精々、胸のあたりまでのパーティーションがあるだけだった。さすがに会議室は壁で仕切られていたので会議室の中の様子までは分からないのだが、その一角にある会議室からは、大部屋の大机で仕事をしている僕の耳に、聞き慣れないでかい声が時々漏れてくる。でかい笑い声も聞こえてくるのだが、どうも異常な緊張感に包まれているようだ。

 

そこで事情通の先輩に聞いてみると、倒産しそうな上場会社のクライアントがあって、その監査チームは大幅に増強され、さらに隣の部署の非常に優秀なベテラン会計士が編入されてきたという。そのでかい声はその人のものだった。日本に継続企業の前提の注記の制度が導入されたのは2002年度からだが、その10年ぐらい前のことだ。

 

「会計士を殺すには刃物はいらぬ、クライアントが倒産すればよい」などという言葉を僕は大学時代に受けた講義で聞いていた。なんでも、倒産した会社からは会計士が把握していない不正が、しかも大きなものが出てくるので、会計士はあとから粉飾決算に適正意見を付けたと責められ自殺するのだという。この業界に入ってから、会計士がたくさん自殺したとは聞かないので、みんながみんなそうではないのだろうが、1970年代にそういう人がいたらしい。

 

それは大変だとは思ったが、一方で不正さえなければクライアントが倒産しても問題ないのだろうと思った。当時初々しかった僕は、自分が就職先として選んだ監査法人の能力を信じて疑わなかったから、あまり心配にならなかった。きっときっちり監査をやるから、資産の実在性や簿外負債のないことが確かめられ、不良債権などの不良資産が落とされるなどして、適切な会計処理と開示が行われれば問題ないんでしょ、と先輩に言った。ところがそれだけでは済まないという。倒産する可能性があることを監査報告書に書くかもしれないというのだ。

 

その話の中で、その当時「会計士が監査して適正意見を付けた会社がなぜ倒産するんだ」という批判があることを知った。僕は、監査はそこまで期待されているのか、そして、パートナーや主任はそこまで会社を理解しているのか、そんな予言者のような能力があるのか、と驚いた。そして、将来自分がそんな判断ができるようになれるのかと不安になった。もっとパートナーや主任を尊敬しなくては、と反省の念すらも浮かんだ。

 

しかし、そうではないという。パートナーや主任にも分からないのだ。なぜなら、金融機関が金を貸し続ける限り企業は倒産しないから、倒産するかどうかを予測することは、金融機関の意思決定を予測することになる。当時はバブルの後処理が始まっていたが、金融機関が貸し渋りとか貸し剥がしと批判されるほど融資姿勢が厳しくなるのはその後のことだったと思う。まだ自己査定も債務者区分もなく、金融機関の意思決定も今に比べれば「勘」に頼っていた時代だったので、監査人にそんな予測ができようもない。危ないことは分かっても、いつ倒産するかまでは分らない。

 

過去に実例はあるのか、と僕は聞いた。すると物知りの先輩は、ない、少なくとも日本には。でも外国の実務にはあるらしい、という。それに会計理論上も必要だと言った。ここでまた驚いた。会計理論のことなら、当時の僕でも(旧)会計士二次試験には合格していたので、そんな理論があるなら知らないわけはないはずだが知らなかった。すると、それは会計公準に関することだという。企業会計原則を始めとして、会計基準はすべて会計公準を前提に作成されている。その一つが「継続企業の前提」で、会計基準はすべて企業が近い将来倒産しないことを前提にしているという。したがって、倒産が確実な企業にはこの会計公準が当てはまらないので、会計基準は適用できないのだという。例えば、減価償却という会計処理は、少なくとも残っている耐用年数の期間、企業が存続していないと適用できない会計処理だ。悲しいかな、当時の僕は「会計公準」という言葉は知っていたが、中身を知らなかった。僕はこの辺りで沈没した。僕には理解不能、頭はオーバーフローしていた。

 

そして、そのクライアントの監査報告書には注記(特記事項)が付けられた。倒産するか否かではなく、そのリスクがあることを示唆したのだ。まだ日本の監査基準に、継続企業の前提に関する注記の概念はなかったが、倒産するリスクがあることは、投資家や株主に重要な情報なので、監査報告書の情報提供機能を利用して開示した。恐らく、これが日本で最初の継続企業の前提に関する注記だと思う。

