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2012年8月28日 (火曜日)

【OxRep】第四節(2/3): オックスフォード・レポートの価値や如何に!?

2012/08/28

甲子園は、大阪桐蔭が春夏連覇を果たした(先週の話題ですみません)。前回触れた光星学院は昨年の夏から3大会連続決勝まで進んだが、春の雪辱を果たすことはできず、大阪桐蔭の連覇を許してしまった。光星学院の金沢投手は準決勝を休んで満を持して決勝に挑んだが、今度は逆に3点取られて敗戦投手となった。大阪桐蔭の春夏連覇も、桐光学園の松井投手の三振ショーも素晴らしい偉業だが、その輝きの強さの陰に深い闇ができてしまったようだ。金沢投手の活躍はそこに紛れ込んでしまい、マスコミには取上げられない。厳しいものだ。

 

さて、昨年6月まではIFRSに大阪桐蔭や松井投手的な光が当てられていたのだが、このレポートでは諸悪の根源にされている。IASBの主張する「透明性」や「比較可能性」の向上、「国際統一基準」のメリットも次々と否定されている。今回取り上げる「6. 関連法規や制度の視点からの懸念」や「7. 総合的な主観定量データとその解釈」でも同様だ。ところで前回「(2)保険業」は省略すると書いたが、折角ここまで書いてきたので、少し触れてから6や7へ進もうと思う。

 

 

(2)保険業

まずは、予備知識から。保険業においては、銀行業でいうところの自己資本比率規制(BIS規制の柱)が、ソルベンシーマージン比率と呼ばれる保険金の支払い余力を評価する規制として行われている。銀行の自己資本比率規制は、企業の決算数値を前提としておらず、会計上の貸倒引当金等を取消して、資産額についても改めてBIS規制用のリスク資産額や純資産額を計算し、独自の自己資本比率を算出する。その結果、BIS規制の自己資本比率(国際統一基準として有報に開示されている)と会計上の自己資本比率の間には大きな差が現われる。

 

次にこのレポートの主張だが、それ(銀行規制)に対して、保険業のソルベンシーマージン比率はIFRSによる会計数値を前提として計算される。銀行のような穏やかな関連でもけしからん、ということだったので、保険業ではさらにけしからんということになっている。投資家のための数値が、保険契約者保護に役立つのか、とか、保険は国によって制度内容が多様だからIFRSのような国際基準を利用して一律に規制してよいのか、という批判、そして負債の測定についてはIFRSは保守主義的でないと批判している。

 

このレポートでは、こういう問題についてもIFRSが悪いことになっているが、基本的には規制者(保険監督者国際機構(Internatinoal Association of Insurance Supervisors: IAIS や、各国の規制当局)の問題だと僕は思う。IFRSでは目的に合わないというなら、規制当局が銀行規制のように独自の計算をさせればよい(恐らく、計算を強制される保険会社側の負担は大きそうだが、このレポートはそういうことはは一顧だにしない。P104では注意すると書いてあるのに・・・)。IASBも規制者側の問題と考えているらしいが、このレポートは、理由を示さずそれをIASBの詭弁、強弁と述べている(P133脚注)。

 

仮にこのレポートに記載されている問題をIFRSで解決しようとすると、各国別、保険制度別の会計基準を開発せねばならず、投資家用の負債測定ではなく保険契約者用の負債測定の規程を設けなければならない。そんな国際基準を作られては一般の利用者(作成者・読者)には迷惑だし、そもそも実現可能だろうか? また、国際的な比較可能性など全く考慮されないことになる。規制者が問題解決した方がはるかに合理的だし、実現可能性がありそうだ。このレポートはこのようにしばしば、問題の解決の道筋を無視した批判がなされる。その行きつく先は、IFRSのような国際統一基準は不要で、各国にある会計基準が各国の現状に合っているのだから、それを使い続ければよい(現状固定)という話になる。保険会社には国際的な投資は不要ということか。

 

ざっと書くつもりが思わず長くなってしまったが、下記6ではさらに具体的に公正価値会計と原則主義が批判の対象となっている。

 

 

「6. 関連法規や制度の視点からの懸念」

ここでのテーマは、『「確定決算と税」、「金融商品取引法と会社法」、「内部統制」など、関連制度の角度から分析』だ。それぞれについて記載する。

 

「確定決算と税」

この角度からは、IFRSやIASBを批判するポイントが2点あるようだ。

 

