【OxRep】UNIAS手法への期待
2012/08/09
オリンピックがサッカーだけでないことは分かっているが、恥ずかしながら、まだサムライ・ブルーの無念を引きずっている。引きずっているのだが、目を瞑ると瞼のうちに蘇るのは、あの大津選手の強烈なゴールだ。試合に負けたとはいえ、あれは良いものを見させてもらった。ブラジルとの決勝戦は次回ワールドカップ、ブラジル大会の楽しみに持ち越そう。
さて、今日のテーマはUNIAS手法だ。これは研究報告なのだから、どういう観点や方法論によって問題に迫ったかを理解しておく必要がある。「あらゆる方向から光を当ててすべての問題を曝け出す」というのは、言葉にはできても実際には困難だ。だから、どの方向から光を当ててみたのかを理解する必要がある。
まずUNIASは「Unexplored Impact of International Accounting Standards / International Financial Reporting Standards」(即ち、「未発見の国際会計基準/国際財務報告基準の衝撃)の略であることが、日本語の要約の脚注に記載されている。そしてUNIASは「UNIAS研究プロジェクト」というオックスフォード大学のチームによって2000年から推進されてきたプロジェクト名であり、次のような目的・特徴を持っているという。
(日本語の要約版から転記)
- 「真」や「解」を求めるのではなく、「コミュニケーションの推進」、「実質的な討議の推進」を目的とする。
- 従前の研究方法の弱点を改善。単なる統計的手法ではなく、社会学、政治学的観点等を組み合わせる。レトリックを排する、「手続き的客観性」に依拠した調査分析手法。
- 12年以上の調査期間、およそ1000人からの計画的聞き取り調査を中心。
僕の印象としては、聞取り調査が中心であることから、次のような性格を持ちやすいと思った。
- 会計基準や会計制度の「あるべき姿」を導き出そうとするものではない。
- On/Offみたいなデジタルな分析結果を求めておらず、ニュアンスまでも拾い取ってアナログ的な課題認識しようとするもの。
- 研究成果を得るだけでなく、聞取り調査への協力者がより深く新しい会計基準の内容や課題に理解が及ぶようにする。
- 以上の結果、現状追認的な結論になりやすい(会計実務の現状を肯定的に、変化を否定的に扱いやすい)。
聞取り調査といっても、その対象者(主要企業のCFOなど)が1000人にも及ぶというのは凄い(正確には「のべ」1000人ということのようだ。同じ人に異なる時期、計画的に何回も聞取りしているらしい)。しかも、そこからニュアンスまでをも拾い上げていくというから、従来の学術研究の枠を超えた面白い調査報告になっていると思う。
ただ、ディスカッションによってIFRSやその導入に対する問題点を洗い出すスタイルなので、IFRSに肯定的な結論とはなり難いのは当然のことか。またもう一つ、IASBの主張である「高品質」とか「透明性」、「比較可能性」、「資本市場の効率性」といったものを「レトリック」として捉え、そこに表現されない「Unexplored(未発見)」なものをピックアップするのが目的なので、益々そうなるだろう。「未発見の衝撃」を探り出す研究とは即ち、IASBのセールストークの裏に隠された商品(IFRS)の欠陥を掘起す作業に他ならない。
僕自身、会計及び監査に身を携えていて、会計数値が現場のアナログ情報をそぎ落とした象徴的な情報に過ぎないこと、そしてその欠点を感じていた。例えば、会計上は同じ売上高の数字であっても、小売業と製造業ではその内容が全然違う。また、業績管理をするとすれば、数字で単純に分かる「目標を達成したか否か」より、数字では分からない「どうやって目標を達成したか」の情報の方がはるかに価値がある。
この研究報告が、単に「どの選択肢を何パーセントのCFOが選択した」みたいなものでなく、もっと生々しい声を伝えてくれるのではないかと思うと、たとえ結論は僕と相違しても期待は大きい。試合結果に拘らなければ、豪快なシュートを楽しめそうな気がする。
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