 

当時は沈没したが、もちろん今は分かる。倒産確実の会社の財務諸表を作成する会計基準がないということは、会計処理及び開示が適正であるという監査人の判断ができないということだ。監査は、会計基準に照らして会社の会計処理等が妥当かどうかを判断するのだが、その会計基準がないのだから、倒産確実な会社が通常の会計基準で財務諸表を作成したら、不適正にするしかない。倒産することが確実ではないとしても、近い将来にその可能性がある程度高ければ、会計基準が正しく適用されていない可能性も同程度高い。継続企業の前提という会計公準が成立していないかもしれないと開示をすることで、倒産するリスクを表現している。

 

さて以上が、継続企業の前提に関する注記の制度の趣旨だが、次回は、どういう時に適正意見、不適正意見、意見不表明となるのかについて記載する。そして、東電の決算はどれに当たるかだ。

2012年6月15日 (金曜日)

【東電2012/3決算短信】料金値上げと原発稼働率

東日本大震災は、日本社会に非常に大きなインパクトをもたらした。堺屋太一氏は、これを日本再建の契機にする願いを込めて、著書で「第三の敗戦」と表現した(1年遅いと笑われそうだが、これから読むつもりだ。第一と第二の敗戦は、明治維新と第二次世界大戦で、そのとき、既得権者に権利を戻さなかったことが、大改革を成功に導いた。だから今回も・・・という内容だそうだ)。会計実務の世界はというと、逆にこの震災を契機にIFRS導入の動きがストップし、日本の会計基準は変化にブレーキが掛けられている。

 

さて、東電にとってはどうだろうか。この震災で発生した福島第一原発の事故は、東電の財政状態、経営成績をまるで別の会社であるかのように変えてしまった。そして原子力の安全への意識、原子力損害賠償、資金調達、そして電気料金値上の各問題では、地域独占の巨大企業の責任に対する世間の見方の厳しさと、自らの感覚・意識や対応能力とのギャップに悩んだ一年だったのではないだろうか。

 

決算短信は、企業の当期の実績を投資家に報告するもので、それに翌期の業績予想を付加して公表される。決算短信の表紙はこれらの要約表で、その添付資料に、有価証券報告書の速報版ともいうべき当期業績や事業リスクの説明や(連結)財務諸表の開示が行われる。多分、それらの中に東電が悩んでいるギャップが垣間見られるに違いない。そんな観点を持って、決算短信(と添付資料)の財務諸表の手前までと、東電のHPに公開されているアナリスト向け決算説明会資料(スライド)を読んでみた。そこで、僕が重要と思った記載事項は、以下の通りだ。

 

☆財務面

  1. 販売電力量8.6%減少と売上高微減(0.9%)の関係
  1. 原油価格等の高騰と原子力発電量減少の影響
  1. 損害賠償と災害特別損失
  1. 継続企業の前提にかかる疑義と不確実性の内容

 

☆意識改革

 

今回は、財務面の12について記載したい。34は前回の記事に記載した通り、次回以降にじっくり記載したい。意識改革については、決算短信の財務諸表の直前に記載されていて、「信頼の回復」、「関係者の方々との協力・連携」、「責任を全うする、開かれた東京電力」など、とても良いことが書いてある。財務面のことを検討しながら、その時々に触れていきたい。

 

財務面では、まず、販売電力量が減少したのに売上が減少しないという、一般企業からみれば天国にでもいるような恵まれた数字になっていることが目につく。ただ、これは販売電力量が落ちた場合にそれを補う制度があるというわけではなく、たまたま燃料費が高騰したためにそれに連動して売上単価が上昇し、そして、たまたま前年度並みの売上になったということらしい。その売上単価上昇の影響は、アナリスト向け決算説明会資料に基づいて計算すると3,674億円の売上増加となる。

 

次に原油価格等の高騰の影響と原子力発電量減少(原発稼働率低下)の影響だが、これも前出の決算説明会資料に記載があり、前者は為替レートの影響をネットして3,940億円の費用増加で、上記の売上単価上昇の影響とほぼ見合うので、決算にはあまり影響していないことが分かる。そして、後者の原子力発電量の減少については5,060億円の費用増加になったという。営業損失2,725億円の主原因は、原発稼働率の悪化と考えてよさそうだ。