  • ・・・第一節でもふれたように、日本の伝統的な確定決算主義に基づく会計制度はビルト・イン・スタビライザーとしての機能も持つ「世界で最もすぐれた整合的なシステム」である可能性がある。
  • ・・・会計と税の関係という国家の管理の根幹・国家戦略にかかわる事項の検討が後手に回っていることである。

 

1点目は既に(8/11の記事で)触れたように、第二次世界大戦に負け、焼け野原になった日本を再建しようという頃から随分経済環境は変わったのに、その当時良いものだったのだから、この制度は変えるなという。

2点目は、財務省での検討が始まったのが2010年後半で、検討時間が短すぎるということらしいが、税務当局はもう随分前から引当金を廃止するなど、会計基準変化への対応を行ってきた。税務当局は国際化による会計基準の変化をもうとっくの昔から認識している。その対応が遅れている、対応のスピードが遅いという話なのだから、IFRSやIASBを批判するのではなく財務省や国税庁の対応を批判してはどうか。

 

 

「金融商品取引法と会社法」

この角度では、以下の点で「・・・会社法上の会計機能の低下が危惧されている。」との批判を行っている。

 

  • 時価会計導入後、未実現利益を原資とした配当が増加している可能性が観察されている。
  • 原則主義と「合理的な見積り」を多く含む公正価値会計の下で、違法か否かの判断が難しくなり、配当規制など企業の法務リスクが増大する。

 

即ち、時価会計と原則主義の弊害の指摘をしている。もちろん、時価会計や原則主義の良い点は一切記載されていない。

 

ここで大王製紙の決算訂正の事例を「公正価値会計に含まれる見積もりや予測の脆弱性を示す典型的な事例と解釈することができるかもしれない」と持ち出している。しかし、この事例(繰延税金資産の計上額、固定資産売却取引、非上場株式の減損損失、関係会社に対する貸付等の引当金、子会社株式の減損損失)は、「見積もりの甘い判断」を訂正したのであって、公正価値会計とは無関係だ。脆弱性を指摘するのであれば、取得原価主義会計で、かつ、細則主義の項目でも、作成者や監査人がしっかりしなければ間違いが起こる事例と考えるべきだ。要するにこの問題は、会計上の主義や基準の設定の仕方とは関係なく起こってしまったものだ。会計基準の問題ではなく経営姿勢と監査人の問題だ。

 

これらは“見積り”が必要ではあるが、公正価値を計算させる会計基準とは関係ない取得原価主義会計の項目だし、見積り方についても日本基準の方がIFRSよりずっと細かい規定が設けられている(例えば非上場株式の減損の純資産の50%基準とか、税効果会計の会社のランク付け等々)。バブル時代の多額の含み損を反省して取得原価主義の下に導入され、既に10年以上も運用され日本基準として定着した項目ばかりだ。それをこのレポートはなぜ“公正価値会計”と関連付けるのだろう・・・。

 

僕は、1度目に読んだときは流してしまったが、改めてここを読んで、このレポートの価値を疑うようになった。

 

今や“見積り”は取得原価主義会計の下でも必要不可欠な要素となっている。確かに、公正価値会計の“見積り”は、未実現利益とかキャッシュフローの裏付けのない利益の計上となる可能性、即ち、保守主義とは逆の楽観性が過度となりえると批判されることがある。だが、同じ批判は取得原価主義の“見積り”には当たらない。基本的には将来キャッシュフローの流入が見込める上限と取得価額のどちらか低い方で資産計上しようというのが取得原価主義の下での“見積り”だから、未実現利益とかキャッシュフローの裏付けのない利益計上という批判は的外れだ。むしろ、この見積りは純粋な取得原価主義会計より保守的だ。だが、このレポートはその批判をしている。しかも、これらが公正価値会計と関連しているがごとくの表現で。

 

もし取得原価主義の“見積り”も否定するとなると、会計ビックバン以前の1990年代の会計基準に戻らなければならない。それは、現在と比べると、ほとんど税務会計と違いのなかった時代と言ってよい。本当にそこへ戻そうとしているのだろうか? 税務会計は、実質的に“保守主義”がない。そんなことを許しては税収が減ってしまう(負担能力に見合った公正な課税ができなくなると言った方が公式表現)。それはいくらなんでも無茶だろう・・・。それとも税務会計で許容される程度の保守主義で十分だというのか。いったい、会計をどこへ連れて行こうとしているのか・・・。

