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2012年8月23日 (木曜日)

【OxRep】第四節(1/2): 投資家以外のステークホールダーへの影響~これは面白い!

2012/08/23

一昨日は桐光学園松井投手の三振ショーを見たくて、高校野球をテレビ観戦した。素晴らしいピッチングで15個の三振を見せてくれた。しかし、対戦相手の光星学院の金沢投手が好投して桐光学園を完封し、8回に3点を献上した松井投手はこの夏の甲子園を去ることになった。ところで僕は光星学院の金沢投手の名前が思い出せず、ネットでニュースを検索したのだが、ほとんどの記事が素晴らしい三振記録を作った松井投手のことばかりを書いており、金沢投手の名前がなかなか見つからなかったのに驚いた。金沢投手も完封・完投の大活躍だったのだが、相手が悪すぎたようだ。

 

さて、前回は投資家への影響だったが、今回はそれ以外の利害関係者に対する影響について記載された第四節(P103P143)の前半部分について記載する。とても面白かった。1時間半ほどかかっただろうか、でも、一気に読んでしまった。もし、みなさんがどれか1節ぐらい読んでみようかと思われているなら、この第四節をお薦めする。といってもまだ第五節は読んでいないので、第五節を読んだらそれが一番面白いと宗旨替えするかもしれないが・・・。この第四節には主に企業経営に与える影響が記載されている。

 

まず、この節の結論であろうと思われる部分を引用し、そのあとで主な話題をピックアップしていき、今回はその都度、僕の感想を記載するという形で行きたい。

 

P141)

確かに、「のれん」や「開発費」の例をとれば、「費用を早期に認識する方が規律のある投資とリスク軽減に伴う長期投資が可能になる」という主張も説得力がある。しかし、他方で「国際的な競争が激化している環境で、日本だけがのれんを償却しなければいけないような制度では勝ち残ってゆけない」という主張もありうる。本来、「日本基準とIFRS の違いは十分比較可能な程度に縮小している」状況にあり、「投資家やアナリストがちゃんと分析し有意味な比較が可能な状態になっている」[Int. Inv. (Seniorfundmanager, Major investment firm)-A/B-Tokyo, Jan., 2012]ので問題はないはずである。しかし、新しいインベストメント・テクノロジーに支えられた「バイ・アンド・ホールドでない」投資家の勢力が拡大した現在および将来の証券市場では、どちらの会計が日本の中期的な成長にとって有利であるのか予測がつかない。

・・・こうした経済や社会への影響について十分に理解が深まっていないまま、闇雲に「性急で強いフォームでの強制アドプション」を進めるのには大きなリスクを伴う。そうした観点から、現在のメリットを感じる企業がIFRS を採用し、感じない企業が国内基準を採用するという「任意適用」の状態は合理的といえるかもしれない。・・・。会社法や税法と深くかかわる単体財務諸表と連結財務諸表を切り離すことで、IASBが重視する投資家の視点からIFRS の導入をめぐるメリット、デメリットがより先鋭化していくのだとすれば、連単分離したうえで、日本における企業会計のグランドデザインを考えていくことが合理的であると推測する。

 

ここでは、比較的具体的にIFRSによる財務諸表数値の影響を検討し、いわゆるゴーイングコンサーン経営や製造業にIFRSが向かないといった主張の中味も、企業の証言として紹介している。印象に残ったのは保守主義と創造的会計に対する証言だ。また、銀行、信用金庫、保険会社など金融機関が持つ危惧も紹介している。加えて、税法や会社法など関連法制度に及ぶ影響についても言及したうえで、日本経済に対する影響の評価が定まっておらず、強制適用すべきでないと論じている。

 

 

さて、それでは主な話題をピックアップするが、今回はピックアップするにとどめ、これらは興味深い問題が含まれているので、今後個別に取り上げていきたい。

 

このレポートは、この節の冒頭に次のようなバイアスに陥ることのないよう自ら戒めるスタンスを持っていることを表明している。但し、どのように戒めたのかは読んでも分からなかった。

 

企業の側は多くの人的、資金的、時間的犠牲のもとに投資家のための会計を作成しなければならないという構造で認識されているため、仮にIFRS の導入により企業側にメリットがあるとしても、一般にIFRS 導入反対の意見が多くなるのは当然のことであるとの見解があり[Email. Inv.(Senior researcher, ex-analyst/investor, Top research firm)-B-Tokyo, Feb., 2012]、

