【中間的論点整理】1~3の要約と日本の意見発信の後押し
僕の勝手な解釈で恐縮だが、1~3(会計基準の国際的調和、国際会計基準の適用、わが国としての意見発信)は、日本とグローバルとの関係がテーマとなっており、4~7(単体の取扱い、中小企業等への対応、任意適用、原則主義への対応等)は、国内制度をどう作っていくかが論じられているように思う。今回は、このうちの前者について考えてみたい。
中間的論点整理では、1~7のそれぞれのテーマごとに、冒頭はテーマについての説明(背景、経緯、現状認識等)が行われ、次に企業会計審議会での主な発言要旨がリストアップされ、最後にまとめが行われるというパターンで記載されている。発言要旨に目が行きがちだが、まとめの部分が注目だ。そこは、中間的論点整理をドラフトした人の苦労が現われているが、まず方向性を示し、次にわが国の活動目標というか、注意点のようなものを記載する形になっている。そのまとめの部分を僕の理解で以下に要約してみよう。
1.会計基準の国際的調和
(方向性)日本基準のIFRSへのコンバージェンスを継続する。
(注意点)当期純利益の位置づけ、公正価値の適用範囲の整理等は、日本の視点を大事にしていく。
2.国際会計基準の適用
(方向性)諸外国のように各国の制度や経済状況を踏まえた適用方法を模索・検討し、日本がIFRSを適用するかどうか、立場を明らかにする。
(注意点)IFRSの受入れが難しい部分を基準・考え方のレベルで整理し、IASBとコミュニケーションしていく。
3.わが国としての意見発信
(方向性)IFRS財団に対する資金的、人的貢献を継続していく。今秋設置されるIFRS財団の東京サテライトオフィスの有効活用をしていく。
(注意点)欧米だけでなく、アジア・オセアニアと連携する。国内関係者が一丸となって意見発信する。
というわけで、この中間的論点整理を個別の発言要旨まですべて読むとまるで方向感がつかめないが、まとめの部分だけでみると、だいぶ様子が分かってくる。
日本基準のコンバージェンス作業も、この議論の開始とともにちょっと止まっていた感じだったが、退職給付などが最近動き出した。そういう意味では1は現状の追認だ。2のIFRSの日本への適用については、時期や範囲など具体的なことは望めないとしても、方向性を示す時期も示されなかった。そういう質問や要望を委員がしても、事務局がこれからの進展次第などとかわし続けたので、示しようもなかったのだろう。ただ、基準や考え方のレベル、即ち、具体的レベルでの検討を継続する方針が示されたのは、「日本伝統の」とか「風土」、「文化」といった抽象論ではもうダメよ、という意思表示かもしれない。3については、資金や人材面での貢献と、東京サテライトオフィスの活用が挙げられたが、それは誰がどこで検討していくのだろうか。それが知りたいところだ。
そういう中で、昨年12月の企業会計審議会で報告された「IASBが行ったアジェンダ・コンサルテーションへの対応」(ASBJ)が何度も、各テーマで取り上げられていたのが目を惹く。この内容については次回以降に取り上げるとして、今回は、3の「国内関係者が一丸となって」という言葉について少し記載したい。
なぜこのような言葉がここに?とみなさんは不思議に思われなかっただろうか。それとも、国際社会に日本の意見を反映させようというのだから当たり前だ、と思われただろうか。みんなが同じことを言う国では全体主義国家みたいで気味が悪くないか?と思われた方もいるかもしれない。僕には結構意味深な言葉に思えた。
直接的には、アジェンダ・コンサルテーションへの対応、即ち、関係者の協議を経て日本の意見としてまとめられた事例を見習おう、と言っているのではないかと思われる。例えば、もしIASB関係者に対し、現在の企業会計審議会の委員が個別に持論を述べたら、あまりに多様な意見があって混乱してしまうだろう。そういう意味でアジェンダ・コンサルテーションへの対応は素晴らしい事例だ。ただ、僕はこの言葉からあと2つ思い浮かんだ。
一つは、IASB等と交渉する当事者への後押しをお願いします、という各委員へのお願い。もう一つは「日本の特殊性(風土とか文化とか)」という言葉を安易に使わないで議論することの重要性だ。
一つ目は分かりやすいけど、二つ目がなぜ「一丸となって」に関係するか疑問に思われた方が多いだろう。僕はこの言葉「日本の特殊性」を、日本の意見が通り難くなる邪魔な言葉だと思っている。
みなさんがアメリカ人と議論をしているときに、アメリカ人が「それはアメリカの特殊性だ」と言ったら「なるほど!」と思うだろうか。良く分からないけどここは分かった振りをするしかないな、議論打切りの宣言だな、と思うのではないだろうか。日本人同士の議論でも、「君も日本人なんだからいちいち説明しなくても分かるだろう」みたいなニュアンスがあって、その先を聞きにくくなる。だから、外国人がその言葉を聞くと、その日本人の意見に良いイメージは持たないと思う。そういう経験を繰返した外国人がもしIASBメンバーやスタッフになれば、日本の交渉当事者はきっと苦労するに違いない。
また、日本国内の議論で「日本の特殊性」が多用されると、いざ外国人との交渉になった時にその部分を説明することが困難になる。だから、国内の議論をもっと具体的に、理論的にしておく必要がある。
企業会計審議会では、日本の意見をもっと反映させよ、という意見が繰返し、時に声高に語られるが、交渉当事者となる人々にとっては大変なプレッシャーだろう。平素から「日本の特殊性」などと言わずに、外国人にも説明しやすい議論を心掛けることが、交渉当事者たちへの後押しになる。
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