 

このレポートは、好意的に考えてもやっつけで作成されて、内容が作成責任者によってちゃんと推敲されていないか、或いはレポート作成者に日本の会計基準を評価する実力がないのではないか。そのいずれもでもないとすると、穿った見方かもしれないが、意図的に事実を捻じ曲げて伝えようとしているか。このレポートは、いままでのIFRS研究についてIFRSやIASBに対する知識と適用される各国の知識の両方を備えたものが少ないことを、P30で「重大な懸念を持っている」ことの理由の一つとして挙げているのだが、このレポートも同じかそれ以下ではないか。日本基準の上記項目がなぜ公正価値会計なのか? それとも意図的にこのような間違いを犯しているのではないか、読者を誤解させるために。

 

未実現利益の配当にしても、法が許容していることが問題なのであって、会計基準の話ではない。それより資本剰余金から配当できるようになってしまったことの方が資本の健全性、企業のゴーイング・コンサーンの観点からより深刻な問題ではないか。しかし、それは会計基準の問題ではなく会社法が資本の健全性をどう考えるかの問題なので、会計の側からどうこう言っても仕方がない。会計は適法に行われた事象を実態通りに会計処理するしかない。未実現利益の配当もそういう問題だ。(しかし、資本の払戻しを配当と同じ「分配」と呼ぶなんて・・・。) また、未実現利益の配当に危惧を抱くのであれば、上記の「時価主義導入」前の取得原価主義で配当可能利益を計算すると含み損が損失計上されないので、含み損を原資とする配当がなされることとなるが、それは問題としないのか? それは、あまりにもバランスを欠く分析ではないか。

 

原則主義が法務リスクを増大させるという批判にしても、この大王製紙の例は数値基準のある項目でさえも、経営者の甘い判断が法務リスクとなることを示している事例なので的外れだ。しかし、このことには一切触れていない。問題の本質は“甘い判断”をすることなのに。将来事象に過度に楽観的な期待を持つことが問題なのだ。これは単に会計処理の問題ではなく、環境変化への対応行動を遅らせるような企業経営の姿勢にも繋がる、経営者のスタンス、企業統治の問題であり、会計問題よりもっと根本的なレベルでゴーイング・コンサーンを揺るがす大問題だ。だがそれを公正価値会計や見積りという会計基準の問題にすり替えようとしている。

 

今までも、IFRSやIASBへの批判点を取上げることばかりに集中していて、公平な議論が行われていないという趣旨のことを何度も書いたが、研究者のスタンスに関することについては多少のバイアスはある程度許容されるものと考えていた。それを読み手が注意すればよいと。しかし、この大王製紙の事例は、そのようなピックアップの問題ではなく、取得原価主義か公正価値会計かという分かりやすいところでの完全な間違いか、そうでなければ意図的な事例のねつ造解釈だ。これは単に研究上のスタンスの問題ではなく、学者としての倫理観の問題だと思う。

 

そういえば、P71の脚注にあるオリンパス問題を公正価値会計への批判として利用しているところも極めて独創的、創造的な解釈をしている。『実際に日本でもエンロンと同様の事件が起こっている。・・・当該事件では、時価会計ないしは公正価値会計のもとでの「契約」をベースにした形式上の資産が損失分離、損失解消のための手段として活用されたと解釈できる。』とされている。恐らく「損失分離」とされているのは、2000/3期の時価会計早期適用の直前に行われた海外ファンドへの不良資産の売却(飛ばし)を言い、「損失解消」といっているのはその簿外ファンドを解消するための「のれん」の計上と償却を言っているものと思われる。

 

このP71の本文では、エンロン・スキャンダルで、市場価格とか契約書上の取引価格から公正価値を導き出す金融工学を使った創造的会計の問題点を指摘しているのだが、もちろん、オリンパス問題には金融工学は出てこない。したがって、エンロンとオリンパスの関連性はあまりないはずなのだが、それを「同様」と表現し、なぜ「同様」なのかについての説明なしに上記の脚注をつけている。だが、むしろ日本では、時価会計で多額の含み損が明らかになることを恐れたオリンパス経営陣が飛ばしを行ったと理解されているし、オリンパス経営陣はのれんを本当は減損ではなく(日本基準に従って)償却しようとしていた。国内子会社3社ののれんが減損されたのは監査人の指摘があったからだ。これも公正価値会計とは関係ないのに公正価値会計への批判へ捻じ曲げて繋げている。