UNIAS プロジェクトもこうしたバイアスに注意する必要があると考えた。

 

 

1.先行適用企業のケース・スタディー

ここでは、IASBのいう資本コストの低減という期待や効果は先行適用企業からも聞かれず、はむしろ、海外子会社の管理など経営管理的なメリットを感じているという証言が記載されている。そして、そういう経営管理的なメリットを積極的に取りに行く姿勢がないと、IFRSを導入してもメリットがないとも記載されている。この姿勢が必要な点について、僕は全く同感だ。

 

 

2.「のれん」の非償却というメリット

この見出しは「~というメリット」と書いてあるが、このレポートは、決してそれを好意的に捉えていない。むしろ、公正価値会計への批判として利用していて、保守主義などの本来あるべき好ましい経営マインドが薄れるのではないかという危機感を強調している。

 

僕は、IFRSに対して「保守主義がない」という根強いイメージがあり、これがIFRS批判になっていることを知った。本当にそうだろうか? これは後日のテーマになると思う。

 

なお、のれんを償却すべきか、非償却として減損のみにすべきかという議論については、「保守主義がない」という批判に比べると小さな問題であると僕は思っている。それは、どちらの会計処理を採用するにしても、将来に対する慎重なスタンスに欠けた経営姿勢では、良いことはないと思っているからだ。

 

 

3. 開発費の資産計上という懸念

これについても、のれんと全く同じ趣旨だと思う。(ただ、なぜかタイトルはメリットではなく「懸念」とされている。)

 

 

4.「ものづくり」立国に資する会計か

これについては、「原価計算や原価低減に関する機能不全、企業の長期的視点に立った経営の阻害、および企業の規律や内部統制機能の弱体化に関する懸念」ということのようだ。それを次の2つの視点から記載している。

 

(1)各勘定科目レベルでの懸念

ここでは、原価計算、上記ののれんと開発費の非償却の問題、退職給付会計が取上げられている。退職給付については、リサイクリング・ノンリサイクリング問題が関わっており、ノンリサイクリングになると数理計算上の差異等が原価計算の範囲から除かれてしまい、正しい製品原価の計算や原価管理が困難になるとされている。僕は本当にそうだろうか?と直感的に思っている。それはあまりに教条主義的な条文解釈なのではないかと。これも後日のテーマになると思う。

 

このほか、有形固定資産の再評価モデルについても記載されているが、これも多くの方々が懸念されるというのは、有形固定資産の公正価値評価がいずれ強制されるなどといった誤解があるからだと思う。このUNIASプロジェクトでは、インタビューでのコミュニケーションを重要な目標としていて、相手の気が付かないこと、不足している知識などをインタビューアーが補いながら相手の証言を得るようにしているのだが、この誤解については解いてあげなかったのだろうか。

 

これに関連して減損の戻入れ処理が事務手続きを複雑にし、原価計算等にも影響することが考えられると指摘している。手間がかかるのは事実だが、何故戻入という考え方があるのか解説しないのは公平でない。

 

そして、この(1)のセクションの最後に「以上のように表明された意見に関し、UNIASプロジェクトは全てに一定の真があるものと考える。」としたうえで、「IFRS の影響はそれぞれの企業が置かれるその時々の状況によってかなり異なり、個別勘定科目を判断の単位とした場合には、「IFRS が適用された場合の日本全体への影響」という形で評価することは非常に困難である。」と結論している。

 

(2)保守主義と持続的成長に関する懸念

ここでのテーマは、「もっと根本的なレベルでは、IASB が保守主義を排し、公正価値会計と貸借対照表アプローチによる包括利益を計算することで、特に投資家に資する会計を推進していることに対する懸念が表明されている。」とされていて、改めて保守主義を取り上げている。

 

