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2012年7月19日 (木曜日)

【中間的論点整理】監査人への要請~監査人は会社の実態のプロセスを理解できるか

2012/07/19

昨日(7/18)は、米国SECがIFRS導入の判断を大統領選の後へ先送りするというニュースが飛び込んできたが、このブログは引き続き、企業会計審議会の中間的論点整理について記載していきたい。監査人への要請のところは、主に2/29の企業会計審議会で議論されたところと思うが、そこにもあるように原則主義を機能させるにあたって、実質的にそれを運用する監査人の果たすべき役割は非常に大きい。委員のうちに、会計士がその任を果たせるのか、と疑問を呈している方もいるが、素直にそれに頷けてしまうほどだ。

 

IFRSは原則主義ゆえに、考え方は書いてあるが、各社が直ぐ使えるような具体的にルールの記載がない。その部分は各社がIFRSの考え方と各社の実態に合った社内規定、マニュアル等を作成し対応することになる。監査人は、それが適切であるか否かを判断する。したがって、監査人はIFRSは当然として、会社のビジネスの実態までを深く理解することが必要となる。

 

会計士及び監査法人がその任を果たすためには、次の2点がポイントになると思う。

 

◯ ビジネスの実態を踏まえた判断

◯ 現場判断の尊重

 

監査人に対する要請には、「現行の会計処理のほとんどはIFRSの下でも継続可能と考えるべきであり」との記載があるが、実際には見直しが必要な項目は多いと思う。従来税法の影響が大きかった分野、例えば収益認識(売上基準)や減価償却などについては素通りできない。事業の根幹に関わる部分だけに、改めて見直してみることは、企業にとっても重要なことであると思う。

 

そして、監査人が実態を理解できるかという問題提起もされている。自分自身の反省も踏まえ、上記の2点について記載したい。恐縮だが、これは長文になる。最後まで読んでいただけるだろうか。

 

 

◯ ビジネスの実態を踏まえた判断

 

・顧客はなぜこの企業(の製品・サービス)を選ぶのか(この企業がそれをどう考えているか)

・企業はそれをいかに実現しようとしているか

・経営者を含むキーマンの性格、組織風土

 

IFRSは顧客の満足が顧客から売上債権が回収できる根拠と考えている(5/23の記事)から、売上基準については顧客側の意思表示と連動する検収基準が連想される。しかし、個々に見ていくと、事業内容によっては検収の種類が色々あるし、単純にすべて該当するとも言いきれない。もしかしたら、発送時点での収益認識が合理的と判断されるレアケースもあるかもしれない。しかし、顧客からの返品やクレーム、検収の遅れなど、顧客の満足が満たされていない兆候に敏感な企業ほど、単純な発送基準は採用しないと思う。

 

また、業界慣行による特殊な会計処理というのはなくなっていくのではないだろうか。もし特殊なものが残るとしても、それは同業者の会計処理の影響ではなく、顧客の満足が特殊であるケース(ビジネスモデルに特徴があるケース)に限られると思う。即ち、同じ業界に属していても、ビジネスモデルが異なれば売上基準は変わってくる。形式的に比較可能性を考える人には違和感があるかもしれないが、実態を忠実に表現する観点からは、これが自然だ。

 

いつ売上に計上するか、という問題の他に、売上の分割(提供する製品・サービスの種類によって履行義務を区分する)という問題もクローズアップされてくる。どのように分割するか、売上額や売上原価の配分をどうするか、値引きはどうか。そして分割されたそれぞれの履行義務をいつ売上計上するか。これらもその企業のビジネスモデルと密接に関連してくる。

 

顧客の満足は、事前のその企業のビジネスモデルや製品・サービスに関するプレゼンテーション、顧客とのコミュニケーションで変わってくる(参考;5/29の記事)。その企業がなにを売りにしているか(それが多くの顧客に支持されているか)を理解せずに、取引形態等で形式的に会計処理を決めることは正しい業績測定に繋がらない恐れがある。

 

しかし、一方で、企業と顧客とのコミュニケーションの内容とは異なるビジネスの実態が見られることがある。

 

例えば、既に広く知られているように、百貨店の売上高はIFRSの導入で大きな影響を受ける。形式にとらわれず、誰が商品を販売しているのか、百貨店が顧客へ提供しているのは物ではなく付加価値ではないか、といったビジネスの本質を突き詰めて理解することが求められる。(一方で、現在の売上高に相当する情報は百貨店の財務情報として依然として重要だ。どのような形で開示をしていくかを検討する必要があると思う。)

 

