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2012年7月 7日 (土曜日)

【東電2012/3有報】災害特別損失②~見積もりの変更?~

2012/07/07

災害特別損失や災害損失引当金は極めて重要なので、もっと情報開示してほしい。ということで、一つは前回の記事に記載した3千億円の具体的な内容、見積りと実績の差異分析の情報だ。今回も(結果として)この3千億円の内容を角度を変えた別の側面から見ていくことになる。

 

前回は、特別災害損失に追加計上された3千億円が、見込み違いや見積りに想定できなかったものだろうという前提の下に、少々強引に、見積りと実績の差異分析を開示してほしいという僕の願望につなげた。今回は、素直に東電が(暗に)主張しているストーリーに沿って、予定通り見積もり項目が進捗したにもかかわらず、3千億円の追加計上が必要になったということで進めていきたい。そこで前回記載した東電のストーリーを改めて下記に記載する。

 

「高濃度汚染水対策などの試行錯誤も含めてすべて、2011/3期決算の災害損失引当金の見積りに織り込み済みだったから、2012/3期中に大きな見込み違いは生じていない。一方、第1四半期から第3四半期にかけて翌期以降の分の不足に備えて1千億円ずつ引当を積み増したが、それは見積もり方法の変更によるものではない。翌期以降に影響すると判明した新たな事実をその都度反映したら、たまたま1千億円ずつになったのである。その結果、第4四半期、即ち、2012/3期決算では、見積りのベースとなるロードマップを12/21に開示された中長期ロードマップへ変更したが、それによる影響は第1四半期から第3四半期までに織り込み済みであった。」

 

そこで、僕がもっと知りたいと思ったのは、新しい見積もりのベース、即ち、中長期ロードマップ(新しく判明した事実)が見積もりに与えた影響だ。前回は、会計基準や財規で開示を要求されていないが気を利かせて開示してほしいという願望を書いた。しかし今回は、開示が要求されているはずなのになぜ書いてないか、或いは、その程度の開示で十分か、という検討になる。

 

 

(2.中長期ロードマップ(2011/12)が見積りに与えた影響)

 

重要な会計方針の注記によると、災害損失引当金は、2011/3期は2011/5に公表されたロードマップ(以下「5月のロードマップ」と記載する)をベースにしていたが、2012/3期は2011/12の中長期ロードマップ(以下「中長期ロードマップ」と記載する)をベースにしている。引当金残高は微減程度だが、実際には2012/3期に目的使用され取崩された引当金が35百億円あったため、新たに3千億円追加計上されているから、見積もりに大きな影響を与えている。

 

これに関連する開示規定は、次のものが考えられる。なお、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則は、慣例に従って以下「財規」と称する。

 

もし、これを見積りの変更と考えるなら、財規第8条3の5「会計上の見積りの変更に関する注記」が必要となる。しかし、上記のストーリーに見られるように、東電は見積りの変更とは考えていないようなので、その注記はない。参考までに財規の規程を記載する。

 

会計上の見積りの変更を行つた場合には、次に掲げる事項を注記しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。

一  当該会計上の見積りの変更の内容

二  当該会計上の見積りの変更が財務諸表に与えている影響額

三  次のイ又はロに掲げる区分に応じ、当該イ又はロに定める事項

イ 当該会計上の見積りの変更が当事業年度の翌事業年度以降の財務諸表に影響を与える可能性があり、かつ、当該影響額を合理的に見積ることができる場合 当該影響額

ロ 当該会計上の見積りの変更が当事業年度の翌事業年度以降の財務諸表に影響を与える可能性があり、かつ、当該影響額を合理的に見積ることが困難な場合 その旨

 

見積り方法は変更してないが、見積り対象に新たな会計事実が加わって、大きな影響があったと考えるなら、財規第15条「追加情報の注記」が必要で、その際も結局、上記の財規第8条3の5の規程に準じた開示がなされる。しかし、その記載はない。ただ、会計方針の災害損失引当金の注記の内容が前年度の記載と変わったのと、災害特別損失のP/L注記にその引当金の会計方針と同様のことが記載されているのみだ。東電にしてみれば、会計方針の注記の記載が前の期と変わったのだから、それで読み手は判断できるだろうと判断したのだろう。あまり親切ではないが、こういうパターンもないわけではない。(しかし、この重要項目に普通はこういう軽い対応はしない。)

 

では、それで十分なのか、その記載ぶりを見てみよう。

 

前の期の見積りのベースになっていた5月のロードマップは、冷温停止状態になるまでのステップ1及びステップ2までは工程・作業が明示されていたものの、それ以降は概略のみの記載であった。それを受けて東電は、低温停止状態になるまでについては個別に見積りを積み上げ(=通常の見積り)、それ以降については海外原子力発電所事故を参考に概算を見積もったと2011/3期に開示している。これに対して新しく中長期ロードマップをベースに見積もった2012/3期の開示は次のようになっている。