即ち、このレポートも「IFRSには保守主義はない」という前提に基づき作成されているし、インタビューにおいて「そうでもないですよ。例えば減損会計で5年分しか将来キャッシュフローを見積もれないというのは保守主義の現われですよね・・・」などと教えてあげた雰囲気も感じられない。確かに概念フレームワークからは「保守主義」とか「慎重性」などといった質的特性はなくなったが、それでIFRSには保守主義はないと言い切るのは早計だと僕は思っている。また、「投資家としては公正価値を基礎とした情報がほしい、製造業としては(適切なレベルの)保守主義を内包する会計行為によって企業を管理したいという異なった要求の衝突である。」と記載している。しかし、これではIFRSだと多くの資産・負債が公正価値評価される印象となるが、このレポート自身で、「実際、IFRS 下での測定には取得原価が多く用いられている。」、「IFRS の測定は、概念フレームワークにより基本的には公正価値によると規定されていると誤解している」(いずれもP63)と書いてあったのはなんだったのか。これも教えてあげなかったのだろうか。そのほか、「IASB の推進する期末時点で解散した場合に企業の価値がいくらであるかというような印象を与えかねない会計」などとも書いてあるが、公正価値は「清算価値」とは明らかに考え方が違うことは、会計学者なら分かるはずだが、それも教えてあげなかったのだろうか。まあ、いちいち、ここに書いていると長くなるので、別の機会に譲りたい。

 

だが、「IFRSは資産・負債を公正価値評価する」というイメージを前提とした証言がこの(2)のセクションではずっと続いていく。そういう誤解のもとにIFRSはデフレ経済、少子高齢化の日本には合わないとか、IFRSだとリニア・モーターカーの開発はできないとか・・・などと証言が紹介されていく。そしてB/Sで損益計算をする考え方についても、なぜそのような考え方があるのかについて紹介されず、批判する証言だけが続いていく。

 

しかし、セグメント情報のセグメントの区切り方である「マネジメント・アプローチ」については、こんな証言も記載されている。

 

そもそも企業秘密を外に出すわけがないじゃないですか。最初に本当のセグメントの業績が分からないように再編されますよ。

 

この証言が誤解に基づくかどうかは別として、明け透けな証言であることは事実だ。公正価値会計に関連するもののように、誤解に基づく証言であったとしても、多くの企業がどのように感じているかを「生の声」として読むことができるのは大変に興味深かった。(たとえそれらが、一定の意図を持ってピックアップされ、並べられたものであったとしても。) これはこのレポートの魅力だし、こういう証言が取れることは、UNIASプロジェクトのインタビューアーの腕の良いところなのだと思う。

 

このあと、第三節の投資家のための会計での話題が繰返され、短期売買専門の投資家の増加に対抗する手段として保守主義を関連付けて、「これまでの政策に一定の修正を加えるとともに、長期的・持続可能な経済成長や斜陽経済管理(Management of DecliningEconomy)に資するような政策を検討することである。」と、(2)を締めくくっている。

 

ところで、この(2)のタイトルに含まれている「持続的成長」については、僕は上記で触れていないが、「保守主義」によってももたらされるものというイメージになっている。公正価値会計は取得原価主義会計と対立するもの、「保守主義」と公正価値会計は相容れないもの、よって取得原価主義会計は「保守主義」と相性が良いという印象であり、その結果、取得原価主義が持続的成長をもたらすイメージになると思う。一方で、市場性のある有価証券を公正価値評価すべきでないという主張をする人はいないだろう。それなら、公正価値会計を適用する対象範囲を問題にすればよいと思う。(1)の個別の勘定科目のところでは日本経済への影響の評価を避けているが、公正価値評価をしてしまうと「持続的成長」を阻害する勘定科目は何かについて、具体的に論ずるのが良かったのではないだろうか。

 

 

5. 特定産業に関する懸念‐金融業 / 保険業

印象としては、会計論というより金融業に対する産業政策、市場政策論的な話のように見受けられた。このレポートには「所詮は会計のこと」というような、会計などたいした問題ではないという姿勢があちこちに出てくるが、その割には影響が大きいということか。

 

(1)金融業

まずは、EUがIAS第39号の一部(公正価値オプション)をカーブ・アウト(適用除外)したり、IFRS第9号をまだ承認してないことを紹介している。そして例のリーマンショックの時に主にEU首脳(当時のサルコジ大統領など)のプレッシャーによってIAS第39号の金融資産の再分類についての改定が、通常の基準改正手続きを経ずに行われたことを紹介している。日本でも政治的なプレッシャーで時価会計の一部が凍結されたことを紹介している。これらは、会計基準へ政治的なプレッシャーをかけ、基準自体や運用に一定の影響を与えることを肯定するもので、それがさらにIFRSのフル・アドプションへの警告へと繋がっていく。例の「プロシクリカリティの問題」もここで紹介されている。加えて、「IFRS を背景に各国法制度によるコントロールを超えて影響力を持ち始めた会計士勢力に対して不満が高まっている。」として、欧州での監査制度改革にも触れている。

 