通信会社が提供する携帯電話やスマートフォンの販売・サービスは複雑だ。様々な料金プランがあって、機器代金が携帯等の使用料として、まるで割賦販売かファイナンス・リースのように回収されている。そして売れ行きの悪い機種にインセンティブを与え値引きをショップに指示し、さらに売れ残った機種をショップから引取ったりもする。通信会社はもちろん、ショップを運営する会社も、IFRS導入を機会に、取引形態ではなく本当のビジネスモデルと取引実態に応じた会計処理への見直しが必要ではないだろうか。

 

減価償却は、単に税法に規定されているから行うのではなく、いつまでに何によって投資を回収するかという経営課題そのものであり、位置づけを大きく変えていくのが自然だ。例えばP/Lだけの事業計画しか持たない会社は、本来、重要な投資の回収計画も経営上必要だと思うのだ。それに連動して、減価償却方法や耐用年数、資産除去債務の見積もりなどが決められ、減価償却が行われることになる。

 

このように収益認識などの事業系のIFRSの適用には、その企業の事業内容を深く理解することが重要だ。当然、これは現場監査チームの役割となる。一方で、金融商品系のIFRSは、金融商品の内容の理解が重要だ。しかし、日本では見られない取引を対象にしている規程も多いので、日本でそういう取引に直面した監査人・監査法人はグローバルなネットワーク、或いは海外事例の収集が必要となる。

 

ということで、事業系のIFRSの適用は、基本的には国内の雰囲気、慣行の中で判断していけばよいと思う。海外事例を参考にすることは有用だが、外国人に判断させることはないというのが僕の意見だ。

 

 

◯ 現場判断の尊重

 

前置きが長くて恐縮だが、実は問題はこれからだ。そのきっかけとなったのは、「当局への要請」の中にある次のような一文だ。

 

「監査法人が会社の実態のプロセスを理解することが重要だが、その実現性がないのであれば、・・・」

 

これは、日本でのガイダンス作成の必要性について記載された部分だが、監査人には上記のような実態を理解する能力がないという疑いがかけられている。僕は、プレクリアランス制度やガイダンスの作成に反対するつもりはない。しかし、それを当局に要請する根拠として「その実現性がない・・・」と記載されたのには少なからずショックを受けた。単に表現上の問題と片付ければよいのかもしれないが、僕には引っかかるものがある。

 

これにはオリンパスや大王製紙のような問題の影響もあるかもしれない。監査人は不正の実態を見破れなかったではないかと。不正とIFRSでは問題が違うという人も多いと思うが、僕は違うけど共通する部分も一杯あると思っている。

 

監査意見は監査証拠を積上げて形成するものだが、その監査証拠を一杯万遍なく集めるために、やたらとたくさん取引をサンプルして契約書や請求書などの証憑と突合する監査手続が横行している。会社の内部統制を理解し不正リスクを識別するためと称して、監査法人事務所に閉じこもり定型化された様式の大量の監査調書作成を余儀なくされている様子も見てきた。いや、他人事ではない。僕もそれを去年までスタッフにやらせていたのだ。

 

契約書や請求書等の証憑突合は、証憑があることを確認するのではなく、証憑を見ながらそこで起こっていることを想像するために行う手続だ。その想像によって取引の異常を感知する。ところがあまりにたくさんサンプルがあると調書は立派に見えるが、時間に追われ想像せずに証憑があればよい、という形式的な手続に成り下がってしまう。

 

監査を受けている企業の方の中には、監査人に依頼された証憑を提出すれば監査人は満足すると思っている方も多い。しかし、実は本番はそこからで、監査人は契約書にはこうあるのになぜ検収日がこうなんでしょうか、とか、請求書がこのタイミングなのに入金したのがなぜこの日なんでしょうか、この製品とこちらの製品の納入日がこんなに違ってしまったのはなぜでしょう、或いはなぜ同じ日に納入されたのでしょうなどと追加の質問をするし、追加の資料も依頼する。企業担当者は自分で回答できなければ担当部署に聞くか、担当部署の人を連れてくる。そのやり取りの中で監査人は取引現場を想像し、顧客が何を重要と思っているか、企業の担当者が何に気を付けているか、セールストーク、企業の製品やサービスの特長、納入方法、競合先とその企業のビジネスモデルの違いなどを色々理解する。監査対応をしている企業の担当者も同じで密かに興味津々だ。サンプルが多過ぎると、こういう監査で本来行うべき重要なプロセスが失われることになる。

 