 

なお、翌期(2013/3期)の業績予想では、原発稼働率はゼロになるので、当期(2012/3期)よりさらに2,950億円費用が増加するとしている。これを当期の営業損失2,725億円に加えると翌期は約5,700億円の営業損失となりそうだが、東電は翌期の業績予想の営業損失を2,350億円としていて、約3,300億円損失が少ない。その理由は、翌期に6,600億円の電力料金の値上げ(原油価格等の上昇が見込まれており、これに連動して値上げされる分を含むが、その金額は不明)などを見込んでいるためだ。

 

こうして見てみると、燃料の購入価格上昇の影響は自動的に電力料金値上げとなって吸収されるので、社会問題にもなった電力料金値上げ問題の根本原因は、原発稼働率の低下(=火力発電への依存度の上昇)にあることが透けて見えてくる。東電は、原発依存度が下がることを見込んでいるために、値上げを申請したのだ。決算説明会資料によれば、今回の値上げ申請の基礎となった料金算定期間(2013/3期から3年間)については、原子力利用率の見通しが平均18.8%と、2008年度の実績43.1%より24.3%下がっている。

 

この火力発電依存度の上昇と料金値上げ申請の強い関連性については、決算短信の「継続企業の前提に関する重要事象等」や、「直面する構造的課題への対応」に、東電自身が記載している。であるならば、今後、18.8%を超えて原発を稼働させる場合は、それは東電の利益の増加になるから、今回とは逆に料金を引下げさせるべきだ。が、今の料金決定の仕組みはそういう仕組みになっているだろうか。柏崎刈羽原発は、来年4月から順次稼働が予定されているが、その後、柏崎刈羽原発が安定稼働を続けるなら、また、他の原発(福島第一5号機、6号機、福島第二、東通)も再起動するのであれば、原子力利用率が18.8%を超えることは現実に起こることだと思う。もし、そのとき料金が値上げされたままだったら、それは不当利得、焼け太りというものだ。

 

今回の電力料金の値上げは、東電に新たな既得権を与えることになる。僕は、この既得権が固定化しない仕組みがあるかをチェックする必要があると思う。

 

一方、東電は原発利用率が18.8%より上昇した後のことについて、社会に説明しているだろうか。東電は、事業者用の電力料金改定の際に、東電に不利になる契約条項について説明不足があったと非難され、謝罪したが、これについても自発的に説明すべきではないだろうか。もし、料金引下げの仕組みがないとすれば、原発をたくさん稼働させるほど東電の利益が増える。だから、18.8%を超えてもなるべくたくさん原発を稼働させるなどということを密かに考えているとすれば、東電の意識改革はまだまだ、ということにならないだろうか。いや、いまの社会情勢で、原発をそんなに稼働させることは考えられないというのであれば、原発の廃止を公表し、原発設備を減損することになるだろうが、そんなニュースは聞かないし、減損についての記載もない。

 

それとも僕が知らないだけで、このことは解決済みなのだろうか。

 

ところで、この決算短信や決算説明会資料では、総合特別事業計画に記載されたコスト削減効果(資産売却以外の合理化効果)が、翌期の業績見通しにどのように影響しているかが見えない。それが明らかでないと、外部者がコスト削減について検証できない。それでは開かれた東電とは言えないのではないだろうか。それとも、翌期はまだ効果が出ないのか?

2012年6月13日 (水曜日)

【東電2012/3決算短信】の気になるところ

東電の決算短信が公表されてもう1か月がたつ。投資家や株主だけでなく、電力需要家、原子力災害の被災者など多くの人が関心を持ったという意味で、東電の決算は格好の勉強材料になる。そこでこのブログでも過去何度も取上げた。

 

2011/6/30 最後の監査報告書~後発事象について東京電力でケーススタディー

2011/7/1 原発事故に関する修正後発事象~東電と監査人の判断

2011/7/6 目的に向かったか~東京電力の損害賠償引当金不計上の判断

2011/7/8 最後の送別会~継続企業の前提

2012/3/12 東京電力への政府出資と財務情報

2012/3/13 原子力事故に関係する重要な決算項目

2012/3/15 国による財政的な支援の内容

2012/3/17 災害特別損失の見積り

2012/3/22 原発事故に関する注記事項

2012/3/22 東電の財政状態とリスクについての一つの見方(まとめ)

2012/3/24 結局、東電は債務超過か?