 

原子力発電所の廃止措置の実施にあたっては予め原子炉内の燃料を取出す必要があるが、その具体的な作業内容等の決定は原子炉内の状況を確認するとともに必要となる研究開発等を踏まえての判断となる。従って、中長期ロードマップに係る費用または損失については、燃料取出しにかかる費用も含め今後変動する可能性があるものの、現時点の合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している。

 

これは、前回記載した監査人の強調事項と同じだ(監査人は企業の開示と同じ内容を繰返し記載して強調する)。このほか、以下の記載もある。

 

なお、中長期ロードマップに係る費用または損失のうち、工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難なものについては、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。

 

中長期ロードマップについては、すでに行われている冷温停止状態の維持を超える作業については、対象物の状況を確認しながらその都度次の具体的な作業が決めたり、研究開発の状況によって実施時期が変わるといった非常に不確実性の高いものになっているようだ。よって、すでに実績のある作業以外は、海外原子力発電所事故を参考に概算していると読める。さらに中長期ロードマップも参照しながら注目点を取出してみよう。(ただ、中長期ロードマップは門外漢の僕には良く分からない。)

 

(参考にした海外事例)

その海外原子力発電所事故については、中長期ロードマップを見ると米国スリーマイルアイランド原子力発電所の事故のことらしいと推定できるが、有報では明示されておらず断定することはできない。なぜ有報に書かないのだろうか。ちなみにスリーマイルアイランドの事故では、メルトダウンは格納容器内に留まったのに対し、福島第一は格納容器に7cmとか10cmの穴が開いて建屋内に漏出した(東電は否定)などとも言われる状況や水素爆発が起こるなど、重要な相違がある。もちろん、福島第一の方が深刻だ。

 

(原子炉内の確認、研究開発)

2011/3期の注記に記載がなく、2012/3期から登場した象徴的な言葉に「原子炉内の確認」と「研究開発」がある。原発を廃止するには、使用済核燃料プールからの核燃料の取出し、核燃料(燃料デブリ)の原子炉からの取出し、原子炉設備の解体と30年から40年かけて進んでいくわけだが、まだ建屋施設内や原子炉内の状況が分からないので、核燃料を取出す工程を具体化できない。また、既存の技術だけでは廃止措置が実現できないので、研究開発をしながら進めるということだ。恐らく、スリーマイルアイランドで実績のある作業を超えた部分(ほとんどのような気がする)に研究開発が必要になるのだろうが、研究開発項目はかなり多そうだ。

 

ということだが、果たしてどの部分が新しく判明した事実なのだろうか。これぐらいなら2011/3期決算時点でも概略は分かっていたのではないか。何に伴って3千億円が追加計上されたのだろうか。東電の有報の開示を見ても分からないし、中長期ロードマップを見ても分からないのだ。株主や債権者はこれらの情報を知らなくてよいのだろうか。アナリストは知りたくないだろうか。

 

そもそも、引当金残高78百億円は本当に30~40年の困難を極める活動を賄うに足りるのだろうか。2012/3期は1年間に35百億円を費やしたのに対し、割引かれていることを想定して78百億円を倍にして30年で割っても、平均で1年あたり500億円程度にしかならない。この先5年間は平均8千名ほどの要員が必要とされているが、福利厚生等を含めて年間一人1000万円かかるとそれだけで毎年8百億円が必要だ。もちろん、その他に多額の研究開発費や様々な機材の購入等々が必要になるはずだ。ちなみに35百億円使った2012/3期は14千名体制ぐらいだったらしい(但し、ネットの情報だとアレバ社のシステムだけで500億円以上したらしい。いくらかは分からないが、高濃度汚染水対策に要した設備費などは、初年度の特殊要因として割引いて考える必要がある)。人数についての正確な情報は中長期ロードマップP24をご覧いただきたい。

 

そんな不安を払しょくするためにも、第1期(使用済燃料の燃料プールからの取出し開始までの2年間)、第2期(第1期終了後、原子炉からの燃料デブリ取出し開始までの8年間)、それ以降の第3期のそれぞれについて、そして特にこの先数年間については年単位の見積り額を開示するとか、どの期にいくら増額したら3千億円になったかを示すとか、もっときめの細かい開示が必要ではないだろうか。それが追加情報の開示として必要と思われる。もし、それが開示できないほどの概算でしか見積もられていないのであれば、スリーマイルアイランドが参考にされたという概算値は、あまりに楽観的で、兆規模で過小である可能性さえ疑われる。(しかし、それでは東電は現時点で債務超過だ。監査もあるわけだし、さすがにそれはないだろうと思うが。)

 

改めて東電の開示を見ると、昨年の混乱の中で作った注記パターンをそのまま今年も使っている。1年経って改善した様子は見受けられない。実態を伝えよう、というより、昨年の枠に当てはめよう、という感じがしてならない。昨年は凄いと思ったが、今年はがっかりした。

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