さて、僕はIFRSをアドプションするにしても、日本がカーブ・アウトする権利を放棄してもよいなどと思ってはいないし、IASBもカーブ・アウトする権利を各国が持っていることを否定していない。しかし、そのことと、政治が会計基準、即ち、“尺度”を歪めることを同じ問題だとは思っていない。カーブ・アウトするのは、会計基準が日本に相応しくない時に行われるもので、このレポートが肯定的に例示している日本の1990年代の金融機関の不良債権問題の時のような、利害関係者から実態を隠すような政治の介入(この例では当時の大蔵省が金融機関を身びいきしたという官僚の介入だと思う)は問題だと思っている。政治は実態に基づいた判断をすべきで、会計基準を歪めれば、間違ったものを実態だと思って間違った判断をすることにつながる。

 

また、欧州の監査制度改革は、会計士勢力が力を持ちすぎたから行われるのだろうか。それも初めて知った。僕はリーマン・ショックの時の監査が企業に甘かったから、監査制度改革が検討されていると思っていた。どうなのだろうか?

 

もう一つ、バーゼル委員会によるBIS規制(自己資本比率規制)の話が登場する。BIS規制とIFRSが似過ぎている、即ち、BIS規制がIFRSというかIASBに依存してきているというのだ。国際的な金融規制までがIFRSに影響されてよいのか、という問題提起をしている。

 

これは、お互い全く別々だったものが、信用リスク(貸付金等)の評価などの共通部分があるので、銀行等の負担(システム投資や事務負担)軽減のためになるべくを共通化してほしいという金融機関側の要望があって、バーゼル委員会とIASBが対応しているものだ。しかし、このことには全く触れていない。規制に対応する企業側のコストのことも触れるべきではないか。

その延長で、G20(主要20カ国の首脳会議)がIFRSを世界の統一会計基準にするようにと決議を採択していることについて、何故会計ごときがG20で扱われるのか、会計のことを理解しない政治家が裏方の事務方に動かされたものではないかと、その正当性に疑問を投げかけている。(これについて僕には論評する知識も能力がない。)

 

更に日本の信用金庫にIFRSが導入されるかもしれないということについて、信用金庫側の懸念も伝えている。その内容は「中央における定量・画一的で、表面上はアカウンタビリティが高く理由づけのしやすい、効率のいいモニタリングとコントロールの要求のために犠牲にされうる、地方金融機関の文化や、責任あるリスク・テイキング、不振企業の支援や、イノベーションのサポートといった機能の縮小に関する危惧である。」とされている。この場合の「中央」とは規制官庁のことだ。

 

多分、信用金庫側は、自己査定、内部統制の構築、リスク管理(BIS規制の国内版)といったこの15年ほどの規制強化のことも含めて証言したのだと思う。それをIFRSのみに対する懸念として扱っている。また、この規制によって信用金庫側が得たメリットについては例によって語られていない。語られたかもしれないがこのレポートには紹介されていない。ここばかりではないが、冒頭のバイアスに注意した形跡が見られない。

 

そしてこの(1)の結論としては次のようにまとめられている。

 

我々は金融規制とか国際会計基準を考察するときに、国際的なメガバンクなどを想定しがちである。・・・

しかし、日本を支える地方や中小の金融機関及びそのクライアントへの影響を注意深く検討することは日本の会計政策を検討する上で重要な手続きであろう。

 

是非、物事を一方向からだけしか見るようなことではなく、バランスのとれた政策をお願いしたいが、そもそもこれらは会計基準で解決を図る問題ではないと思う。地域金融機関の文化やリスク・テイキングは、融資先の実態を理解して各金融機関が腹を括るものであって、それを可能とするために金融庁や日銀が工夫すればよい。それを会計基準のせいにするのは、1990年代の大蔵省の身びいきと同じことになりかねない。

 

 

さて、このあと「(2)保険業」があり、さらに「6. 関連法規や制度の視点からの懸念」、「7. 総合的な主観定量データとその解釈」と続いていく。だが、もうこれを読まれているみなさんも食種気味ではないだろうか。保険業については特殊分野なので省かせてもらい、「6. 関連法規や制度の視点からの懸念」、「7. 総合的な主観定量データとその解釈」については、次回に繰越したい。

 

 

生々しい証言は面白いが、僕は完封した光星学院の金沢投手の話も少しは出して欲しかった。それともこのレポートの読み手(依頼主)は、桐光学園松井投手の三振ショーにしか興味がなかったのだろうか。

 

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