 

これら(特に3月の記事)の中で、2012/3期の決算において僕が注目していたのは次の事項だ。

 

  1. 継続企業の前提の注記(以下「GCの注記」)を続けるか否か、続ける場合はその注記内容

2011/3期決算よりGCの注記が記載されているが、3月の記事ではもういらないのではないかと書いた。或いは、いるとすれば、2012/3決算では継続企業の前提を脅かしているリスク、不確実性をもっと率直に分かりやすく注記に記載すべきではないかと書いた。果たしてどうなっただろうか。

 

  1. 災害特別損失引当金の見積りの改定や、見積もりの不確実性に係る注記内容

原子力災害の被災者、被災企業、そして被災自治体への補償は、基本的には国が財政的に援助する仕組みになっているので、東電には多額の損失が発生してもほぼ同額の利益が計上され、財政状態や業績に与える影響は軽微だ。一方で、福島第一原発、第二原発の廃炉費用は東電が災害特別損失として負担するので、財政状態や業績を直撃する。しかもそれは、不確実性が高く見積りが難しい項目と思われる。その難しさを注記でどのように説明しただろうか。

 

GCの注記については、大きな制度変更があった影響もあって誤解が多く、重要なのに分かり難いところなので、なるべく分かりやすく制度の内容やポイントを記載してみたい。

 

 

ところで昨夜(6/12)行われたサッカーW杯最終予選のオーストラリア戦は、第1戦、第2戦とは逆に劣悪な芝、不可解な判定、アウェーの雰囲気という3重苦のなかで日本代表が善戦し引分けた。日本代表の実力は確実に成長していることを実感できた。サッカー選手はチーム戦術(ルール)を踏まえたうえで、その時々の状況に臨機応変に対応しなければ結果を出すことができない。それは経営(事業)も、会計も、監査も同じだ。学ぶことが多い。

2012年6月12日 (火曜日)

サッカーW杯最終予選とIFRS導入

サッカーの日本代表は、W杯最終予選の第1戦、第2戦を予想を上回る好成績で2連勝し、今晩オーストラリアと第3戦をアウエーで行う。僕は第2戦のヨルダン戦を埼玉スタジアムで応援し、さらに帰宅してから録画してあったBS1とテレ朝の番組をそれぞれ見たので、計3回観戦した。

 

その中で気になったのは(特に僕が敬愛する名波浩氏の解説が参考になったが)、ヨルダンの選手が水をたっぷり撒かれた芝に慣れていなかったらしいということだ。水がたっぷり撒かれた芝は、ボールがよく滑ってバウンドしてもボールのスピードが落ちないし、足元が滑りやすくなって踏ん張りが効かなくなる。オマーンもヨルダンもご存じのとおり砂漠の国で、国元の試合では貴重な水をたっぷり撒かないようなので、慣れていなかったらしい。その結果、日本のパスは良く通るし、セカンドボールも効率よく奪取でき、実力以上にスコアが開いた可能性がある。だが、オーストラリア戦はアウエーだし、きっとオーストラリア・チームは慣れているだろう。今夜は1戦、2戦よりさらに気合を入れて応援しなければなるまい。

 

ところで、試合前に水を撒くことは日本が特別に行っていることではない。FIFA(国際サッカー連盟)も試合前に水を撒くよう指導しているというから国際ルールだ。グローバルで戦うにはグローバル・ルールに慣れる必要があるのは、サッカーのようなスポーツでも企業活動でも同じだ。会計もその一つ。6/10(日)のNHKスペシャル「激動トヨタピラミッド」、6/9(土)の田原総一朗氏の激論クロスファイアなど多くの番組で、日本企業がグローバルで事業展開することが、いまの経済の停滞を打開する鍵であることが伝えられている。上場会社だけではなく、非上場会社にもその必要性があるのだ。

 