会社の内部統制はビジネス・プロセスの上にあるのであって、ビジネスを理解せずに監査法人事務所でいくら頭をひねっても不正リスクは見つからない。まず理解すべきは、企業はどのように顧客を満足させようとしているのかということ。そしてそれにそって内部統制がある。内部統制には4つの目的があって、そのうち財務報告の信頼性を担保する目的を持つ内部統制のみが内部統制報告制度の対象、監査の対象というが、実務として実態を把握しようとすれば、もっと根底のビジネスを実現していくプロセスから理解しなければならない。

 

そして“人”が大事だ。目標達成のためには一線を超えるような無理をする人か。無理をさせる人か。特に中小規模の大企業ではビジネスモデルより、経営者や管理者の個性や考え方が重要である場合も多い。そういうことが、どういう会計処理が適切かという判断に影響を与えることもある。それは経営者や管理者と直接話をする中で聞き出したり、感じとることも多いが、その部下の様子から分かることも多い。だが、そういう話を上手に調書にまとめるのは難しい。「監査調書が作れなくてもよいから現場(企業)へ行って人と話をしてきなさい」と、僕は言えなかった。

 

訴訟、会計士監査審査会の検査、日本公認会計士協会のレビュー、監査法人規程による事後チェック(内部監査のようなもの)など、調書の存在が物を言う場面は多い。そして調書があれば監査チーム内での情報共有、翌期の監査での情報利用ができる。どこまで調書を作るか(≒どういう監査手続を計画するか)、その兼ね合いが難しい。そして、僕はそのバランスを間違えてきたのではないか。

 

僕はどこまで調書を作るかについて、一律にこうすればよい、というルールを作るのは無理だと思う。その監査業務ごとに現場を預かるパートナーが判断していくしかない。だが、僕以外のパートナーもできているだろうか。上記の「その実現性が・・・」というのは、パートナーにその判断ができるか?という疑いの裏返しのように思える。しかし、これは個々のパートナーの自覚と能力の問題であると共に、パートナーにその権限を与えているかという検査を含む仕組みの問題でもあると思う。

 

この問題は長くなるので、機会を見つけて後日続きを記載したい。だがひとつだけ書いておきたいのは、監査法人本部の現場への関わり方だ。本部は金融庁等のプレッシャーもあって、現場を管理したいと思っているが、現場には現場の戦いがある。その最中に後ろから、あれもやれ、これもやれとか、あーでもない、こーでもないと、現場の監査人の背中に剣を刺すような仕打ちがないようにしてほしいと思う。本部には本部の言い分があって、現場が頼りないと思っているかもしれないが、そうであれば、パートナー全員をもう一度再審査して、頼れる人だけをパートナーに残したらよい。パートナーの数が減り過ぎてしまうというなら規模を縮小したらよい。そうしたうえで審査部門以外は、現場をサポート、後押しすることに徹してほしい。

 

 

なお、監査人への要請には、中小の監査法人のIFRSへの対応が遅れるという危惧が垣間見られる。これは、IFRSが導入される範囲が上場会社の一部に留まる場合、日本基準の監査業務しか行わない監査法人が多数になる可能性があるためだ。もしかしたら、大監査法人においてもIFRSの監査業務に関わらない監査人が多数出てくるかもしれない。すると、確かにそういう監査人の中には、日本基準のコンバージェンスは継続されるのだから、あえてIFRSを勉強しなくてもよいと考える人も出てくるかもしれない。

 

しかし、日本基準がコンバージェンスを続けるといっても、日本基準とIFRSの相違は埋まらない部分が残る。それは恐らく欧米企業の経営システムと日本企業の一般的な経営システムの相違に起因するものだと思うが、そこに日本企業の経営改善に役立つこともあるのではないだろうか。例えば、IFRSが投資回収計画を含む事業計画をベースにした経営を前提としているように見えるのに対し、日本基準には決算のためだけに経理部で見積りができればよいというスタンスが見える。減損会計基準などにその相違が垣間見られる(参考:2011/12/5の記事)が、大監査法人ほど基準に書いてあることのみに集中し、その前提や趣旨を突っ込んで考えようとしない気がしないではない。むしろ、中小監査法人の方が、クライアントも規模がほどほどで経営に近く接しており、同じ基準を読んでも経営の実態に鋭く感性を働かせながら深く理解できるところがあるのではないかと思う。そういうメリットをクライアント・サービスに生かすチャンスがあると思うので、逃さないでほしいと思う。税理士も同様だが、会計を単なる過去実績の集計値として利用するのではなく、将来に向けた経営の道具として有効活用するために、IFRSのエッセンスを読み解いてほしい。

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