 

もっといえば、もしオリンパスがIFRSを採用していれば、あの海外子会社ののれんに追加計上された多額の優先株はそもそも優先株(資本性金融商品)ではなくその海外子会社の負債であり、負債を取得したのであればのれんにもならなかっただろう(のれんではなく、多分、損失ではないかと思う。正確には分からないが)。そういうことには一切触れていない。それを指摘した海外子会社の監査人は解任され、国内子会社の減損を指摘した親会社の監査人も解任されたのは、みなさんもご存じのとおりだ。

 

そう思ってみると、他の記載についても単なるピックアップ問題によるバイアスではない事実や解釈のねつ造があるかもしれないと思えてくる。例えば多くの証言も、インタビュー時の全体の文脈を無視して、切り取った言葉を拾ってつなげて、ありもしない事実を作り上げているのではないか。まるで売りたいだけの安っぽい雑誌の記事か芸能ニュースのように。そのインタビューも、インタビューアーが欲しい一言を引出すために、誘導尋問まがいのことがなされていたのではないか。そしてそれをコミュニケーションと称しているのではないか。これでは、いくら面白くても価値がない。また、検証したくてもインタビューの詳細が分からないので読み手には不可能だ。

 

UNIAS手法は主にインタビューによって入手した情報を分析するので、情報の入手と分析の両面で主観的になりやすい。したがって研究スタンスとしては、他の手法にも増して、研究者としての誠実性や、事実を探求すること(或いは「批判がしっかりした根拠に基づいていることへの探求」と言い換えてもよい)への真摯な態度が求められると思う。それでこそ、定量的な手法による研究より価値ある情報が期待できる。そこに「オックスフォード・レポート」という冠が持つ信頼感が意味を持ってくる。しかし、そこが毀損している証拠がこんなに分かりやすく提示されている。UNIAS手法に魅力は感じるが、それの使い手に問題があるのではないか。このレポートが、まるで独立性のない監査人の「監査報告書」のように思えてくる。こんな監査報告書に価値はあるのか?(と金融庁に訊きたい。)

 

 

しかし、冷静になって考えてみると、このレポートで漸く「製造業にIFRSが合わない」とか、「IFRSとゴーイング・コンサーン経営は合わない」といった批判の内容を理解することができた。このレポートはこういう批判の元になっている誤解をインタビューやコミュニケーションによって解いてあげてないし、その批判が的を得たものであるように扱っている点は合点がいかないのだが、昨年からの大きな疑問が解けたという成果を、僕が得られたのは事実だ。(まさか、このUNIASプロジェクトがこのような誤解を作り上げたのか? いや、そこまでは考えないが・・・。)

 

さて、今回も非常に長文になってしまい、このブログの読者の方々には申し訳ない。実は、これ以上このレポートを読む価値がないのではないか、もう続きを読むのを止めようかと思ったのだが、上記のような成果を得られたのと、目次にある次の第五節「会計基準設定の政治学」は、興味をそそるタイトルだし、やはり読み続けようと思う。今回は、本当は「7. 総合的な主観定量データとその解釈」についてまで書こうと思ったのだが、「内部統制」と「7. 総合的な主観定量データとその解釈」は次回に繰越すことにしたい。だが最後に1点だけ付け加えさせて欲しい。

 

このレポートは政策判断の場に提供された。金融庁は、UNIASプロジェクトについて、どのようなスタンスで研究を行っているかを確認したうえで、このレポートを依頼したとされている(P25)。そのスタンスについては事前に分かっていたとしても、このような論拠の危ういものになる可能性までは分からなかったかもしれない。そもそも、このようなスタンスのレポートを期待したことについての政治的な意味を感じざるえないが、それでも受領したことまではやむを得ないと思う。だが、このレポートを無批判に利用することは、オリンパスの2009年第三者委員会のレポートを当時の監査役会が無批判に受入れたのと同じことになる。昨年末のオリンパスの第三者委員会がそれを批判にしたのはまだ記憶に新しい。その轍を踏むことのないように、このレポートの価値を政策立案者の責任でしっかり検証して、利用の仕方を決めて欲しいと願っている。 ・・・あれっ、もう遅いか!?

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