昨年6月自見金融担当大臣の発言以来、企業会計審議会で今やグローバル・スタンダードであるIFRS導入の方向性が揺らいだままになっている。企業のIFRS導入準備の動きもストップしているという。議論の内容自体はとても重要なのだが、僕は早く導入の方向性を決めて欲しいと思う。なぜなら今行われている議論は、IFRSの導入を決めたあとで、IFRSをどのように導入するか、日本の社会制度や日本企業の良さを伸ばし欠点(特にマネジメント)を直すことに利用できないか、という議論の中でもできるからだ。

 

僕は昨年6月以来、IFRS論議混迷の根底に一部の会計学者の意見があるように感じている。しかし、会計学者が、複式簿記の計算構造が美しいとか、日本伝統の損益計算体系、当期業績主義が美しいという研究をすることも大事だが、企業マネジメントの実践に会計がどのように役に立っていくか、特に過去実績の集計計算だけでなく、将来の不確実性をどのようにマネジメントしていくか、そこに会計が役に立たないかという観点で研究することも大事ではないだろうか。その観点で見れば、IFRSは期末時点の市場環境や事業計画に基づく見積りを行う点で、従来の会計基準より将来志向的で、企業マネジメントに(そして投資家など外部利害関係者に)より多くの有益な情報を提供するというメリットを持つことに行き当たると思う。それを早く明らかにして、日本企業がIFRSという将来志向的なグローバル・スタンダードをマネジメント・システムに組込み、世界に伍して戦えるようサポートしてほしいと思う。

 

ちなみに、IFRSをグローバル・スタンダードと呼ぶと、米国が採用してないではないかと反論されそうだ。しかし、概念フレームワークや収益認識の公開草案など基本的な、そして重要な項目で、両者の共通化が始まっている。特に概念フレームワークが共有されているということは、米国基準も企業の将来キャッシュフローの見通しを外部の利害関係者に提供することが重要な目的であるとする、将来志向的な基準になっている(か、それを目指している)ということだ。日本基準は上辺を取り繕ってはいるが、基本的な重要なところで遅れをとっていると僕は思う。

 

なお、ご存じの方も多いと思うが、日本にも「財務会計の概念フレームワーク」がある。例えば「財務報告の目的は、投資家の意思決定に資するディスクロージャー制度の一環として、投資のポジションとその成果を測定して開示することである。」とされていて将来志向的に見える。また「資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう。」とあるが、その経済的資源は脚注に「キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいい・・・」とされているのでIFRSと似ている。さらに言えば、包括利益以外に純利益を定義していて、そこに「投資のリスクからの解放」という概念を用いているところは、IFRSにはない特徴だ(IFRSを追越している!)。

 

しかし残念ながら「討議資料」とされていて、個々の会計基準の基礎となったり、会計基準に規定されていない事象を処理するための参考になったりという実践的な位置づけではないから、現在の日本の会計基準との関係性は薄いと言わざるを得ない。いや、今から「財務会計の概念フレームワーク」に合うように既存の会計基準を直すなんて大変な手間になるだけだ。そんなことより、早くIFRS導入を決めて、IFRS導入国日本の概念フレームワークとして、その良さをIASBに主張してもらいたいものだと思う。

2012年6月 8日 (金曜日)

原則主義と比較可能性(企会審2/29の議事録等から)

2月29日の企業会計審議会の議事録を読まれた方は、原則主義が比較可能性を損ねるという印象を持たれたのではないかと思う。IFRSにおける比較可能性の問題については、このブログでも1月から2月にかけての有用な財務情報シリーズの中で触れていて、大雑把に次のようなことを書いてきた。

 

 「比較可能性」より「忠実な表現」の優先

 会計方針の選択問題より見積りの重要性増加

 継続性の原則の変容

 

即ち、そもそも、財務情報が経済実態の忠実な表現がなされていないのであれば、比較する意味もない。経済実態の忠実な表現となっていればこそ情報を比較する意味があるので、企業は企業が直面する経済実態に合わせて会計処理を選択すればよい。その結果、個々の会計処理自体は相違したとしても、企業パフォーマンス・レベルでの比較可能性は担保されることになる。

