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2012年7月27日 (金曜日)

アジェンダ協議2011~(ASBJ)今後3年間は維持管理を

2012/07/27

アジェンダ(agenda)というと、会議やプレゼンテーション、研修などで人が集まった時に提示される議事一覧か行動予定のリストのことだ。IASBは、今後3年間にIASBが取組むべき課題リストの原案に対して意見をしてほしいと言っている。戦略レベルと個別検討項目レベルの2つのレベルの意見が求められているが、今回は戦略レベルの方向性を紹介したい。ASBJ(企業会計基準委員会)は、それに対して、新しい課題に取組むより現状の維持改善に努めてほしいと意見している。

 

 

(IASBの現状認識と原案)

 

IASBは2001年発足以降の10年間のIFRSを取り巻く環境の変化を以下の3点にまとめて捉えている。

 

  1. 多様化したIFRS共同体

 

 IFRSを採用する国が増加しているので、それに合わせて課題も多様化するとしている。

 

  1. 複雑化した市場環境

 

 通常IFRSで市場というと資本市場のイメージが強いが、この場合は、株式や社債市場だけではなく、もっと広く関連したCDO(Collateralized Debt Obligation)、CDS(Credit default swap)などのデリバティブやその他の金融商品市場の発達も含めていると思う。

 

  1. 適用を要する数々の変更

 

 FASBとの協議、金融危機(リーマンショックなどの一連の危機)、G20(主要8か国+新興国11か国)からの提言などへ対応した結果、利用者や作成者の労力が過大となっているとしている。G20からの提言には、金融商品評価に関連した景気循環増幅効果(pro-cyclicality)や非連結特別目的会社に関する会計・開示の基準の改善、IASBのガバナンス強化、単一の質の高い世界的な会計基準を実現するための努力を倍増することなどがあげられている。

 

そして、昨年のIFRS財団評議会の戦略レビューの結果、次の2つの課題も認識している。

 

  1. 基準の品質と目的適合性を立証する必要性

 

「基準の品質」が何で測られるかは残念ながら僕にはわからない。目的適合性については、基準により開示された情報が投資家等の利害関係者の意思決定に役立っているかどうかであり、それを調査(コスト便益又はインパク評価等)することだと思う。

 

  1. 適用と採用に関する実務が不統一となるリスク

 

「適用と採用」は「implementation and adoption」の訳であり、意味としてはアドプションとかコンバージェンスなどという形で各国がIFRSを国内基準化する行為を指していると思われる。IFRS財団評議会の戦略レビューでは、IFRSを採用したとしている国が、本当にIFRSを丸ごと(Pure IFRS)受入ているのかを問題視していた。

 

以上の現状認識から、戦略レベルの方向性として「財務報告の開発」と「既存のIFRSの維持管理」の2つの区分と5つの戦略領域を設定することと、2つの区分へ力点を置くバランスについて、IASBは意見を求めている。

 

 ① 財務報告の開発

  • IFRSの首尾一貫性の強化(概念フレームワークの見直し作業の完成、表示と開示のフレームワークの開発)
  • 調査研究と将来への戦略分野の整理
  • 新規分野のIFRSの開発、大きな修正

 

 ② 既存のIFRSの維持管理

  • IFRSの運用上の論点についての適用後レビュー
  • IFRS適用の首尾一貫性と品質の改善(比較的小さなIFRSの修正)

 

ちょっと横道にそれるが、将来への戦略分野ということで、IASBは統合報告(Integrated reporting)というものを強く意識しているようだ。「統合報告とは、企業の戦略及び財務的・非財務的業績の全体的かつ統合的な会計である」と脚注されている。統合報告は「国際統合報告委員会(the International Integrated Reporting Committee: IIRC)」という組織が中心となって制度化を目指しているもので、ラフだがイメージしやすく表現すれば、例えば環境報告書、CSR報告書といった財務報告と別に任意で公表されているものを、財務報告とベースを共通にして有価証券報告書へ統合するイメージだ。ちょっと頭の片隅に置いておくと良いかもしれない。

 

 

(ASBJのコメント)

 

これに対してASBJは、2つの区分と5つの戦略領域の設定は妥当としたうえで、力点の置き方について次のように述べている。

 

我々は、IASBが識別した2つの区分(「財務報告の開発」及び「既存のIFRSの維持管理」)のうち、今後、3年間は、「既存のIFRSの維持管理」に重点を置くべきと考える。

 

その理由となりそうな部分としては下記がある。

 

今後、IFRSが変わり続けることは、特にこれからIFRSを適用しようと考えている企業にとって、IFRS採用の重大な障害となり得る。

 

日本の状況をIASBに認識させようとするコメントだ。そして具体的な力点の置き方は以下の通り。

 

  • 既存の優先プロジェクト(収益認識、リース、金融商品、保険)の開発を進め、その他のアジェンダについては、限定的とすべきであると考える。

 

維持管理の内容としては・・・

  • 適用後レビューの範囲の拡大と充実

 

  • IFRSの解釈に関する取組みの充実

 

  • 概念フレームワークの改善(基準間の整合性を促すような堅牢な基礎)

 当期純利益の概念とOCIリサイクリング

 慎重性(・・・保守主義を質的特性に復帰させるという意味だと思う)

 

  • 開示フレームワークの確立、全体的な開示内容及び量の見直し

 

中長期的観点からの戦略的研究も行うべきだとしているが、ASBJも資源の提供を申し出ている。

 

 

さて、世界のサッカーをリードするスペインをイギリスの地で破ったサムライ・ブルー・オリンピック代表。会計の世界の日本代表であるASBJのコメントも、彼の国のIASBの議論に強烈に良い影響を与えることを期待している。

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