また、IFRSが将来キャッシュフローに関心を向けた結果、見積り項目が増加しその重要性が非常に高くなっている。見積もり方法は経済実態の変化に対応して最適な方法で行われるべきで、そこに日本流の「継続してればよい」式の継続性の原則は向かない。経済実態が変化すれば、見積もり方法を積極的に見直されなければならい。そればかりでなく会計方針についても同様で、経済実態の変化に対応して最適な会計方針を選択する(変更する)必要がある。

 

しかし、この議事録では、それでは済まない問題が指摘されているようだ。具体的には韓国の造船業界における為替差損益の会計処理が各企業間で不揃いだとか、韓国メーカーの財務分析を行うと、営業損益として開示された数字の内訳も不揃いだという。その結果、「原則主義は比較可能性を低下させるのでディメリットの方が大きいし、その解決策も不明」という趣旨の意見も記載されている。

 

そこで、為替差損益の処理と営業損益の開示について検討してみよう。

 

 

(為替差額の処理について)

会計方針等の選択など企業の判断に依存する余地のあるものとして、次の項目が思い浮かんだ。

 a. 機能通貨と表示通貨にどの通貨を選択するかは企業の状況判断に任されている。

 b. 貨幣性資産・負債か、非貨幣性資産・負債かの区別の一部が状況判断によっている。

 c. 在外営業活動体の決算日が親会社決算日と異なる場合の扱い。

 

企業によって処理がばらつきそうな項目としては、abと思われるが、abも企業が自由に決められるものではなく、直面している経済環境に合わせて決まってくるものだ。完全に同じ環境でない限りは処理が分かれることもあるだろうが、同じ造船業でばらつくのは確かに不思議だ。

そこでこの発言の元をさらに辿っていくと、この発言は、217日の企業会計審議会の勧告に関する報告資料に関連して行われていて、その資料の脚注28に次のように記載されている。

 

例えば、造船業では、従来、為替差損益は営業外損益であったが、IFRS では、営業外損益、その他営業損益、営業資産での外貨損益と非営業資産での外貨損益など、会社によって表示にばらつきが生じたとのこと(投資家)。

 

為替差損益を計上する損益区分については、日本でも売上原価など営業項目に含まれることがある。どのような取引で発生したか、その実態を表現するのに適切な区分で表示させるからだが、韓国では従来画一的に営業外損益と決められていたのかもしれない。

営業資産、非営業資産とか、外貨損益などという開示項目としては聞きなれない用語があるものの、その趣旨は従来の韓国会計基準では揃って処理されていたのものが、IFRSを適用したらばらけた、ということではないかと思った。(営業資産とか非営業資産も、韓国流の表示区分方法なのではないだろうか。或いは継続事業・非継続事業のことか?)

 

 

(営業損益の開示について)

IFRSでは包括利益の内訳項目である区分損益は、純損益(当期純利益)、非支配持分と親会社持分に帰属する損益を開示しなければならないとしているが、営業利益は任意開示項目で、営業利益が何かという定義はない。(なお、異常項目・・・日本でいう特別損益項目は区分にしてはならないとされている)

 

 

ということで、ここから導き出すべき教訓は、従来の韓国基準と合わせて検討しないと確かなことは言えないが、「原則主義は比較可能性を低下させ、その対応策も不明」ということではなく、次のようなことではないだろうか。

  • 経済実態に合わせた会計処理の選択や見積もり方法を徹底していくこと(選択は自由に行うものではなく、経済実態に最も合ったものを選択しなければならないし、そういう説明を開示すること)
  • 営業損益のように、IFRSで規定されていないが重要なので開示させる項目については、国内規程や基準、ガイダンスといったもので、内容を明確にすること

 

原則主義シリーズは今回で終了する。思えばこのブログを始めた当初、Jリーグとプレミアリーグの審判の差について記載した。同じルールブックで行われるサッカーのゲームだが、審判の差でゲームの面白さが変わる。それと同様にIFRSも同じ基準であっても適用の仕方、原則主義の運用の仕方が重要だ、という趣旨だった。今日はW杯のアジア最終予選のヨルダン戦が行われるが、先日完勝したオマーン戦では、アジアの審判もプレミア流に軽微な反則は流してゲームの進行を優先させていた。僕が見るところJリーグの審判はまだ個人差が相当あるが、方向はゲームの進行が優先される方へ向かっているように思う。そしてIFRSはどうだろうか。まだ企業会計審議会の結論は出ない。早く方向性を決めて、いかにうまく導入するか、いかに経営に役立つように導入するかに関心が集まるように願うばかりだ。

2012年6月 5日 (火曜日)

原則主義と粉飾決算(企会審2/29の議事録等から)

進行基準シリーズに区切りがついた(と思う)ので、元の原則主義シリーズに戻りたい。下記は企業会計審議会事務局が作成した資料や議事録に記載されていた原則主義のメリットとディメリットのそれぞれ3つ目の項目だ。メリットにはルール潜脱行為を抑止できると書かれているが、原則主義ならオリンパス事件を防げただろうか?

 

-・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-

(メリット)

細則主義における数値基準などを悪用し、ルールを潜脱するような行為を抑止できる。

 

(ディメリット)

作成者・監査人・当局間において見解が相違し、調整のための負担が増加することや、事後的な修正のリスクがあること。

(なお、米国においては、このような懸念のほか、財務諸表の虚偽記載に係る訴訟が増加するのではないかとの懸念も聞かれる。)

-・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-

 

これを見て、ピンとこないと感じた方もいらっしゃると思う。なぜ原則主義だとルール潜脱行為を抑止できるのかと。そこで僕が思い出すのはカネボウの連結外しだ。

 

記憶だが、当時の新聞記事には「会計士が連結外しを指南」などと見出しが躍った。確か、持分比率が20%を下回らなければ連結から外せないと会計士がカネボウに言ったとか、言わないとか。そしてカネボウは取引先に資金提供し株を持たせ、持分比率を20%より引き下げ子会社を連結から外し、そこへ押し込み販売をしてたとか・・・。

 

当時でも実質的に支配していれば、持分比率0%の会社でも原則連結に含めていた。もしこの20%発言が事実であれば、この会計士は、何らかの前提の下に20%という条件を言ったはずだが、20%が独り歩きし悪用されたのだ(或いは、悪用されることを知りつつ20%と言ったか・・・)。数値基準はこのように格好の言い訳の材料になる。ところが原則主義ではそういう具体的数値基準を設けないから、言い訳の材料を与えない。

 

しかし、会計基準を原則主義で作ったとしても、企業が独自の細則(例えば数値基準)を作り、形式的に運用した場合はカネボウのケースと同じことが起こりうる。形式的に運用しても大丈夫なところにだけ数値基準を入れるとか、数値基準を入れたところには実質的なチェックも加えるといった工夫をしないと、この原則主義のメリットは台無しになる。そして、監査人と見解が相違し、余分なエネルギーを費やすことになる。監査人は、企業の細則に合意していたとしても、最終的には会計基準の原則で判断するからだ。(さらにIFRSは、必要な場合はIFRSからも離脱せよ、とまで言っている!・・・4/9の記事を参照。)

 

結局、会計基準がなぜその規程を設けているかという目的を理解する能力や、そこへ向かおうとする意識の強さがなければ原則主義のこのメリットは生きてこない。IFRSでいえば、財務報告が、企業の生み出す将来キャッシュフローの適切な予測情報となっているか、経済実態を忠実に表現しているか、という2点を常に意識し続ける必要がある。この2/29の議事録には「会計に対するコンプライアンス意識」(八木委員)と表現されているが、この目的に向かおうとする弛まぬ意識のことだと思う。

 

ちなみに「compliance」を辞書で引くと、「人の願いなどをすぐ受けいれること,迎合性; 人のよさ,親切」などとも記載されており、自分の都合ではなく相手を受入れ相手に合わせること、この場合でいえば、自社の事情でなくルールの趣旨を優先するという語感があることが分かる。問題を解決したければ、自分の都合だけ並べ立てても前へ進めない。原則主義を生かせるかどうかは目的に向かう気持ちの強さに掛っているが、これは小人にはできない、まさに大人としての振舞ができるかが問われているということだろう。

 

もちろん、第三者委員会に「サラリーマン根性の集大成(この言葉遣いに異論のあるアサラリーマンも多いと思うが・・・)」などと糾弾されたオリンパスの旧経営陣が大人であるはずもなく、「会計に対するコンプライアンス意識」など持ち合わせていなかったに違いない。原則主義など、オリンパスの旧経営陣にとっては猫に小判、豚に真珠だろうと思う。

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